*2* タイムマシンはいらない
タイムマシンの停留所で ぼくは待っていた
ここを通るって 聞いたんだよね
手を上げたら止まるからって
行きたい時間に行けるからって
でも、行き過ぎてしまったのか
それともこれからやって来るのか
どっちともわからずに ぼくは待ち続ける
バスの時刻が当てにならないなんて 常識だからね
タイムマシンなんて もっときまぐれだろうな
*
「クラフティ・クララベル」は しばらくお休みだ
喪が明けるまで ずっと耐えてきたパパにも休養が必要だった
パパは片時もノエルを離さず、ノエルもずっと抱きついたまま
だから、俺がしっかりしなくちゃって思うんだ
姉さんもそう思ってしまうから、ほんとに心配なんだ
エミルはまだ、きちんと泣けていない
いや、カイル 君もだろう?
夜空を見上げながら
ぼくとカイルは 互いのこの先の目標を打ち明けた
あと少しで ぼくらは入学試験を控えている
なかなか身が入らずに過ごしてきた 秋の日
それでも、未来に向かって希望はある
ぼくは 写真部があって 気象学が学べるところ
カイルは 山岳部があって 地学が学べるところ
奇しくも 同じ志望校を書いた紙を見て
その偶然に驚きながら どこかで知っていたような気もして
カイルは涙をぬぐいながら 山岳ガイドになりたいと言った
少しでも母のそばに行きたい
山のてっぺんに昇れたら、母に報告したいことがある
ラストスパート、がんばってみようか
*
もしも タイムマシンがあったなら
ぼくの場合 未来に行きたいとは思わない
もし もっと 今より 良くなるなら
どこかそのピンポイントの過去に戻って
何かのスイッチを押してみたい
でも、それは 一体どこなんだ
ぼくが生まれてからなのか
生まれる前からなのか
一体、どの地点が悪いのかわからない
どこが変われば 今と変わるのかもわからない
変えてしまったら
柚子さんと会えないのなら
クウヘンさんと コリスと共にいられないなら
粉雪さんと会えないのなら
エミルと カイルと ノエルと
笑い合った日々が なくなるなら
今のままでいいんだ
ぼくは この玻璃の音の森で生まれて
ここで育って 物語を作って
たいせつな人たちと 時を過ごしてきた
だから、もう何もいらない
理由があるなら、一人の意味が何処かにあるのなら
もうこのままでも大丈夫だ
一人で生きることばかり考えて
いつしかひとりぼっちじゃないことを知っていた
待つのではなく
ぼくも誰かを包めるように そんな風になりたい
*今日の1曲 「タイムマシーン」 CHARA
タイムマシーンはこない 恋人はもうこない 時代はもどらないよね
いつまでも夢の中でじたばたするような 胸にしみわたる曲
*今日の1冊 「バスにのって」 荒井良二著
広い砂漠のまん中にあるバス停で、旅人がバスを待っています
いつまで経っても来ないバス やっと来ても乗れないバス
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