二人目~北山みつお~

■いや、インタビューは別に良いんだよ。こっちもわかんない事が多いから聞きたい事があるしね。でもびっくりしたよ…そっか。いや、良いんだよ。でも本当に名前は出ないんだろうね?それだけが心配なんだよ。血の繋がりは無いし苗字も違うけど親戚ってだけで…なあ、引っ越しを繰り返してやっと俺達の事を知らない人ばかりの所に来たんだ。本当に名前とか場所が分かる事だけは隠してくれよ?


○大丈夫です。これは外に出す物ではないです。新聞や雑誌には載ったりしません。


■俺もね、他の人と同じだと思うよ。あの子とは親戚と言ってもそこまで親しかった訳じゃない。君だって叔父さんと仲良かったか?って聞かれたら「嫌いじゃない」って言う程度だろ?そんな関係だよ。姉さんも旦那さんも普通にあの子を育てたと思うよ。年に何回か会う程度だったけど…正月にお年玉をあげる時とかも普通にお礼を言える子だったしね。まあ、ちょっと暗い子だって思ってはいたよ。

あ、最初に言うけど姉さんや旦那さんが今どこに住んでいるかは言わないよ。と言うか知らないんだ。旦那さんが住んでいる所知っていたら逆に教えて欲しいんだ。やっぱり心配だしね。でも旦那さん、いや義理の兄だけどなんて言うか薄情だと思うぜ。自分は勝手に本を書いて売ったりしてよ、その金を姉さんに少しでもやったかって話しなんだよな。被害者の遺族にって言うのは分かるぜ?でも、本当に全部あげたのか…いや、嫌いじゃないよ?それは何度も言うけどさ。でも…納得できるかって話しだよ。事件が起きた時、最初は嵐みたいだったな。取材も沢山来た。それで変な手紙や変な電話も来てよ。インターネットって怖いなって思ったよ。それに近所のおばちゃん達のネットワークって言うのかい?井戸端会議って言葉はあるけど、ありゃ会議じゃねえな。諜報だわ。

こっちの事が全部筒抜け。ひでえ話しだよ。俺達はなんにもしてねえのに引っ越すハメになったし、娘も居たし大変だったんだよ。姉さんの所にもめちゃくちゃ嫌がらせがあったよ。世間ってのはひどいもんだ。本当にひどい。俺も真面目に生きてきた訳じゃねえけど、だからこそこう言う悪意って奴には鼻が利くんだ。

誰だって自分以外の血を見たいんだよ。できれば誰かをけしかけて殴って欲しいんだよ。それで誰も殴らなかったらあっちこっちに罠を張るんだ。「大変ですね」とか「この度は…」って聞いてきやがる。「近所なんだからなんでも話してね」って言いやがるんだよ。話してどうなるって話じゃねえか。聞いた所でそれはまた話が大きくなってあっちこっちに流れるんだろ?

一回見ちまったんだよ。俺と嫁の方を見て気の毒そうに会釈したおばさん達が居てよ、俺達が車に乗って出かけようとして、ふいにバックミラーみたんだよ。じゃあよ、笑ってやがんだよ。あの笑顔は気持ち悪かったな。馬鹿にするみたいに笑うんならわかるぜ?でもよ、バラエティー番組とか…テレビでよくある…面白映像を見る番組あるだろ?あんな番組の右上とかにでる小さな四角い…あの、あれだよ。


○ワイプですか?反応を見る感じの


■そう、それだ。ワイプって言うのか。そこに写ってるタレントみたいなんだよ。それが心底怖かったんだよ。可哀想とか馬鹿にするとかじゃねえんだよ。純粋に楽しんでるんだよ。あの顔が離れなくてね…結局それが原因の一つかな…俺達が引っ越したのは。今後、何十年も生きている限りあの笑顔に、あんな嫌な笑顔にまとわりつかれて生きて行くなんて耐えられないって思ったんだよ。

被害者には同情するよそれは絶対に。でも俺達はどうしたら良いと思う?ただ親戚ってだけで叔父ってだけでもう何もできないんだよ。俺が謝れば良いのか?それは違うと思うんだ。いや、確かに身内なんだよ。それは当たり前なんだ。でも、何も変わらないじゃないか。

君はどうなんだ?何も言われたりしないのか?


○多少は…ありましたね。


■多少?多少だったのか?こっちは仕事も追われそうになったんだよ。会社の若いのが俺の事を上に言いやがった。上司の人間が出来ていたから俺は大丈夫だったけどよ。俺が身内って知ってからずっとずっとあの…さっき話した顔がちらつくんだよ。もしかしたら向こうにゃそんな気持ちが無いかもしれない。俺の考え過ぎかもしれない。でも、ちらつくんだからしょうがねえんだよ。

今後はもうその顔がチラつき続けるんだ。君はどうなんだ?チラつくだろ。チラつく所か…辛くもあるだろう?


○…………


■すまんな。少しデリカシーが無かったか。でも君はまだ名前が出てないから良かったじゃないか。少年法ってやつか?いや、君は違うか…まあ、何にしても俺の甥は大事件を起こして俺は犯罪者の身内になったって事なんだよ。それで姉さんは一人で暮らしているし、旦那は印税で適当に生きて、俺は今もたまに世間の好奇に晒されてるんだよ。

おかしな話しだよ。君もそうだけど俺に来るんだよな。近い身内には行かないんだ。それもデリカシーって奴なのかも知れんな。張本人やその近しい人に聞きたい。でも、それはできないんだよ。卑怯すぎる。俺達だったら傷つかないとでも思っているのか?俺達だったらなんでも喋るって思っているのか?そんなはずあるかよ。俺達だって思い切り後ろ指をさされてるんだよ。未だに頭のおかしい奴からの手紙も届いたりするんだ。返事?出すかよアホらしい。そんな頭のおかしい奴らだって妙にデリカシーを持ってやがるんだ。それとごく普通の興味もな。だから俺の所に来る。

俺なら良いって思ってやがるんだ。本当に何度も言うけどおかしな話しだよ。そりゃこっちは姉さんを守りたい。君にだって居場所は言わない。俺がここで少し嫌な思いをしたら姉さんは守られる。他に誰が守るって言うんだよ。俺だけなんだ。もう俺だけになってしまったんだよ。

「みつおちゃん悪いわね」ってまだ言うんだぜ?もう十年以上経っているって言うのに。まだ囚われて、思い返して、まだ悲しい思いをしないとダメなんだ。あの子?どこにいるとかそんなのはあんたが知ってるんじゃないのか?知ってたら教えろよ。途中までって言っても君も仲間みたいな物だったんだろ?もしかして今回のこれもあの子に言われて来たのか?正直に言えよ。なあ。言えって。なんで調べてるんだよ。何がインタビューだよ。君は俯瞰でいるつもりなのか?俺達の話しを聞いて、まとめて何がしたいんだ?苦しんでいる様を見て喜びたいのか?言えよ。正直に言えよ。俺達が何をしたんだよ。調べてるのだったら答えられるだろ?言えって。遠慮するなよ。言うまで待ってやるからよ。

言え、俺が何をした?お前は何がしたいんだ?

引っ掻き回して安全地帯から俺達を笑いたいのか?答えろよ。


○落ち着いてください。こちらとしても…まだ整理が付いているとは言い難いです。でも、同じなんです。私も同じなんです。私も囚われているんです。あの事件があった。そしてあなたの言う通りです。でも私は途中で…私は何もしていないです。私がいた時は普通…とは言えないですが…少なくとも何も起きていませんでした。

問題は私がいなくなってからなんです。そこからあの事件が起きて…それから逮捕されるまで…何があったのかを知りたいんです。私に…もしかしたら責任があるのか…私が何か大変な過ちを起こしてしまったのか…それを知りたいんです。


■………熱くなったのは悪かった。でもこっちの気持ちもわかってくれ。そっちの気持ちはわからなくも無い。君も同じような事を聞かれたり、今でも色んな所で聞かれたりするだろうよ。でも、当事者の、肉親…血も繋がってないのに肉親と言われてよ、それで何千回も傷をほじくり返される気持ちもわかってほしいんだ。俺も聞きたいんだよ。なんで君はあの子と一緒にいたんだ?なんであんな馬鹿な事を始めたんだ?ゴッコ遊びのつもりだったのか?

あれが全ての始まりだとしたら君はどうするんだ?教えてくれよ。それで、どうして今はそんな落ち着いた風にインタビューが出来るんだ?どうやって乗り越えたんだよ。俺はまだそこまでいけねえよ。俺より一回り以上年下の君が乗り越えてこう言う風に話しを聞きに来ている。でも俺はまだ冷静に話す事もできずに君に怒りをぶつけている。無様だと思うよ。情けないと思うよ。でもどうしろって言うんだよ。


○乗り越えてなんていないです。私もまだ途中なんです。それで…同じです。私もあなたと同じ位の年齢になった時…それでも覚えていると思う。後悔も強くなると思う。その瞬間が怖いんです。少し前にインタビューした人が言っていました。この事件は傷みたいに残り続けるって。治らない傷の薄いかさぶたが剥がれる度に…また痛い思いをする…そんな感じの事を言ってました。

私はそのとおりだと思っています。この傷はもう治らない。なぜか?もう起こってしまったからです。

物事は起きてしまったらもうゼロには戻らないと思うんです。1かマイナス1です。ゼロに戻る事なんて絶対にできない。何故ならもう起きたからです。だったらその起きたことを抱えて生きるよりも、どこかでケリを付けたいんです。最終目標としては…彼に辿り付くつもりです。それで思っている事をぶつけて「なぜあんな事を」と聞きたいんです。彼はまだ何も発していない。あの状態が良くなったのかもしれない。日常生活に紛れているかもしれない。でも、だからこそ知りたいんです。彼がどう乗り越えるのか。周りの人はどう思っているのかを。


■…なるほど…そうか…そうだよな。あの子はどこで折り合いを付けて生きているんだろうな。君らと同じように携帯ゲームをしたり映画を見たりしているのかもしれない。もしかしたらもう死んでいるかもしれない。どこで何をしているかわからないのが…一番不安なんだ。

もう一回何か事件を起こしたらどうする?小さい女の子の誘拐事件が報道される度に俺達は心臓を掴まれるような気持ちになるんだよ。冷静になれない。まさか?と思う。いや、ちょっとした事件が起きるだけでも怖いんだ。「またあんな事になりはしないか」って。ひどいと思うよ。まずは被害者、そう、直接的に被害にあっている人間の心配をするのが普通なんだ。それが人間なんだ。でも、俺はそんな普通の事もできなくなってしまったんだよ。俺もやっぱりあの子の親戚かって思うよ。クソが。

どんどん自分がつまらない人間になっていく感じがするんだよ。何をしていても、何かが起きるとスイッチが入るようにあの事件に関連つけてしまうんだよ。この前の年末なんてテレビでお笑い芸人が血糊を塗って死んだふりしてるのを見ただけでも…あの頃感じた何か冷たい気持ちを感じたよ。もうこれは…病気なのかもしれないな。精神科?心療内科?行けるわけ無いだろ?そりゃ医者だから患者のプライバシーは守るだろうさ。でも本当に守られるって保証がどこにある?そこの看護師は?俺をテレビで見たことがあるって人がいたらどうする?また色んな事を聞かれて、答えないってなると「あいつもやっぱり身内だ」って言われて、答えると「あいつもあんな奴の身内だからペラペラ喋って」って言われるんだよ。本当にどうしたらいいんだよ。何も答えが見つからないんだ。

でも…今日は君と少しでも話せて良かった…うん…良かったな。


○そう言っていただけると幸いです。どう良かったのか、聞かせていただけますか?


■当事者?でも無いか…でも、そんな君がどう思っているのかを聞けた事かな…でも君は俺よりもっと近い位置であの子と居ただろ?何か知らないか?最初のきっかけは誰が作ったんだ?分からない事だらけなんだよ。

わからないって事にも慣れてきてしまったが…でも…その状況をまだ受け入れられないんだ。何がどうなってそうなったのか。そこを知りたいんだ。君と話して…そこを知りたかったから…今回のこの話しも受けたんだ。少しだけでも教えてくれ。なんだかインタビュアーが逆になったみたいだな…でも…俺も話すから君も少しは話してくれないか?頼む。君の傷を開くのは悪いと思っている。それは謝る。でも…このままじゃもう無理なんだ。俺達はどうなるんだ?君に苦しんでくれと言っている訳じゃない。ただ…少しでも救われたいんだ。俺達はどうしたら良いんだ?

中途半端な距離で中途半端に苦しむ。それを続ければ良いのか?ずっとずっとずっと続ければ良いのか?遺族に対して頭を下げれば良いのか?何もしてない、年に数回あの子と会うだけだった立場の俺が?

やれって言うならやるし、それで遺族が納得するならやるさ。姉さんを会わせる訳にもいかないしな。でも、遺族はどう思う?「どうも叔父です。もうあれから十年以上ですか。許してください。反省しています」って言えるか?君が遺族なら聞けるか?「で、なんで叔父が言うんですか?」ってなるに決まってるだろ?そんな事ばかり考えてしまう。これはいつ終わるんだ?そんな事ばかり考えてしまうんだよ。さあ、教えてくれ。一体なんだったんだ?君に言ってもしょうがない。しょうがないんだ!!じゃあ誰に何を言えば良いんだ!?黙って死ねっていうのか!?ふざけるのもたいがいにしろ!!俺はな、君があの子をそそのかしたんだろうって思ってもいるんだよ!!答えろ!!お前が原因か!?


○落ち着いてください。落ち着いてください。私は首謀者では無いです。そこは信じてください。


■じゃあなんであの子とつるんでいたんだ!?近くにいたんだったら分かっただろう!?何か変化があったなら警察に通報したりもできたはずじゃないのか!?お前が…お前があの子を変えたんじゃないのか?

あの子は本当に地味なおとなしい子だったんだ。それに姉さんもどこにでもいるような普通の女だ。あの旦那もちゃんとしていた。そんな家庭に育った普通の子があんな事件を起こす訳が無いだろうが!だったら答えは一つだろ?お前だよ。お前等がそそのかしたんだよ。楽しいだろうなあ?お前が起こした事件で不幸になった人間の今を取材するって言うのはよ。気持ちがすっきりするか?今にも笑いだしそうか?なあ。お前も俺を笑いに来たんだろ?テレビに出てる人たちみたいによお。良かったなあ。お前より不幸な人間がいてよ。良かったなあ。苦しんでいる人間がいてよ。それでお前は自分の安全を感じてニヤニヤできるんだよな。

お前だろ?お前があの子をそそのかしたんだろ?警察でもそう言う風に言っていたじゃねえか。最初はおとなしくてってよ。それを変えたのがお前だろ?おい、どうやって責任とるんだよ。どうやってこれから先を生きていくんだよ。殺したいなあ。お前、殺したいなあ。マジで。本気で殺したいなあ。お前がいなかったら最初から何も起きていなかったんじゃないか?って事はだよ、お前さ、今殺したら何もなかった頃に戻るんじゃないか?


○今日はどうも。失礼しました。また連絡します


■まあ、もっとゆっくりしていきなよ。こっちはまだ聞きたい事を聞けてないし、お前もまだ聞きたい事があるんだろ?だったらもっとゆっくり話を聞いていくべきだよ。

こんな事、こんな話をまとめようとしてるんだ。時間は沢山余っているんだろ?だったら遠慮するなよ。おい。次はお前だよ。早くしゃべれって。早く。座れよ。おい。


○離してください。離してください!


■話してください?そりゃ幾らでも話してやるって。だからお前も話すんだ。ほら、早く。座れよ。コーヒーをもう一杯いれようか?それともお茶?コーラ?なんでも入れるよ。ほら。座れって。座れ!殺すぞ!話せ!お前が最初に作ったんだろ?そこから巻き込んでいったんだろ?甘いよ。自分が安全地帯でいられると思っているなら甘いよ。ほら。話せ。コーヒーで良いな?砂糖は?ミルクは?インスタントだけど気にしないでくれ。言えよ。おい。ほら。座れって。座って良いんだって。早く。危害を加えるつもりは無いよ?殺したいって言うのは本心だけど、それで殺したら駄目だからな。殺すのは良くない。それと同じで殺す事をけしかけるのも良くないな?座れ。座れ。よし。それで良い。良いなあ。発展的だよ。これが会話だ。よし、コーヒーだ。飲みなさい。じゃあ聞くが、最初にあんな事を始めたのは君じゃないんだな?


○はい。私では無いです。最初は仲の良いと言うか…数人が…クラスに馴染めない数人が集まったんです。それで…たまたま社会の授業でそう言う…世界史でそう言うのを教えてもらって…そこで私たちは「こう言う風に馴染めないなら自分たちで一つになって団体を作ろう」って話になったんです。私がけしかけたんじゃないです。みんなでそう言う風にしようってなったんです。

そこは本当です。


■その話を今まで誰かにしたことあるか?


○いえ、これが初めてです。


■なんでだよ。ほら、やっぱりだ。君は自分に責任の一端があるって言うのに気が付いているんだ。だから黙っていたんだろう?中学生って言ってもそれなりの考え方とかあるもんな。世間がどう言う風に感じるのかもわかっていただろう。その上でお前は黙ったんだな?それで俺達みたいな無関係な人間が責められたんだな?姉さんの家庭が崩壊してどこかに引っ越した。今までの生活が全部なくなった。それをつくったのはお前なんだな?違う?違うもんか。少し黙ってろよ。ほら、コーヒー飲めよ。おかわりもあるし紅茶もある。お茶請けか!そうか、お茶請け忘れてたな。悪かった。本当に悪かった。ほら、アルフォートとホワイトロリータがあるけどどっちが良い?どっちも食べるか?食えよ。用意したんだから。それに時間もたっぷりあるんだからよ。

お前本当に殺したいなあ。結局言い逃れしようとしているけど、悪いのはお前じゃないか。お前がうどんだかウドルだかわかんねえけど作ったんだな?違う?お前さっき言ったじぇねえか!お前達が一緒になって作ったって言ったじぇねえか!!じゃあそれはお前が作ったってことなんだよ!お前が「やめとこう」って言っていたらこんな事にならなかっただろうが!わかってるのか!?ほら、食え。飲め。ゆっくりしろ。お前そこまでわかっていて自分は何もしてないって思っていたのか?冗談はほどほどにしろよ。殺すからね。あなたを殺そうと思っています。冗談だよ、真に受けるなよ。そうだ、思い出した。「冗談だよ」って言葉な、あれ大嫌いなんだよ。何回も聞いてきた。それで俺が何か言い返そうとしたらそう言うんだよ。冗談って判断するのはこっちだよな。言われた方が判断するんだよな。お前はどう思う?冗談と思ってるよな?おい。冗談って分かってるよな。なんだよ。笑えよ。笑ってみろよ。お前もずっとずっと笑ったきたんだろうがよ。今日だけ、今だけ我慢するってずるいぞ?なあ。男らしくないよな。男ってそう言うのじゃないよな。


○本当にこんな事になるなんて…でも、私はすぐに抜けました。抜けてから事件が起こりました。色々と彼が…匂わすようなことを言っていたりもしました…でも…言えないじゃないですか。まさか…友達と言うか…同じ学校の人間がそんな事するなんて誰も想像できないじゃないですか…私も苦しんできました。

だから…このインタビューを通して…自分の中で納得したいんです!


■納得?


○はい。納得です…


■納得してどうなるんだ?何か変わるのか?俺が納得したら何か変わるか?その納得って言うのは自分が安全な位置に立っているってことの確認じゃないのか?確認してもう一度笑いたいんだろう?


○違います。田中はあんな事する奴じゃなかったはずなんです。じゃあなんでああなったのか?私はそれを知りたいんです。確かに馬鹿なことをしました。今思うと集団催眠みたいな物だったと思うんです。だからもう一度、もう一度向き合いたいんです。向き合って…この事件はなんだったのかを知りたいんです。


■知れば殺された人たちが生き返ったり俺達が救われたりするのか?


○それは…


■知って納得したら何が起こるんだ?何か変わるか?お前が救われたいだけだろうが。


○………


■そうやって現実から目を背け続けるのか?それで生きていけるならそうしたいよ。でも、何人も人が死んだ。それもあんな殺され方だ。その最初のきっかけだったお前が逃げてどうするんだ?

俺は、俺達は逃げられないんだよ。もうずっと居なきゃならない。それが何よりも辛いし苦しいんだ。そのまま俺達は死ぬまで生き続けなきゃいけないんだ。その辛さがお前にわかるか?


○………


■これまでもそうやって黙ってきたんだろうな。わかるよ。人間って言うのはそうだ。黙るんだ。黙っちまうんだ。姉さんもそうだった。あんなに明るくてお喋りだった姉さんが暗く無口な人になってしまった。自分の血を分けた子供があんな事したんだ。もう立ち直らない。

見た目にも少し話しても普通だよ。でもあの事件を思い出させるようなことが一つ起こったら泣くんだよ。まだ泣くんだよ。遺族は俺達を恨んでるだろうよ。ずっとずっとずっと恨むだろうな。遺族には兄弟が居た方もいるんだっけ?だったらその兄弟も俺達を恨み続けるよ。それでその兄弟が結婚して家族がいたら、知るよな?何かのきっかけで。じゃあ恨むよな?俺達のことを。子供がいれば子供も俺達を恨む。なあ、納得して何になる?

もう俺達は一生誰かから恨まれるんだ。それを止める事なんてできないんだ。

お前もだ。お前も恨まれ続けるんだ。一生だ。


○………


■コーヒー飲めよ。折角淹れたんだ。それで…


○はい…?


■なんであんな事をはじめたんだ。嘘はやめような。


○……多分…多くの事がそうだと思うのですが…なんとなくです…そうなってしまってから事の大きさに気が付きました。最初は…何となくです…


■そうか…そうだろうと思った。わかった。もうわかった。そんな事に俺達は縛られているんだな。そうなんだ。辛いな。もっと何かあって欲しかった。何か大きな何かがあって欲しかったよ…でも…まあ、そんなものなんだろうな。君に強い言葉を何度も言った…それで何か…俺も納得しようとしていたのかも知れない。何となくか…何となく…


○本当にただ…ただのゴッコ遊びだったんです。その時も彼はただ…普通に大人しく…ニコニコしながら付いてきて、それでたまに冗談も言うし…本当に普通だったんです。ニュースや新聞に出てたルールなんてなかったはずです。当時の仲間とは連絡が取れないのですが…それだけはわかります。絶対にあんなルールは無かったはずです。だから私も不思議なんです。


■君はなんであのグループ?グループ…から抜けたんだ?


○高校受験の勉強を早めに始めたので…それで彼等といる時間が取れなくなってきて…


■なるほど。そうなのか…今の話に嘘は無いな?だったら…本当にすまなかった。強く言うべきでは無かったな。


○いえ、私がこう言う風にインタビューを行うという事は…そういうこともあると思っています。それに…おっしゃられたように責任の一端は私にもあると思うんです。だから…だからなんとかして少しでも知ることができればと思っているんです。本当に…何か…ご身内の方に聞くのは申し訳ないですが…何か…彼に感じた事とかありませんでした?


■俺も色々と本を読んだりして調べたんだ。ああ言う事件を起こす人間って言うのは性的な虐待を受けていたり、昔から動物を殺したりとかしているらしいな。でも、そんなのは一切無かったな。いや…本当にそこまで多く会ってこなかったから…それも正しいのかどうかはわからない…ただ、距離の遠い親戚として見てきただけだが…本当に何もなかったんだ。

小さい時、虫の標本をあげた記憶もある。蝶やかぶと虫とかが…標本になっているセットを…もしかしたらそれが原因なのかと考えた事もあるが…姉さんが引っ越すときに色々と手伝ったんだが…物置から埃をかぶった状態で出てきたよ。多分…そう言うのは…ないんだろうな。

あの子の部屋は警察が証拠として殆どの物を持っていったから何も無かったよ。ポスターとか貼ってった跡だけが残っていた。それにそのポスターも海外…ヨーロッパの風景とかサッカー選手とかそう言う一般的な物だったよ。そこから何かが繋がると言う事も無いはずだ。


○私もそう聞いています。彼は普通にサッカーとか…漫画とか…一般的だったんです。本当にただただ一般的で…人並みに学校の誰々が気になっているとか…普通の中学生らしい感じだったんです。普通だったんです。なぜそこから逸脱してしまったのかを探しているんです。何がきっかけだったのかを。


■じゃあ…順を追ってあの子の事を思い出していってみるか…なんだろうな。なんで俺は君に協力しているんだろうな。…いや、理由は分かっている。俺も知りたいんだろうな。

知る事で変わるって訳でもないけど…知る事で少しでも救われるって思っているんだろうな。解決なんてしてないんだよな。くすぶってる。いや、燃えている。俺達の中ではずっとずっと燃えているんだよな。

多分、心って思っているより広いんだよ。そこに火が投げ入れられたらどんな形になっても燃え広がり続けるんだ。その速度は一定じゃないし、たまに消える直前まで小さくなる。でも決して消える事は無いんだよ。君も…そんな感じか?


○そう言われたら…そんな感じかもしれないですね…正直…あんまり知らなかったって事に気が付いたんです。彼が子供の時とか…もしかしたら何かトラウマがあるんじゃないのかとか…でも何も見えてこないんです。


■俺も同じだよ。あの子が学校で、君たちが作った集まりで何か変わったのかと思っていたんだ。それで今回もこうやって会っている。

結局何も辿り着けないかもしれないが…それでも…少しでも…今までにない事を続けていけるのなら…何か変わるかもしれないな…そうなると…あの子の小学校時代の友達とか知っているか?何か知ってるだろ。同じ中学校だったんだから。


○それが…何人かにもインタビューを申し込みましたけど…私たちの世代の人間ってかなり街を出ていて…お話しの中にあった通りだと思うんです。この街を…みんな離れていくんです。その人たちの親とかも…やはりこの話だと感づくと何も言わなくなります。それに昔、取材が多かったせいで…凄く警戒しているんです。


■なるほどな。なるほど…なあ、俺も色々と…色々と探ってみる。だからまた会えないか?お互いに情報を集めてまた話そう。そうしたら…今と違う視点で話せると思うんだ。なあ、今日はちょっと…高ぶってしまって悪かった。それは謝る。だけど君と話していて俺もわかったんだ。俺も納得したいんだ。協力してくれないか?


○はい。もちろんです。また連絡します。


■また燃え広がってきている。それを感じる。そう感じる時はいつも世界にもやがかかって見えるんだ。


○あの…とりあえず…今日の最後に一ついいですか?彼は、田中君は悪かったと思いますか?


■……………悪いさ。悪い。悪いに決まっている。人を殺しただけじゃない。生きている人間を生きられなくしたんだ。良いはずないだろ?


○今日はありがとうございました。また、また必ずお話ししましょう。


■最後に、こっちも一つ良いか?


○なんでしょうか?


■嘘を吐いたらね、殺すからね。


~メモ~

殺すとか言われた時はマジヤバイと思った。キチガイじゃないかと思ったが意外と話しができた。

結局は普通?彼は普通。事件後遺族は怒り、親族は悲しんだ。それが長い時間をかけると逆転していく。今は遺族は悲しみの海に沈み、親族は怒りに打ち震えている。これは対象がいるのかいないのかの違いなのか?

遺族は対象が消えてしまっている。だからこそ怒りのエネルギーは持続できない。悲しみに沈む。しかし親族は?彼は今やどこにいるのかもわからない。しかし確実にいるのだ。いる。もしかしたらまた事件を起こすかもしれない。事件が起きたらまたあの時みたいに囲まれる。晒される。それに対しての恐怖?恐怖を怒りで?

何にしても私も色々と探らないといけない。多分、何も見つからない、何も話を用意できないとなったら北山は私を殺すかもしれない。あの人はもう常軌を逸している。ぎりぎりの理性でつながれた狂獣だ。しかしあの人を作り出したのは彼だ。

姉さん、彼のお母さん、あの人のお姉さん。大切に考えいる。少し異常?いや、親族が追い詰められていく様を見つめ続けて、さらにあの街にまだ住んでいる以上はまだ好奇の目に晒されている。

事件?連鎖?違う。結局は一つの事件がいくつもの事件を連鎖してあらゆる所に爆弾が仕込まれていく。その仕込まれた爆弾は新たな事件と言う火種によって大きな音を立てて爆発する。

跡形もなく吹き飛ばしてくれるならまだありがたい。しかしそんな事もできず適度な爆発で大怪我でまた生き延びてしまう。結局は生き延びてしまう。

生きている事の後悔。生きることの絶望?絶望から這い上がるための提案?一緒に事件を掘り下げる。距離は遠いとはいえ親戚だ。武器として持っているのは良いかもしれない。しかし、ちょっとヤバイ系だ。ああ言う人とも少し話を聞いてきたが、あそこまでキテるのは初めてだ。

なんであんなにコーヒー飲ませようとするんだよ。飲めるかよ。マジで。話の合間合間にコーヒーを勧めてくる。コーヒーの味がしなかった。

殺意、殺意を体に感じると視界が強化されてそれ以外が鈍化する。それは人間として、生命としての反応なのだろうか?何かが起きた時に対応するための反応?それとも諦め?蛇に睨まれた蛙。蛇は誰だ?一番の蛇は?そそのかした蛇は居たのか?蛇は…結局ウドルカルマは私と田中と森の三人で作ったちょっとしたゴッコ遊びだった。

森がそそのかしたのか?でもそれはわからない。どうしたら良いのか?恐山にでも行けばわかるのか?何か少しでも答えに近づけるパーツを探したい。次にインタビューをする人にも中々会いたくない。しかし何も無かったら殺される。適当に嘘をつこうにもバレる気がする。

ああ言う狂った人間は鋭い。疑念の中で十年以上世間を見てきた人間だ。もしかしたら何か手がかりを、新しい何かを見つけられるかもしれない。

とりあえず怖かった。本当に怖かった。ラーメン食って帰ろう。

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