第32話 ぼくは混乱していく
粉雪さんに対する きもちは
ぼくの中で どうにもわからなくなっていった
自分が 真っ二つに分裂していくような
そんな気がしていた
ぼくは卑怯な男なんだろうな
少年であろうと青年であろうと、何を求め、何に従う
胸がどきどきした幼い心を持つ自分とは 裏腹に
粉雪さんを抱きしめている自分を
傍観者のように観察している ぼくがいる
何度も 唇を重ねているうちに
少しずつ、大胆になっていく自分を見つける
まるで一つ 一つ実験しているような具合に
*
君は まるでちっぽけな子猫
耳にくちびるをあてると
思惑通りにぴくりと動く 彼女の肩が不思議で
何度も悪戯に 繰り返してみたくなる
君は まるで天使
こうして睫毛と睫毛を合わせてみたら
まばたきをするたびに
鳥が羽をたたもうとしているように震える
*
粉雪さんの 実体のない妖精のような
つめたい手をつないでいても
空気を握っているようで
つかみどころのない彼女への心が これ以上進んでいけない
もしかしたら
ぼくがどこかきもちを抑えてしまうのは
お話の中の彼女が、本気で愛した途端に消えてしまう
そんな風に思うからかもしれない
少年のぼくは、次第に 彼女に心を傾かせている
いとしいと、思っている
彼女が消えるのが いやなんだ
はじめて雪の結晶を見せてくれた あの時に帰りたい
失いたくない気持ちだけが焦りに変わる、そんな毎日
誰かの かすかな声が
歌声のように 聴こえてくるんだ
その ぼくを呼ぶ声は
忘れられない あの人のものだ
ぼくは意味もわからずに いつしか一人で泣きじゃくっていた
あの人の手招きの感触と 記憶の底の不安と戦いながら
まるで 何かに 引っ張られるように
ぼくは 少しずつ 心を閉ざしていく
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