第3話 コリスの名は
コリスのなまえは、ルウという
ルウといっても、シチューやカレーのルウではなくて
ハーブの一種
ある日ぼくが 柚子さんとコリスと一緒に
玻璃の音*書房の裏庭で のんびりカフェ・ラテを飲んでた時
急に柚子さんが
ね、リスちゃん、なまえがほしくない? と言いだした
コリスはきらきら目を輝かせてうなずいてたから
ほんとは、なまえがほしかったんだね
二人で考えてみたけど、なかなか思い当たらない
*
柚子さんは庭を見ながら
次々に ハーブのなまえを言ってみる
バジル、 オレガノ、 ディル
コリスは 首をかしげた
カモミール、 ジャスミン、 ラベンダー
なんだか乙女チックよね
キャットニップ
あ、そうそうこれね、ねこの名前がついてるでしょ
ねこが陶酔しちゃう匂いなんだって
思い出したように柚子さんが笑う
でも分類は シソ科イヌハッカ属なの
ねこ、 いぬ、 薄荷 なんだか可笑しいね
コリスのまゆげが八の字になる
こほん 失礼しました 脱線しました
*
ローズマリー
コリスはぶんぶん首を振って、ちょっと口を尖らせた
そうだね、男の子だからね
じゃあこの辺りはどうかな
チャービル、 チャイブ、 ミント
いたずらっこぽくて、いい線いってると思うんだけどな
あれ、不満らしい まだ首振ってるな
…… ルウ ……
その時、コリスが少し考えてから 満足げにうなずいた
だから決まった
コリスのなまえは、ルウ
*
ルウは嬉しそうに しゃぼん玉を吹いた
大きな虹色の玉を作って
自分の顔を映して にかにか笑ってる
空に向かって飛んでいく その透明玉は
いつしかその辺りを ゆらりゆらりと名残惜しそうに旋回してから
すぅーっと吸い込まれるように 上空に消えていった
コリスは 残りのしゃぼんで 小さな水玉をたくさん打ち上げて
くるくる回ってしっぽでまき散らして 泡泡になった
ぼくのなまえはルウなんだよ そう宣言しているみたいに
はしゃぎ回った ちいさなリス
次の日にはもう忘れて、結局コリスーって、ぼくは呼んでたけどね
*今日の一葉 ルウ rue 地中海原産・ミカン科
強くぴりっとする苦みの葉 あざやかな黄色の花
ピクルスやグラッパ酒に 風味を保たせる
葉を噛むことで頭痛をやわらげる作用がある
ミサの聖水に使われることから「悔い改めのハーブ」と呼ばれる
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