第7話 眠れない夜の空想


眠れない夜に

ひとりでいたくない夜が重なって

ぼくは 柚子さん家の居間から 月を見上げる


決まってそういう時の月は真っ白く

ぼくのことを 見守っているのか 呆れているのか

話しかけても答えてくれるでもなく

ただ ぼくの手許を そっと照らす



こうしてぼくは、畳に寝転びながら ぱらぱらと本をめくる

不思議な夜に いつも手にするその本は決まっている


端から端に 真面目に読んだりしたら きっと

  順番なんて守らなくていいよ

そう作者が 眉をひそめそうな 自由な世界


ただ 自分のすきを並べる

何故それに惹かれ、それに意味を感じ、特別に感じるのかは

いつも よくわからないけれど


すきな本 すきな音楽 すきな映画

そこには すきな場所の記憶が記されているだけで

ぼくの行き先に 水滴を垂らすような音を立てる



すべての言葉は、組み合わさって いつしか詩になり

誰かと誰かをつなぐ道標になり はらはら散りゆく

余韻だけを上手に残して 片隅に残る


何処かに出掛けたくなるような

いや寧ろ 何処にも出掛けたくないと 根付いてしまう程に

心だけはいつも自由に追い求め、飛び立つ



ねえ、君は もう眠ったかな

眠れない夜には 本棚からそっと本をぬいて

読むでもなく眺めて、言葉の欠片を心に漂わせてほしい

それがぼくの本であろうとなかろうと構わない


それとももう 新しい標本を作りはじめているだろうか


いつしか

ここで

横たわって

眠ってしまう


あんなに眠れないと 強く反抗したくせに

いつのまに屈したんだい


朝日が代わりに ぼくにささやく 






*今日の1冊「空想紅茶」渚十吾


 こころをつかんではなさない 宝物の本

 ここまで自由で羨ましい本は 他に存在しない

 蝶を内包したうさぎ 梅の枝先を含んだ雨傘

 銀色がかった 薄紫の栞の帯

 人生の散歩を 一日の時間にたとえた章立て

 いつか叶うなら こんな本を創ってみたい





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