第22話 雨が降る午後 #その夜


雨の日は 誰かをいつまでも待っている

窓をつたう雨粒を目で追う 一緒に追いかけたい


アルバムの 最初の方の頁

年端も行かぬ頃の かわいい柚子さんが

赤い傘と赤い長靴で、今と同じ髪型で

こちらを少しだけ睨むような目をして写っていた

誰が撮った写真なのだろう


            *


あなたの横顔がすきです

少し顎を上げて 遠くをせつなく見つめている


少し開いた唇の形がすきです

さえずりだしそうで 耳を澄ましてみる


ぼくも写真を撮りたいな

ファインダー越しになら もっと見つめられる

横顔の写真を撮ったら、それは「僕のもの」になる


今は 傘などいらない

斜めに叩きつける雨の中を 思い切り走って

暗闇の暗黒の中に 閉じ込められたとしても

今なら 光を見つけて帰って来られる



雨は いつまでも降りつづいている

昔を思い起こしているような柚子さんは

誰を想っているのだろう


まだまだ冬のこの森に 咲いてはいない花の香りが届く

もうすぐやってくる 春


すきな人と 桜の下を一緒に歩きたい

手をつないで


いっそのこと ぼくがもっと小さければ

柚子さんと手をつないで歩いても 誰も笑わなかったろうに




*今日の1曲 「雨の降る日に」オフコース

 アルバム「ワインの匂い」の最初の曲

 おそらく彼らの一番みじかい歌なのではないかと

 - 赤いパラソルにはあなたが似合う 雨の降る日はいつでも時は遡る -




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