第26話 柚子さんが来た日


柚子さんとはじめて会ったのは 三年前の春だった


おじいちゃんがなくなってから

そのままになっていた 玻璃の音*書房を続けるために

クウヘンさんが東京から帰ってきたのだ

花嫁を連れて


それが柚子さんだった


 柚子、こいつがフウチ

 俺のオトウトみたいなものだから


無邪気に笑って挨拶したぼくに

その言葉があとになってこんなに重いものになるなんて

あの時は想像できなかった


 よろしくね、目がきれいな男の子


柚子さんが はじめてぼくに向けた笑顔



都会に未練はなかったのかと聞いたぼくの問いに

クウヘンさんは


 ここに帰ってくるために

 遠くでここを想うために行ってただけだから


そう答えた


 それに、あのままここにいたら 柚子に逢えなかったね



次にあなたを見たのは 森の教会での結婚式だった

林檎の花が咲く頃のこと


あの日の柚子さんの姿は 今もぼくの胸に焼き付いている

ウェディングドレスは白くやわらかく輝き

ほんの少し 裾と袖に薄紅色のフリルをつけて

まるで林檎の花のようだった


林檎のつぼみは ピンクのボンボンのように

二人を祝福してはしゃぎ回っていた


ぼくは この人に恋するなんてことを知らずに

隣にきれいな人がやってきたことを喜んでいた


決してひとめぼれではなかった出逢い

ぼくはこれから少しずつ あなたをすきになっていく




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