第28話 淡雪のような


窓の方を見ると、粉雪さんがコトコトと窓硝子を叩いていた


ぼくはびっくりして窓を開けた


粉雪さんは 舞い散る雪と共に入ってきて

すぐに戻らないと、とささやいた

玻璃の音*書房に忘れ物をしたといってきたの


とにかく中に入ってと手をさしのべて

ぼくは あたたかいストーブの前をすすめた



粉雪さんの手は 氷のようだった


手袋を忘れたの、そういうことにしたの

そう言って、ポケットから白い手袋を出して そこにおいた



*  *  *  *  *  *  *  *  *


   私、ママに嫌われているんだと思っていたの

   ママは私と視線を合わせるのを

   避けているようなところがあって


   昔はママもよく笑っていたのに

   パパが出て行ってしまってから

   あんなに、カチカチのお菓子を作るようになって


   私がパパに似ているせいだと思うの

   私を見ると思い出してしまうのよ

   だから ママは私を愛せない、許せない存在なんだわって



   パパは昔の恋人のところへ行ってしまったの

   遠い北の国、雪や氷で蔽われた かの国

   彼女が治らない病気と知って、行ってしまった


   ママは 彼女が何年も前に亡くなったことを知っていたけど

   パパが 帰って来ないことも知っていた


   すこし前に、パパから手紙が来て

   ママは私のことをやっと見つめてくれた、何年か振りに



   だから 私も一緒に行くことにしたの

   雪の結晶も熔けない 遠い国へ



*  *  *  *  *  *  *  *  *



涙ぐんであわてて話す粉雪さんに、ぼくは言った



家族で暮らせるなら、その方がずっといいと

粉雪さんのしあわせな笑顔が ご両親には必要なんだよと



    春になって 出発するまで

    できるだけ そばにいてほしいの



うす桃色の頬に ふれてみた


粉雪さんは、そっと ぼくに くちづけた

甘い 林檎の味の キスだった





 

*今日の1冊 「金曜日の砂糖ちゃん」 酒井駒子著


 だいすきな駒子さんのちいさな絵本

 2話目の「草のオルガン」に捧げることば


  ぼくが野原に隠した宝の箱は どこにあるのだろう

  年月で風化したそんな箱を ぼくは未来にきっと発見する


 なんてね、こどもはみんな無邪気で明るいなんて、幻想




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