夏のものがたり
第1章 クラフティ・クララベル
第1話 クラフティ・クララベル
粉雪さんのいた家に、新しい家族がやってきた
ある晴れた土曜日のこと
玻璃の音*書房で カフェラテを飲んでいたら
船乗りのような風貌の、髭をたくわえた人が挨拶にきた
隣でパティスリーをオープンします
店の名は 『クラフティ・クララベル』といいます
と、外国風の発音でゆっくり話した
私の国はフランスなのです
あとからこどもたちが伺います
その人はにこにこしながら、みんなと握手をして帰って行った
包み込むような温かい大きな手
*
少し経って
ぼくより一つ年上の女の子が やってきた
栗色の髪を 後ろでふんわりと結っている
はちみつのような甘い香りが ふっとぼくに降りかかる
私は エミルといいます
今、遠くのお菓子の学校に通っているので
明日、そちらにもどります
弟と妹をよろしくお願いします
うちのお菓子、とてもおいしいの
手渡してくれたのは 貝の形のマドレーヌ
やさしい声と 紅茶色の瞳をもった その女の子は
すこし顔を傾けて はにかみながらあいさつをした
一人ずつやってくる家族みたいだね
柚子さんと クウヘンさんと ぼくは
不思議な家族の登場が なんだかおかしくなってしまった
*
次に現れたのは、赤い服を着た小さな女の子
お姉さんのふわふわとちがって
焦げ茶色の髪を まあるくきのこのように切り揃えていた
ノエルです
クリスマス生まれなの
くりくりの目で、ものおじせず にっこりしながら
小さな紙に一生懸命書いたであろう 名前を差し出した
あ、端っこに きのこマーク
そして少女は ぼくに向かって
赤い実を 摘みたいの
さくらんぼ、ラズベリー、クランベリーありますか
と聞いたので、うん、秘密だけど教えるよと答えた
その子は嬉しそうに
じゃあ明日案内してねと言って帰って行った
*
最後に ぼくと同い年の少年がやってきた
身長も ぼくと同じくらいで、髪は短くつんつんしていた
はっきりとした勝ち気そうな容姿
でもどこか柔らかくも思えるのは
遠くの空を映したような 青色を帯びた瞳
スッと何もかも見通すかのように広がる その視線
名は、カイルだって
彼は クウへンさんと柚子さんに挨拶している
なぜだか二人とはもう顔なじみらしい
彼はぼくの耳のそばで、小さく でもはっきりと
「前みたいに、オレの姉さんと妹に手を出すなよな」
それだけ言うと、ビー玉の瞳でぼくを睨んで去っていった
前みたいに?
*今日の1冊「パトリス・ジュリアンのデザート」
表紙は おばあちゃんの さくらんぼのクラフティ
パトリス氏の6つのグループ、家庭用の42のレシピ
*さて、『クラフティ・クララベル』の由来
クラフティは サクランボのプディングのようなタルト
クララベルは 美少女クララをイメージしてつけたみたい
有名なクララベルは、機関車トーマスの仲間の客車だけどね
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