第22話 雨が降る午後 #その夜
雨の日は 誰かをいつまでも待っている
窓をつたう雨粒を目で追う 一緒に追いかけたい
アルバムの 最初の方の頁
年端も行かぬ頃の かわいい柚子さんが
赤い傘と赤い長靴で、今と同じ髪型で
こちらを少しだけ睨むような目をして写っていた
誰が撮った写真なのだろう
*
あなたの横顔がすきです
少し顎を上げて 遠くをせつなく見つめている
少し開いた唇の形がすきです
さえずりだしそうで 耳を澄ましてみる
ぼくも写真を撮りたいな
ファインダー越しになら もっと見つめられる
横顔の写真を撮ったら、それは「僕のもの」になる
今は 傘などいらない
斜めに叩きつける雨の中を 思い切り走って
暗闇の暗黒の中に 閉じ込められたとしても
今なら 光を見つけて帰って来られる
*
雨は いつまでも降りつづいている
昔を思い起こしているような柚子さんは
誰を想っているのだろう
まだまだ冬のこの森に 咲いてはいない花の香りが届く
もうすぐやってくる 春
すきな人と 桜の下を一緒に歩きたい
手をつないで
いっそのこと ぼくがもっと小さければ
柚子さんと手をつないで歩いても 誰も笑わなかったろうに
*今日の1曲 「雨の降る日に」オフコース
アルバム「ワインの匂い」の最初の曲
おそらく彼らの一番みじかい歌なのではないかと
- 赤いパラソルにはあなたが似合う 雨の降る日はいつでも時は遡る -
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます