第18話 アンバランスな二人


冬の寒さは さらに本格的になっていく

どうせ吹くなら 北風にのって学校まで行けるといいのにな


ぼくの学校では冬の間 薪割り当番がある

教室の薪ストーブで一日使う分を 前の日の放課後に割っておくのだ


だから、学校中の男たちは薪割りができる

大抵は家でもやらされているからね


玻璃の音*書房にも 薪ストープはある

でも、火が入るのは ほんの時々


ぼくの家にも 薪ストーブがある

あの日以来、一度も火を入れていないけど



さて、きょうの 玻璃の音*書房

クウヘンさんが アラジンの石油ストーブでもちを焼いていた

ブルーフレーム 丸窓からのぞく青い炎


ルンルンと ロシア民謡を歌っている


  カリンカ カリンカ カリンカマヤ 庭には苺 ♪


よこでコリスがどんぐりをもって踊ってる


  森の中から 熊がでたー♪


ってとこで、ちゃんとスローテンポ


ぷくーっと 雪だるまの形にふくらむもちは

となりに並んだコリスとほぼ同じ高さ


なんだかぼくは 力が入らなくなってしまった


クウヘンさんは 髭なんか生やして

風貌はかなり渋めなのだけど、どっかアンバランスな人だ


撮影となれば、寒い早朝も颯爽と飛び出していく

黒いコートを翻して 三脚担いでいる姿と

カリンカ歌って、もちをほおばってる姿では

剣を持った青い炎の騎士 vs 雪だるま型のもちおばけ くらいの差はある


こういう人だから、柚子さんは惹かれたのかな



一方、のんびりした午後の 柚子さんの居間の窓際

太陽にあたって本を読んでいると ぽかぽかしてまるで春だ


そこへ届く 珈琲のミルク具合 ふわふわラテ


ぼくはゴロゴロと 畳をはじからはじまでころがってみる

そういうこどもっぽいことをすると

いたずらそうな目を輝かせて 飛んでくるのが二人

正確には 一人と一ぴき


柚子さんと コリスは ぼくを真似てゴロゴロしてみる


柚子さんは 背中がスッと伸びた綺麗な女のひとで

いつもアイロンのきいた清潔な白のシャツに

シックな焦げ茶色のカフェエプロン姿


でも、見た目の落ち着きとうらはらに アンバランスなひとで

いい大人だというのに こういうこどもっぽいことがだいすきだ


前にも でんぐり返りに挑戦して

首と背中をぐっきり傷めて しばらく包帯でぐるぐるまきだった


なつかしいあの日

ぼくはまだ 自分の恋に気づかなかった



*今日の1曲 「 ロシア民謡・コレクション 」

 冬はやっぱりロシア民謡 

 ペチカ・トロイカ・カチューシャ ロシア語の響きってかわいい

 カリンカは 結婚式の時に踊られる群舞 別名マリンカ 苺に似てる




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る