第3話 ボンボンボヤージュ
春から 玻璃の音*書房の隣が 改装工事をしていた
ぼくは何になるのか気になって 毎日足を止めていた
粉雪さんが 雪の結晶を作っていたあの部屋
なぜか壊されず、守られていたその一画に ほっと安堵する
*
「クラフティ・クララベル」 はパティスリー
洒落た都会のケーキ屋のことかと思っていたけど
フランスでは もっと洋菓子屋っぽい感じらしい
粉とたまごとミルクが 主原料のもの
マカロンやメレンゲ、ババロアやプディングみたいに
親しみやすいおやつもある
街のお菓子屋さんのような装いにしたい
そう考えたクララベルのご主人は
「砂糖菓子」の意である コンフィズリーを組み込んだ
キャンディ、キャラメル、マシュマロ、ヌガー
ケーキが並んだウィンドウの隣には
こどもたちが小さなかごで気楽に買えるように
包み紙にくるまれた手のひらサイズのお菓子が並んで
レジに持っていくと
さくらんぼのスタンプが押された白い紙袋に入れてくれる
くるんくるんと端っこを巻かれたら、もう目がハート
夏は アイスクリームやシャーベットもある グラスリー
冬は チョコレートが齧りたくなる ショコラティエ
みんなの夢の詰まった お菓子のおもちゃ箱
*
ボンボンは、キャンディのこと
ウィスキーボンボンは大人の香り
弾いて、遊んで、丸いから どこまでも転がっていく
ノエルがすました顔して かごでお買い物してる
自分のお小遣いは大切にここで使うんだって
そう言いながら、裏ではきっとつまみ食いのいたずらな瞳
ここならきっと「砂糖屋」だった 砂糖さんも粉雪さんも喜んでくれるだろう
甘いにおいがいっぱいで、しあわせを運んでくれるこの店を
*
そして週末が過ぎ、また東京の学校に帰るエミルさんを
ぼくはノエルと一緒に手を振って見送った
茶色の革のスーツケースを引いていく後姿
長いイエローのリボンが揺れて、小さくなっていく
ボン・ボヤージュとノエルがさみしそうに つぶやいた
*今日の一冊 「パリのちいさな店案内」 山本ゆりこ著
緑とクリーム色のしましまの本 なまえの由来が楽しいの
小さなカラフルな色を持つショーウィンドウ
旅に出かけると、その街の空気が知りたくて
市場に出かけたり、文房具屋さんを覗いたりするの楽しい
*ボン・ボヤージュとは、フランス語で「良い旅を」の意
手を振って見送りたくなる、そんな言葉
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