五人目~森直子~

○では…改めまして…レコーダーをまわします…


■ふふふ…良いのよ。どうしていたの?あんな所に。


○少し…思う事がありまして…


■事件のこと…調べてるの?


○……はい。


■そう…だったらなぜ康成に会いに来たのわかるわね…久しぶりだったんじゃないの?康成…何か言ってた?言ってたと思うわよ…何て言ったのかしらね?

でも本当にびっくりした…まさか…こんな所で会うなんてね…離れられない運命なのかしらね?

インタビュー?大変だったでしょう。みんなあの事件の事は話したがらないと思うわ。

私も…そう…うん…やっぱり話したくなかった。ずっとずっとね、何度も取材の申し込みがあったのよ。でもね…私は何も言えなかった…

今でも…自分は共犯者なんじゃないかと思っているのよ。やっぱりね…そうね…康成が…あの子をって考えてしまうの…あなたは…多分自分の中で抱え込んでいると思うわ。どうして自分で傷口を広げるの?どうして痛い方向に進むの?それが贖罪とでも思っているの?


○…私は……納得がしたいんです…


■「私」…「私」……ね…。昔は僕って言っていたのに落ち着いちゃったのね。そう、そうなのよ。もうそれだけの時間が経ったのよ。もう許して良いんじゃないかしら?まさか…まだこの街の近くでこんな事してるなんて…

なんになるの?納得してなんになるのよ?正直…放っておいてくれた方が良いわよ…なんなの?本当に…そんなに不幸になった人間が見たいのかしら…私の子は…康成は…人を殺したの?違うわよ…なのに…康成も…誰かに名前を出されたりしてね…

ねえ、このお墓綺麗でしょ?なんでかわかる?


○………


■お墓ね、壊れたのよ。三度も。毎回あの事件の特集が組まれた後よ…少年と仲良くしていたもう一人の…そうなるとね…お墓壊されるの。悲しいとかじゃなくて笑っちゃうわよね?お墓を壊してなんになるのかしら?あの子が悲しむ?遺族が喜ぶ?私が悲しむ?そんな事が…霞む事があったのよ。びっくりするわよ?

このお墓の中にはね…もう何も無いのよ。


○何も…無い?


■砕かれてね…持って行かれていたのよ…今までは壊されていたり…馬鹿なグルーピー?ファンレターも置いてあったりして…その中に「勇気を貰うために墓石の一部をいただいていきます」とか書いててね、三千円入っていたりもしたわ。

その他には…ウンチを擦りつけたりとかね…でもそんないたずらは良いのよ。誰だって八つ当たりするしね…でも…康成の骨を持って行く人がいるなんてね…それもテレビで特集された後よ…

康成…どこに行っちゃったのかしらね…ゴミとして捨てられたとか…トイレに流されたとかだったら本当に可哀想…康成は…あの子と仲も良かったし…やっぱり…こうなっちゃうのね…


○いつ…盗まれたのですか…?


■それは…少し前ね。何年か前。私は気がつかなかったけどまたテレビで特集でもされたのかしらね…ああ…寂しいわ…本当に寂しい…でも良かった…どんな形にしても…康成に会いに来てくれたんだから…こういう風に会いに来てくれる人…多分いないのよ…あんな事になったのに…本当にありがとうね。

もう十何年…それでもまだみんな考えちゃうわよね。みんな意識しちゃうわよね。私ね、最近少し忘れる事ができてたの…でも…駄目ね…命日とか…あの日を思い出すと駄目なのよね…

あの子とは…会ったの?田中君と…


○まだです…しかし…私が会って…どうなるのか…話を聞きたいとは思います…しかし…彼は消えてしまいました…


■そう…でもそうね…なんでも消えるのよ…康成の思い出も消えていくのよ…私のことをね、お母さんって呼んでいたか、母さんって呼んでいたかも忘れちゃったわ…薄情な母親よね…


○…森は私のことを…恨んでいましたか?


■………わからないわね…直接聞かなかったから…でも、あなたと距離を取ってからは…康成は田中君の話を沢山するようになったわ。どこに行ってたの?って聞いたら田中と遊んでた。って言うことが多くなったと記憶してるわ…「みんなで遊んでた」ってずっと言ってたのよ。

ほら、親に何をしていたかって聞かれるのって何となくめんどくさいし「なんで言わなきゃいけないの?」とか思って…何とでも答えられるような答えを用意するじゃない?そんな感じでね。

でも、急に田中君とって言い出したから…でも…ふふふ…それもしょうがないことよね…


○………


■こんな風に会えたのは…本当に運命ね…ああ…あなたはあの時のままね。綺麗な子。私はもうおばあちゃんって呼ばれてもおかしくない位なのに…時間って言うのは進んでいくのね。そう…進むの…ふふふ…おかしいわよね…私はね、まだ昔の私のままでいるつもりなの。ほら、この服覚えている?覚えているはず無いわね…この服を着てる時にあなたと会ったわよ。

どう?まだちゃんと着れてるでしょう?年をとるとね、体が横じゃなくて前後に太るのよね…でも、ウオーキングとかヨガとかやって頑張ってるのよ?やる事を沢山毎日増やして…そうしたら何も考えなくて良くなるのよね…


○森は…恨んでましたよ。僕のことを。


■あら?僕?ふふふ…そうね、それがあなたね。僕…そう…私が勉強教えていた時もそうだったわよね。康成は…私があなたに取られたと思ったんじゃない?ほら…私って…康成が小さい時に離婚しちゃってるでしょ?だから…あの子は私に近づく人には敵意を向けるのよ…それが塾の先生と生徒って間柄でも…嫉妬しちゃったんでしょうね…私も…強く言えなくてね…さみしい思いをさせてしまっていたし…


○僕の事を恨んでますか?


■恨む?私が?どうして?良いのよ…良いの。気にしないで…大丈夫。あなたと同じように康成には接していたし…いえ…康成はもちろん息子だからあなた以上に愛していたわ。康成…あの子…変わっちゃったきっかけはあなたかもしれないけど…変わるのはいつもその人自身よ。原因って言葉があるけど、それは言い換えれば言い訳よ。

本当の原因、何か問題が起きる原因は「人間だから」って所だけ…あとの事は大体なんとでもなるの。そして…なんでもその原因として仮定する事で言い訳が楽になるのよ。

私は言い訳をしないわ。だって人間として生まれてきたんだからしょうがないじゃない?間違うし…嘘をつくし…言い訳もする…だからこそ、人間は美しいし一緒にいると楽しいのよ。

あなたも…康成と田中君と…やっていたのはあんな事だけど…楽しかったんじゃないの?楽しいに決まっているわよ。大人から隠れて秘密を作るのは子供が行える最高の娯楽なんだから。その娯楽を味わえたのはとても幸せな事よ?あなたは…違う娯楽にはまってしまったけどね…ふふふ…


○相変わらずなんですね…先生は昔からそうでしたね…


■まあ、「先生」?懐かしいわね…塾は康成が死んじゃった時に辞めちゃったからもう先生じゃないわよ。でも、あなたは勉強ばっかりになっちゃったわね…だから康成とか…田中君とは別の方向に行けたのかもね…

それで良かったのよ。責任を感じる事無いわ。学校とかじゃないけど…あなたは私の教え子だもの。良いのよ。先生が守ってあげるわ。ふふふ…先生か…もう一回塾を開くのも良いかもね。

塾って良いのよ。さみしさが無くなるの。やっぱり女一人で子供を育てて…仕事してって…さみしいのよね…でも、教えている間は先生って頼ってくれるし、なんて言うか…教え子には愛情を持って接することができるのよ。愛情…うん、そうね。愛情よ。それがあるから何度も教えるし…一緒に合格を喜んだりできるのよ。


○先生は…あなたは壊れている。普通じゃない。


■どうして?それが普通よ。


○そこじゃ…無い…教師としてとかじゃない…


■まあ良いわ。でも本当に康成の事は良いの。あなたも田中君も…大変だったでしょうね…もちろん田中君は犯罪者よ。少年って言う部分を抜いてもっと裁かれるべきだった。あんな…女の子ばかり…三人も乱暴して…私の教え子も…そしてあんな酷い事を…バラバラにして…………


○あなたは…自分がした事をわかってない…


■なんで?普通のことじゃない?別に大したことじゃないと思うわよ?


○僕は…あなたを恨んでいる。憎んでいます。今日も会いたくなかった。


■変わった子ね…昔から変わって無いのが嬉しいわ。だったらここに来なかったら良かったんじゃないの?命日の近くに…それもこんな普通の時間に。私があなたの立場だったら会いたくないならまずここに来ないわよ?そして…来るとしても…私が来ないような時間にここに来るはずよ?

ふふふ…分かってるわよ。本当は私に会いたかったんでしょ?

あなたはいつも嘘をつくの。今も嘘をついているの?それが可愛いとは思っていたんだけどね…嘘から何か生まれた?生まれたわよね?そうね…生まれて…それが大きく飲んで全部を飲み込んだのよね…この街も全部その嘘に飲み込まれた…康成もその嘘の犠牲になった…冗談よ…怖い顔しないで…このインタビュー…納得したいって嘘でしょ?私にはわかるわよ…少しだけだけど…先生として近くにいたんだからわかるわ。あなたは納得なんてしたくない。いえ…納得をするにしても…インタビューで話を聞いて終わるとかじゃないでしょ?

そんな素直でも聞き分けが良い子でも無いのは知ってるもの…ねえ…教えてくれない?なんでこんなインタビューしてるの?どうして私に会いたかったの?耐えられなくなってるんじゃないの?…あの時みたいに?


○おい!!!


■良いわね。本当に良い。そうよ、それがあなたなんだから。大人になっていくと嘘が上手になっていくの。でもね、それは真実を覆い隠せる嘘じゃないのよ?真実の上に…溶けたコールタールを塗りたくってるのよ。それで見えないってうそぶいている。また燃え上がったら露出するのよ?

それを嘘だなんて陳腐な言葉で飾っているだけなのよ?ねえ…言ってよ。言ってくれないの?


○やめろ。


■良いじゃない。あの時みたいに「先生、怖いよ」って言って良いのよ?大丈夫よ。こんな公園のベンチなんかで話してないで…ほら?移動する?大丈夫よ。全部楽になるんだから。


○お前が森を殺したんだ。


■何を言ってるの?私がお腹を痛めて産んだ子供なのよ?私が殺すわけないじゃない?もちろん取り調べは受けたわよ。でもその時私は仕事をしていたし、何も無かったわよ?でもあなたはそうじゃないんでしょ?


○そう言う意味じゃない。


■じゃあどう言う意味?大丈夫よ。怖いんでしょ?怖いなら怖いって言いなさい?良いのよ。私はね…薄情そうだって言われるけど情には厚いの。怖かったんでしょう?あなたがね…一番魅力的なのは怖がっている時…顔が白くなって歯をカチカチ言わせて…それで涙を溜めた目で私を見るのよ。そうよ、あの時もそうだった?怖かったんでしょう?

自分たちで作った宗教が大きくなって…どんどんエスカレートして…それであなたは勉強に…私に逃げたのよ…可哀想に…あなたは子供だったからね…何もできないのはしょうがないのよ?

ほら、ちゃんと欲しがって?私に抱かれたいんでしょう?


○違う。


■良いじゃない?もう康成はいないのよ?ほら…顔をよく見せて?綺麗…相変わらず女の子みたいな顔をしているのね…ほら…ここなら誰も見てないんじゃない?今もドキドキしてるんでしょ?

ほら…こんな時間にこんな場所に誰も来ないから…私のおっぱい触りたい?あの時は…泣きながら私のおっぱいに吸い付いてたのよ?赤ちゃんみたい…可愛かったわよお…本当に可愛かった。

私はね…あの時に決めたのよ…「私がこの子を守る」って…康成じゃないわよ?あなたを守るって決めたの…ふふふ…女は弱いのよ…守ってあげたくなっちゃうのよ…


○あいつを守らなかったじゃないか…


■康成?そりゃそうよ。あの子は息子だもの。大切だけど男としての魅力は感じなかったからね…私がひっぱたいて「やめなさい!」って言っていたら何も起きなかったかもしれないわね?遺骨をどこの誰かに盗まれるなんてこともなかったかも知れない。でもしょうがないじゃない。

康成は私の血と…私を捨てた男の血が入っているのよ?そこまで面倒見られるはずないじゃない…

でもね、あの男は康成が小学校の時に癌で死んだのよ。その時びっくりしたのよねえ。遺産が入ったのよ。私にじゃないわよ?康成に。離婚しているから私には入らないんだけど、子供は離婚しても子供なんだってね…いやねえ…何それ?って感じしない?

ほら…もうね…近くにいるだけでも私はドキドキしてるのよ…反応しているのよ?ほら…触って?

何?怖がってるの?どうして怖がるの?観客がいないと駄目?ふふふ…じゃあ康成のお墓の前でする?

あなたとしてる所を康成が見たじゃない?あれから…すごかったのよ?「なにやってるんだよ!?」「やって良い事と悪い事くらいわかるだろ!」とか…普段は私ににこにこと媚びたような目をして従順にしていたあの子が…ぞくぞくする程の勢いで私に向かってくるの?


○やめろ。


■そのあとね?これは言っていないけど…康成は何て言ったと思う?「俺の方が坂本よりもうまくできる!お母さん!俺を捨てないでください!!」って言うのよ…それで土下座までするのよ?ああ…その時の事を思い出すと、子供を産んで良かったと思うわ…私ね…一人でするのはあなたとの事を思い出しながらと…あの時の康成の必死な顔を思い出しての二つしかないのよ?

情に厚いって言ったでしょ?忘れられないの…駄目な女よね…男って言うのは通り過ぎていく物なのに忘れられなくなってしまうの…でもね…あなたと康成は違うのよね…あんなに激しくぶつかられたら…忘れられなくなっちゃうでしょ?


○やめろ。


■教室の中で何回したか覚えている?毎回あなたは「こんな事駄目です」「やめてください」って言っていたわよね…康成ね。それを毎回毎回見ていたのよ。康成が死んで部屋を片付けた時ね…何本もビデオテープが出てきたのよね…私、それで…何とも言えない気持ちになって…興奮してきちゃったのよ…

もしかしてあの後からかしら?康成が…あなたに…ライバル心をむき出しにしたのは?家に帰ってきてね、何かあるごとに「今日のテストでは坂本より点数が良かったよ!」「坂本が解けなかった問題解いたよ!」って嬉しそうに言うのよ。康成の嬉しそうな顔は…あの男に似ていたから本当に憎らしかったんだけど…その後のね…媚びへつらうような笑顔で「だから…ご褒美頂戴!」って言うのがね…もうたまらないの…私よりもあの男に似ているのが気に入らなかったけど…そんな息子、あの男の分身が私に屈服しているのよ?

もう最高よ。「お母さんが大好きです。見捨てないでください。坂本なんか好きにならないでください」って言いながら動くのよ…動き方まであの男と同じだった時はやっぱり親子かって思って少し嫌な気持ちになったけど…その時にあなたの事を思い浮かべると本当に最高だったわ。

あなたも本当は嫌じゃなかったんでしょう?初めて味わう女を何度も何度も味わいたいって思ったんでしょう?


○殺すぞ。


■最高ね。もうその言葉だけで軽くイっちゃいそう…もっと見て?もっと気持ちを私に頂戴?あなたはもう逃げられないのよ。原因の一つは逃げられないのよ。あなたは血を見たがっている…でもね…臆病だから自分のかさぶたを剥いで…自分の血を見て安心しているだけなのよ。

本当に見たかったのは誰の血?ねえ…教えてよ…それが私の血でも受け入れる準備は出来ているのよ。康成もあの子も…何も感じなかったわよ…あの子は抱いて無いわよ?好みじゃなかったし接点も無かったしね。あなただけに感じるのよ。

子供の時は誰もが普通っていう事に怯えるの。あなたにはそれがなかったわ。遠いところに居るの。誰もたどり着けないところに居るの。だから平気で嘘をついて進める。そして今も心の奥底を誰にも見せないで、自分で自分の心を傷つけて、誰かを傷つけたくて動いているんでしょう?私を抱いた時どう思った?康成が悲しむと思った?思ったに決まっているわよね…でもあなたは自分の意思で止められなかった…康成がどうなるのか見たかったんでしょう?

今も見たいと思っている。インタビューを通して知りたいのは真実…でも、その真実って言うのは他人がどんな血を流しているのかを知りたいのよ。自分の喜びの為に…どこまでも変態よね…昔からあなたは見たがっている。今も見たがっている。でも…触れないんでしょう?私には触れてくれたのに。触れるとどうなってしまうかを理解してしまったの?それとも他人の血が怖くなったの?大丈夫よ。私はあなたを許している。これは本心よ?

そりゃ悲しいこともあるし、今も一人でいることが辛いこともあるわよ。でもね、私はもう未来は必要ないの。思い出で生きていける。

あんな街で生まれてあんな子を産んであんな友達ができてあんな事件が起こってあんなにも多くの人に色んな事を聞かれて…そして康成を失って…私はね、今後数十年、死ぬまでの間に起きることを全部見てきたわよ。それはあなたが見せてくれたのよ?

あなたが私を見てくれたから私は存在できたのよ。あの子も康成も…あなたがいなかったら…生まれていなかったかもしれないわね…ifの話しなんてしちゃだめなのはわかっているけど…

あなたが悲しみにまみれた人生を私にプレゼントしてくれたのよ。触れてくれてありがとうね?あなたがいてくれたから全てが生まれるの。不思議ね…本当に不思議…人は自分自身で何かを生み出す…そう思っていた…でも違うのよね…周りに影響されて何かに気が付いて、隣に居る人を見て自分を理解する。

そんな人に恵まれるのは良い事なのか悪い事なのかわからないわ。でもね…凄く幸せよ?あなたは幸せになれた?ふふふ…なれていないわよね。それはどうしてだかわかるわよ…

あなたはもう一度血が見たくなっちゃったのよ。自分がコントロールした世界で他人が流す血が見たくて堪らないのよ。

ねえ…康成…どうだったの?ずっとずっと聞きたかったの…康成と…あの子が…女の子を何人も殺した…それも残酷な方法で…それを周りで、一枚隔てた塀から頭を出してみていた気持ちはどう?

教えて…康成、康成はあなたに殺される前、最後に何て言ったの?


○やめろ。殺すぞ。


■あら…そんな事を言ったの?「やめろ。殺すぞ。」良い言葉ね?ゾクゾクしちゃう…両方結末は同じね?黙らせたいのね…そんなの言葉にしなくても…私に思い切り襲いかかって犯してバラバラにして指を全部切ってアソコに入れたら良いんじゃないの?

あなたが…そうしたかったみたいにね?

教えて。康成を殺したのはあなたでしょ?あの子はね…「ウドルカルマ黙示録」って言う日記をつけていたのよ。何をしても長続きしなかったあの子が死ぬまでにずっと続けていた…まあ中身はただの日記よ…飛び降りた日にあなたに会うって書いていたわよ?

そのページ、警察に見せていないから安心して…あなたみたいな綺麗な子を豚箱になんて行かせる物ですか…ふふふ…

康成、私とあなたが楽しんでいるところを見てオナニーするの好きだったみたいよ?泣きながらしているのよ…男の子はそう言うの隠そうとするけど全部お見通しなの。康成、あなたに私が取られると思ったんじゃない?彼氏を家に連れてきた時…「お母さんをとるな!」って怒ったのよ…あなたにはそんな事なかった?あら?顔色が変わったわね…赤くなって…素敵…あなたもちゃんと人間なのね?

あなたは全部私のせいにしようとしている…そうじゃないと部外者で居られないからよね?部外者だけど…一番近くで笑っていたいのよ…だから色んな人にインタビューをするの…悲しんでる人、怒っている人、楽しんでる人、憧れている人…沢山の人がいると思うのよ…あなたはそう言う人達に話を聞きたいんでしょう?部外者として…そうね…なんて言うか…バラエティー番組で、馬鹿な事している人を笑っている人みたいに…そんな風にこの世界を見たいのよ…


○森は…僕を殺そうとした。


■あら…ふふふ…話してくれるのね?そうでしょうね…あなたを殺したいと思っていたと思うわよ。あなた…やめてやめてって言いながら…ずっとずっと私を抱いていたものね…それをずっとずっと康成が見ていた…私が上になった事なんて数えるほどしかないと思うわよ?あなたは「やめて」って言いながらずっと私にのしかかっていた…

それが何よりも…何よりも良かったのよ…そして…康成は…堪らなかったのでしょうね…それでなんとか私を満足させようとして…可愛かったわ…なんで死んじゃったのかしら…でも限界だったんでしょうね…あなたを殺す位ならあなたに殺される方がマシよ…運良く?私は犯罪者の身内にならないで済んだけど…発覚の前に康成死んじゃったものね。ラッキーだったわ。康成が死んでくれて。

改めてお礼を言わせて…康成を殺してくれて…ありがとうね。


○僕が悪いって言うのか。


■言ってないわよ…全然悪くないわよ…でもそう言っちゃうって事は悪いと思っているからよ。可哀想に心が辛いのね…誰にも甘えられない?良いのよ?私に甘える?ほら…触って良いのよ…お願い…触れて…私に思い切り触れて…我慢してるんでしょ?私の血だったらいつまでも見せてあげる…幾らでも見せてあげる…

あなたが…周りを操ったのよ…康成も…あの子も…そんな気がする…康成たちが宗教ごっこをめちゃくちゃにしていったの…見てたんでしょう?止めなかったんでしょう?対岸の火事?良いのよ…気にしないで…あなたは私が守るわよ…あなたを守るって事は…もう血を流す人がいなくなるから…それに…あなたが私以外の血を見たり、触れたりするのを…許せないの…ああ…私と康成はやっぱり親子ね?同じ事考えてる…康成にとっての私があなたなのよ…あなたにだったら何をされても良いわ…

ずっと会いたかった…本当に会いたかった…私はあなたに…めちゃくちゃにされたいのよ。

だからして?めちゃくちゃにして?それだけが望みなの。それだけを願って生きてきたの。でもね、そんな願いは叶うことがないって思っていた。もうこんな年齢だし…あなたはもう街に戻ってこないと思っていた…

だけど…こんな奇跡が起きたんですもの…わかったわ!!康成よ…康成が…私達を祝福してくれているに違いないわ…ああ…あの子ったら…本当に私のことが好きだったのね…あの子が神様にお願いして…こう言う風に会わせてくれたんだと思う…ああ…なんてこと?こんなことって本当にあるのね…うれしい…神様…康成を幸せにしてあげて…私はあの子を心から好きになれなかった…でも…神様なら愛してくれる…ねえ?そう思うでしょ?


○狂ってる。


■失礼ねえ…本当のことを話しているだけよ?ああ…でもこんな奇跡…もしあなたが康成に殺されていたら…こんな事は起きなかった…もう還暦も近い私がまたこんなにも、少女みたいに心を熱くすることができるなんて…

ありがとうね…本当にありがとう…本当に…康成を殺してくれてありがとう…私、康成が死んだ時は少しショックだったの…あんなのでも…近くにいたら退屈な時は楽しませてくれたから…それを殺したかもしれないあなたが憎かった…でも…その憎しみも悲しみも…今につながってくるのね…

ああ…見て?いくらでも見て?私は今血を流している?私の血は赤い?嬉しい…またこうやって見てもらえるのだから…

毎日毎日…色々思い出して…血を流してきて良かったの…ああ…もしかしたら神様ってあなたあのかも?

そう…退屈な運命を…変えて…私は解き放ってくれた…だから私はあなたを忘れられないのかもね?そうよ、そうに違い無いわ…あなたの全て、遺伝子を体に何度も取り込んだ…私はもう、もしかしたら人間を超えているのかもしれないわね。嬉しい…小さなつまらない存在を通り越して、ゴミみたいな殻をすてて飛び立つ事が出来たのね…本当に嬉しい…

まだ…もしかしたら今度は…あなたが殺したいの?ねえ…手伝うわよ…あなたの足りなかった勇気を後押しできるかもしれない…あなたはどんな人を殺したい?教えて?子供を殺したいんだったらあの時みたいに塾を開くから…それで授業を遅い時間に設定して…私があの時みたいに…嘘をつくから…誘拐してくれて良いのよ…?私、本当は全部わかっていた…多分康成とあの子が…何かとんでもないことをしているって…でも…止められなかった…止めたくなかった…止めてしまったら…あの時止めてしまったら…あなたも警察に色んな事を聞かれて…二度と会えなくなってしまうって思ったから…それだけは避けたかったの…

結局…教え子は…あの子と康成に…でもね、それはもうしょうがないの。何事にも犠牲が必要っていうのはわかっているし…楽しい事、嬉しいことだけじゃないのよね…人生って…だから私は我慢したの…嘘を付いたの…その日、殺された子は来なかったって…最近、知らないおじさんに追いかけられたって適当なことを言って…それで…あなたは逃げおおせた…逃げて…康成を殺して…この街から…私から逃げた…

でも…また…血が見たくなって戻ってきた…私のこと、会いたくないとかもうどうでも良いの。今、こう言う風に会えたのよ?康成のお陰で、康成が殺されたお陰で私はまだ女として生きることができて、女として悦びも感じることができる。あなたは私の神様よ。守るわよ。誰にも…誰にも…渡さないから。

こんな女にしてくれてありがとうね…あなたに見られたいの。もっともっと見られたいの。ありがとうね。本当に嬉しい。ねえ…何かあったら私を呼んで…必ず…必ず力になるから…私は…あなたのためだったらなんでもするわよ…

自分の子供も差し出したんだから…もう…怖いものなんて無いの…


○僕は殺されたく無かった。あいつが僕の首を絞めてきた。「お母さんに近づくな」って言いながらそうやってきたんだ。僕は悪くない。

殴って、もみ合って…本当に怖くなって…じゃあ…押し付けた手すりが外れたんだ。あいつはびっくりした顔で落ちていった。捕まりたくなかった。警察は来なかった。


■大丈夫よ。警察は来ないわよ。私が警察にはちゃんと言っといたから…離婚してから心が凄く不安定で何度も私の前で死のうとしたとか適当に言っといたから。大丈夫よ。泣かないで?私も泣きそうになっちゃう。大丈夫よ。あなたを怖がらせる存在は私が許さないわよ。

ねえ…あなたは怖いんでしょう?だから探しているんでしょう?怖い怖い存在を自分の周りからなくしたいんでしょう?

良いのよ。あなたはもう見るだけでは満足できないの。もう踏み込んでしまっているの。どんな形でも人を殺した人はもう戻れないの。

ねえ…だから…大丈夫…どんなことになってもあなたを守るから。ほら…どうしてインタビューなんて始めたの?私は分かっているから…言って…ほら…


○田中を…殺したいんだ…


■うんうんうん…うん…うんうんうん…良いのよ。怖いのね?田中君が怖いのね?田中君は康成の子分みたいだったもんね…怖いわよね…

そんな田中君があなたの事を誰にも言っていないんだものね…多分気がついているわよ…康成を殺した事も…でも彼は言ってないのよね…可哀想にずっとずっと怖い思いをしていたのね…その気持ちを納得させるためにインタビューをしていたんでしょう?

ああ…可哀想…なんて可哀想なの…怖いって言う気持ちは…もう止められないの…一回生まれてしまったらそんな気持ちは止められないの…

あの事件に関係する人を全員殺したいんでしょう?大丈夫、田中君を殺したら全部終わるわよ。大丈夫よ。そうしたら幸せになれるの。ほら、これも康成が、康成がくれたチャンスなのよ。

殺しましょ?田中君。殺しましょ?何とか近づけるはずよ。それでちゃんと殺しましょうね?生き返ったら怖いからバラバラにして燃やしましょう?そうでもしないと不安でしょうがないんでしょう?良いのよ…それが人間よ…

今まで怖かったんでしょう?良いのよ…大好き。大好きよ。私はあなたの事が大好きよ。ほら、今日はもう帰りなさい?大丈夫。私はいつでもそばにいるわよ?帰りたくなかったら…一緒にいてあげるからね…


○田中が悪いんだ…みんな悪いと思っているはずなんだ…


■そうよ。田中君が悪いのよ。あの子は人殺しよ。ねえ…あなたは良い事をしようとしている。不安の種を潰すだけじゃなくて…たまたま子供だったから死刑にならなかった犯罪者を粛清しようとしているのよ。こんな正義、今の世の中には無いわよ。大丈夫。殺しましょうね?

正義よ。大義よ。殺して幸せになりましょう?もう…振り返らなくて良いのよ…不安を殺しましょう?


○ウドルカルマの掟…花開いた乙女の血を求める…


■うん。うんうん。そうね。康成と田中君はだから女の子ばかりを殺したのね?モテない裏返し…つまらない事を大きく言って偉いと思い込んでいるバカよ。殺さないよね。そんなバカは殺しちゃわないとこの世界にとっても不幸よ。


○ウドルカルマの掟…誰にも気づかれるな…


■そうよ。誰にも気づかれてない。警察も街の人も何も気がついていない…そうよ…それで良いのよ。知っている人は忘れない。だから殺してしまえば良いのよ…殺しましょう?絶対に。簡単よ。刺したりすれば良いんでしょう?高いところから落とせば良いんでしょう?


○ウドルカルマの掟…裏切り者は殺せ…


■そうよ。裏切り者は殺しましょう?田中君は私達の安全を、平和を脅かす裏切り者よ。どこかでちゃんと生きていて、それこそ善人になっていても悪人は悪人よ。

殺してしまいましょう?あんな人間生きていてはいけないの。更生なんてする事ないわよ。殺して良いの。悪い人、裏切り者は殺しましょう?

ろくな人間じゃないわよ…良いの。大丈夫。ほら、涙を舐めてあげる…ああ…美味しい…ずっとずっとこの味は変わらないわね…ああ…嬉しい…あなたが帰ってきたのね…弱くて…綺麗で…最高のあなたが…ああ…嬉しい…殺しましょう?ほら…だからもっと…色んな人に話を聞きましょう?


~メモ~

殺す

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