そして、再び冬が来る
最終章 冬から春に旅立つ
*1* 星に届ける献花
クリスマスに エミル・カイル・ノエルのママは
一時退院して、自宅に戻って来た
久しぶりに会える喜びに みな頬を紅潮させる
「クラフティ・クララベル」の 聖夜の仕事は無事に終わり
エミルは パティスリーから 特製のケーキを抱えて
ママの許に駆けつけた
ママ、これ、憶えている?
ひとめ見て 懐かしそうに目を輝かせたママは
オレンジ色のケーキを 一口掬いながら
やさしい笑顔を見せてくれたって聞いた
とてもおいしいわ
それは、最後にきらめいた星の光のように
みんなの心のともしびになった
ずっと きっと忘れない クリスマスの夜
そして、誕生日を迎えたノエルを
ぎゅっと抱きしめてくれた 最後の夜になった
忙しい12月に煩わせないようにと気遣いながら
クリスマスまで持ちこたえて
みんなに見守られる中、ほほえみながら 空に昇っていった
静かな 静かな 夜の星
*
白い息が凍りそうな冬の朝
教会の葬儀に ぼくらも参列した
ぼくも 柚子さんも クウヘンさんも
隣人に 何て声を掛けていいか わからなかった
パパは憔悴しきった顔で、黙ってノエルを抱きしめている
まだ信じられずに 願っているような姿で
ノエルは ぽおっとお人形さんのようにその腕にくるまれて
カイルは祭壇の前に跪いて 祈りを捧げている
その背中がいつもより小さく見えて
親を亡くすには まだ早過ぎることに みなが胸を痛める
しっかりしなくちゃって 唇をきゅっと結んでいるエミルが
ぼくを振り返った途端
それでも気丈に笑おうとするのが 痛々しくて
どんな顔をしたらいいのかわからなくなる
こういう時、残された遺族は とても遠い存在
いつもそばにいる三人とは まるで別人のようで
ぼくには 何もできないということを思い知る
*
白い百合の花を1本ずつ捧げていく
三人のママは 陶器のように 白く美しく
まるで ただ眠っているかのよう
長い闘病生活が 辛かったはずなのに
ほほえみかけるような頬が 余計に胸に沁みる
これが 「はじめまして」と「さよなら」の
挨拶になってしまいました
お話してみたかったです
ぼくは 友人として 三人をずっと大切にしていくと誓います
中庭に出て、空を見上げる
ずっとここに在る教会は 幾つもの
誕生を 誓いを 死を 見つめてきた
その大きな木も 垣根に絡まる蔦も みんなみんな
いつか 誰にでもやって来る 別れを想って
ぼくは その日まで ぼくの人生を慈しみたい、ただそれだけを願った
*今日の1冊 「尋ね人の時間」 新井満著
主人公は神島という名のカメラマン
疲れた主人公の 冷たくなってゆくココロ 世界に渦巻く叶えられない想い
それでも関わり合う人とのやり取りが、静かなさざ波のように響く
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