第6章 淡雪のような君
第30話 もうすぐ雪どけ
粉雪さんとぼくは、いわゆる幼なじみなのだが
彼女は体が弱くて、めったに外に出てこない女の子だったので
小さい時に話した記憶がない
少しずつ外に出られるようになって
丈夫になるために バレエをはじめるようになってから
頬の色も だんだん小さな林檎のように紅くなってきて
ともだちとも遊べるようになった
でも、いつも女の子と一緒だったので
あまり話したこともなく過ごしていた
*
ある日、お休みの彼女の許に 学校からの手紙を届けに行った
ぼくの家と彼女の家は、玻璃の音*書房をはさんで
隣同士だったから
フウチくんに見せたいものがあるの
その日、ぼくははじめて 彼女の部屋にあがった
奥の零下の部屋で はじめて雪の結晶を見せてもらった
きれいだった
それからぼくらは たくさん話をするようになった
でもそれは なんとなく二人の秘密で
学校の中では、あいかわらず ぼくらは話すことはなかった
両親がいなくなってから
ぼくは 前より頻繁に 雪の結晶を見に行った
粉雪さんの前で泣きそうになっても
いつも涙は、落ちる前に氷になってしまって、どこかへ消えていった
氷の部屋から出てくると
砂糖さんがお菓子を用意してくれていた
まるで氷らせたような あの落雁のような ガチガチのお菓子を
あたたかい紅茶で、溶かしながら少しずつ囓る
砂糖さんは 粉雪さんを愛していると感じた
ぼくには わかったんだ
あの堅いお菓子たちに秘められた あたたかい感情
だから、粉雪さんが愛されていないだなんて
そんな風に不安がっていたことを知らなかった
粉雪さんはまるで お話の中のお姫さまのように
ふわふわと実体がなくて
あらゆる感情と離れたところにいるような
そんな ぼくの勝手なきもち
いつか消えてしまいそうだと、その頃から想っていた
*今日の1冊「若菜集」島崎藤村著
まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり
この韻を踏む美しい詩は、有名な「初恋」の一節
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