第10話・・銀色の猫
「いやぁ~カレーライス、おいしかったね~」
祚流が、呟く。
「ホントだぜ、マジで美味かった・・・もう死んでもいいくらいだな」
幸がお腹を摩りながら、呟く。
切那達はみんなで、カレーライスを食べた。もちろん凛と切那が作ったカレーライスだ、特に何も変わった様子もなく、普通のカレーライスだった、何か変なモノが入っていたとか、妙に鉄の味がしたとか、そう言う事も無く、本当にどこにでもある、家庭の美味しいカレーライス、だった・・切那も暴走することは無く、手順通りにカレーライスを作れたみたいだ。
おもむろに凛が、
「そう言えば、お父さんと一緒に晩御飯食べたのって、結構久し振りだよね?」
「・・ん?そうか?・・」
「ああ、そうだよ、多分一週間ぶり位かな」
幸がお茶を啜りながら、付け加える。
「んん?・・そうかな・・昨日一緒に食った気がするけど・・」
「またまた、昨日は用事で俺達この家には居なかったぜ・・なぁリン?」
「うん、何か、お払いの仕事で相談者の人の家に泊まり込んだんだよ?それに、お母さんだって、今日、演奏活動から帰って来たばっかりなんだから」
・・ちなみに、冥雲月は、世界的にも有名な、ピアニストである。一旦は、その世界から身を引いていたらしいが凛達が、高校生になったので、ごく最近復帰したらしい。
「・・俺は・・ココに居たけど・・じゃあ、誰と食ってたんだ?」
幸と凛は笑いながら、
「またまたぁ~、オヤジぃ、それはきっと寝ぼけてたんだよ?」
「またまたぁ~、お父さん、それはきっと寝ぼけてたんだって」
「ん~そうか・・多分・・そうだな・・」
そんな会話をしながら、笑っている三人。
祚流が切那の方を向き、こっそりと、
「いや、絶対何か居たんだよ・・きっと~」
声が少し震えていた・・。
「・・さぁ?」
・・何とも答え難い・・冗談なのか、そうじゃないのか・・。
切那はチラリと月の顔を見たが、優しく微笑んでいるだけで、やっぱりどちらなのか分からない・・。
・・それはそうと、今日は何事もなく本当に、よかった・・無事に包丁を握るることが出来て・・凛に何回も助けてもらった・・
そう思いながら切那は自分の両手を見る・・指を包丁で誤って切りかけてしまった時の傷が、沢山ある・・バンソウコウを凛が貼ってくれた。
・・痛かったけど、でもなんだか、少し嬉しいかも・・・もっと頑張って、お父さんを手伝えるようになりたいな・・。
・・あ。
そう言えば、一つヤラカシテしまった事があった・・カレーライスの皿を戸棚から出そうとしたのだが、過って幸がずっと使っていたと言う、湯呑を落とし割ってしまったのだ・・ちょうどその時に、幸が台所に入って来たので、思わず酷いこと言ったような気がする・・凛は大丈夫だと言ってくれたけど後でちゃんと謝っておこう・・湯呑はお父さんに直してもらおうと思う。
ふと窓の外を見ると、満月が出ていた・・さっき、カレーを作っている時に雨が降っていたが、もう止んでいるようだった。
※
切那達はそれぞれ、お風呂に入り、少し大きめの部屋で勉強をする事にした。
「セツナ、そう言えば・・勉強道具とかって持ってきた?」
「・・持ってきてない・・」
「しょうがないなぁ~、ほら、私の教科書貸したげるよ?」
そう言うと、凛が英語の教科書を貸してくれた。
「・・ありがとう」
「いいって、いいって、その代り・・後で、数学教えて?」
「うん」
「助かるわ~、やっぱり、セツナと勉強するっていいね?」
「・・うん」
・・祚流たちは、大丈夫かな?
切那は少しだけ顔を動かし、祚流たちの方を向く・・。
「だから、そうじゃねぇって、ここは、この公式を使うんだろうが!」
「ご、ごめん・・数学良く分からないんだよね・・・」
「いや、すまん、少し言い過ぎた・・じゃぁ、もう一回この問題を解いてみな?」
「うん!頑張るよ」
・・なんとか・・やっているようだ・・今度のテストは、確か一週間後だったような気がする・・私はそんなにテスト勉強をしなくても、それなりにいい点数を取っている・・と思う・・授業をちゃんと聞いていれば、焦ってテスト勉強をしなくても大丈夫だ、流石に、全く勉強をしていなかったら、酷い点数になると思うけれど(予習と復習は、毎日している。)この一七年間、テストで困ったことは無い。
・・自分で言うのもなんだが、それなりに努力はしていると言う事だ・・
テストだとか、模試だとか、高校生になると偏差値と言うのが自分の人生とやらに関わってくる・・この偏差値を見て自分がどこの大学に行けるのかという目安にするのだそうだ・・それが全部悪いとは思わないが、点数で紙に書かれている数字だけで、その人を判断すると言うのは、少し疑問に思ったりした時もあった・・が、一人一人の性格やらを一々確認するわけにもいかないので一番手っ取り早い方法なのだろう・・一応ルールはルール・・数字何かで自分の価値を決められてたまるかと、反抗したところで、何も変わらない、出来もしないことを考えても、意味が無い。学生の仕事は、勉強だ・・何かと言い訳をつけては、勉強しないと言うのも悪くはないが、この制度が変わらなければ、勉強をしていない分、損をしてしまうのではないだろうか。もちろん、勉強以外にも大切なもが、沢山あるが・・・。
・・・もう、そこは何と言うか・・割り切ってするしかないのだ・・・
そう言う風に世界が出来ているのだから・・・諦めるしかない・・むしろ勉強は楽しいと思えるように、学校側がもっと工夫をしてくれたり、応用と標準のクラスを別けずに同じ内容を学べるようにして、あからさまな差をつけないようにするとか、希望者だけもっと難しいことを学べるようにするとか・・
・・あ、
それじゃぁ・・同じ事かも・・
・・それとも・・全員でストライキを起こすとか・・・昔の人たちは団結して様々な障害に立ち向かった、といつかの本で読んだ気がする・・私的にはこっちがいい・・ただ今はもう、そう言う事をする学生は居ないのではないだろうか・・結局何をしたって、何も変わらない、そう考えている、それが大多数なのだろう・・
とにかく、もっと前向きに考えていけば、今と違ってくるのではないのか?
人の価値なんて・・誰が決めるものでもないのだけれど・・・
一番いいのは、自分の思ったように進めばいい、私はそう思う。
・・この世界で・・
・・特に進路なんかは・・
・・選ぶのは自分、他の誰でもなく、
自分なのだ。
自分の運命は、自分で決める・・
まぁ、その進むべき道が分からなければ、別に焦ることは無いのだけれど、家族でも、友達でも、先生にでも、訊ねてみるといい・・もしかしたら、心のモヤモヤが晴れるかも、しれない。
一体・・自分は何がしたいのか・・どんな事を学びたいのか・・夢を持つこと、目標を持つこと・・これは重要な事だと思う。自分が入れそうな大学を見つけて、とりあえず、この大学に行こうとかそう言うのは、時間とお金の無駄だ・・。
短大でも、専門学校でも同じことが言える。別に、就職して働いてもいいと思う・・それが自分の選んだことなら・・・一番良くないのは、何もしないうちから諦めてしまい、何もしない・・これは良くない、(別に全否定するわけではないが・・。)だって今、養ってもらっているからいいけど、家族だとかは、いつの日かこの世から居なくなってしまうのだから、生きるためには、何かを食べなければいけない。その食べ物は、買わないといけない、食べ物を買うには、お金が必要だ、お金は宝くじでも当たらなければ、増えることはないし、手に入らない。お金を手に入れるためには、働くしかないのだ・・何かしらの行動をしなければどうにもならない。お父さんは、仕事は楽しいって言ってたけど・・。
まぁ・・
別に今は、そんな事は考えなくていいと思うけれど・・
・・私は・・どうしようかな?・・・
「ちょっと!セツナ、どうしたの?ボーっとしちゃって」
「・・ん?あ、ごめん」
「いやいや、誤らなくていいよ、どうしたの?何か考え事でも?」
「・・ちょっと・・ね・・でも大丈夫」
「ふ~ん、そう、ならいいけど」
切那達は、その後三時間ほど勉強をして、今時刻は、午前二時を回ったところだ。
「ふわぁぁぁ、もう寝るか・・なぁ・・ソル?」
幸が祚流に話しかける。
「・・・・・」
「ん?おい、どうしたんだ?」
幸が祚流の方を向くと、祚流の頭が、船を漕いでいた・・
・・コックリ、コックリ、
「な~、リン・・」
「えっ、なによ?」
「もう、ソルがギブっぽいんだけど・・俺も眠いし、今日はこのくらいにしとくかねぇ?」
「う~ん、そうね・・もうこんな時間だし・・・セツナ、それでいい?」
「・・うん・・いいよ」
「じゃぁ、俺はソルを運ぶわ・・起こすのも、あれだしな・・ソルにしては今日、頑張った方だよ・・多分」
「そうね~、頑張ったほうかも・・私たちも部屋に戻ろうか?」
「・・うん・・みんなも、頑張ったと思う・・」
「そうだね~・・・?・・・え、ちょ、もう一回言って!」
「・・なんでもない」
「あ、冗談だよ、じょ・う・だ・ん・テヘっ☆」
「おい、気持ち悪い笑い方するなよ・・」
「あん?誰が気持ち悪いのよ!」
「・・お前だよ!」
「うっさいわね~、細かい事は気にするなっての、男でしょ?」
「いや、男は関係ないだろ?」
凛が、溜息を吐きながら、
「もう、いいや、面倒くさいし・・眠いから・・続きはまた今度」
「お、おう・・よし・・ソルを運ぶとするか・・」
・・若干・・二人のテンションがおかしいと思ったのは、私だけ?・・
その後は、幸が祚流をおんぶして、幸の部屋へと向かい、凛と刹那も部屋に戻ったのだった。
※
時刻は今、午前二時を過ぎたところ・・・切那は、何かの気配を感じて、そっと布団から起きていた・・・。
・・眠い・・・じゃなくて・・何かの気配がするような・・・・気のせいかな?
まぁ確かにこの家は、何か居てもおかしくない・・幽霊とか・・それは嫌だ・・正直なところお化けだとか、幽霊だとか、妖怪だとか、全く信じてないけど・・それでもやっぱり・・怖いです・・・苦手です・・・・
とにかく、どんな人にも苦手なものがあると言う事だ。
それにしても、やっぱり幽霊っているのかな?・・居ないでいて欲しいけど凛達の仕事は、幽霊関係らしいし・・・よく分からない・・。
切那は何気なく窓の外を見てみた・・月が出ている・・。
・・月が綺麗だ・・・ん?・・何か今、居たような・・・。
切那は、窓に近づいてよく眼を凝らし、外を見る・・何も居ない・・。
「・・気のせい?」
少しほっと、胸をなでおろし切那は布団に戻ろうとした・・とその時何かが心に引っかかった・・。
・・あれ?・・庭に木なんて生えてたっけ・・?
・・いや・・昼間そんなものは無かったはず・・・
・・じゃあ、さっき庭にあった木の影みたいなのは・・一体・・?
すると、突然後ろから声をかけられた・・
「セツナ、何か外に居るわよ!」
白銀がさっきまで切那の居た窓の淵の所に、立っていた。
「・・白銀・・来てたの?」
「・・まぁね、・・それより、外を見てみて」
「?」
・・特に何も・・変わって・・・ない・・。
・・いや・・
「・・あ、影が無くなってる?」
「そう、さっきあんたが、木だと思ったのは、恐らく奴らねぇ」
一気に切那の周りの空気が、張り詰める。
「どのくらい、いるの?」
「・・そうねぇ・・多分一人だと思うけど、油断は禁物よ」
「分かった」
切那は、パジャマのまま、そっと、凛の部屋から出た、流石に靴は履いた。
外は、雨上がり独特の匂いがした。
庭に出て辺りを見渡す・・・月明かりで、地面に敷かれている、白い石が、青白く輝いている・・。
切那の額から、汗が一筋流れる・・・
「・・私に用?」
「ちょっとぉ、セツナ!何、いきなり相手を挑発してるのよ!」
「・・私に用なのかなと、思って・・」
「いや・・多分そうなんだろうけれど・・」
するとどこからともなく、声が返ってきた。
「へぇ~、よく俺が居るって分かったな~・・まぁ、いつまでも俺に気が付きそうで無かったら、こっちから姿を見せようとしたんだけどな・・」
切那は一気に、戦闘モードに入る・・前髪を横にかきわけ、髪留めでとめ、左眼を全開にする・・月明かりでも、左眼は、金色に怪しく、青白く、力強く、煌めいていた。
「白銀!」
「待ってましたぁ~!」
そう言うと白銀が眩い光を放ち、刀の形になった。それを切那が掴む。
「誰?」
どこからともなく、声が聞こえてくる・・。
「・・まぁ、そうだな・・俺の名前はカゲロウ・・別に覚えなくてもいいぜ?」
「・・・・・」
切那は、辺りに眼を凝らす・・・。声は後ろからなのか、前からなのか、右か左か、上から下から・・全方位から聞こえてくる・・
「まっ、そんなに睨むなよ・・別に殺しに来たって訳じゃぁ無いんだ」
「・・じゃぁ、何の為に?」
「はは、こっちにも色々あるのさ・・でも何もしないって訳じゃあ無い。お前がどれほどの力を持っているのか、試させてもらうぜ!」
切那の後ろで、砂利を踏む音がした。その方向を振り向く・・そこには、マントを被った、恐らくアンドロイドの敵が立っていた・・・体格は細めだ、両手に細くて長い刃のついた、忍者が付けていそうな鉤爪を、カチャ、カチャと鳴らしている・・よく見たら、五本の指に刃が付いていて、長い爪のようにも見える。その刃が月明かりで、怪しく、鈍く光る・・・。
・・何だか・・またヤバそうなのが出てきた・・今度のカゲロウとか言う奴は、いったい・・どんな力を持っているのだろう・・ミカヅキのように速いのだろうか・・それとも物凄いパワーを持っているのかも・・油断は禁物だ・・。
「まぁ、お前じゃ、俺には勝てないと思うけどな?」
・・相手が挑発してきている・・焦っては駄目だ・・
「・・やってみなきゃ・・分からない!」
「はっ、そうかよ、せいぜい、すぐに倒れないように頑張れよ?じゃなきゃ・・退屈だからな・・来た意味がないぜ」
切那は、七支刀の柄を握り直す・・どちらも全く動く気配がない・・。
「なんだ?・・向って来ないのか・・なら、俺からいくぜ!」
そう言うとカゲロウが、真正面から地面を蹴りながら突っ込んで来た!
切那は、カゲロウの動きをしっかりと眼で追っていた。
爪で切りかかってくるが、切那は、その攻撃をかわした。
「ふん、なかなかやるねぇ?」
「・・!」
ずっと眼で追っていたのだが、突然、カゲロウの姿が消えてしまった。消えたと思った瞬間、左腕に鋭い痛みが走る。
「・・痛っ・・!」
(ちょっと、切那!大丈夫?)
頭の中で、白銀の声が聞こえてきた・・正直かなり痛い・・
・・それよりも、カゲロウの姿が見えなかった・・ちゃんと眼で、気配で追っていたのに・・そこに居るのに、見えなかったとでも・・自分が認識出来ていなかった?・・でもそんな筈は・・私の左眼は、少し先の未来を予測することが出来る・・(最近分かった事だ。)来ると分かっていたのに・・攻撃が当たるなんて・・どういう事なんだろう・・・ミカヅキのように動きが速いと言う訳ではない・・・攻撃は確かに
・・ん?・・あれ?・・左腕が動かない・・
左腕を動かそうとするのだが、力が入らない。
その事に気がついたのか、カゲロウが、
「やっと気がついたか・・今、お前の左腕の上腕二頭筋の筋を、切ったんだよ。それから念のため、そこから麻痺するように毒も入れておいた」
「・・そん、な・・」
・・くっ、確かに体の左半分が、どんどん感覚がなくなってきてる・・念のためって・どれだけ、用心深いんだ・・コイツは・・
「なんだ?・・もう終わりかよ・・一撃で終わりか・・・つまらねぇな?」
「・・ま、まだやれる・・」
カゲロウは首を傾げる。
「でも、体半分動かないだろ?」
「・・攻撃は、躱した・・筈」
「ああ、確かに躱したが、それは左の爪だ、右は躱してない・・」
・・じゃぁ、二撃では、無いのだろうか?・・・まぁ、そこはどうでもいい、問題なのは・・・
「・・で、でも攻撃は左側だけだった・・」
「いや、右も攻撃していた・・なぜ攻撃が当たったのかって言うとな・・俺は人の盲点に入れるんだよ・・死角って奴?簡単に言うと、視界から一瞬だけ消えることが出来るんだ・・だから、いつ攻撃されて、なぜ自分がやられているのか、分からないまま敵を葬ることが出来る。まぁ、ここまで親切な敵はいないと思うぜ?ここまで俺の能力を詳しくしゃべるなんて・・別に喋ったって、対処の仕様がないから、教えただけだけれどな?」
・・完全にナメラレテいる・・・少し腹が立つな・・・コイツ・・・でもそんな奴とどうやって、戦えばいいのだろう・・本当に殺されてしまう・・というか、体の半分が動かない・・
(セツナ!・・女の子が、コイツとか言っちゃぁ駄目よ?)
白銀の声が頭の中に響く・・・
・・ごめん・・つい・・・
カゲロウは、空を見上げながら、
「しかし、ゼロ様も何でこんな奴を、始末しないんだろうねぇ?こんなに弱いのに・・ミカヅキもどうして、こんな小娘にやられたんだろ・・」
・・でも、独り言・・多いな・・だんだん意識が薄れてきた・・
「実際のところ、俺は、暗殺専門だからなぁ・・姿は普通見せないんだけれども・・どうやら、力を出し切る前に小娘、ゲームオーバーっぽいから仕方ないか、ここらで、ひと思いに殺してしまおうかな、いや、待てよ・・言いつけを破ると後がゼロ様・・怖いからな・・何されるか分かったもんじゃないしな・・そうだな・・う~ん・・半殺しでいいかな、殺すわけじゃないし・・いっそのこと生け捕りにしてお土産として、ゼロ様に献上するか・・よし!そうしよう」
雲が流れ、隠れていた月が、お寺の庭を照らす・・・。
そして唐突に、
「ちょっと、アンタさぁ・・喋りすぎなのよ・・少しは黙ったらぁ?」
カゲロウが声のした方を向くと、そこには銀色の長い髪を赤い紐でツインテールに縛った、少女が立っていた・・眼の色が両方金色だ・・。右眼の方はまるで獣の眼だった・・そう・・猫のような・・・。
「・・ん?・・誰だ?さっきのゲームーオーバーしかけの、小娘?」
「あははっ、そうだけどぉ?」
「それにしては、感じが違うな・・まるで別人だ・・」
カゲロウが、半歩後ろに下がる。
「紹介が遅れたわねぇ?・・あたしの名前は、セツナ、よく覚えときなさい」
そう言うと、切那(?)は左手を腰に当て、右手で刀を持ち、その切っ先をカゲロウに向けた。
そして、見下すように、
「あんたこそ、あたしに勝てるかしらぁ?・・お喋りさん?」
そう言うと、切那(?)は怪しい笑みを浮かべた・・・。
※
場所が少し移り、ここは切那がさっき寝ていた部屋・・凛の部屋だ・・凛はと言うと・・豪快に、お臍を出して寝ていた・・。
「・・ぐ~うぅぅぅぅぅっ、ぐう~うう・・むにゃ・・セツナぁ・・結婚しよう・・いやだなぁ・・冗談だよ~・・・じょうだん・・・」
すると突然蒲団が上に跳ね上がり、凛が体を起こしたみたいだ・・辺りを見回す凛・・寝ぼけているが。
「・・・あれ?・・・セツナ・・・居ない・・・ん~ん、トイレかな?」
『バタンっ』と布団に倒れる凛・・またすぐに夢の世界に入ったようだ・・。
「・・ぐぅ~・・セツナぁ・・・無理はしないで・・・私たちが・・・・いるから・・・だい・・じょう・・ぶ・・むにゃ」
※
「どういう事だ?・・今はもう、俺の毒で全身痺れて動けないはずなのに・・」
切那(?)がフフンっと笑いながら、
「さぁて、どういう事でしょう?・・あたしは秘密主義だから、そんなに自分の能力を教えたりはしないわぁ」
「・・まぁ、どうでもいいか、俺もすぐに終わったんじゃ、退屈してたところだし・・戦いの続きとするか!」
そう言うと、カゲロウが、突っ込んできた!
「同じ手は、二度と通用しないわ!」
切那(?)がそう叫ぶと、七支刀の形が、七つの切っ先にわかれ、誰もが見たことのある伝説の七支刀の形になった。切那(?)が七支刀を構える。
「無駄だ!俺の攻撃を避けることは出来ない!」
「あははっ、誰があんたの攻撃を避けるのよ!あんたが攻撃する前にこっちの攻撃を当てやる!」
「何っ!」
切那(?)が地面を踏みこむ、それと同時に、砂埃が舞い上がり、物凄いスピードで切那(?)が切りかかる!カゲロウは咄嗟に十本の爪で切那(?)の斬撃を防ぐ・・刃と刃がぶつかり合い、火花が散る。すかさず切那(?)が低くしゃがみ込みカゲロウの腹に上段蹴りを喰らわせる・・
『バキッ!』
嫌な音がした・・。
「ぐはぁっ!」
カゲロウが後ろに飛ばされる・・。そして後ろの壁に激突した。カゲロウが少し壁にめり込んでいる・・。
「あはは、そんなんで、よく、あたしを生け捕りにするとか言ってたわねぇ?全く笑わせないでよぉ?あはははははははははは!」
と言いながら、カゲロウにゆっくりと近づいていき、切那(?)が七支刀の切っ先をカゲロウの顔面に向ける。
「これで、もう、終わり、なのかしらぁ?」
「・・おいおい、どんな、化け物だよ・・一応俺、人間じゃないんだけど・・蹴り一発で体が動かねぇなんて・・ミカヅキがやられたのも・・納得したぜ・・やべぇな・・ここでやられたら・・ゼロ様に何をされるかわからねぇぞ・・流石に殺さねぇように手加減してるのに・・これじゃぁ・・・俺、雑魚キャラじゃねぇか・・まぁ・・実際のところ・・そんな所か」
切那(?)が不機嫌そうな顔をして、
「ねぇ・・いつまで喋ってるのよ・・そんなにヤラレたいの?」
「おいおい、そんな事言ってるけれど、お前もそろそろ限界なんじゃないのか?肩で息してるぜ?・・やっぱり、無理してたのかよ・・だって、普通の人間だったらとうの昔に、くたばってるぜ?それにさっきの斬撃の時に、右足のアキレス腱を切ってたんだけどな・・なんで立っていられるんだ?」
切那(?)は、かなりきつそうだ。
「・・はぁ、はぁ、・・さっきも言ったけど・・あたしは秘密主義なの!そう簡単にペラペラ、喋ったりなんかしないんだから・・」
「まぁ、これで俺もゼロ様にお叱りを受けることはなさそうだな、まさか、戦闘になると、性格が豹変するなんて、おまけに、パワーとスピードも上がり挙句のはてに、口も悪くなるなんてな・・まだ、なんかありそうだが、今回はここらで引かせてもらうとするぜ、今度会ったときは、最初から全力でヤルからな、覚悟しとけよ!」
「あはは、あんた、この状況でよくそんな、捨て台詞を吐けるわねぇ?どう見たって逃げられないでしょ?」
「はっ、そこんとこ、お構いなく」
切那(?)が瞬きをしたその一瞬、
「?」
突然目の前から、カゲロウが消えてしまった。声だけが聞こえてくる。
「また、会おうな・・今度会うときは、手加減しないぜ?・・今回は、俺の負けだな・・じゃぁ、それまで死なないように気をつけろ・・」
「あんたに、言われなくったって、分かってるわよ!」
切那(?)は虚空に向かって叫んだのだった。
「しかし、流石に、疲れちゃったわねぇ・・・・あたしも限界みたい・・セツナ・・ごめん・・パジャマが・・泥だらけになっちゃったわぁ・・」
そう言うと切那(?)はその場に倒れ意識を失った・・。
※
・・鳥のさえずる声が聞こえてくる・・・どうやら、朝みたいだ・・そう言えば私は昨日・・(厳密に言えば今日だが・・細かい事は気にしない・・)カゲロウとか言うアンドロイドと戦ったんだった・・・一撃で・・・いや、二撃で・・体の左半分が動かなくなって・・そこから意識が薄れて・・・薄れかけて・・・どうなったんだろう?
切那は今、広い和式の部屋の敷布団の上に居た。パジャマが別のパジャマになっていた。
・・いつの間に着替えたんだろう?・・・
・・それにしても・・
・・うん、広い部屋も悪くないな・・私の部屋と比べたら大きさが尋常ではない・・別に今の部屋が嫌いと言う訳ではない・・ただ単に、純粋に広い部屋だなぁと思っただけ・・お坊さんはいつもこんな部屋で寝ているのかな?・・そうそう経験出来ることでは無い、と言うのは確かな事だ・・
・・昨日は・・・・
・・・記憶が曖昧だ・・確か・・白銀の声が聞こえてきて・・それから・・それから、長い夢を見ていた気がする・・
※
・・くっ、このままじゃ、やられてしまう・・どうすれば・・さっきから、カゲロウは独り言をぶつぶつ、言っているけれど・・なんて言っているのかさえ良く分からなくなってきた・・・し、痺れてる・・。
(セツナ!・・ちょっとぉ、セツナ!)
・・う、白銀・・・
(大丈夫・・じゃないわね・・)
・・たぶん・・もう限界・・
(・・仕方ないわねぇ・・テンキから止められていたけど・・この場合は仕方ないわ・・セツナの命にかかわる事だから・・)
・・どうするの?・・・
(セツナ、ゆっくり心を開いて・・リラックスするのよ・・)
・・わかった・・・
(今から、あたしが、あなたの体を借りるわよ?・・ちょっと無茶だけど・・今は仕方ないわ、命に代えられるものは無いもの)
・・なんだか・・とても眠くなって・・き・・た・・
(後は、あたしに任せて!)
・・う・・ん・・・
・・お願い・・
※
それからの記憶が無い・・・私がこうしていられると言う事は、どうやら白銀がうまくやってくれた・・ようだ・・
左腕と頭に包帯が巻かれていた・・・誰かが傷の手当をしてくれたみたいだ・・なんだか・・心配を掛けてしまった・・やっぱりこのままじゃ、昨日のように倒されてしまう・・もっと強くならなければ・・
・・もっと強く・・
・・そう言えば、白銀の姿が見当たらない・・何処に行ったのだろう?
切那は部屋の中をグルリと見渡す・・軽く左腕に痛みが走る・・
・・イタっ、・・・思ったより治りが速いのかも・・普通だったら入院してもいいくらいの怪我だったんじゃないだろうか?・・こんな包帯で済まなかったと思う・・・それに右足に若干の違和感が・・
そう思って、切那は布団から右足を出してみた・・思った通り・・右足にも包帯が巻かれていた・・しかも腕よりもガッチリ巻かれている・・
・・いつの間に怪我をしたんだろう・・まぁ昨日の戦闘は途中から、意識が飛んでしまったから、仕方無いんだろうけれど・・
そんな事を考えていると、部屋の襖が開く・・開くと同時に朝日が部屋の中に入り込んできた・・月が入って来た。
「あら、もう起きても大丈夫?」
「・・はい・・」
「怪我は少し痛むと思うんだけれど・・そっちは大丈夫?」
「・・少し痛みます」
「そうよね・・よく頑張ったわ・・」
「・・・私は・・一体・・」
「そうね、まぁ、詳しい事は後にしましょう?」
「・・分かりました」
「・・でも痛かったでしょ?・・辛いときは泣いてもいいのよ?」
「・・大丈夫です・・」
切那が力無く答える。
「・・そう・・もう少しだけ我慢してね?・・今から治療をします」
そう言うと月が、胸の前に、指で三角形を作り眼を閉じた・・そして、
「ちょと、痛いかもしれないけど、我慢してね?」
そう言うとまた月が黙り、指で作った三角形に集中し始めた・・しばらくすると月の体から光のようなものが発せられ・・その光が三角形の間に集まってくる・・そしてその光が月の指から切那の体へと向かっていき、切那の体を覆いつくしてしまった。
・・何だろう・・とても温かい光だ・・心がやすら・・・イタっ!
・・いや、ちょっと・・これって・・全くきもち・・イタっ!
・・ちょ、えっ?・・普通に痛いん・・イタっ!
・・いやいやいや・・イタっ!
・・あれ?・・さっき、治療って・・言っていたような・・イタっ!
・・イタっ!!!!!
「あの、ちょっ、」
「我慢、してね?」
・・なんだか、いつもの月の笑顔なのだが・・コワイ・・
・・笑顔なのに・・コワイ・・
・・でも・・イタイ・・
・・けど、コワイ・・
・・それでも、イタイ・・
いつの間にか、切那は涙を流していた・・。
・・いやだって・・怖かったんだもん・・じゃなくて痛かったんだもん・・
・・これは、誰でも泣いてしまう、と思う・・
・・・・・数分後・・・・・
「よし、これでほとんどの傷は、完治したと思うわ・・お疲れ様」
「・・は・・はい・・ありが、とうございます・・」
切那は未だに涙眼だ・・
しかし、体の傷は治っているようだった・・普段の体とそんなに変わらない気がする。切那は、左手に巻いてある包帯を取ってみた。
「・・治ってる・・」
傷が嘘のように無くなっている、恐らく全治一か月くらいはあったと思われた傷が。
月も安心したようで、
「よかった、昨日は、ごめんなさい・・私と主人はこの寺に居なかったの・・ちょっと別の用があってね・・結界を強く張っていたんだけれど・・敵に侵入されちゃったみたいね・・でも、リン達を守ってくれてありがとう・・あなたのおかげで助かったわ」
そう言うと、月は切那の頭を撫でた。
少し恥ずかしかったが、
「・・いえ・・そんな事無いです・・それよりも・・迷惑を掛けてしまったようで・・すみません」
月が首を横に振りながら、
「ううん、そんな事無いわ・・これが私の役目なの、当然のことをしたまでよ?」
そう言うと月が、にっこりとほほ笑んだ。
・・まるで天使の頬笑みだ・・・って何を考えているんだ・・私は・・
・・でも、白銀が居なかったら、本当にどうなっていたか、分からない・・やはり本格的に、修行をやった方がいいようだ・・
・・今日から、気合いを入れて頑張ろう・・
「そろそろ、みんなを起こさないと・・朝ごはんの支度も出来てあるし、みんなで食べましょうか?」
「はい・・」
・・とても、お腹が空いた・・・
※
「えっ!嘘、昨日、セツナ、アンドロイドと戦ってたの!」
凛はとても驚いた様子で、切那に詰め寄って来た。
それを見て幸が、
「おい!、セツナさんの迷惑だろ?飯食ってるときくらい、静かにしろよな?・・ってセツナさん!大丈夫だったんですか!!」
凛が、耳を両手で塞ぎながら、
「ちょっと!うるさい!静かにしてよ!何考えてんのよ?」
「いや、お前の方が、うるさいだろ!静かにしろよな?」
いつもの口喧嘩だ、それを見かねて祚流が、
「あ、あのさ、二人とも落ち着いて?セツナちゃんは、無事だったんだし、僕たちの事を守ってくれたんだよ?それでいいじゃん。セツナちゃんありがとう」
切那が、少し祚流から目線を外し、
「・・べ、別に・・」
それを見て凛が、
「ちょっとぉぉぉ、セツナ、照れてるのぉぉぉ?」
「・・別に、て、照れてない・・」
切那は、若干顔を赤くしていた。
すると、突然凛が、刹那に抱きつき、
「あ~もうっ!かわいい!わっかた、もう、結婚しよう!」
幸が立ち上がり、
「おま、ちょっ、ななななな、何やってんだよ!離れろ!今すぐにセツナさんから離れろ!それに、お前は女だろうがぁ!」
凛が横目で幸を睨みながら、
「うっさいわね~、愛に、男も女も関係ないわよ!ねっ?セツナ?」
「・・・・」
・・なんとも、答え難い・・・
「このやろっ、おいっ、ソルも何か言えよ?」
「えっ、ええ?えっとぉぉ、・・・・・お、お幸せに?・・・」
「いや、何でだよ!何でそうなる!」
「えっ、えっと、ごめん」
「謝るな!」
「あっ、ごめん・・あっ」
幸があきれて、
「いや、もういいよ」
凛もちゃんと座り直して、
「・・全く、冗談よ、じょ・う・だ・ん」
・・いや、どうだろう・・本気だったような気がするのは、私だけだろうか?・・
すると、襖が開き凱が入って来た。
「ん、婚礼するなら、あっちの本殿使っていいぞ?」
今から、みんなで朝ごはんを食べるところだ。そしていよいよ、修行がはじまる。
瑠璃色のアルモニア 高西羽月 @tetora39
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おとうとーきんぐ/高西羽月
★0 エッセイ・ノンフィクション 連載中 9話
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