18 夢見

 翌日の金曜日は熱も大分下がり、学校に行った。

 本当は休んで備えたかったが、それでもしも夜の外出を誰かに見られた場合、困ったことになる。


 そんなにつらくはない。

 明日は休みだし、少しくらい無理をしても大丈夫だろう。

 つとめて自然に振舞った。授業を受けて、給食を食べ、昼休みに遊んで、また授業を受けて。


 熱が出てきた。

 感覚的には、三十八度を超えていない。微熱だ。寒気がするけど、これくらいなら乗り切れる。

 結と二人の帰り道、悟られないように気を張っていた。


「あ……」


 楽しく話していた結が、私の顔を見て固まった。


「ど……どうしたの?」

「え? あ、ううん、何でもない」


 ちょっと笑顔でそう言ったあと、また話を戻した。

 一瞬、気付かれたのかと思ったけど、どうやら違ったらしい。

 でもその後も結は、何となく何かを考えているような、上の空に見えた。


 家に帰って熱を計ったら三十九度近くあって、一気につらくなった。

 知らずに気を張っていた方が元気でいられるなら、次から計らないことにしようと、固く心に決めた。


 夜になって、だるい体を引きずりながら、また白石さんの家に行った。

 妖怪たちは「やめておいたら」と言ったけど、十岐は私を止めなかった。


 立っているのがつらくて、フェンスに寄りかかって座ったまま、今日の様子をひとりで喋った。

 ひとつだけ利点があるとすれば、熱で寒さを感じにくくなっていることだ。お陰で、九時まで耐えることができた。


 この日は、サトリに負ぶわれて帰った。

 家に着くとそのままベッドに運ばれ、うんうん唸りながら眠った。何かの夢を見たけど、目覚めたときに思い出すことはできなかった。




 土曜日。

 極力、ベッドの上で大人しくしていることにした。

 自分に流れる大地の力の行方を、改めて確認してみる。

 いつもと同じように流れてはいるけど、私の体がちゃんと吸収できていなかった。そのまま大地に還っていく量が、とても多い。


 入ってきても、取り込めないんじゃ意味がない。

 考えてみると、今までも吸収する量は一定じゃなかった。私の体は、相当ムラがあるみたいだ。

「不安定」という十岐の言葉が身に沁みて、ため息をついた。


 昼ご飯は、無理やり詰め込んだ。せめて、食べ物で栄養を取ろうと。

 そうしてまたひと眠りしたとき、夢を見た――――――


――――――見たこともない部屋。大きな熊のぬいぐるみがある。

 ベッドに腰掛けている人間と、もうひとり、椅子に座る人間の影が揺れる。

 伝わるのは、深刻な、落ち着かない感じ。

 誰だ。何を話している――――――


――――――目を覚ましても、消えることはなかった。

 ぼうっとする頭で考える。

 妙な夢だった。一体、何だったのか。

 しかし再び、まぶたは重くなる。

 深い眠りにつき、起きたときには忘れていた。


 おやつを詰め込んで、また眠った。

 食べて、寝て、食べて、寝て。夕方から、熱が出始めた。

 そして、夜。

 いつもの通り出かけた。

 今日は学校のネタがない。私は、自分のことを話した。


「お別れ会、今月でしょ……。ホントに私が弾くなら、もう話が来ても、いいよね。でも私は……聞いてない。だから、違うよ……きっと、五年生が弾くんだよ」


 降ってきたみぞれが顔に当たる。

 冷たくて、気持ちいい。


「私は、白石さんが思ってるほど……何でもできる訳じゃないよ……。いいと思ってやったことが、すぐ裏目に出るし……。結や、アシュリーの方が……よっぽど、しっかりしてる……」


 みぞれは、雪に変わる。

 もう、三月なのに。


「考えが足りなくて……嫌になる。白石さん…………賭けなんかして……ごめん。傷つけて……ごめんね……」


 空き地と私を、雪が薄っすらと白く染めた頃、重い腰を上げた。


 夜中。熱が高すぎて、ふわふわと気持ちよくなった。

 夢うつつでいると、誰かの手が額に触れた。

 大きくてしっかりした手が、頭を撫でる。

 気持ちいい。

 私はすごく安心した気持ちで、深い眠りに落ちていった。

 多分、微笑みながら。

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