第2章 海と貝の栞

第6話 風の対決


今日の体育の時間は、走り高跳びだった

ぼくはこういう競技がすきだ

走る、飛ぶ、シンプルな自分との戦い


少しずつバーの高さが上がる

一人一人クラスメイトが脱落して

ぼくとカイルの一騎打ちに なった


残りの時間が中途半端になって

先生もこのまま二人を見守ることにしたらしい


一直線に走る 

バーの少し前で、弧を描く


ぼくが先に、背面を飛んだ

わぁという歓声が上がる

一瞬 身体が空を飛んだように、ふわりと浮く

そのままマットに落下する


カイルはぼくを見て、背面に切り替えてきた

弓なりに反った 力強いきれいなフォーム

ほぉっというためいきが漏れる


ぼくは 彼に見とれながら

はじめて 他人に対して対抗意識というものを持った

負けたくない、そんな漠然とした思い

そして、他者の存在を大きく感じた


次のジャンプは、もっと腕を振り上げて

もっと高い空をめざした


ぼくは 風

いつのまにか勝負よりも、この風をずっと感じていたい

そんなきもちになってきた


目の前に進む道は、上に続く透明な階段


何度かの接戦の末

最後のバーを、カイルがひっかけた瞬間

ぼくはなんだか残念な気がした

ずっと続いたらよかったのに


その時、カイルが近づいてきて

ぼくに笑いかけた

爽やかに 嬉しそうに

そして ぼくらは握手した


まるでぼくらは ずっとそうであったかのように

親友になった







*今日の1冊 「風を見た少年」 C.W.ニコル著

 夢をたくさん見る冒険家、C.W.ニコル氏が

 滞在8年目にして 日本語で書いた小説

 空を飛び、こころを読みとることができる 少年のものがたり





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る