第3話 巡るサーティーン
ぼくの家と クウヘンさんの家は
昔から 妙に不思議なつながりを持っている
二つの家族を合わせると
男たちが、ある一定期 みんな13才違いなんだ
クウヘンさんが13才の年に、ぼくは生まれ
彼は兄貴のように ぼくをあやしてくれたらしい
さすがに ぼくにはその記憶はないけど
クウヘンさんが生まれた時は、ぼくの父が13だった
だからぼくの父は、クウヘンさんの兄みたいで
ぼくの父が生まれた時に、クウヘンさんのお父さんが13で
っと、ずっと+13が続いて
クウヘンさんのおじいちゃんまで遡っていく
ぼくが小学校に上がる頃には
クウヘンさんは 東京の大学に行ってしまい 遠い存在だった
ぼくはよく 13才×5=65才年上の
クウヘンさんのおじいちゃんに遊んでもらってた
本のこと、カメラのこと たくさん教えてもらったんだ
低学年のちいさなぼくにも丁寧に説明してくれる人だった
一緒にお散歩しながら、カシャカシャと鳴るシャッター音
それを聞くと、落ち着くぼくの心
友だちと遊ぶより、ぼくはそんな時間の方がすきだった
一度も会ったことのない ほんとのぼくのおじいちゃんより
ずっと ぼくのおじいちゃんみたいで
「おじいちゃん」って呼ぶのは、あの人だけだった
玻璃の音*書房を創った だいすきな人
そう、いつもそばにいてくれたね 泣きたくなる時も
学校から真っ先に駆けつけて
嬉しいことも 悔しいことも 夢中で話をするぼくを
きちんと受け取めてくれた
*
朝早く起きて、クウヘンさんの撮影に付いていく
ぼくの手にもカメラ
クウヘンさんのおじいちゃんが ぼくにと残してくれた形見
オリンパスペン F おじいちゃんの愛用機
いつでも携えて 日常をキリトリしていたね
ぼくは絵がうまく描けないから
これに映る 四角の中の情景に 心が躍る
クウヘンさんは 自動露出だから難しいことは考えずに
空間にシャッターを切ってみろと言う
何か自分に合うものを探るための技術が必要になったら
少しずつ答えるから、と
ペンは、ハーフサイズカメラと言って
面積は半分の、フィルムの2倍の枚数が撮れるんだ
36枚撮りならば 72枚
だから 日常を少しずつ切り取っても なかなか失くならない
何より この手に馴染むデザインがすきだ
黒のザラッとしたボディの上下に シルバーのライン
サークルの上に 昔のタイプライターから刻印したような文字
大切に使っていくよ
今はクウヘンさんが フィルム現像を手伝ってくれるけど
いつかぼくも、自分でプリントを作れるようになりたい
*
クウヘンさんのお父さんは、彼が小さい頃に亡くなって
お母さんは そのまま消えてしまったから
彼はおじいちゃんに育てられた
その時 ぼくの父さんは高校生で、クウヘンさんのそばにいた
今、ぼくの両親がいないこの時
代わりにそばにいてくれるのは クウヘンさんだ
受け継がれて巡る、妙な形のサーティーン
ふと気づいたけど、ぼくの下のサーティーンはいない
いつしか ぼくはフィフティーン
止まってしまったんだ
まもなくやってくる ぼくの誕生日は十一月
勝手に中途半端な気がしてしまう月
霜月 木枯らし もう十五才
このサーティーンの連鎖を
わざと壊そうとしてくれたのが
柚子さんとクウヘンさんだったことに気づいたのは
もう少し先のことだった
*今日の1冊 『雨ふりの本。』十一月、空想雑貨店。発行
11月って辺りが、秋でもなく冬でもなく
あわただしくなる前の、ちょっと寒い日々
その中途半端に見える、11という数字が妙にいとしい
そして 仲間のような 、奇妙な奇数のサーティーン
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