第26話 柚子さんが来た日
柚子さんとはじめて会ったのは 三年前の春だった
おじいちゃんがなくなってから
そのままになっていた 玻璃の音*書房を続けるために
クウヘンさんが東京から帰ってきたのだ
花嫁を連れて
それが柚子さんだった
柚子、こいつがフウチ
俺のオトウトみたいなものだから
無邪気に笑って挨拶したぼくに
その言葉があとになってこんなに重いものになるなんて
あの時は想像できなかった
よろしくね、目がきれいな男の子
柚子さんが はじめてぼくに向けた笑顔
都会に未練はなかったのかと聞いたぼくの問いに
クウヘンさんは
ここに帰ってくるために
遠くでここを想うために行ってただけだから
そう答えた
それに、あのままここにいたら 柚子に逢えなかったね
*
次にあなたを見たのは 森の教会での結婚式だった
林檎の花が咲く頃のこと
あの日の柚子さんの姿は 今もぼくの胸に焼き付いている
ウェディングドレスは白くやわらかく輝き
ほんの少し 裾と袖に薄紅色のフリルをつけて
まるで林檎の花のようだった
林檎のつぼみは ピンクのボンボンのように
二人を祝福してはしゃぎ回っていた
ぼくは この人に恋するなんてことを知らずに
隣にきれいな人がやってきたことを喜んでいた
決してひとめぼれではなかった出逢い
ぼくはこれから少しずつ あなたをすきになっていく
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