第3話 コリスの名は


コリスのなまえは、ルウという

ルウといっても、シチューやカレーのルウではなくて

ハーブの一種


ある日ぼくが 柚子さんとコリスと一緒に

玻璃の音*書房の裏庭で のんびりカフェ・ラテを飲んでた時


急に柚子さんが

ね、リスちゃん、なまえがほしくない? と言いだした


コリスはきらきら目を輝かせてうなずいてたから

ほんとは、なまえがほしかったんだね


二人で考えてみたけど、なかなか思い当たらない



柚子さんは庭を見ながら

次々に ハーブのなまえを言ってみる


バジル、 オレガノ、 ディル

コリスは 首をかしげた


カモミール、 ジャスミン、 ラベンダー

なんだか乙女チックよね


キャットニップ

あ、そうそうこれね、ねこの名前がついてるでしょ

ねこが陶酔しちゃう匂いなんだって

思い出したように柚子さんが笑う


でも分類は シソ科イヌハッカ属なの

ねこ、 いぬ、 薄荷 なんだか可笑しいね


コリスのまゆげが八の字になる

こほん 失礼しました 脱線しました



ローズマリー

コリスはぶんぶん首を振って、ちょっと口を尖らせた

そうだね、男の子だからね


じゃあこの辺りはどうかな

チャービル、 チャイブ、 ミント

いたずらっこぽくて、いい線いってると思うんだけどな

あれ、不満らしい まだ首振ってるな



…… ルウ ……



その時、コリスが少し考えてから 満足げにうなずいた


だから決まった

コリスのなまえは、ルウ



ルウは嬉しそうに しゃぼん玉を吹いた

大きな虹色の玉を作って

自分の顔を映して にかにか笑ってる


空に向かって飛んでいく その透明玉は

いつしかその辺りを ゆらりゆらりと名残惜しそうに旋回してから

すぅーっと吸い込まれるように 上空に消えていった


コリスは 残りのしゃぼんで 小さな水玉をたくさん打ち上げて

くるくる回ってしっぽでまき散らして 泡泡になった


ぼくのなまえはルウなんだよ そう宣言しているみたいに

はしゃぎ回った ちいさなリス


次の日にはもう忘れて、結局コリスーって、ぼくは呼んでたけどね






*今日の一葉 ルウ rue 地中海原産・ミカン科

 強くぴりっとする苦みの葉 あざやかな黄色の花

 ピクルスやグラッパ酒に 風味を保たせる

 葉を噛むことで頭痛をやわらげる作用がある

 ミサの聖水に使われることから「悔い改めのハーブ」と呼ばれる






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