第2章 ぼくの冬の日々

第6話 ベルベット・ボイス


ちょっと悲しいきもちだった

別になにか特別なことがあったわけでなく


カフェでは 今日もレコードがかかっている

針の音いいだろ、とクウヘンさんがにんまりする

ぱちぱちいって 暖炉みたいで あたたかいです

心の中で言って、ぼくは泣いた


  こどもの頃の情景 両親とソファーに座って

  父さんが選んだレコードに 一緒に耳を傾ける

  針をおく 瞬間の 息づかい

  少し遅れて届く 曲までの空白が好きだった


柚子さんと クウヘンさんは

ぼくのことがよめる人なので そっとしておいてくれる

ミルクティにシナモンスティックがおまけ


  ぐるぐるまわす うずまきを見ていると

  すこしずつ心が溶けてくる

  レコード盤が回って 空気中に一緒にうずを作る


流れてくるのは ナット・キング・コールのクリスマスソング♪

彼の声は ベルベット・ボイスというらしい

あたたかく しっとりした布地を撫でるような


クウヘンさんは 毎年クリスマスの頃は

エラ・フィッツジェラルドと ナット・キング・コールを

交互にかけて 目を閉じてその世界を味わう


こんなぼくにも もうすぐやってくるクリスマス

父さん 母さん あなたたちは今 どこにいますか






*今日の1曲  Nat King Cole 「Xmas Song」

 深い、味わい深い、包み込むような あたたかい声

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