第7話 眠れない夜の空想
眠れない夜に
ひとりでいたくない夜が重なって
ぼくは 柚子さん家の居間から 月を見上げる
決まってそういう時の月は真っ白く
ぼくのことを 見守っているのか 呆れているのか
話しかけても答えてくれるでもなく
ただ ぼくの手許を そっと照らす
*
こうしてぼくは、畳に寝転びながら ぱらぱらと本をめくる
不思議な夜に いつも手にするその本は決まっている
端から端に 真面目に読んだりしたら きっと
順番なんて守らなくていいよ
そう作者が 眉を
ただ 自分のすきを並べる
何故それに惹かれ、それに意味を感じ、特別に感じるのかは
いつも よくわからないけれど
すきな本 すきな音楽 すきな映画
そこには すきな場所の記憶が記されているだけで
ぼくの行き先に 水滴を垂らすような音を立てる
*
すべての言葉は、組み合わさって いつしか詩になり
誰かと誰かをつなぐ道標になり はらはら散りゆく
余韻だけを上手に残して 片隅に残る
何処かに出掛けたくなるような
いや寧ろ 何処にも出掛けたくないと 根付いてしまう程に
心だけはいつも自由に追い求め、飛び立つ
*
ねえ、君は もう眠ったかな
眠れない夜には 本棚からそっと本をぬいて
読むでもなく眺めて、言葉の欠片を心に漂わせてほしい
それがぼくの本であろうとなかろうと構わない
それとももう 新しい標本を作りはじめているだろうか
いつしか
ここで
横たわって
眠ってしまう
あんなに眠れないと 強く反抗したくせに
いつのまに屈したんだい
朝日が代わりに ぼくにささやく
*今日の1冊「空想紅茶」渚十吾
こころをつかんではなさない 宝物の本
ここまで自由で羨ましい本は 他に存在しない
蝶を内包したうさぎ 梅の枝先を含んだ雨傘
銀色がかった 薄紫の栞の帯
人生の散歩を 一日の時間にたとえた章立て
いつか叶うなら こんな本を創ってみたい
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