第14話 黒いマフラー


ぼくは毎朝、毛糸の帽子をかぶって登校する

玻璃の音*書房を通り過ぎるまでのあいだ


帰りも書房が近くなると、そっと取り出す毎日



ある日、森の奥に向かって

三脚を担いで歩く クウヘンさんを見かけた


クウヘンさんが撮る写真は 白と黒のモノクローム

森の中に分け入り フィルムカメラで光と影の表情を切り取る


  シャッターを押す 硬質な音が響く

  まるで今どこにいるか 知らせるように

  フィルムを巻く音が 答えのようにさえずる


ひるがえすコートに似合いの 黒のマフラーが巻かれていた

きっと柚子さんが編んだのだ

近くで見たらばらばらの編み目だろうけど

ちょっと男っぽくて羨ましかった


クウヘンさんには、黒やグレーが似合う

時々はやす髭も わりと似合う

胡椒こしょうまで 選ぶのは黒胡椒


ぼくには、毛糸の帽子 しかもクリーム色

てっぺんにはボンボンまで ついてる


やっぱり柚子さんは、ぼくをこどもだと思っているんだ

心にチクンと穴があいた




*今日の1冊 森山大道 「 写真との対話 」

 クウヘンさんの愛読書 *下記は著者の言葉

 写真は光と時間の化石である

 カメラを介して世界に語りかけ、撮る行為を通して世界が語る言葉を聞く




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