公務員が堅苦しい手順で仕事を進めるのは、世の中のシステムを滞ることなく動かす為だ。
皆が好き勝手動いていたら、その分どこかにしわ寄せがくる。そうなれば関係の無い所で損をする者が出るだろう。
融通が利かない仕様は、世の中に生きる者全てが、義務を成し遂げ権利を行使し、ルールの中で自由に生きるために必要なこと。
自分も家族も、隣の人も、知らない他人も人外の者も、魔王でさえも。皆が幸せを享受できるように考えられたシステム。
よって、公務員に文句を付けてはならない。
自分の時間が削られても文句を言ってはいけないし、無駄に思える作業を延々とさせられても愚痴ってはいけない。後回しにされたことを怒ってはいけないし、たらい回しにされたあげく大した得を得られなくても突っかかってはいけないのだ。
それは必要悪。誰かが一方的に損をしないよう考えられたシステムなのだから。
……そうでも思わないとやってられない。
無償で平和な世を守るのが、勇者の役目。
その勇者が公務員ならどうだろうか?
目の付け所が違う、不思議な設定の作品だ。
その世界で一番得をするのは誰か?
この作品を読めばわかるだろう。ずばり、魔王。
魔王は元々が強い生物だ。だから、隠していた力を解放することはあっても、基本ステータスが成長したりしない。主人公が旅をしている間、レベル上げに勤しむ魔王など、考えるだけで恐ろしすぎる。ゲームバランス的にあってはいけないだろう。
これを踏まえて考えれば、世界で最も強いのは魔王を倒した二周目以降の勇者になる。
こんな連中に闊歩されていては、魔王としては全く面白くない。
登場した瞬間、駆逐されていては生まれてくる価値すら無くなってしまう。そうならないためにも勇者と事前に打ち合わせをして、妥協点を探り、アイデンティティを守りつつやられ役に徹する。これならば魔王も納得できるし、世界の平和も保たれるだろう。
……出来レースなどと言ってはいけない。
そもそも、レベルカンストの勇者とやり合いたい魔王など、存在しないのではないだろうか。
悪には悪の美学があるものだ。そこは勇者にもわかってもらいたい。魔王とて、出オチの即死扱いでは浮かばれないのだから。
流すところはギャグで流し、掘り下げるところは丁寧に掘っていく。軽快でわかりやすい作風。
なんだかんだと文句を言われながらも、しっかりとした仕事をするのが公務員なのだというメッセージ性に溢れた? ストーリーです。
設定の濃い作品に疲れた……そんな方にお勧めです。