第2話 赤い実と白の花


次の日、ここちいい風が吹く日曜日

赤い服のノエルちゃんが

同じ色のリボンをつけたかごを提げて とことこやってきた


ぼくは言った

君の兄さんに信じてもらえてないから一緒には行けない

場所は教えてあげるね

このコリスをガイドにつけるから 行っておいで


君は赤が似合う 赤ずきんちゃんみたいだね

でもこの子の兄は、ぼくをおおかみくらいにしか思っていない

いくら何でも、この子は幼稚園児だろうに

(あとから小学生だったことがわかったけど)


ノエルちゃんは しょんぼり下を向いて悲しそうにしたあと

お兄ちゃんに内緒でもだめ?と聞くので

まあいいかと エスコートすることにした


あのね今、パパンとお姉ちゃんは

さくらんぼのタルトを作っているの

だから私は自分の! (ここで、こぶしを挙げて強調した)

赤い実のジャムが作りたいの

だって私、いろいろできるのに

みんな こどもだと思っているの!


ふくらんだほっぺと その言い方がかわいらしくて

ぼくはつい笑ってしまった



草原には ワイルドラズベリーが群生していた

そして、小さなさくらんぼが落ちて あちこち散らばっていた

まるで そこ一体が 自然のケーキのように


わぁって目を輝かせる無垢な笑顔が愛らしくて

連れてきてあげて良かったかなって思ったんだ


ぼくは 元気いっぱい赤い実を摘んでいる女の子を見て

ふと、粉雪さんを思い出していた

まるで対極にあるような、白い女の子


陽に当たらないように、そっと儚げな佇まいで

野に咲く小さな白い花を 指先で揺らしてた

光を溶かしてしまいそうな うす桃色の頬


昨日、あの少年に

前のように手を出すなと言われた瞬間から

ぼくの中には 粉雪さんがあふれていた


少しずつ遠くなっていく日々

なのに、いちばん遠いこどもの頃の思い出が 手に取れる程に


ぼくは今でも一人になると

冬の日々のことを思い出してみる

いつもは鍵をかけた小箱にしまってある 彼女のこと


どうしてだろう

一緒にいた時よりも

それはあざやかに甦り

すぐそばに彼女が立っているような錯覚すら覚え


ぼくの失った恋

こんな風 心に残るなんて、知らなかった


あの少年は、どうして知っている



ねぇ、私のことノエルって呼んで

ちゃんは、いらないの

って、野原で袖をひっぱる赤い女の子を見て

ぼくは我に返った


いつしか かごは赤い実でいっぱいになっていた

こら、コリス もぐもぐしているな







*今日の1冊「西の魔女が死んだ」梨木香歩

 揺れ動く思春期の少女のものがたり

 自分の世界の強さは 他の世界では時に弱さばかり目立ってしまう

 西の魔女と作るジャムは、どんな色をしているんだろう


*この日の数日後、ノエルとコリスは、きのこ狩りに出掛けるのでした







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