14 明かされる -少しずつ
「お母さんと、どんな遊びしてたの?」
「ん? ああ、缶蹴りにかくれんぼ、影踏み鬼、ゴムとび、山崩し、達磨さんがころんだ。いろいろやったな」
泣いて泣いて、泣きじゃくって。
泣きつかれて眠って起きても、校長は私の側にいてくれた。
シャツを通り越し、包帯までびしょ濡れにしたことを思い出して恥ずかしかったけど、嬉しかった。
留守にしていると思っていた妖怪たちは、別室や天井裏に隠れて、ネズミや猫になったりしながら一部始終を聞いていた。
と、あとで分かった。
当然のことながら、みんな校長と面識があった。一時あの家に住んでいたんだから、知らない方がおかしい。
見られたらどうしようと、気づかず心配した私がバカだった。
あれから私は、母の話ができる人を手に入れた。
どんなものが好きだったのか。嫌いな食べ物は何か。何に喜んだのか。子どもの頃はどんなだったのか。事あるごとに質問して、自分と同じところ、違うところを見つけては、一喜一憂した。
でもどんな話も、やっぱり嬉しかった。
「へえ、意外だな。お母さん、心臓が弱かったんでしょ?」
「なかなか外へ出て遊べなかったからな。出られるときは、外でしかできないことをやりたがった」
「そっか……。で、銀ちゃんは、お母さんにペースを合わせてくれてたんだ」
「その呼び方はやめろ!」
「お母さんが、そう呼んでたんだよ」
「子どもじゃなかったとしても、お前はどっち道、俺より年下なんだぞ。それに、三十五歳にもなって『ちゃん』付けなんざ――」
「じゃあ、阿尊くんはどうなの。阿尊くんは、私より年下じゃない」
「あれは、あいつが勝手に――」
「なら、私も勝手にする」
「お前なあ……」
弾は長の管轄になって、暴走しないような体制を整えたそうだ。
櫂伯父さんは……一年間、里の牢に幽閉されていたらしい。
それが伯父さんにどういう影響を与えたのかは分からないけど、少なくとも、里で会ったときの顔は優しげに見えていた。
銀ちゃんはあれから里を追い出された形になっていて、伯父さんとも一度も会っていないと言っていた。
でも言葉の端々に、いつも伯父さんへの尊敬の気持ちが表れていると感じる。
父と里との関係は結局こじれてしまい、父は心を閉ざしたまま、私を手放すことはなかった。
けれど、ひとつだけ思い出したことがある――――――
――――――父が私を抱きしめ、泣いている。
『寧……お父さんは、お前を失うのが……怖い……! 一緒にいたいんだ。ごめんな……お父さんの我がままで…………』
私は、笑って言う。
『私も、お父さんと一緒にいたいよ?』
『寧……! うん……うん…………!』――――――
一緒にいること。それは父だけでなく、紛れもなく私の幸せでもあった。
そのことが、今はよく分かる。
たとえその先どういう結果が待ち受けていたとしても、きっと必要だった。
今後いつか、私が里に足を踏み入れるときが来るのか。それはまだ分からない。
里の人たちや……長を、憎んでいる訳じゃないし、嫌いな訳でもない。櫂伯父さんのことも、きっと私と同じくらい母のことが好きだったから、愛情のある人だからそうなってしまったんだと、思う。
でも今はまだ、ちゃんと気持ちの整理がついていない。どう接したらいいかも、まだ分からない。里の女の人の運命だって、受け入れるにはもっと多くの時間が必要なのだろう。
それと、過去に迷惑をかけた他の地のあまねのことも、気にならない訳ではないけど、やっぱり自分から動くことはないかもしれない。何か、きっかけでもない限りは。
今はただ、お母さんの話をもっとしたい。
そのことが、私の心の傷を少しずつ癒してくれる。
まるで、十岐特製の傷薬を塗られているように。
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