第29話 雲の上の一日
あくる日ぼくは、柚子さんにみつからないように
そおっと学校に行こうとした
顔を見られたら、昨日キスしたことに気づかれそうで
そんな朝に限って、柚子さんは道ばたにいて
ね、今日は早く帰ってくるよねって、 ぼくに問いかけた
ついでにコリスがやってきて
ポンポンと肩を叩いてニッと笑った
そして、ぼくにどんぐりを1個手渡した
笠をとったぼくはあわてて、その場にひっくり返りそうだった
そこには、まるいハートの形の苺のクリーム
コリスは満足そうににっこり笑って
そのどんぐりを持って行ってしまった
あ、粉雪さんも誘って帰ってきてね
柚子さんの ぼくを追いかける声に、心臓がどきんと鳴った
*
やっぱり、みんな知ってるのかな
でも、どうしてわかったのかな
ぼくは一日中、昨夜のことで胸がいっぱいで
なにをどうしていたのか覚えてない
気を抜くと、うっかり自分の唇にさわって
あの時に戻ってしまいそうで、そのたびに頭を振った
放課後、隣のクラスから粉雪さんがやってきて
一緒に帰りましょうと言ったから
クラス中の生徒たちが、目をまるくしていた
にっこり笑った粉雪さんのくちびるにばかり
目がいってしまうぼくは、どうすればいい
*
学校から家路に着くまで
ぼくたちは歩調を合わせてゆっくり歩いた
どこを向いていいかわからなくて
やけに真っすぐ前ばかり向いて、彼女の顔が見られなかった
粉雪さんは ぼくより小さかったから
話す時ぼくは 少し視線を下げて
小首を傾げてのぞきこむようにして、やっと君の顔を見た
今日の学校での話や、北の国の話を続けて
決して昨日のキスについて話が及ばないように
昨日の意味を聞く そんな勇気はぼくにはなかった
いつもと変わらぬように見えた粉雪さん
*
柚子さんと顔を合わせたくなかったのだけど
粉雪さんも柚子さんに誘われたらしく
当然のように玻璃の音*書房に向かった
クウヘンさんの姿を見かけないと思ったら
何ヶ月ぶりかの はりきりすぎた薪割りで腰を痛めて寝こんでいた
まるで昨日の林檎パーティと同じように
女性陣はなにかおいしそうなものを作っているようだった
ぼくは庭に出て、空を見上げて
ほてった顔を冷やそうと 雪を受けていた
*
今日が クウヘンさんの誕生日だったことに
気づいたのは、夜になってからだった
やっとのことで、部屋から降りてきたクウヘンさんを
お祝いのごちそうと バースデーケーキが迎えた
大きなロウソク2本と 小さな7本
あ、コリスが持ってたハートのどんぐりは プレゼント
ぼくは朝からの誤解を思い出し、さらに頬が赤くなるのを感じた
そして、プレゼントを忘れてしまったことにも
* 今日の1冊 「空の名前」 高橋健司著
空には名前がある 雲にも、 雨にも、 風にも
日本人でいることがしあわせになる1冊
写真と共に、もう一度四季を抱きしめたくなる
糸遊、 襟巻雲、 貝寄風、 東雲、 片々雪花、 何て読むかわかるかな
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