第25話 林檎の救出パーティ #2


ぼくの前に ジャムの瓶が並んでいる

何も入ってない時の瓶も 光を通してすきだけど

果実が入って表情を持った途端、もっといいなと想う


ぼくのいちばんは 赤い実のラズベリー

2ばんめは マーマレード 皮が少しだけ苦いのが理想

そして3ばんめの 林檎ジャム 世界でいちばんやさしいジャム

綺麗なピンク色のジャムを あたたかいうちに口に入れる


ぼくとコリスがむいた皮は、コンポート用の鍋に一緒に入って

うす桃の色がそっとつくのを待つ

この自然の色は、雪の中に立つ誰かの頬のようだ



さあ、今夜は林檎パーティ


乾杯する頃、雪を肩にのせたクウヘンさんが戻ってきた

何ヶ月か振りに薪をたくさん割って、上気した顔をして


メインディッシュは 林檎入りポークシチュウ

これは柚子さんの力作で

ぼくとクウヘンさんとコリスは 何度もおかわりをした


デザートは


  アップルパイをひっくり返したような タルトタタン

  ふわふわ淡雪がのったような シブースト

  まるごと焼いて飴をかけた ベークド林檎

  林檎にスパイスコンポート バニラアイスのっけ



おそるおそるぼくは 林檎のタルトタタンに

フォークをさして、驚いた !

あっというまに、ほろりと崩れたから


ぼくは犬歯を思い切り使って、噛みつく準備をしていたので

そのやわらかさに拍子抜けしてしまった


こんなにふんわりとした砂糖さんのお菓子は はじめてだった

心なしか今日は、上機嫌でやさしげだ



体中が甘酸っぱくなりそうな 夜だった

紅茶を一口飲んだ時、砂糖さんが言った


  この春に 北の国へ行くことになりました

  夫が一緒に暮らそうと言って来ましたので


ぼくは思わず、えっと大声を上げてしまった


  粉雪さんが 遠くに 行ってしまう






* 今日の1冊 「森のキャセロール * 薪ストーブのおいしい魔法」

  おいしいおいしい森のごちそうがいっぱい

  各国に在住経験のある ステンシル作家 ホークスみよしさんの森の生活

  


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