第27話 ぼくは薪を割らなくなった


林檎パーティが 終わって、たくさんの林檎菓子を抱え

ぼくは雪を踏みしめながら ここに帰り着いた

あたたかい処から 冷え切った自分の家に


テーブルの上にそれらを置く時、冷たい音がただ無言で響く

コトリ、たとえ ささやかな小鳥が足音を立てても

家中に雷鳴のように知らせ渡るだろう


しばらくの間、広々とした居間で ストーブの火を眺めていた

今ぼくは 一人きりで暮らしている


ぼくの両親は、いない

一年前の冬のある日、突然消えたのだ

いまどこにいるのか、生きているのかさえわからない


時々やってくる贈り物は、両親からだろうか

そうであるなら、せめて一言くらい手紙を残してくれたら


クウヘンさんは一緒にあちこち捜してくれた

警察に届けたり、心当たりに訊ねてくれたり、奔走してくれた



あの冬の日、夜の列車の中で ぼくはぼんやり窓を見ていた

探し疲れて 心のどこかであきらめが芽生えていた


風がすごい日で、窓硝子に

雪がカチカチっと当たっては流れてゆくさまを見て

少しずつ 一人になったことを実感していた

こんなに心が冷えていくのを感じたのは、はじめてだった


指で 曇った窓に一本の線を引いてみると

濡れた指先は即座に凍り、確かに引いたはずの線は

すぐに なかったように消えていった


窓の外の凍った 暗い世界は

どこまでも ぼくを拒絶しているかのようだった



柚子さんは 一人で暮らすのを心配してくれたけど

クウヘンさんは、男の子だから大丈夫と言ってくれた

そんなクウヘンさんの心づかいは有り難かった

ぼくには 一人の時間が必要だったから


今、玻璃の音*書房で、ほとんどの時間

一緒に暮らしているようなものだけど

帰ってくる場所、一人で寝る場所、ものがたりを書く場所

そんな家は、やはりぼくが ぼくである拠


 ぼくは 家では薪割りをしなくなった

 一人で薪ストーブを使うのは

 より孤独を際だたせるようだったから


両親が いなくなった理由を

ぼくは、クウヘンさんは知っているような気がして

いつか話してくれるような気がして

時々すがりつきたくなるのを、こらえている


そんな時、庭先で ことりと 音がした

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