第2章

第9話・・朱色と黒色

季節はもう梅雨が明け、半袖でもいいくらいの気温になっていた、今日は凛の家に遊びに行く、約束の土曜日だ。

切那の部屋にある、目覚まし時計が八時を告げる・・・。

『ジリリッリリリリリリッリリリッリリリリリッリリリッリ!』

ベッドの蒲団がもぞもぞと、動きだし、左手が出てきて、目覚まし時計のストップボタンを押す。

・・・あれ、もう朝だ・・今日は確か、凛の家に、遊びに行く日だ・・・・それにしても、目覚まし時計のベルの音は、どうして不愉快に感じてしまうのだろう?誰かが、不愉快な音を、研究したからかな・・きっとそうだろうな・・、だって、眼が覚めないと、意味がないから・・・。

昨日のミカズキとの戦いで、受けてしまった傷はすでに完治していた、何故かというと、お父さんには、変な力があって(変て、なんだ!)、分子を操れるのだそうだ・・形があるものならば、壊したり、元に戻したりする事が出来るらしいとのこと・・・。

この力のおかげで、町の建物や、自然など、戦った後の、修復をしていたのだそうだ・・それであまり二十年前に起こった戦争のことは、ほとんどの人が知らない、という事になる。ただ、人体のことになると、話しは別で、生きているもの、いわゆる有機物は、元からある、治癒能力を高めるだけ、なのだそうだ。つくづく、生物、特に人の体は、不思議でいっぱいだ。

では、アンドロイドはどうなんだろう?人と体の作りが、同じなのだろうか・・・、ロボットらしいが、もしこれが本当だったら、人類には見当もつかない、テクノロジーだと思う。まあ、宇宙は広いから、そういう生物がいても、不思議ではないのかも・・・・。

・・・そろそろ、起きようかな・・・もう、八時だし・・・。

切那は、パジャマのまま、下の階に降りて行った、洗面所に行き顔を洗う、どうやら、誰かが起きていて、台所で朝ごはんを作っているようだ。お味噌汁の匂いがする・・。切那は、台所に向かった、

「ああ、起きたか・・おはよう・・ちょっと待ってくれ、もうすぐで朝飯が出来るぞ・・、ちょうど起こしに行こうと思ってたんだ」

天輝が、いつものエプロン姿で、朝ごはんを作っていた、

「・・おはよう・・」

そして、いつものことだろうと思いながらも、

「・・お母さんは・・?」

「ああ、お母さんな、なんか・・空手の、先生同士の集まりがあるらしくて、朝早く、ヘブンズタウンに行った」

・・そうなんだ・・少し驚いたし、少し安心したような・・・。

「・・そう・・」

「まあ、そんなに身構えなくてもよかったな・・」

「・・うん・・」

お父さんも分かっているみたいだ・・。

「それはそうと、飯が出来たぞ・・これ、そっちに運んでくれ」

「わかった」

切那は、目玉焼きとハムがのった皿を、テーブルに運んだ。美味しそうに湯気を立てている・・。

「よし、まぁ、お母さんが居ないと、ちょっとだけ、寂しい気がするけど・・食べるか」

「・・うん、いただきます」

・・お母さん、どうやって早く起きたんだろう?、やっぱり空手の事になると、気合いが違うのかも・・、それともお父さんが、必死に起こしたのかな?・・。

「おい、セツナ・・」

切那が箸を止め、天輝の顔を見る。

「・・どうしたの?」

「いや、顔に『どうやって、お母さんは早く起きたのか』って書いてあるから」

切那が少し驚いて、ほっぺたに手をやる。

「いやいや、そういう意味じゃなくて、そんな気がしただけだ」

「・・どうやって起きたの?」

「ストレートだな・・、それはな・・」

そこまで言うと、天輝の体が小刻みに震えだした・・。

それを見かねて、切那が、

「お父さん・・大丈夫?」

「あ、あぁ・・だ・・大丈夫だ・・」

・・どうやら、かなり無理をしたようだ・・・。

「・・まあ、俺が起こしたんだけど・・ほら、お母さん・・寝起きがあまりよくないだろ・・だから・・、逆にこっちが、永遠の眠りに、ついてしまんじゃねぇかと・・・ってくらい大変だった」

切那は、黙々と目玉焼きを食べている

「・・・・・」

「で、でもほら、なんとも・・ないだろ?無事に朝飯作ることができたし・・」

切那が静かな声で、

「お父さん」

「な、なんだ?」

「・・・小指が、変な方向に曲がってる・・・・」

「・・へっ?」

天輝が自分の左手の小指に目をやる・・。

「・・い、いやぁ、さっきからなんか・・・違和感があるな~って思ってたん・・・・・・って、なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

        ・・・・数分後・・・・・・

「そう言えば、セツナ、今日はガイの家に遊びに行くんだったな?」

「・・そう・・もうそろそろ、行こうと思ってる・・」

「まあ、リンとコウの親父にいろいろ聞くといいぞ・・居たらな・・」

「・・居ないの?」

「あいつはな、ふらっと、どこかに行って・・気がついたらもう、そこにいるんだ・・まるで猫みたな奴、だよ」

「そうなんだ・・」

「まあ、運が良ければ、会えると思うぞ?」

「・・うん・・」

切那は、朝食を食べ終わり、食器を流し台に置く。自分の部屋に戻り、クローゼットを開けてみる・・そんなに私服は持っていない・・一応スカートの類はあるにはあるが・・滅多に着ない・・なに着て行こうかな・・?

「あら?・・セツナ、何処かお出かけ?」

白銀だった・・しばらく見ていなかったので、

「・・白銀・・・何処に行ってたの?」

「心配かけちゃった?・・ごめんねぇ・・ちょっと放浪してたのよ・・」

「・・放浪?」

「そうよ・・猫は気まぐれって言うでしょ?」

・・刀・・だったような・・

「まぁ・・そうかな・・」

「で?どこに行くの・・散歩?」

「・・・・ソルと遊びに行く」

白銀が、ニタリと笑い、

「も・し・か・し・て・・・デート?」

切那が、少し驚いて白銀を睨む・・。

「・・ち、違う・・」

ニヤニヤ顔で、

「あれぇ?顔が赤くなってるわよぉ~」

「・・そ、そんなんじゃない・・」

切那は、少しふてくされた、顔になっている。

「またまたぁ~、ムキになっちゃって~、女の子らしいところも、あるんじゃない・・いい表情ね☆」

「だ、だからそんなんじゃ・・」

その時、切那の部屋のドアが物凄い勢いで開き、

「セツナぁぁぁぁぁ!デ、デ・・デートだとぉぉぉぉぉぉぉ!」

天輝が、今にも爆発してしまいそうな、勢いで部屋に入ってきた。

切那はまだ、下着姿だったので、近くにあった目覚まし時計を、思いきり天輝の顔に向けて投げた・・・そして、目覚まし時計は無慈悲なスピードで天輝の顔めがけ飛んでいき・・

「ギゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

           ・・・・数分経過・・・・・・

「・・・いや、まあ悪かった・・・・」

「・・・うん・・・」

天輝は、鼻にティッシュを詰めている・・・。

「ホント、酷いわぁ~~バカ!変態!死んだ目つき!」

「いや、マジで悪かっ・・・って、死んだ目つきってなんだ!」

「うるさいわねぇ!さっさと、出て行きなさいよ!」

白銀が、今にも天輝に飛び掛かりそうだ・・毛が逆立っている・・・。

「分かった、分かった・・・すぐ出て行くよ・・・」

天輝が立ち上がりドアノブに手をかける・・・。

「まあ、そんなに帰り、遅くなるなよ・・気を付けてな?」

「・・そうする・・」

そう言うと、天輝は階段を降りて行った。 後ろ姿が、何故か切ない・・・。(ほっとけ、どうせ俺は駄目な父親だよ・・・)

切那は着替えを済ませ、身支度をしている・・結局山道を登るとのことで、Gパンにしておいた。(Gパンも登りやすいかどうか、分からないが・・。)

・・何を持っていこうかな・・お父さんが買って来てくれた、ケーキは持って行くとして・・他は?・・

「白銀はどうするの?」

「どうって?」

「ついてくる?」

・・いつもついて来ているし・・・。

「・・そうね~どうしようかなぁ~二人の邪魔をしたら悪いしぃ~。」

「・・だから・・そんなんじゃ」

「あはは、冗談よぉ」

そう言うと白銀は、切那のベットの上に飛び乗った。

そして、丸くなって大きな欠伸をしながら、

「そうね~、気が向いたら、行くわぁ~、いってらっしゃ~い」

「・・分かった・・・・・行ってきます」

切那は、一応そんなに使っていない携帯電話と、お財布だけ持って行くことにした。もちろん、ケーキも。

・・そう言えば、山を登るとか言っていたような・・一体どんな所に家があるのだろう?・・まあそれはさておき・・祚流と合流しないと・・。

玄関を出て、いつもの見慣れた道を歩く・・・しばらく歩いて行くうちに堤防が見えてきた・・そこから少し道を外れて、路地に入る・・そして待ち合わせの場所が見えてきた。

・・しばらくこっちの道には来ていなかった気がする・・前に来たのは・・そうだ、小学校の頃だったはず・・・

そして切那が立ち止まった。切那の目の前には一見営業しているのかさえ怪しい、駄菓子屋さんがあった・・・。

               *

    時に、切那、小学校四年生の頃。

「ねぇ、ソル君」

切那が、祚流に話しかける、(今では、切那が話しかけることは、ほとんど無いと思われる・・)ここは『瑠璃色小学校』、切那と祚流は同じクラスだ。

「ん、どうしたの?」

授業も終わり、そろそろ下校の時間だ。祚流はランドセルに、教科書やら、筆箱やら、プリントやらを入れている最中だ。

「今度の、日曜日、遊びに来てね・・・約束・・覚えてる?」

祚流は、手を止めて、切那の方を振り向き、

「もちろん!、覚えてるよ。そうだ、あそこの駄菓子屋さんで、待ってて」

「・・駄菓子屋さん?」

「・・えっと、ほら、八百屋さんの向かい側にある、駄菓子屋さんだよ」

切那が首を傾げる・・。

「そんなお店、あったっけ?」

祚流は驚き、

「えっ、一回も行ったこと無いの?たぶん・・この学校のほとんどの人が知ってるよ・・きっと」

切那の表情が少し曇る、

「私・・あんまり、外には出ないから・・」

「そうなの?」

切那は、ゆっくりと頷く・・。

「じゃ、じゃあ、今から行こうか?」

「どこに?」

「そりゃ、その、駄菓子屋さんに、だよ」

切那の目が、思いきり見開く・・・・。

「ホント?」

「う、うん、ホントだよ?」

切那の顔に、みるみる笑顔が広がっていき、

「私と、行ってくれるの!」

「う、うん、他に誰か一緒に行きたい、子が居るとか・・?」

「いや、ソル君でいいよ」

「そ、そう」

「早く行こうよ?」

そう言うと、切那は、祚流の手を勢いよく取り、教室を飛び出した。あまりの勢いに、祚流がつんのめってしまう。

「ちょ、ちょっと、セツナちゃん!危ないよ、それに廊下は走ったらダメだよ!」

どうやら、よっぽど嬉しかったのか切那には、聞こえていないようだ。

「その、お店・・何処にあるの?」

「えっと、ほ、ほら噴水がある公園知ってる?そこから、少し行った所にね、商店街に続く道があるんだけど、その商店街に、あるんだよ」

今、切那と祚流は全速力で、階段を駆け下りている・・・。

「ふ~ん、そうなんだ・・・」

そして祚流は、思っていることを、思い切って言ってみた・・。

「もしかして・・公園・・わかる?」

切那が、一瞬だけ振り向き、

「さぁ?」

「ははは・・」

                ※

・・うわ、切那ちゃん・・走るのが、意外と速い・・

結構、苦しくなってきた・・何だか勢いで走ってるけど・・・

・・もっと、オトナシイ子、だと思ってた・・・

そんなことを考えていると、切那が話しかけてきた。

「ここの公園なの?」

「・・はぁはぁ、う、うん・・そうだよ」

公園の名前は・・何だったっけ?・・・まあ、それは置いといて。

わりと広い公園だった。中心部に、池があり、その池の中心に、噴水が勢いよく上がっている・・池には、魚がいた・・・気がする・・記憶が少し曖昧だ・・。

切那が、ぐるりと公園を見渡す・・。

「へ~ぇ、こんな公園が、あったんだ・・・、知らなかった・・」

しみじみと言う切那は、どこか寂しそうだった。

「こっちだよ」

祚流が、左側の方にある道を、指さす。しばらく道なりに進むと商店街が見えてきた・・・そして祚流が、ある店の前で立ち止まる。

「ふぅ、ここがその駄菓子屋さんだよ!」

そこには、今どき珍しい木造建築の、趣のある建物が立っていた。

店の名前は、『宵の月商店』

切那が、ポツリと呟く・・・。

「ここ・・やってるの?・・・」

「も、もちろんだとも!」

切那がいぶかしそうに首を傾げる・・。

「ほ、ホントだよ!中に入ろうよ」

そう言うと祚流が、駄菓子屋さんの中に入って行った。切那も祚流の後に続いて店の中に入る。

店の中には、切那が見たことの無い、お菓子がたくさんあった・・。

甘い匂いや、香ばしい匂いが、漂っている・・。

・・どうしてだろう?一回も、ここに来たことが無いのに・・懐かし気持になってしまった・・・

「今日は、何を買おうかなぁ~?」

祚流は、どこか楽しそうだった・・、

切那が何気なく、上の方を見上げる、鎧武者の絵が飾ってある・・しかも、何故か丸い厚紙に描かれている・・これって・・なに?

・・昔の絵は、みんな丸い紙に書いてあったのかな?

切那が、じっと見つめていたので、祚流が見かねて、

「どうしたの?・・ああ、メンコ?セツナちゃん、メンコするの?」

「・・めんこ?」

「うん、相手のメンコを陣地からはじき出したり、すくいこんだりして、相手のメンコを取って行くんだ・・それで、最後にたくさんメンコを持っている人の勝ち」

「・・ふ~ん・・どうして知っているの?」

ちょっとだけ、やってみたいかも・・・、でもこれって、男の子の遊びなのかな・・でも・・やってみたい・・。

「えへへっ、お父さんが教えてくれたんだ」

「ふ~ん、やってみようかな?」

「あっ、僕、お父さんから貰ったメンコが、家にたくさんあるから今度持ってくるよ・・最近はお父さんが、仕事で忙しいから遊び相手が居なくて・・」

「へぇ~、テレビゲームとかは、あまりしないの?」

「あー、テレビゲームは、眼が悪くなるからって、そんなに、やらせてもらえないんだ」

「ふ~ん。私もやったことも無いけど・・・うん、メンコ、やってみたいな」

「じゃあ、決まりだね!」

すると、店の奥から、人の声が聞こえてきた・・・聞こえてきたというよりは、話しかけられた、の方が正しかったと思う。

「お譲ちゃんは、初めてココに来たのかな?」

切那が、店の奥のお勘定場らしきところに、眼を向ける。

そこには、中学生くらいの男の子が座っていた。どうして中学生くらいなのかというと、制服を着ていたからだ、胸の所に『中』と縫い込んでいたかも・・・なんだか、頭が良さそうな、雰囲気がする・・。

・・・こういう所って、普通は、大人の人が経営してるんじゃないのかな?・・それともただの店番?・・・

すると、

「どうして、オレみたいのが店番してるのかって?・・まあ、そのまま、店番しているだけだけどな・・・今日はユリゾウが居ないからなぁ」

切那が、それに答える、

「そう・・ですか」

「はは、そうだ。・・それにしても君は、外国から来たのかな?」

「どういう事?」

切那が首を傾げる・・。

「ああ、その髪の色・・この国の人は黒髪のはずなんだけどな・・」

「私、この国の人だよ?・・ちゃんと千塚切那って名前があるんだよ?」

その男の子は、しばらくの間、切那をしげしげと眺め、

「へぇ~、じゃあ、二人目だな」

「何が?」

「いや、お譲ちゃんと同じ髪の色をした、奴に昔、会ったことがあるんだよ」

「ふ~ん?そうなんだ・・。」

「そいつは、なんというか、う~ん・・・眼が死んでた・・死んでたと言うより・・そうだな、悟ってた?・・たぶん・・ははは」

「サトッテタ?」

「ん・・?ああ、まだ分からないか、えっとな、なんでもお見通しってな感じ?」

「ふ~ん・・・なんだか、お父さんみたい・・」

「はは、そうなのか?・・そりゃ、今度会ってみたいな」

祚流がやっと会話に入る、

「あっ、オウガ君、こんにちは」

「おう!ソルか。居たのか?気が付かなかったぞ?」

「そ、そ、そんなぁ~ちゃんと、居たよ!」

「はは、冗談だよ、おっと、そうだった、自己紹介がまだだったな・・オレの名前は、頂王我いただきおうがだ、よろしくな、妖精さん?」

「よ、妖精?・・・妖精じゃないよ!セツナだよ?」

・・妖精なんて、初めて言われたかも・・。

「いやぁ、絵本とか、昔話に出てきそうな感じだからな、つい」

「そうだよ、セツナちゃんは、セツナちゃんだよ!」

王我が、意外だ、言わんばかりの顔をして、

「分かったよ、すまなかったな、そんなに怒るなよ・・ん?もしかして、ソル・・はは~ん!そういうことか・・ソルの彼女だったか・・いや悪いな」

祚流が、慌てる・・、

「ちちちちち、ち、ちがふ・・違うよぉ~!」

「顔が、赤いぞ~!」

「あ、赤くないよ!」

切那がポツリと呟く、

「カノジョって?」 

                ※

・・ここ、まだやってるのかな?しばらく来ていなかった・・いつからだろう?ここに来なくなったのは・・・そう言えば結心ゆうらとも一緒に来たことがあったな・・。

・・やっぱり、もうやってないのかもしれない・・昔はもっと子供がいて、活気があった・・自分もまだ子供だけど・・時代の流れってやつ・・・かな?・・切那がそんなことを考えていると、声をかけられた。

「どうされましたかな?」

切那が後ろを振り向く・・そこには六十歳前半くらいの、お爺さんが立っていた・・歳は取っているが・・背筋はピンと伸びていて、切那よりも背が高い、白髪が交じっているが、髪の手入れもキチンとしているようで、清楚な身なりをしていた。

・・・こういう人を紳士って言うんだろうな・・

何よりも切那が気になったのが、そのお爺さんの眼だった。

・・・まるで、獲物を追い詰めるときの鷹のような眼だ・・・普通の人だってこんな眼をしているのは、そうそう見かけない、この眼は・・そうだ、歴戦の戦士の眼・・空おじさんのような・・・

「別に、何でもありません・・ただ・・」

「ただ?」

・・流石に、凄い目つき・・ですね、なんて祚流でもないし、言えないな・・

「この駄菓子屋さん、まだ営業しているのかなって・・・」

切那は油断をせずに、慎重に老人の様子を窺う。

「ああ、この店ですか・・」

そう言うと紳士のお爺さんは、微笑んだ。

それと同時に切那の警戒も少し和らぐ。

・・まだ、安心は出来ないけど・・・

「この店、私の店なんですよ・・孫が居て、よく店番をしてくれていましてね。昔は、子供たちが、毎日お菓子を買いに来てくれたり、遊びに来てくれたりしていたんですが、今の子供たちは、みんな、街の方に行ってしまったんですよ。それで二年前に、店を畳みました。もう店を続けるにも、体力、気力とも無くなってしまったのでね・・」

「そう・・ですか・・」

「ほほ、申し訳ない、年寄りの長話に付き合わせてしまい・・。」

「いえ・・私も昔、小学生の頃、よくここに来ていました」

「おお、そうですか・・それは、寂しい思いをさせてしまって・・・でも、あなたが覚えていてくれて、もうそれだけで、私は満足ですな。ありがとう」

そう言うと、紳士のお爺さんは、頭を下げた。

「えっ、いやいいんです。でも仕方ない事なんでしょうか?時代の流れ、とか」

「そうですなぁ、時代の流れ、ですか・・・、まあ、宇宙人も来るようになりましたし・・・私たちの星もどうなる事やら・・」

・・そう、確かに、宇宙人が・・・って!

切那が、驚く。

「宇宙人?」

「ほほ、そうですな。二十年前に空から大きな戦艦が、攻めてきたのですよ」

・・どういう事だろう?お父さんたち以外にも、知っている人が居た・・いやお父さん達だけが、アンドロイドに立ち向かったわけではないのか・・そう言えば、お父さんが昔『たくさんの人が死んだよ。』って言ってた・・

「その話、知っています。人類の存亡を賭けた、大きな戦争だったと」

「おお!よくご存じで・・・ですが、本当によく知っておられる・・知っていても、喋ろうとしない、大人達が大勢いますから・・どなたからお聞きになったんですかな?」

「・・父親です・・」

「ほぉ、お父様から・・それは立派な方なんでしょうな」

「どうして、その戦争の事を、話そうとしない人が大勢いるのですか?」

「ふむ・・・それはですな・・・」

紳士のお爺さんは、しばらく、顎に手を当てて、考えているようだったが、

「おお!そうでした・・まだ、名を名乗っていませんでしたね?」

「は、はぁ」

「私の名前は、朱馬百合蔵あかまゆりぞうと申します。百合蔵とお呼びください。」

「・・・千塚切那と言います」

「ほぉ、千塚・・・どこかで聞いたことがあるような・・無いような・・いや、失礼しました・・たぶん私の勘違いでしょうな」

「・・はい・・」

「ええっと、おお、そうでしたな、何故話さないのか、と言いますとな、その事を話すと、罰を受けてしまうのです」

・・それは初耳だ・・

「罰?」

「はい・・私もまだ、どんな罰を与えられるのか分からないのですが、噂によれば・・『ヘブンズタワー』の地下に連れて行かれて、重労働をさせられるとか、人体実験をされるとか、記憶を消されてしまうとか、本当かどうかは、よく分かりませんがね・・あまり、いい噂ではないのは確かですな」

「百合蔵さんは、話しても大丈夫なんですか?」

・・私にこんなことを喋ってもいいのだろうか?

・・ん?そう言えば、佐籐先生もこんな事を話していたような・・・

・・もし監視でもされていれば、大変な事に・・・

「ほほ、こんな年寄りを、捕まえてもなんの得にもならないと思いますがな・・まあ、大丈夫でしょう・・」

・・曖昧だ・・この人・・大丈夫かな?

「おっと、長話になってしまいましたな・・まあ話は戻りますが、結局のところ人類は、その宇宙人に支配されて、この国の軍事力も、警察も、ありとあらゆるモノが彼らの手の中・・・この国に限りませんがね・・・・ですが、どういう事か、その宇宙人達によって、我々人類は、今も、生かされているのですなぁ」

・・その言葉の中にはどこか、諦めのようなものが、感じられた。

・・もう、元の生活は、戻ってこない・・みたいな・・諦めが・・・

・・でも、私はまだ諦めているわけではない・・必ず、この国を、この星を救ってみせる。どれくらい時間が掛っても、お父さん達のように、次の世代に託す事になっても・・

・・・・この決意だけは、何が何でも貫き通す!

「ほほ、まあ、そんなに怖い顔をしなくても、大丈夫ですよ。」

切那は、ハッと顔を上げる。

「・・すみません」

「謝ることは、ありません・・真剣にこの星の事を考えてくれていたんですんね・・お優しい方だ・・」

「・・何とかしたいと思ったことは?」

「ほほ、もちろん、思いましたよ?でも私一人では、どうにも出来ないのです」

「・・話し合いで解決とか・・」

・・無理・・なのだろう・・もし出来ていれば、お父さん達がそうやっていたはずだ・・でも既に、戦っている・・今も昔も・・それは変わらない・・

「私もそれが一番だと思いますな。ですが、話しても通じないのであれば、力ずくで、という事になってしまいますな、自分の考えを一方的にぶつけても、相手の考えを変えるのはとても難しい事・・普通の人でさえ大変なことなのに、ましてや相手が宇宙人となると、測り知れませんからな・・」

・・確かに、話しが通じなければ、力ずくでも、ってなるのは仕方の無い事なんだろう・・今でも、何処かの国と国が争っているという、ニュースをテレビで見た記憶がある・・・そのすべてが、すべて、という事ではないが、

でもどうして、考えが相手に伝わらないのだろうか?・・

相手がそれを聞こうとしないから?・・

始めから、それは間違っていると決めつけているから?

・・分からない・・考えていても・・ワカラナイ・・・・

・・そうだ、いっそのこと、みんなが、私のように、相手の心の声を聴くことが出来れば・・・

・・そしたら、解り合う事が出来るのではないのか・・

・・争いは、無くなるのではないか・・

・・悲しみは、無くなるのではないだろうか・・

・・みんなが、一つになれば・・

・・でも・・

・・もしも、そんな風になってしまうと・・何か・・何か大切なものを忘れている気がする・・

・・・何だろう?・・

・・それでは、人としての意味が無くなってしまうような・・

・・それは、人間ではないような・・・

・・そう、私が、私でないような・・・

「・・でも・・それでも、なんとかしたい・・」

切那は、真っ直ぐに百合蔵の眼を見る。

「ほほ、良い眼だ・・若さの特権ですな・・その意思があれば、きっと、どうにかなるでしょう・・、失礼、なんの根拠も無い事を言ってしまって」

「・・はい」

「しかし、どうして、宇宙人は、我々を滅ぼさないんですかな?その気になれば、いつだって出来るだろうに・・」

・・確かに・・どうしてだろう・・そこはお父さん達がどうにかしたのだろうけれど・・それもイマイチ分からない。

「・・理由があるとか・・」

「ほう、理由ですかな?」

「人類を滅亡させてはいけない、理由、とか」

「ふむ、なるほど・・逆にそういう考え方もありますな」

しばらく黙りこんでしまう、二人・・・

そして、唐突に百合蔵が、

「まあ、考えても仕方ありませんな・・それはそうとして、あなたの夢はなんですか?」

・・アンドロイドは・・ワンダーファントムは一体、何を考えて・・って夢?

「私の・・夢ですか?」

「ほほ、そうです、あなたの夢は?」

切那は、少し自信なさげに、

「私の・・私の夢は、すべての人が笑って暮らせる世界を創る、です」

百合蔵は、少し驚いた顔になったが、

「そうですか・・それはまた・・いえ、いい夢です。昔、誰かが言っていたことなんですがね、『夢は、願わなければ叶わない!』と」

「・・願わなければ、叶わない・・」

「そうですな、まずその夢を叶えるにあたって、こうしたい、こうでありたい、と願わないと、それは夢にはなりませんからな、つまり夢への第一歩は、願う事、目標を持つことですな」

・・それは・・そうだろう・・でもそんな風に考えたことは無かった・・

「・・はい」

「おっと、年寄りの戯言は、聞き流してください、少々自信がなさげだったので、説教のようになってしまいました・・ふむ、もっと自信を持って下さい」

「・・自信を?・・」

・・私は、自信がないのだろうか・・この世界を、救う、だなんて・・・

「きっと、あなたなら、いや、あなた達なら、出来ます。私はそう信じていますよ。夢が、叶うといいですね。いえ、叶えて下さい」

・・そうだ、考えていても仕方がない、私は・・・

切那はさっきより、堂々とした声で、

「・・・叶えます・・この星を救ってみせます」

「ほほ、頑張って下さい。・・・おお!もうこんな時間ですか・・時間が経つのも忘れていました・・ふむ、それではまた、どこかでお会いしましょう」

そう言うと、百合蔵は、少し頭を下げて礼をし、切那の前をゆっくりと歩いて行った・・。

「・・またどこかで・・」

切那は、一瞬だけ、駄菓子屋さんの方に眼を向けた、そしてまた、百合蔵が過ぎて行くのを見ようとしたのだが、割と見晴らしのいい道なので、どこかの店に入らない限り姿を見失うわけが無い・・・店と言ってもほとんどの店がシャッターを閉じているが・・・

・・・もうすでに、百合蔵の姿はどこにも無かった・・。

「・・・?」

・・消えた?・・・そんな筈は・・

そして切那は一つの答えに行きあたる・・。

そんな事はないだろうと思いながらも・・。

・・幽霊?・・

                 ※

祚流は、全速力で森の中の道を駆け下りていた・・・。

・・っはあ、はあはあ、ど、どうしよう・・荷物が重くて・・家から出るのにかなり時間が掛っちゃった・・だいたいお母さんが、

・・『滅多に、冥雲さん家に行かないんだから。』・・・・

とか言って、お土産にワインとか、焼酎とか、日本酒とか、いろいろ持たされちゃったから、重くて重くて・・・こういう時に限って、家の人たちは忙しそうだったから・・車を頼むに頼めなくって・・お父さんも居なかったし、集合時間に遅れちゃうよ・・

・・・はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあぁぁぁぁ・・・

森の道を抜けて、いつもの通学路に出る。

もう少しだ・・・もう少しで・・

・・あ。

そう言えばこの道って、商店街に行くまでに長い坂があったんだぁ・・・

普段は、その坂まで車で送ってもらってるから、気にしてなかったな・・

どうしようかな・・この荷物、置いていこうかな・・・

・・だ、駄目だ!そんなこと考えちゃ!・・と、とにかく、絶対に遅れちゃ駄目なんだ!もし遅れたりしたら・・切那ちゃんにどんな事をされるのか・・考えるだけでも、恐ろしいや・・・

と、

そんなことを考えていたら、少し上の方から、声をかけられた。

「困っているようだな?」

「あ、えっと、ああ、カー助か・・う~ん、そうなんだ、ちょっと困ってて」

電柱の上に一羽のカラスがいた。まるで最初からそこに居たかのように・・、

「ならば、力を貸そうか?」

「えっ?カー助もこの荷物、一緒に持ってくれるの?・・あー、でもありがとう、気持ちだけ貰っておくよ」

・・流石に、喋れるカラスだと言っても・・この荷物は持てるわけがない・・それこそ、そんな姿を誰かに見られたら、大変な事になりそう・・

「私が、貸そうかと言っているのは、この翼だ」

「・・いや・・うん、気持ちだけで・・・って、翼?」

「そうだ、空を飛べば、速く、集合場所に着くと思うが・・」

「・・・空って・・飛べるの!・・僕が!」

「・・そうだが?」

「・・・・!」

・・今まで、空を飛びたいなぁ~、とか思ってたけど、まさかこんな、漫画やアニメみたいな事が起こるなんて・・世界は不思議で一杯だなぁ!

「でも、どうすれば・・?」

「・・簡単だ」

・・あ、もしかして、実はカー助の力が強くて、僕と、この荷物ごと足でつかんで飛ぶって事なのかな・・うわ~変に期待した僕が、ちょっと恥ずかしいや・・。

「私が、お前の体の中に入ればいい・・」

「ふ~ん、そうなんだ・・ってそれ、大丈夫なの?」

・・痛くないのかな・・

「問題無い」

・・うわぁ、即答された・・

「そ、そうなんだ・・じゃ、じゃあ・・お願いするよ」

「ふっ、了解だ」

そう言うとカー助は一旦空に舞い上がり、旋回しながらどんどん高度を下げていった・・そしてそのまま勢いで、僕に物凄いスピードで突っ込んで来た!

・・いやいやいや!・・ちょっ、ええぇ!・・

「え~!ちょっ待っ、うわぁぁぁっ!」

・・荷物を地面に落とし、避けることは出来たんだろうけど・・それはたぶんあり得ない話だ、・・だって、後でお母さんに、何を言われるか・・考えただけでも背筋が、ゾクゾクってなるよ・・眼を瞑ることしかできないや・・

・・もう、駄目かもしれない、何だかよく分からないけど・・

そしてカー助は、祚流の体に、特攻(?)したのだった。

「・・・・・!」

・・ってあれ?・・なんともないゾ?確か、カー助がものすごい勢いで、僕に突っ込んできたと思ったんだけど・・・どういう事だろ?・・

祚流は、ゆっくりと自分のお腹のあたりを、見てみる・・

・・特になにも・・なんともない・・よね?・・

・・服も破れてないし・・それに何より・・痛くない・・

すると、いきなり頭の中に声が響いてきた。

『どうだ?特に、変わった所はないだろう?・・』

「う、うん、確かに何ともないけど・・」

・・何ともないけど・・何かが、胸の中にある・・

・・少しくすぐったいような・・

『ふっ、これが一体化だ、今は、お前の意識の方が強いから、お前は自分の眼で見て、自分の頭で考えることができ、行動する事が出来る・・しかし、危機的な状況に、仮になったとすると、私の意識が強くなり、お前は外の世界と、遮断され、私の意思で、私のやり方で、その危機的状況から、回避する事になるな』

「回避・・ってそんな状況になるの?」

『ふっ、今はそんな事より、集合場所に急いだ方が、いいんじゃないのか?』

「あっ!そうだった・・で、どうすればいいの?」

『簡単だ、自分の背中に翼が生えているところを、想像すればいいだけだ』

「想像って言っても・・」

・・そんなこと言われても・・分からないよ・・

『いいから、やってみるんだ』

「うぅ、それじゃあ・・」

祚流は必死に翼のイメージをする・・すると祚流の背中に黒い煙のような、湯気のようなモノが、集まって・・鳥の翼の形に・・なった、のだ。

「うわっ、すごい!ホントに翼が生えた!」

『・・・やけに、小さい翼・・・だな・・』

その翼は、祚流の掌と同じくらいの大きさだった・・・。

                 ※

・・集合時間まで、後・・二分三十六秒・・。

切那は、今はもう、営業していない駄菓子屋さんの前で、携帯電話のディスプレイ画面を見ながら、カウントをしていた。

・・たぶん、遅れてくる・・と思う・・祚流の遅れてくる大概の理由は、何かの厄介事に巻き込まれるか、自分から事件に頭を突っ込むか、だ・・もちろんそんな事、高校生になってからはあまり無いと思う・・・そうだな遅れてきたらアイスクリームでも奢ってもらおうか・・・あと一分だ・・

切那は、周辺を確認する。

右側・・・誰も居ない・・

左側・・・誰も居ない・・野良猫が走り去っていっただけだ・・

上も見てみる・・・誰も・・・居た・・

ん?

上に居る?・・まさか・・・

とその時、空から誰かが、舞い降りてきた・・

それは、さながら天使が降り立ったかのようで、どうしてそう思ったかというと、その人間には、翼が生えていたからだ・・ただ、違うのはその翼の色が、純白の白ではなく、漆黒の黒だったのを除けばの話だが・・。

「・・ソル?」

「ふぅぅぅぅっ、間に合ったぁぁ、と言うか、かなり怖かったぁ」

切那は、何ごとも無かったかのように、

「・・その荷物は?」

「えっとね、お母さんが滅多に行かないだろうからって、いろいろお土産に持たされちゃった」

「・・そう・・」

「そうなんだ、これ、かなり重くってさ、運ぶのにかなり苦労したん・・ってもっと何か、他に、僕に聞くこと無い?」

切那はしばらくぼ~っとしていたが、少し首を傾けながら、

「・・さぁ?」

「いやいやいや、もっとこう、何と言うか・・その・・どうして上から来たの?とか・・どうして空飛んでるの?とか」

切那は特に気にした様子もなく、

「・・別に?」

「・・あ、はい・・」

そして二人は凛達の住む山に向かって歩き出した。

・・沈黙・・

祚流は、本気で落ち込んでしまったようだった・・・それを見かねてかどうかは分からないが、切那が祚流に質問をした・・・。

「・・どうやって、空を飛んだの?」

祚流の表情が、一気に明るくなり、

「えっとね!カー助と一体化して、それで空を飛ぶことが出来たんだよ!」

・・カー助と一体化?それが祚流の覚醒した力、なのだろうか?・・でも、カー助は、あまりいい感じがしない、何か危険な感じがする・・気のせいだといいんだけど・・・

「・・そう・・」

「でもさ、普通の人は空なんて飛べないよね?・・貴重な体験しちゃった」

祚流は、とても興奮しているようだった。

「そう言えば、コウ君達の家って、お寺だったよね?」

「・・確か、そうだった」

「お寺って、大きいのかな?でもどうして、人があまり寄りつかないような所にあるんだろう・・」

・・確かにどうしてわざわざ、その様な所に建てるのか分からない・・何か訳、理由があるのだろうか?・・

・・それにしても、さっきから変な感じがする・・まるで誰かにずっと見られているような・・気のせいかな?・・それにこの辺りは、なんだか・・立ち入ってはいけない様な・・そう、聖域のような・・

すると、祚流が立ち止り、思い出したように、

「確かここの道をもう少し進んだ所に、山道への入り口があったんだけど」

「・・この辺り?」

「うん、そのはずなんだけどね・・どこかなぁ、この辺りにお地蔵さんが立っているって、コウ君が言ってたんだけどなぁ・・」

祚流は、その辺りの草むらをかき分けるなどして、お地蔵さんを探していた。しかし、切那も、一緒に探してみたが、それらしい物は見つからない・・・。

「おっかしいなぁ、見つからないよ、確かにこの前、ここに来た時に、コウ君に教えてもらったんだけど・・」

再び、沈黙する二人・・だが、すぐにその沈黙は破られる・・。

近くの、草むらから、

『ガサリ』

と、音がしたからだ・・。

二人は、すぐに、音の出た方に眼を向ける・・。

『ガサガサ、ガサガサっ』

二人とも、反射的に身構える・・。

「ったく、やっと出れたぜ・・・、ホント、どうしてこんな強力な、結界張ってるんだよ・・普通の人じゃ、入口を見つけられないぜ」

「ホント、誰かさんのせいで、こんな事になっちゃったんだから・・セツナ達に、結界封じのお札、渡してなかったのって、どこのどいつよ」

「あ~、うるせぇなぁ、お前だって、忘れてただろ?」

「違うわよ!あんたが、渡すから、心配無いって言ったんでしょ?」

「そうだっけ?」

「そうよ!この、アホ!」

「すいませ・・ってアホってなんだよ!・・アホって!」

「うっさい、少し黙って!」

どうやら、いつもの展開になってきたようだ・・それを見かねて祚流が恐る恐る二人に声をかける・・。

「ま、まぁ・・とりあえず、落ちつこうよ?」

すると、幸と凛は、二人同時に、

「ソルは黙ってろ!」

「ソルは黙ってて!」

「・・はは、息、ぴったりだ」

                 ※

「ほんと、ドジよねぇ~、いやぁ、ごめんね・・結界があるの、忘れてた」

凛と幸が、迎えに来てくれたのだった。

「・・結界?」

「そう、結界・・まぁ、どうして張ってるのかって、聞かれると、詳しくは、知らないんだけどね・・何か、ここの山全体を使って、何かを封印してるらしいんだけど・・その、何かは、私たちも知らないの」

「・・さっきから、誰かに見られている気がする・・・」

切那は先ほどから、気になっていたことを、尋ねてみる。

「なぁにぃぃぃぃ!誰だ、出て来い!セツナさんをストーカーする奴なんて、俺が絶対にゆるさねぇぞ!・・まぁ、気持ちは分からんでもないが・・」

「あん?・・今何か言った?」

凛が幸を睨む。

「ああ?・・何も言ってねぇよ・・ストーカー出て来いって言ったんだよ」

幸が、凛を睨みかえす・・・。

慌てて祚流が、

「まぁまぁ、でもさ、そんなに強い結界なの?」

凛が、道を作りながら(本当は、道があったらしいのだが、しばらく使ってなったとかで、荒れ放題だった・・凛と幸が、先頭を歩き、木やら、竹やらを押し倒したり、鎌などで切り倒したりしながら、進んでいる・・探検隊みたいだ。)

「あ~、なんか、お父さんが急に焦って、封印が、解けかけた、とか言って、お母さんも手伝って、いつもの百倍、強くしてるんだって」

・・百倍って・・よく分からないけど・・とても大変なことだったんだろう。

「・・そう」

「それも、ついさっきなんだよねぇ~、セツナ達が、ここの結界に近づいたときと、同じタイミングなんだよ?・・あはは、笑っちゃうよね?」

祚流が、息を切らしながら、

「・・・はぁはぁ、へ~、偶然かぁ・・」

凛が肩をすくめながら、

「どうだろうね?・・私は、分からないけど・・・」

すると幸が、祚流に話しかける。

「・・なぁ、ソル、さっきから、思ってたんだけど・・何でそんなに、荷物が多いんだ?・・めちゃくちゃ重そうだぞ?」

「・・はぁ、はぁ、ん?いや、大丈夫だよ。このくらい」

「ん~、なら、いいんだけど・・」

                ※

一行は、道なき道を、(凛と幸が、道を作りながら、と言うより切り開きながら、)進んで行った・・・。

・・どれくらい時間が経ったか分からない・・恐らく、二時間は経過しているはず・・

切那は、ちらりと祚流の方を見てみる・・汗だくだ・・一体あの荷物には何が詰まっているのだろう?・・そんなに大事なモノなのか・・それとも、大事にしないと、どうにかなってしまうモノなのか・・・

それはそうとして・・普段は凛と幸は、どうやってここから、学校まで通学しているのだろう?・・この道は、あまり使ってないと言っていたから・・他に通学用の道があるのだろうか?・・でもこの山に登る前に、辺りを調べてみたけれど、そのような道らしきものは、無かったと思う・・・

そんな事を考えていたら、急に視界が開けた。

まるでその部分だけ、その場所だけ、

他の場所と切り離されているかのようにそこに、大きな、お寺が建っていた。

凛が庭に走って行き、振り返って、

「やっと、着いたぁ、さぁ!セツナ、ソル、ここが我が家だよ」

しばらく言葉を失う切那と祚流・・

「す、凄い・・大きなお寺だね・・」

「・・確かに・・・」

その佇まいは、見る者を圧倒するかのようだった・・世界遺産に登録されていても可笑しくないくらい立派な佇まいだ、と言うよりこんな大きなお寺が、こんなところにあったなんて・・知らなかった・・まぁ、祚流の家もこれに負けず、劣らず、なのだけれど・・

「まぁ、この場所に住んでるって訳じゃないんだけどね・・」

幸がそれに続けて、

「まあ、そうだな、この本殿は、仕事用で、俺たちが住んでいるのは、その奥にあるんだけど」

「・・仕事用?」

祚流が、首を傾げながら幸と凛に、質問する。

「ん?あぁ、お祓いとか、色々、まぁ、霊的なもの関係かな」

「幽霊とかって、本当に居るの?」

興味本位で、祚流は聞いてみた・・。

「そうねぇ、そんなものは、居ると言えば、居るし、居ないと言えば、居ないのかな?・・まぁ、私たちみたいのが居るってことは、居るのかな?」

「そう・・なんだ」

一行は、裏手に回った。

そして、大きな本殿の、裏側に本当に人が住んでいるのかさえ、どうなのか、それくらいボロボロの、家(お寺?)が建っていた・・・。

またも言葉が出てこない二人・・・

「えっ?、ちょっ、何これ?」

「失礼ね~、我が家よ、わ・が・や」

「いや、そうなんだけどね・・なんて言うか・・その・・」

祚流は、小声で刹那に話しかける。

「・・ねぇ、セツナちゃん・・これって、どう見ても、ここに人って住んでないよね?さっき見た、建物と、まるで正反対だよ?」

「・・でも、住んでるって、言ってる・・」

「そう・・なんだけどね・・」

凛が二人に話しかける、

「ちょっと!何こそこそ、話てるのよ?・・まいいけど、さあ、こっちよ」

そう言いながら、凛は玄関であろう扉を指差した・・。

「あ・・あのさ、リンちゃん・・ひとつ聞いていいかな?」

「えっ?なに?、ソル?」

「これって、扉、触ってもいいの?」

「別に、いいけど?」

祚流が何故、躊躇ためらったのかというと、

玄関の扉らしい処に、お札が、びっしりと貼られていたからだ・・流石に祚流でなくても、誰でも躊躇ちゅうちょしたに違いない・・それにどのお札も古く・・・いや、最近貼られたような、真っ白いものもある・・。

「大丈夫だよ、変なのが憑いてなければ・・ね♪」

「はは、・・洒落にならないね・・・」

すると幸が、

「大丈夫だって、ソル、ほら、開けていいぞ?」

「・・う、うん」

祚流は、恐る恐る、扉に触れようとする・・一回手を引っ込めたが、思い切って扉に触れた・・・特に何も起こらない・・・。

「よかった・・・なんとかなっ・・・!」

祚流が、安心して、ほっと胸を撫で下ろそうとした時、

突然、扉に貼ってあった、お札が燃えだしたのだ!

燃えたと言っても、赤い炎ではなく、黒い炎だった、物凄い数のお札が一斉に燃えているというのに、全く熱くない・・むしろどこか、冷たい感じがした。

「えっ!ど、どどどうしたの!何でお札、燃えてるの!」

祚流が、かなり慌てている・・凛も幸もかなり驚いていた。いや取り乱していたと言う方が正しかったかも・・。

「ちょっ、何これ!ヤバいよ・・封魔のお札なのに!」

「確かに、これはやべぇ!ヤバいのが、集まってくる!」

凛と幸は、切那と祚流を庇うように、二人の前に立っている。

「そ、そんな・・・ど、どうしてこんな事に・・・」

祚流は今にも泣きだしそうだった。それを横目でちらりと切那が見る、そして、

「黒い炎・・・って危ないの?」

凛が少しずつ後ろに下がりながら、

「一番最悪ね・・色が黒に近付くにつれて、そのエネルギーが強くなるって、お父さんが言ってたから・・」

幸が凛に続けて、

「つまり、黒そのものってのは、危険すぎる・・つうか・・見たこと無いぞ?」

「確かにそうよね・・どうしよう・・」

どうやら、二人とも手の打ちようが無いみたいだ。

・・この炎・・確かにとても、嫌な感じがする・・

恐らくこのお札で、霊的な何か、からこの家を守っていたんだろうけれど・・それなりに強いはずだ・・でも、それすらも凌駕するなんて・・やっぱり祚流には何かがある。

この山に近づいた時だって、この場所の封印が弱まってしまい、また封印し直した・・という事は・・ここに祚流が近づいたから?

・・祚流には、ここに封印されている何かを、目覚めさせてしまう何かがあると言うのだろうか・・

・・とてつもなく、危険な何かが・・

・・目覚めさせては、いけない何かが・・

・・何の根拠もないけれど、それはきっと人類の・・いやこの星にあるすべての生命の敵なんだろう・・なんだか、そんな気がする・・

・・私の中の、何かがそう告げる・・

・・そう、本能が、そう告げる・・

・・魂が、そう告げる・・

そして、

唐突に、

なんの前触れもなく、

「ふわわぁぁぁ、ん~ん、ん?何だ、よう、お前らどうした?」

全員が声の聞こえた方に顔を向ける・・そこには作務衣さむえを着ている四十

歳は過ぎているであろう僧が、実に面倒くさそうに、立っていた・・と言うより作務衣を着崩している・・お寺の人がそんな着方をしていいのかと思ったが・・何より髪の毛は伸び放題だ・・そして左手に、何故か、食べ掛けのあんパンを握っている・・。

          ・・突っ込みどころが多すぎだ・・

そのあんパンを持った人(笑)は、しばらく、燃えているお札と、四人とを交互に見比べそして、

「う~ん・・・あっ、今日はいい天気・・だな?」

「いや!オヤジ!呑気過ぎだろ!」

幸が思わず突っ込む・・。

「ん~、ああ、そうかお前ら、あんパン、食うか?」

そう言って、左手のあんパンを差し出してきた・・。

「いや!食わねぇよ!しかも、食いかけ?どうせなら食いかけは嫌だよ!」

「いや、あんたも食べるつもりなの?」

「いや、そうじゃなくて!、オヤジ!何とかしてくれ!」

あんパンを持った人・・もとい、凛と幸の父親にして、かつて天輝や、空たちと一緒に二十年前にワンダーファントムと戦った、冥雲凱、その人だった。

「んん?・・・何とかって・・ていうか、どうしてお札・・燃えてるんだ?」

「いや、それが分からねぇから、何とかしてくれって、頼んでんだよ!」

凱は右手で頭をかきながら、

「・・あ~、一つ言っておくぞ・・・なんだぁ?それが人にモノを頼む時の態度か?そんな風に、育てた覚えは無いぞ・・コウ?」

「・・えっ、あ、ごめんなさ・・ってそれどころじゃねぇよ!」

「ん~、何だ?・・どうした?・・モグモグ・・テンション、高いなぁ~。」

「いや!、物を食いながら、喋るな!」

「あ~、その、何だ・・モグ・・腹・・モグ・・・減ってんだよ・・モグモグ。」

「っだあぁぁぁぁ!、このぉっ、あんパンオヤジぃぃぃぃぃぃ!」

すかさず祚流が、

「お、落ちついてよ、コウ君!」

「これが、落ちついていられるかぁぁぁぁぁ!」

すると凱がおもむろに、裾から巻物のようなモノを取り出し・・

それを地面に置いた・・巻物だ・・。

そしてその巻物を広げて・・

あんパンの袋を・・

その燃えているお札に向かって・・

投げた・・?

「って、オヤジィ!何やってんだよ?」

「まあ、見てろ」

あんパンの袋は、燃えている扉の張り付けてあるお札に向かって、飛んでいき・・火が袋を包み込むと・・一気に袋が燃えだした・・・。

それと同時に、お札から炎が消えて、ただあんパンの袋が黒い炎をあげて、燃えているだけの、状態になった。

炎がお札と、入れ替わったのだ・・・。

「えっ?何が起こったんだ?」

幸が、不思議そうにしている・・。

凱は、相変わらずあんパンを食べていたが、

「ん?燃えている対象を、変更しただけ・・だけど」

「じゃぁ、その地面に置いてある、巻物って何?」

鈴が凱に尋ねる・・。

「ん~ん、あぁ、これか・・・・いや、特に意味は無いな・・」

祚流も凱に質問をしてみる・・。

「えっと、じゃあ、どうして置いたんですか?」

「・・・・・雰囲気が出ると思って・・・」

「なんっだよっ!それ!わけ分からねぇよ!」

「なによっ、それ!わけ分からないじゃん!」

凛と幸が、同時に突っ込む・・。

          ※

「と、言う訳で・・ようこそ、『光妙寺』へ・・いやぁ、ここまで大変だっただろ?なんせ、普通の山道は、ほとんど使って無かったからな・・はは」

「はは、じゃねぇよ!俺とリンで、道を切り開くの、かなり大変だったんだぞ!」

「そうよ!、全く・・女の子に何させてんのよ!」

「・・モグモグ、まぁ・・・あれだ・・モグモグ、よくやった」

「だぁからぁ!あんパン食いながら、喋るなって!」

幸は、顔から湯気が出そうな勢いだった・・いや出てた?

「ん~、モグ、あ~、モグ、分かったよ・・」

と言いながら、とても面倒くさそうに右手で後ろ頭をかきながら、

凱は言ったのだった。

「・・モグ、ん~ん、それにしても、そこの銀髪のお譲さん・・そんなに焦らなくても大丈夫だぞ?あの炎は、まぁ、良くないけど、そんなに深刻じゃぁ無い・・ここに居る限りは・・な」

「・・そうですか・・」

・・どうして、私が思っていることが分かったんだろう?・・

「ん~ん、ふむふむ、ある程度は、力をコントロールすることが、出来るみたいだな?その心掛けはいいことだ、やたらめった、使うもんじゃぁ無い」

幸が不思議そうに、

「オヤジ?何言ってんだ?」

「ん?・・あぁ、そこの銀色のお譲さんの事だ・・」

「銀色?・・・セツナさんが、どうかしたのか?」

「何でもない・・事は無いな・・・まぁ、丁度いいし、出来れば、あの剣道少女も呼びたかったところだが・・彼女には、お前らが伝えろ」

今、切那達は凛達の家の、掘りごたつがある部屋に居る・・

・・家の中は・・意外と綺麗だった・・・この部屋に来る途中で、廊下を歩いていたのだが、所々に襖があり、思ったより部屋がたくさんあったと思う。

前を通り過ぎただけだったが、襖に、これでもか!、と言うくらいにお札を張り付けている部屋があった・・

・・見るからに・・ヤバそうだ・・

・・あえて何も聞かない事にした・・・

「ん~ん・・何から話そうかな・・・」

幸が凱に尋ねる。

「どうしたんだ?オヤジ・・話って?」

凛も続けて、

「そうよ・・急に真面目な顔になって・・」

祚流は、じっと凱の顔を見ている・・・。

そして、凱がおもむろに、

「そうだな・・お前ら・・宇宙人とかって・・信じるか?」

「はぁ?・・宇宙人?・・」

「えっ?・・宇宙人?・・」

凛と幸が、同時に首を傾げる・・

「私は・・信じています・・」

切那が凱の質問に答える・・、

「・・ん~ん、そうか、それなら、話は速い」

凱が急に真面目な顔になった・・

みんなは一気に気を引き締めた・・

なんとなく、そうしないといけない気がした・・

何かとても大事な事のように思えたからだ・・

その事を聞いてしまうと、もう普通の生活には戻れない気がしたから・・

・・そう、平和な生活に、戻れない気がしたから・・・・

「ん、どうした?いきなり真面目な態度になって・・まぁ、気を楽にして聞いてくれ・・信じられなかったら、笑ってくれても構わないぞ、誰も攻めはしないから・・」

そう言うと凱は、顔を動かさず、眼だけで切那達の顔をぐるりと見て、

「もしかしたら、もう誰かから、聞いたことがあるかもしれないが、今から二十年くらい前に、大きな戦争があった・・まぁ、戦争と言っても、国と国とが争うなんてレベルじゃぁ無く、人類の存亡を賭けた戦いだったんだ・・じゃあ、ここで質問のある奴・・・」

「はいっ!」

祚流が思いっきり手を挙げる・・・、

「ん~、ソ・・ル、だったよな?何だ?」

「えっと、それってつまり、宇宙人対人類って事ですか?」

「・・まぁ、そうだな・・・・他に何かある奴・・」

幸がつまらなさそうに、

「宇宙人って事は・・絶対に俺達人間より強いだろ?だって宇宙船とかでこの星に侵略しにやって来たんだとしたら・・文明が、遥かに進んでるし、今の技術力じゃ勝てないね・・そんな、銀河を走る宇宙船なんて聞いたこと無いしな」

凛が幸に向って、

「ちょっと、あんた・・信じるの?・・宇宙人だよ?」

「いや、もしもの話だよ・・も・し・も」

「まぁ、そうだな・・初めのうちは、まるで打つ手無しだったんだが・・その宇宙人達に対抗できる、人類が居たんだ・・・」

「それが、お父さん達・・・」

切那がポツリと呟く・・。

「そうだ・・まぁ、ホント・・・みんな良くやったと思うなぁ・・」

凱はどこか遠くを見ているようだった・・

・・・昔のことを思い出しているのだろうか?一体何があったんだろう・・いつか、聞いてみたい・・

すると、襖が、ゆっくりと開き、お盆にお茶とようかんを載せ、凛と幸の母親にして戦いに最後まで参加していたら、ワンダーファントムを殲滅出来たらしいとの噂がある、冥雲月が居た。切那の母親の明とは大親友らしい・・。

「・・話がズレていると、思うんですけど?」

そう笑いながら、みんなにお茶とようかんを配ってくれた。

幸が嬉しそうに、

「やった、ようかんだ!サンキュ、オフクロ!」

月が、切那と祚流を見て、

「今日は、ゆっくりして行ってね」

そう、笑いかけてきた・・・、切那と祚流は少し顔が赤くなった・・なんせ凱には勿体ないくらいの、それはそれは綺麗な人なので、まぁ、誰でも一度は、顔が赤くなる経験は、あると思うけれど・・。

そんな祚流を横目で見ながら、切那はこっそり、祚流の手の甲をつねった。

「・・痛っ!・・えっ?なんだろ・・」

凛が呆れながら、

「ちょっと、どうしたのよ?変な声出して?」

「い、いや、何でも無いよ・・」

切那は、知らんぷりだ・・。

「まぁ・・そう言う訳で・・これから学校が終わった後ここで、修行を開始する・・部活がある奴らは、それが終わってからだ」

「「「????」」」

・・あまりに唐突過ぎだ・・

「あ、あの一体どういう事ですか?」

祚流が凱に質問をする・・。

「えっ・・いや、修行だけど・・?」

「いや!意味分からねぇよ!」

「いや!意味分からないわよ!」

凛と幸が同時にツッコむ・・・、

すると凱が、面倒くさそうに右手で頭をかきながら、

「あ~、そうだな・・・お前ら『アニミズム』って知ってるか?」

祚流が、首を傾げながら、

「あめねずみ?」

幸がツッコミを入れながら、

「いや、どんな鼠だよ!・・じゃなくて『アニミズム』って確か・・大昔の人の考え方で・・自然界のあらゆる事物は、具体的な形象をもつ・・えっと・・」

幸が頭を抱える・・凛がそれに続ける、

「もつと同時に、それぞれ固有の霊魂やら、精霊やら、の霊的存在を有するとみなし諸現象は、その意思や働きによるものとみなす・・・だったっけ?」

凱が感心したように、

「お~、物知りだな・・お前ら・・」

祚流が恐る恐る、

「えっと・・・つまり・・どういう事?」

幸が溜息をつきながら、

「はぁ~つまり、石とか水とか風とか、自然のモノ・・気象現象とかに神様みたいなのが宿っているって考え方だ」

「ふ~ん・・?」

凛が呆れながら、

「絶対に分かってないでしょ!まぁ、今はこんな時代だし・・・・宗教の始まりみたいなものかな・・・そういうモノに感謝して、それを敬いましょう、奉りましょう、畏れましょう、みたいな?・・ほら、何か、とても大事なことが、これから起こるって時に、私たちって無意識に『あぁ、神様!』って祈ってたりしない?あんな感じかな・・・ん~、たとえば赤ちゃんが、冷蔵庫に手を振ってたりするけどあれも、似たようなものだったような・・・あれ?私も分からなくなってきた・・・」

切那も知っていることを言ってみた。

「・・確か、鍋とか鏡とかにも神様が宿っているっていう・・八百万の神様?」

凱がゆっくりと頷きなら、

「まぁ、そんな感じだ、つまり簡単に言うと、自然、いわゆる霊的なものの力を自分の体に憑依させ、力に変える特訓をするってことだ」

幸が身を乗り出し、

「それって、確か、俺達の術の中じゃ、最高クラスの術だぞ!、セツナさんはともかく、ソルに出来るのか?」

「ん?・・ああ、だから特訓するんだよ・・・」

「特訓って・・・俺たちもまだ、成功したことねぇよ」

「だから、特訓だ・・・」

しばらく黙りこむ一同・・・。

切那が静かに、

「そうしないと、いけない状況になってきた?」

凱がちらりと切那の方見て、

「ん、そう言う事・・・だなぁ・・・天輝に頼まれたんだ」

「お父さんに?」

・・それじゃぁ、ワンダーファントムが、動き出したって事?・・一体何が目的なのだろう?・・まだ何かするつもりなのだろうか・・・

「ああ、そうだ・・ん・・まぁ、せっかくお茶とようかんがあるから、食べろ」

祚流が元気なさげに、

「は、はぁ、それじゃぁ、いただきます」

無言でようかんを食べている一同・・・

「あ、オフクロ、お茶おかわり!」

「あ、お母さん、お茶おかわり!」

同時に湯呑を月に差し出す二人・・・。

切那が思い出したように、

「あ、あの・・これ・・つまらないモノですが、お土産です。」

そう言うと切那は、ケーキの入った包みを机の上に置いた。

それを見て祚流も、

「あ、えっと、僕もお土産です、どうぞ」

祚流の包みの中には、お酒やら、その肴、など普通の友達の家に持って行くものではなかった・・・

ふと切那は考えた。

・・・別にカレーでも良かったかな?・・・いや、凛達がしばらく学校に来れなくなってしまう・・やっぱりやめておこう・・

凱が焼酎ビンを手に取りながら、

「ん~、おっ、酒か・・・気がきくな!」

祚流のお土産を見て幸が、

「その荷物、お酒が入ってたのかよ!」

凛もそれを見ながら、

「やっぱり、本当にお金持ちなんだ・・・このお酒とても高かったような・・」

「えっと・・お母さんが、これ持って行けって・・」

月が祚流に笑いかける・・

「まぁ・・ハルちゃんが・・お母さんに、ありがとうって言っておいてね」

「は、はい!」

祚流の顔が少し赤くなっている・・

それを見て切那は、何故かムッとしてしまったのだが、この気持ちをどうすることも出来ず・・とりあえず、ようかんを食べたのだった。

凱が、祚流からの土産の酒を開けながら、

「ん~そうだな、お前ら、今日は泊まっていけ・・」

祚流が、

「え?泊まっていいんですか?・・・でも・・どうしよう」

幸が、ようかんを食べながら、

「おお!そうだな・・それがいい!そうしようぜ!」

凛が切那に近づいて、

「セツナは、もちろん泊まるよね?」

・・確定?・・どうしよう・・一応お父さんは許してくれると思うけど・・

「・・分かった・・家に電話してくる」

「えっ!本当・・やったぁ!着替えは私の貸してあげるね。あ!部屋片付けておかないと♪」

凛は、物凄く喜んでいる・・いや・・飛び跳ねて喜んでいた・・。

「えぇ!・・セツナさん・・泊まっていくの!・・マジか!・・マジなのか?ウソだろ!・・夢みたいだぜ!・・・嘘!・・ホントかよぉぉぉぉ!」

幸も負けじと、ハイテンションだ・・むしろ軽くウザい・・。

テンションの高い二人はさておき、祚流が切那に、

「ねぇ、セツナちゃん、泊まるの?・・僕も泊まっていいと思うんだけど・・この家なんだか・・幽霊とかが出そうで・・少し心配なんだ・・」

            ※

「ああ、そうか・・泊まるのか・・ん、ソルも・・何!ソルも泊まるだとぉぉ!おい!セツナ・・それって一体どういう・・あ、ちょ・・ちょっと待て!」

明がテレビのニュース番組を観ながら、(もう先生たちの会合は終わって家に帰って来たらしい。)

「どうしたの?・・セツナ、泊まってくるって?」

天輝が受話器を戻しながら、

「ああ、そうみたいだな ・・くそっ、ソルも泊まるってよっ!」

「ん?何か言った?」

「いえ、なにも・・それより・・何も起きなきゃいいけどな・・、まぁ、ガイ達が居るから大丈夫か・・・」

そう言うと天輝は、切那達が居る山の方に眼を向けた。

「・・雨が降りそうだな・・・」



                  ※ 

「いや~、ホント嘘みたいだわ~、なんだか、もっとセツナと仲良くなれた気がする~」

切那は今、凛の部屋に居る。

「・・前から、ずっと仲良し・・」

切那が少しだけ恥ずかしそうに呟く・・

「えっ?、あ・・ちょっ、セツナ!もう一回言ってよ、よく聞こえなかったよ?」

切那はそっぽを向いた。

「あ~もぉ~、冗談だって、じょ・う・だ・ん・♪、ちゃんと録音したから」

と言いながら、携帯電を軽く振っている・・・えっ?録音?・・。

凛の部屋は、かなり片付いていて(部屋に入るのに、襖の前で二十分くらい待たされたが・・)ベットがあり、小さな丸テーブルが部屋の真ん中に置いてある・・本棚にはバスケット関連の本がほとんどで、漫画は、有名なバスケットボールの漫画があった、本の傷み具合を見れば、大事に何回も、何回も繰り返して読んだのだろう・・化粧品やら、服やら、靴はそんなに持っていないようだ・・どちらかと言うと、男の子の部屋と言っても誰も気が付かないのではないだろうか・・かろうじて区別できる物は、部屋の隅、ハンガーに掛けられていた今通っている、私たちの学校の制服くらい・・(極端な話、スカート類は、制服ぐらいだったような・・凛の服を全部見たわけではないから、何とも言えないが・・恐らくあまり、持っていないのでは、ないだろうか・・・私もあまり人の事は言えないけれど・・)

それから凛とは、何気ない会話をした・・学校の授業の話、嫌いな先生の話、現代社会の佐藤先生の話・・・、

「そう言えば、あの先生の言ってた事って、本当だったんだね・・」

「・・うん」

「いや~流石の私も、少し疑っちゃってたけど・・と言う事は、二十年前の戦争に、お父さん達と参戦していたって事か・・」

「・・確かにそうなる・・どんな力を使えたんだろう?」

「まぁ、そう言う事は後でいくらでも、お父さん達に聞けるよ」

「・・確かに・・・そう・・」

「よし!・・いい時間帯だし・・晩御飯を一緒に作ろう!」

・・あ、たしかそんな事を言っていた気がする・・凱さんの話ですっかり忘れていた・・なんだか緊張してきた・・

「セツナ!大丈夫だよ・・このあたしが付いてるから!きっと大丈夫♪」

・・まるで人の心の中を、読んでいるみたいだ・・私も出来たっけ?・・

「・・う、うん」

切那は、かなり自信が無さそうだ・・凛は立ち上がりながら、

「さぁ!台所にレッツ・ゴー!」

「・・ぁ、・・おぉ・・・」

                  ※

 ここは幸の部屋だ。二人はご飯が出来るまで暇なので雑談をしていた。

「なぁ、ソル」

「ん?何?・・どうしたの?」

「俺達に出来るのかな・・」

幸は珍しく真面目な顔をしていた。

「えっと・・何が?」

「だから、宇宙人達と戦うってことだよ・・」

「・・・さぁ・・でも僕たちがやらないといけないんだったら・・僕は戦うよ」

幸がしばらく、祚流の顔をジッと見つめる・・・・。

「えっ・・ど、どうしたの・・何か顔に付いてる?」

「いやぁ、意外としっかりしてるんだなぁと思ってさ・・」

「えぇ~、意外とって、そりゃ酷いよ」

祚流の顔が怒っていた・・頬が膨らんでいる・・それを見て幸が、

「あはは、冗談だよ・・いや、凄いって思ったんだ・・俺はまだ、ウジウジ悩んでいたんだけどさ・・俺なんかで・・大丈夫かなって・・」

ここは、幸の部屋・・祚流と幸が、おしゃべりをしている・・部屋にはピアノの楽譜が本棚にズラリと並んでいる・・部屋の隅にはキーボードが置いてあってヘッドホンが上に置いてある・・夜中も練習をしているようだ・・まぁ、女の子の部屋と言ってもいいかもしれない・・制服は無造作に脱ぎ捨てられている・・ここら辺は雑かも・・

「ねぇ、コウ君・・制服はハンガーに掛けてた方がいいよ・・」

「んん?・・あぁ、すまね、いつもの癖だ・・」

そう言うと幸は制服をハンガーに掛けた。

「あ~、でも僕もやっぱり不安かな・・お父さん達でギリギリだったんだよね?・・だったらそんな敵と戦えるのかな?」

「おいおい、さっきの勢いは何処に行ったんだ?ソルらしく無いぞ!」

そう言いながら、幸が祚流の頬っぺたを引っ張る・・。

「い、痛ったたたった・・な、なりふるんらよ~!」

「よしよし、ソルらしくなったぞ!・・ぷっ、はははあっはっは!」

「ひ、ひどいよ~・・」

祚流は左手で、幸に引っ張られたところを、さすっている・・ちょっと赤くなっている・・。

「やっぱり、悩んでいたってしょうがないよな?俺達に出来ることをする・・とっても簡単なことだ・・流石ソル、だな」

「えっと・・あ、ありがとう・・」

・・う~ん、今僕、褒められたんだよね?・・・たぶん・・・。

「さっき、コウ君のお父さんがさ・・修行って言ってたじゃん?」

「うん、そうだけど・・それがどうかしたか?」

「どんな事をするのかなって思って・・・・」

・・分からない・・一体どんな事をするのか・・やっぱり修行って言うくらいだから・・大変だよね?・・僕に出来るのかな・・心配だなぁ・・。

「あぁ、そうだなぁ~・・・ん?、そんなに不安そうな顔をするなって」

「・・でも・・僕に出来るのかなって・・」

「なんとかなるって!・・俺とリンもまだ、完璧には出来ないけど、少しくらいならアドバイスとか出来るから・・一緒に頑張っていこうぜ?何も一人でやれって訳じゃないんだ、俺やセツナさん、リンも一緒だ、だから何も問題無いだろ?だから、そんな顔するなよなっ!」

「・・そ、そうだよね!みんなと一緒にするんだから、何も問題ないや」

・・幸くん・・今、とってもいいこと言ったよ・・

・・うん・・そうだ・・僕は一人じゃない、なんとかなるさ!・・

「よし!・・明日から頑張るぞ!」

「おう!その調子だ!」

              ※

「あ、お母さん、カレーの具材とかってある?」

「ん、あるけれど、どうしたの?」

「いや、今日の晩御飯・・セツナと一緒に作りたいなって思って・・」

「まあ、手伝ってくれるの?・・ありがとう」

切那は少し慌てて、

「い、いえ私に出来ることがあるのなら、と思って・・」

「あ、お母さんは手伝わなくていいから、私と、セツナに任せて」

月はしばらく考えていたが、すぐに、

「そうね・・そこまで言うのなら、任せましょう・・セツナちゃんお願いね?」

「は、はい・・よろしくお願いし、します」

・・この人はどうしてこんなに、綺麗なんだろう・・何と言うか・・雰囲気が普通の人と違うと言うか・・オーラが違うと言うか・・

どうして凱さんと結婚したんだろう・・

まぁ・・そうじゃ無かったら凛と幸には会えなかったんだろうけれど・・。

「どうしたの?セツナ?顔が赤いよ?」

「べ、別になんでも無い」

「ふ~ん、ならいいけど・・」

そう言いながら凛が刹那に紺色のエプロンを手渡す。

「はい、これ使って、そこらへんにあったやつだけどまぁ、使えると思うから」

「・・うん」

切那はそれを黙って着た、

・・どうか昔のようになりませんように・・・

・・無事にカレーが出来ますように・・・

「よし!それではカレーを作ろう!」

「・・・お・・ぉぉ」

「えっと・・まずは・・野菜を洗おう!・・セツナ、ジャガイモとニンジンを洗ってて・・私は白ご飯を準備するね」

「・・分かった」

切那は、ジャガイモとニンジンを洗った・・

・・そう言えば、こうやって野菜を洗うのって、とても久し振りな気がする・・いつもご飯は、お父さんが作ってくれていたから・・

・・もっと手伝わないといけないかな・・このカレーが成功したら・・私が、今度はお父さんとお母さんに作ってあげよう・・

・・何も起こりませんように・・・

               ※

「なぁ、ソル」

「ん?どうしたの?」

「今日の晩飯・・カレーだってさ」

「ふ~ん、カレーか・・そう言えば最近食べて無かったな・・なんだかいつもは良く分からない魚料理が、少しだけ出て、その後に、あまり焼けていないお肉が出たりするんだけど・・カレーライスの方が絶対いいよね?あっ、でもデザートのアイスクリームはとっても美味しいけどね」

幸が恐る恐る質問をした。

「・・・それって、何の肉だ?」

「・・えっと・・確か・・国産黒毛和牛だったかな・・ごめん、あんまり覚えてないや」

幸の口が、ポカンと開いていてすぐ不機嫌そうに口を尖らせ、

「へっ、どうせ俺達の飯なんて、一般庶民の味だよ・・オフクロの味、家庭の味をなめるなよ!」

「・・えっ?あ、うん・・」

「ちっ、こいつに言っても無駄だったか、まぁいいけどよ、ソルだから許してやろう」

「あ、ありがと」

祚流には、幸がどうして怒っていたのか分からなかった。

「ところでさ、今日のカレーなんだけど、なんと!セツナさんが作るらしいのだよ!やったぜ、これはもう一生に一度あるかないかの確立だぞ!この二、三日で俺は、人生の半分以上の運を使ってしまったようだな!」

幸のテンションがいつもの三倍くらい、高い。と言うより少しメンドクサイ。

「へ~、そうなんだ、僕も何か手伝おうかな?」

「ソルよ、お前は何もせずにここでジッとしているんだ、なんたって客人だからな、俺が手伝ってくるよ、きっと人手が要るだろうから、うん」

「・・う、うんじゃあ、ここでジッとしてるよ」

「よ~し!じゃぁ、ちょっくら台所に行って来るわ!」

そう言うと幸は、勢いよく部屋を出て行った。

部屋の外を見てみると少し暗かった、どうやら、雨雲が近づいているらしく、遠くに見える山の山頂辺りに黒い雲がマフラーみたいに巻きついていた。

・・あ、これ絶対に雨になっちゃうよね?・・今日は幸君家に泊まって正解だったよ・・さっきこの家を出たとしても、まだ山を抜けていなかっただろうから・・雨の降っている山の中なんて、あんまりそこに居たくないよね・・土砂崩れとか起きそうだし・・・熊とか出てきそうだし・・・

そうこうしていると、幸の部屋のドアがゆっくり開き、さっきのテンションとは全く逆のオーラを放つ幸が、立っていた・・・。

「えっ、ちょっ、え・・ど、どうしたの?」

祚流が恐る恐る、聞いてみる・・・。

「・・いや・・リンの奴に、おもいっきり殴られた・・・まぁ、そこはいいんだけどよ・・いつもの事だから・・それよりも、セツナさんが・・」

そして黙り込んでしまった幸。

「えっと・・セツナちゃんがどうしたの?」

「『こっちに来ないで』だって・・・終わった・・俺の人生、終わってしまった・・もう駄目だ、生きる理由を失ってしまった・・・」

そしてそのまま、部屋の隅に体育座りをしてしまった幸・・・眼が死んでいる・・。

・・えっと・・どうしたらいいのかな?・・・

祚流は、首を傾げる。

・・困ったなぁ~・・・えっと・・・

「ま、まぁ、セツナちゃんにも何か、それなりの理由があったんだと思うよ?」

幸はピクリとも動かない・・

・・あぁ、えっと・・・・

「も、もしかしたら、何かのサプライズがあって、それを見られたくなかったとか!」

「・・さぷらいず?」

幸が少しだけ、顔を上げた・・。

・・あ、やっとこっち向いてくれた・・よかったぁ・・

「そ、そうだよ!きっと何かあるんだよ!きっと!」

「う~ん、そうかなぁ~」

「そうだよ!きっとそう!」

必死に説得する祚流。

「そうか・・な?」

・・あともうひと押し!・・

「うん、そうだって!」

「そっか!そうだな!」

いつもの幸に戻ってきた・・

「楽しみに待っていようよ?」

「よっしゃぁぁぁぁぁ!」

・・ふう・・

・・そう言えば、切那ちゃんが今までに料理作ったことってあるのかな?・・家で作ったりとか・・・あ~、でも、切那ちゃんのお父さんが料理うまいから、手伝ったりとかは、してたんだろうけれど・・・ちょっと楽しみだなぁ。・・

それとなく、幸と雑談をしていたら、凛が二人を迎えに来たようだ。

足音が近付いてくる・・。

幸の部屋のドアをノックする音が聞こえ、

「ちょっと、二人とも、晩御飯出来たよ~、早くこっちに来てよね~」

             ※

ここはどこかの部屋の中、マントのようなモノを被った人物(?)が皇帝か、王様が座りそうな椅子に座っている。

部屋の中は、相手の顔をギリギリ判別出来るか出来なかくらいの明かりだ。

「ふん・・そうだな・・セツナ達は今、何処かの寺に居るのだったな?」

椅子の少し離れた、正面にマントを被っている人物(?)が跪いている。その人物(?)が答える。

「はっ、その様です・・どういたしましょうか?」

「・・そうだな・・一回お前は失敗しているからなぁ・・ミカヅキ?」

「はっ、も、申し訳ございません・・今度は必ず仕留めて参ります」

ゼロは少し首を傾ける。

「さて・・どうしたものか・・・まだ力を測るだけだから・・殺しはしなくていいが・・・あの死んだ目つきの銀髪が許しはしないと思うな・・」

すると、ミカヅキの後ろに誰かの気配が・・・・。

「ゼロ様、今度は自分が作戦を遂行してきます」

「ん・・ああ、カゲロウか・・作戦?何かいい案でもあるのか?」

「お任せを!」

そう言いながら、カゲロウと呼ばれた人物(?)は頭を下げる。

「ふっ、そうか、なら任せよう、なるべくセツナの力を引き出してくるのだ」

「・・消さなくてよいのですか?・・恐らく我々の脅威になるであろう、火種は消しておかなければならない、と思われるのですが・・」

「・・まぁ、その内に消すと思うが・・今はまだ、その時期では無いのだよ、そんな事は、考えなくていいのだ」

「はっ、了解です」

カゲロウは、何処か府に落ちないようだ・・。

「フフ、いい結果を待っているぞ?」

「では、必ずや、いい結果を持ち帰って参ります」

そう言うとカゲロウの気配は既に無く、その部屋にはミカズキとゼロ以外誰も居なかった。

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