夏のものがたり

第1章 クラフティ・クララベル

第1話 クラフティ・クララベル


粉雪さんのいた家に、新しい家族がやってきた


ある晴れた土曜日のこと

玻璃の音*書房で カフェラテを飲んでいたら

船乗りのような風貌の、髭をたくわえた人が挨拶にきた


隣でパティスリーをオープンします

店の名は 『クラフティ・クララベル』といいます

と、外国風の発音でゆっくり話した


私の国はフランスなのです

あとからこどもたちが伺います

その人はにこにこしながら、みんなと握手をして帰って行った

包み込むような温かい大きな手



少し経って

ぼくより一つ年上の女の子が やってきた

栗色の髪を 後ろでふんわりと結っている

はちみつのような甘い香りが ふっとぼくに降りかかる


私は エミルといいます

今、遠くのお菓子の学校に通っているので

明日、そちらにもどります

弟と妹をよろしくお願いします


うちのお菓子、とてもおいしいの

手渡してくれたのは 貝の形のマドレーヌ

やさしい声と 紅茶色の瞳をもった その女の子は

すこし顔を傾けて はにかみながらあいさつをした


一人ずつやってくる家族みたいだね

柚子さんと クウヘンさんと ぼくは

不思議な家族の登場が なんだかおかしくなってしまった



次に現れたのは、赤い服を着た小さな女の子

お姉さんのふわふわとちがって

焦げ茶色の髪を まあるくきのこのように切り揃えていた


ノエルです

クリスマス生まれなの


くりくりの目で、ものおじせず にっこりしながら

小さな紙に一生懸命書いたであろう 名前を差し出した

あ、端っこに きのこマーク


そして少女は ぼくに向かって

赤い実を 摘みたいの

さくらんぼ、ラズベリー、クランベリーありますか

と聞いたので、うん、秘密だけど教えるよと答えた


その子は嬉しそうに

じゃあ明日案内してねと言って帰って行った



最後に ぼくと同い年の少年がやってきた

身長も ぼくと同じくらいで、髪は短くつんつんしていた

はっきりとした勝ち気そうな容姿


でもどこか柔らかくも思えるのは

遠くの空を映したような 青色を帯びた瞳

スッと何もかも見通すかのように広がる その視線


名は、カイルだって


彼は クウへンさんと柚子さんに挨拶している

なぜだか二人とはもう顔なじみらしい


彼はぼくの耳のそばで、小さく でもはっきりと

「前みたいに、オレの姉さんと妹に手を出すなよな」

それだけ言うと、ビー玉の瞳でぼくを睨んで去っていった


前みたいに?






*今日の1冊「パトリス・ジュリアンのデザート」

 表紙は おばあちゃんの さくらんぼのクラフティ

 パトリス氏の6つのグループ、家庭用の42のレシピ



*さて、『クラフティ・クララベル』の由来

 クラフティは サクランボのプディングのようなタルト

 クララベルは 美少女クララをイメージしてつけたみたい

 有名なクララベルは、機関車トーマスの仲間の客車だけどね





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