*3* 六花フラジャイル


「フラジャイル」の小包が ぼく宛に届いた

Fragile 壊れやすい 脆い 儚い

クール便で 即冷凍庫行きの ヒンヤリとした荷物


差出人の名前を見て ぼくは息をのんだ

粉雪さん、から


ぼくは 粉雪さんのなつかしい字を見ただけで

胸がいっぱいになってしまって

どうしても 一人で開けることができずに

カイルを呼んできて 一緒に見てほしいと頼んだ


中には 水色の封筒に入った手紙と

雲のマークのシールが貼られた 別の小箱


その箱を 開けた途端に

ポンって煙が上がって、ピカっと稲妻が光った

えって叫ぶ ぼくらの上空に飛び出した

雪の一片が ひらひらと


粉雪舞う

いつかの彼女の踊る姿が 目に浮かんでくるようだ

ぼくの目の前で 何度も旋回して

削られた氷の破片が 空気中に浮かんだ時のように


これが彼女が作る結晶なんだね

カイルが思わずつぶやいて

ぼくらは 透明な球体に包まれた結晶をはさんで

互いに見開いたままの瞳を通わせる


今年また作りはじめた 六花の結晶

ここより多く雪の降る国に住みはじめた粉雪さんは

きっと 空から降る雪を てのひらに集めて眺めている

そして、自分が作り上げた結晶はまた

自分の格納庫に大切にしまっている



その時ぼくは ほんの一瞬だが 不思議な感覚に囚われた


カイルと粉雪さん 二人は会ったことはなくとも

いつか 何処かで 手のひらを合わせる

そんな気がして その予感に 少しだけ震えた


それは、きっと風の仕業


ぼくには 予知という程 大げさなことではないけど

少し先の未来みたいなものが見えることがある

全て 自分のことではなく 他の人限定なのだけど


その震えは 決して嫌だからではなく

肯定したくなるような 応援したくなるような未来だった



ぼくが ひざを抱えて手紙を読む間

カイルは 僕の背中合わせに寄りかかって そばにいてくれた


久しぶりに会ったお父さんに どう接していいかわからなくて

記憶よりもやさしい瞳のお父さんのことが嬉しいから

あまり得意ではない 甘えた娘を演じてみせていること

ぎこちない仕草も 気付けば少しずつ本当のようになっていくこと


ぼくは想像してみた

控えめな表情の粉雪さんが おずおずとお父さんの前に出て

はじけるような笑顔を作ろうとしている

きっと春の花が咲いたような可憐さで

さみしかった日々を取り戻しているだろうと

よかったね


そして、彼女の手紙の最後の一文は思わぬことだった


ぼくの両親を見かけたという報告


火急であるからこその手紙だった

まだぼくに関わりたいとは思わない時期の彼女が

それでも筆を取ってくれたことに感謝する


あの地にいたのか

やはりあの場所に

ぼくは知っていたような気もする


教会の鐘が鳴り響くところ

ぼくの家にはいくつものヒントが隠されていた


ぼくはどうしたらいいのだろう

追いかけていくべきなのか


父がかつてそうしたように

決めるのは 誰でもない ぼくなんだ


まるで祈りを捧げるように ぼくは天を仰いだ






*今日の1曲 『Anthem』フジファブリック

「三日月さんが逆さになってしまった」

 アンセム(anthem)とは、元々は聖公会の教会音楽の一種

 聖歌、祝いの歌、国歌 そして応援歌

 最後の歌詞に胸が突かれる 「気がつけば ぼくは一人だ」


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