第8話・・銀色とオレンジ

 六月になった。雨が降っている、やっと梅雨らしくなってきた。

雨の中を、傘を差して学校に向かっている姿が見える、切那だ。

「セツナちゃん、おはよう!」

祚流だった。青色の傘を差している。

切那は、少しだけ、祚流の方を見て、

「・・おはよう」

祚流が、何故か驚いた顔をしている、

「あ・・」

「どうしたの?」

「いや、いつものセツナちゃんだったら・・無視するんだけど、返事が返ってきたのって、久しぶりだったから・・」

「・・そう?」

「そ、そうだよ、いつも、冷たいん・・!」

切那が、祚流がすべてを言い終わる前に、祚流の腹に、肘鉄を喰らわせた・・。

「ぐふっ、けほっ、ひ、ひどいよ~」

切那は、前を向いていた、

「ユウラは、大丈夫?」

「う、うん明日、家に帰れるんだ・・」

祚流の声に少し元気が無くなる・・。

「・・そう」

話していたら、いつの間にか学校の校門が見えてきた。

                 *

切那達は、クラスに入って行った、生徒達の会話が聞こえてくる、

「佐籐先生がさ、言ってたことって、ホントなのかな・・?」

「嘘には思えないけど・・」

「でも、信じられないんだよな・・」

「どういう事なんだろ・・?」

「分かんないよ」

「宇宙人に会ってみたいなあ」

「お前、アホか!」

「会って、どうするんだよ?」

「いやぁ、友達になるとか・・」

「ムリムリ、絶対無理」

「そうかなぁ・・」

「そうだろ」

「あっ、魔女だ」

「ホントだ

切那に視線が集まる・・がすぐに視線が無くなった。

「宇宙人って、魔女だったりして・・・」

「ありえる、それ!」

「アンドロイド、ってやつか・・」

「だって、あの髪、だもんな・・」

すると祚流が、

「みんな!・・・何言ってるんだよ!・・セツナちゃんが、宇宙人なわけないだろ!セツナちゃんは、れっきとした、人間だよ!」

クラスのみんなが、驚いている。

「あ、あぁ悪かったよ・・」

「なに、誤ってんだよ」

「おい、ソル、いつから、魔女の味方になったんだ?」

「だって、みんなと違うだろ・・?」

「そんなに、ムキになるなよ・・冗談だよ」

「ソルのくせに、生意気だぞ」

どうやら祚流は、本気で怒っているようだ。拳を握りしめていて肩が小刻みに震えている。

「冗談でも、言っては駄目なことがあるじゃないか!」

それを見て、切那が、

「・・別に・・・いい」

そう言うと、自分の席に着いた。

「そんな、別に・・いいって・・良くないよ・・」

切那はクラスの生徒たちに、感情のない眼を向ける。

「・・・・・」

クラスの生徒の動きが止まる・・・切那は、窓の外に眼を向けた。

祚流が再び、

「ほら、みんな、ちゃんと、セツナちゃんに誤ってよ!」

黙り込む、クラスの生徒たち・・・唐突に、授業開始のチャイムが鳴った。鳴ったのと同時に、現代文の先生が教室に入ってきた。さっきの出来事は、何も無かったかのように、授業が始まる。

             *

今から、お昼休みだ。祚流は、鞄から弁当を取り出し、切那の席に近づく。

「セツナちゃん、食べよう」

切那は少しだけ、祚流の方を向き、

「・・別に・・・」

そして麗も、

「あ、私もいいですか?」

「・・うん」

祚流が、弁当を広げながら、

「全く、酷いよね・・みんな・・セツナちゃんこと宇宙人だなんて」

麗がうなずきながら、

「そうですよ、あんまりですよね?」

切那は何故か、自分の弁当の中を見て、動きが固まっている。

それを見て祚流が不思議そうに、

「どうしたの?」

ゆっくりと、切那が顔を上げる・・。

「・・これ・・」

そう言うと、刹那は祚流に弁当を差し出す。

「何・・?」

弁当の中には、ご飯と大量の醤油漬けにんにく、が入っていた。

・・しばらく言葉が出ない三人・・・。

すると、教室のドアが二つ同時に開き、

「ソル、飯食おうぜ!」

「セツナ、食べよう♪!」

祚流がやっと声を出す、

「すごいね・・」

そして、二人同時に、

「・・なんだか、ニンニク臭いな?」

「・・なんだか、ニンニク臭いよ?」

           *

「それで、お父さんが朝勤めだったから、お母さんが代わりに作ったって事?」

「・・そう・・」

切那は、なんとか、ご飯だけ食べた・・。

凛が、ミートボールを食べながら、

「自分で作ればいいじゃない?」

切那が、少し顔を赤くして、(ホントに少しだけ・・)

「・・つくれない・・」

凛が、意外だ・・と言わんばかりに、

「・・えっ、そうなの!・・どうして?」

                   ※

切那が、小学二年生くらいの時、テレビでやっていた、料理番組のカレーライスを作ろうと思い、包丁を握った・・。何故作ろうと思ったのか、思いだそうとするが、なんだか、とても恥ずかしいような気がしたので、思い出さないようにしている・・。

ちょうど、日曜日だったので天輝も家にいて、

「おお、セツナが昼飯作ってくれるのか・・、楽しみだな」

そう言いながら切那の頭を撫でた。

「うん!頑張る!」

「もし、出来ないところがあったら、手伝うぞ」

切那は、ハニカミながら、(物凄く、可愛かったな・・)

「だ、大丈夫だよ、台所には入らないで!・・」

天輝は、デレデレしている。(親バカである・・)

「そうかぁ、よぉし、セツナを信じよう。」

切那は、満面の笑みで、

「うん!」

そう言うと、切那は台所に向かった。

天輝が切那の後ろ姿を見ながら、

「・・しかし、何故、作ろうと思ったのか・・・」

天輝しばらく考えて、

「まさか、好きな子が出来た・・とか・・」

台所から、何かを切っている音が聞こえてくる・・、

トントントントン、ズバッ、・・・パリンっ、・・・ガッシャン!

天輝が、椅子から立ち上がり、

「おい、セツナ・・大丈夫か・・?」

台所の方に向かう・・。

「セツナ?」

切那が、包丁を片手に持ち、うつむいている・・。

天輝は、不思議に思った・・、いつも見慣れたはずの台所が、嵐の後のように荒れていたのだ・・。所々に何かで切られたような傷があり、まな板が、二つに割れている・・、

「どうしたんだ?」

切那は下を向いたまま、何も喋らない・・。

「・・何が起こった・・?」

すると、切那がいきなり泣き出した、

「うっ、・・ひっく、・・」

天輝が、慌てて、

「ど、どどうしたんだ?・・お、落ちつけ」

天輝は、切那に泣かれると、ホントに、何も出来なくなる、どうしたらいいのか分からなくなり、パニック状態に陥ってしまうのだ・・。

「・・う、うわぁ~ん!」

天輝は、ほとんど役に立たない・・(しょうがないだろ・・)

「よ、よぉし、よし、落ちつけ・・俺も落ちつけ・・、ど、どうしたんだ?」

切那は涙で顔を濡らしながら、

「・・手が・・」

「ん、手がどうした・・?」

「・・すべっちゃった・・」

                   *

「それで、セツナが泣いたの?」

明が家に帰って来た、明は今日、空手の大会に出場していたのだ、

切那はもう、寝ている。

「たぶん・・剣術のナイフ・・ソラから習ってただろ・・それで体が勝手に反応したって言うか、何と言うか・・・」

「包丁を、ナイフと勘違いねぇ・・・」

明は、何か考えているようだった。

「ま、まあ、無意識にやったんだから・・仕方ないよな・・」

「・・・・」

明が、珍しく黙り込んだまま、何も話さない・・。

「・・どうした・・?」

明が、顔を上げ天輝の顔を見る、

「やっぱり・・早かったのかも・・戦闘の訓練なんて・・」

天輝の表情が暗くなる・・。

「それは、前にも話しただろ・・」

「でも・・やっぱりセツナには、普通の女の子として暮らして欲しいの」

「・・確かにな・・俺も、好きでこんな事をやらせている訳じゃあ無い」

「あなたが、言いたいことは分かるんだけど・・でも・・」

「お前の言いたいことも、分かる・・だが、確実に奴らは、また攻撃を仕掛けてくる、間違いない・・たとえ十年後でもな」

「セツナ達の時代まで、戦争にならないのが、いいんだけどね・・」

天輝がお茶を啜りながら、

「俺が、あの時、アレを、倒しておけば・・・」

明が首をゆっくり横に振りながら、

「あなたも、ソラさんも、みんな頑張ったじゃない、その話も前にしたでしょ?

だからもう、後悔しても、何も変わらないのよ、今ある事実を受け止めるしかないの・・」

「・・ああ、そうだった・・すまん・・」

明が話題を変える、

「それで、昼ごはんは、どうなったの?」

「結局・・俺が作った・・」

「そっかぁ、いつかセツナとご飯作りたいな・・」

「そうだな・・いつか、な・・・」

それ以来、切那は包丁を握ろうとしない・・・、もう作れるはずだが、勇気が出ないのだ。

・・無意識が一番怖い・・。

              ・・回想終了・・

「・・セツナ・・どうしたの?」

凛が心配そうに尋ねてくる・・、

「・・何でもない・・」

「そう?」

「・・うん・・」

凛はしばらく黙り・・唐突に、

「そうだ!今度家に遊びに来なよ?」

「・・・家?」

「そうだよ!・・ソルも呼んでいいし」

・・凛が、ニヤリと笑う・・。

切那は、何故祚流も?・・と思ったが、

「行っていいの?」

「もちろんだよ!」

切那は、少し迷っているようだったが、

「・・そうする・・」

「一緒に、ご飯を作ろうよ♪」

・・・やっぱり、少し抵抗がある・・・でも・・・。

「・・うん」

           *

「リンちゃんの家に行くの?」

祚流が、鞄に荷物を詰めながら聞いてきた。もう放課後だ。

「・・そう・・」

「偶然だね、僕も、コウ君の家に行くんだ・・。」

切那は、少しだけ祚流の方を向き、

「同じ家・・」

祚流が笑いながら、

「はは、そうだよね・・ホントにタイミングが同じだ・・」

切那も、鞄に荷物を詰めている、

「お寺・・言ったこと無い・・」

「うん、僕もだよ・・確か・・今度の土曜だったよね?」

「・・そう・・」

「それじゃあ、いつもの駄菓子屋さんの、前で十時に集合って事で」

「・・一緒に行くの・・?」

・・べ、別にいいけど・・・

「うん、なんだか一人じゃ、心細くって」

切那は少しだけ、ガッカリしたが、

「・・分かった・・」

「じゃあ、僕、これから部活があるから、今度の土曜日ね」

「・・うん・・」

そう言うと、祚流は教室を出て行った。

「・・土曜日か・・」

切那は、教室を出ると、玄関に向かった。今日は、木曜日だ。

・・・よく考えてみるけれど、私はどうして、ガッカリしたんだろう・・?祚流と一緒に行くのはいいけれど、何故、ガッカリしたのか?・・分からない・・。

「その内、分かるんじゃない?」

「えっ?、ああ、白銀」

いつの間にか白銀が、近くの塀の上を、歩いていた。もうすぐ公園の近くだ。

切那達は今、路地を歩いている。

「あたしも、行こうかしらぁ・・」

白銀の尻尾がゆらゆら、揺れている・・。

「何処に?」

白銀は欠伸あくびをしながら、

「ガイの家」

「ガイ?」

「そうよぉ、しばらく会ってないのよ」

近くに人の気配は、無くなっていた・・もうすぐ、いつもの公園だ。

「お父さん達の、仲間の一人?」

「そう、いつもは、だらん、としているけれども、やるときは、やるってタイプねぇ」

「どんな力を持っているの?」

「そうねぇ・・・口で説明するより、実際に見た方が速いわねぇ、あれは」

「・・そう・・」

とその時、

『プシュっ』

「・・?・・」

白銀が首を傾げ、

「どうしたの、セツナ・・?」

「なん・・でもない・・」

切那は何気なく右の頬に、手を当ててみる・・。血が手に着いていた・・。

「・・これは・・?」

白銀の眼つきが変わり、

「セツナ!・・敵よ!」

切那より、十メートルくらい先に誰かが立っていた。人のようだが、仮面のようなものを被っていて、表情が読めない。黒いコートのようなものを着ていて、その上から、防弾チョッキのようなものを、身につけている。

・・男?・・

いや、それも分からない。

背中には大きな剣を背負っている。剣の先っぽに半円がくっ付いた刀だ・・、西洋の刀だろうか、むしろ、RPGのゲームに出てきそうな武器だった、腰にも一本、細身のレイピアのような、武器も下げている。

手には、腰にある武器と同じ、レイピアを握っている。

・・こいつは、ヤバい・・。

切那は直感的に、そう感じた。

よく、手に持っている武器を見てみると、血のようなものが付いている。

・・・まさか・・あれで切られた?・・いつ・・?速すぎて何も感じなかった。ホントに何も・・・これが急所だったら・・・いつでも殺せたってこと・・?

「・・誰?」

黒いコートの人物が、

「ふっ、この程度も、避け切れないか」

声は、電子音のような声で、性別がよく分からない(人なのかも分からないが・・。)

切那は、咄嗟に、半歩後ろに下がる。

「目的は・・何?」

その人物(?)は、切那に剣先を向けながら、

「セツナ、貴様を排除スル」

・・やっぱり、敵・・アンドロイド?・・ワンダーファントムだろうか?でも明らかに前に襲ってきた奴らとは、強さが違いすぎる・・・。

「くっ、白銀!」

・・負けるわけには・・・いかない・・絶対!

「分かったわぁ!」

白銀が、眩い光を放ち、剣になる、切那の両目が、しっかりと開いていて、前髪を髪留めで、留めている。

黒のコートの人物(?)は首を横に振りながら、

「無駄ダ!貴様では、私の速さに、ついて来られナイ!」

切那は、七支刀を構え直し、逆手に構える。

「・・やってみなきゃ、分からない・・」

「ふっ、では、行クゾ!」

十メートル先に、黒いコートの人物(?)は居たのだが、あっと言う間に消えた・・瞬きをした一瞬・・・本当に一瞬だった、別に気を、抜いていた訳ではない、文字どおり、消えたのだ・・。

・・目で確認できない!・・一体どこに?・・

「・・速い!」

頭の中で、白銀の声が響く、

〈セツナ!後ろ!〉

咄嗟に剣を、後ろに構える、黒いコートの人物がどこから現れたのか、切那の背後を取り、横に剣を薙ぎ払う、

『ガキンっ!』

なんとか防ぐことが出来たが、足で、全体重を踏んばることが出来ず、

あまりの力に、切那が前のめりに吹き飛んだ!

「くっ、凄い力」

〈次が来るわ!〉

吹き飛ばされている間に、いつ移動したのか、黒いコートの人物が、切那の飛ばされている、方向に立っていて、切那はどうすることも出来ず、黒いコートの人物(?)に、近付いて行った。

・・・まだ・・まだヤラレルわけには・・!

間一髪で、切那が体を捻り、攻撃をかわす・・が、無理に体を捻ったせいで、着地に失敗した。

体が地面に激突し、体に衝撃が伝わる。

「うっ、流石に冗談では、済まない気がする」

〈セツナ!大丈夫?〉

「・・なんとか・・」

『ガキンっ』

すかさず、攻撃をしてくる、黒いコートの人物。剣は地面に当り火花が散る。またギリギリで、切那が右横に転がり、かわしたのだ・・。

「今の攻撃を、避けたか・・」

「・・はぁ!」

今度は、切那が切りかかる、下から上に、七支刀を切り上げるが、そこに黒いコートの人物はいない、切那の攻撃は、空を切っただけだった。

・・まただ、眼を離していないのに、・・・消えてしまう。

「な・・?」

・・この距離で、避けることは、不可能なはず・・、でも現に、今、目の前で、起こってしまっている。

「・・遅いな・・」

『ズバっ』

切那は、右肩を切られた。

鋭い痛みが、伝わってきた・・血が服に滲むのが分かる・・痛い・・。

「くっ、ま、まだこのくらいで・・」

右肩を切られて、右腕に力が入らない・・。

・・・このままじゃ、・・ここで、死ぬの?・・こんなところで・・。

・・くっ、こ・・怖い・・死ぬのは・・怖い・・

黒いコートの人物が、

「もう、終わりだな・・そうだった、私の名前は、ミカヅキ、死にゆくお前に、冥土の土産だ・・」

そう言いながら、動けないでいる、切那に近づいてくる・・。

〈セツナ、頑張って!まだ、諦めたらだめ!、希望を捨てたらだめよ!〉

「これで、とどめだ!」

ミカヅキの、剣が切那に振り下ろされる、

まるで、時間が止まったかのようだった・・・振り下ろされる、レイピアがゆっくりと・・・・動いている、

はっきりと、剣の起動が見えている、真っ直ぐに振り下ろされる剣・・・

・・・あきらめたくない・・!

とその時、体の中の何かが弾けた感覚がする・・。

心臓の鼓動が、いつもより大きく聞こえた・・。

『ドクンッ!』

その時、切那の金色の左眼が煌めく。

「・・なんだ・・?」

ミカズキの動きが止まる、切那の左眼に、複雑な文様が浮かび上がる、六角形のような形だ、いやそれとも、星?それがグルグルと回っている・・。

切那は、七支刀を左手で、握り直している。

七支刀の形がいつの間にか、変わっていた、刀身の部分が光輝き、日本刀の形ではなく、刃が七つの枝のように分かれている・・

・・まさしくそれは、伝説の七支刀だった。

・・・この感じは・・力が湧いてくる・・自分の奥底に眠る何かが、目覚めたのだろうか・・そうだ、前にお父さんが、〈覚醒〉って言っていた。

「今さら、何が出来るのだ!」

そう言いながらミカズキが、切りかかって来る、物凄い速さで・・普通の人間では交わすことは出来ない・・が今の私は・・。

「・・見える!」

切那には、ミカズキの、次の動きが見えた・・見えた、というより相手の姿勢や剣の構え方、体の動き、力の流れ、それらから、次の動きを予測する、一秒にも満たない時間に。

・・・すれすれで、レイピアを避ける、そして切那が、七支刀を軽く右から左に横に振る・・。

「・・っつ!!!」

「・・何をしている?」

ミカズキが、後ろに下がる、

「その程度では・・・・!」

七支刀が、通った空間が歪んで、そこから眼には見えない衝撃波が、ミカズキに飛んで行った!

「何だと!」

衝撃波がミカズキに、直撃する、爆弾が落ちてきたような音がした。それこそ、耳のすぐ近くで、花火が炸裂したような・・音だ。

『ドッバァァァァン!』

・・・辺りに砂塵が舞い上がる・・。

「・・やった・・?」

切那は肩で息をしている・・。

・・・血を・・流し過ぎた・・このままじゃ・・いけない・・とりあえず血を止めないと・・。

切那は制服の袖を破り、傷口を縛った・・。

「・・痛っ・・」

・・・思ったより痛かった・・。

だんだん、視界が良くなってきた。

〈セツナ!まだ、いるわよ!〉

・・もう、動けない・・次の攻撃は、避け切れない・・。

もう限界だ、体力も、気力も・・・立ってるだけで、精一杯・・・。

砂塵が晴れる・・ミカズキは後ろに背負っていた大きな大剣で、攻撃を防いでいたようだ、剣を楯のように構えている。

「・・流石に、今のは、私でも避け切れなかった・・」

よく見てみると、ミカズキが、攻撃を防いでいたところ以外の地面が、巨人が大きなスコップで、掘ったように、えぐられていた・・その範囲は、切那の高校の校庭の三分の一位の広さだった・・・。

「・・・・」

〈・・この技は・・。〉

切那も、何が起こったのか、いまいち、理解できていないようだった。

「まさか・・これほど、とは・・、少々・・侮っていたようだ」

ミカズキの、被っていた仮面が割れていて、眼の部分が少しだけ見える・・。

額から緑色の液体が、一筋流れていた・・・膝を着いている。

切那は、薄れていく、意識をなんとか保ちながら、

「・・アンドロイド・・・?」

ミカズキは、立ち上がりながら、

「今回のところは、どうやら、私の負けのようだ・・」

ミカズキの眼は、青色の輝きを放っていた、

「・・だが、次に会うときは、貴様の命を貰う!」

そう言うとミカズキは、その場を去って行った・・・目にも止まらぬ速さで・・。

切那が、七支刀を支えにして、膝を地面につける・・。

「・・はあはあ、もう・・動けない・・」

なんとか、ふらつく足を動かしながら、近くにあった、ベンチに倒れ込むように座る、

白銀がいつの間にか、切那の横に座っていた・・座っているというより、だらんと寝そべっている・・。

「・・危なかったわねぇ・・・」

そして、切那はあることに気が付く、

「この・・穴、どうしよう・・・」

         ※

「全く、どうして、そんな無茶するのよ!」

「・・・・痛っ」

明が、切那の腕に、包帯を巻いている・・ここは、切那の家だ。

「・・・死ぬかと思った・・・」

明が、微笑み、

「・・バカねぇ・・・・・泣いて、いいのよ?」

切那は、しばらく無表情だったが、

「・・お母さん・・私・・まだ、生きてる・・」

切那の頬に一筋の、滴が流れる・・。

「そうよ・・、心配したんだから・・」

そう言うと、明は、切那を抱き寄せる・・・。

・・・後から、後から、どんどん涙が流れてくる・・・どうしよう・・全く止まらない・・怖かった・・・本当に、死んでしまうのではないかと・・・もうみんなに、会えないのではないかと・・・。

・・もう絶対に、泣かないと決めたのに・・・。

                    ※

 切那がまだ、小学校三年生の頃、本人は気が付いていなかったが、あの金色の左眼は、人の心が読めてしまう・・・自分の意志とは関係無しに・・今は、ちゃんとコントロールが出来るが・・。

「セツナちゃん、遊ぼう!」

「うん!」

切那は、まだこの時、性格は明るかった・・。

数人の女の子たちと、いっしょに、ブランコに乗って遊んでいる。

そして、会話と同時に、相手の心の声が聞こえてくる・・・。

三つ網の子が

「セツナちゃん、何して遊ぶ?」

【どうして、お母さんは、セツナちゃんと、遊んだら駄目だって言うんだろう?】

違う女の子が、

「縄跳びしようか?」

【この髪の毛の色どうして、私たちと違うのかな?】

切那が笑いながら答える。

「えっとね・・生まれつきだよ?」

女の子が、驚く、

「えっ?」

切那はまた、

「それとね、あなたの、お母さんがどうして、私と遊んだら駄目って言うか、私も分からないけど・・今一緒に遊んでいるよね?ありがとう!」

三つ網の子が、

「私・・そんなこと言ってない」

「わ、私も・・知らない・・ねえ、あっち行こう?」

「そ、そうだね・・」

そう言うと、女の子たちが、教室の方に走って行ってしまった・・。

「あっ、待って!」

切那は後を追いかける、ちょうど職員室の前を通った・・。

【ほら、見て・・あの子よ・・・】

【ああ、ホントだ・・銀色の髪の子ねぇ・・。】

すると廊下の反対側から誰かがやって来た・・五年生の担任の先生だ。

その先生が、話しかけてくる、

「セツナちゃん、どうしたんだい?そんなに慌てちゃって?」

【しかし、気味が悪い子って、本当なのか?普通の子に見えるが・・。】

「先生、気味が悪いって・・どういう意味ですか?」

「えっ、ど、どうしたんだい?いきなり」

【ど、どういう事だ?・・偶然だ、そ、そうこれは、きっと偶然。】

切那が首を傾けている、

「グウゼン?」

酷く男の先生は、たじろいでいる・・。

「あ、そ、そうだ、先生はちょっと、用事があったんだ・・、じゃあね」

【心の中が、読まれているのか?・・はは、まさか・・そんなこと。】

切那が、何の曇りも無い笑顔で、

「そうだよ?」

            ※

切那は、不思議に思っていた。

・・・どうしてみんな・・私のこと見ると、怖がるの?・・みんなだって、私の心の声が、聞こえているはず、なのに、みんな心の声が聞こえるんじゃないのかな・・・?

もう学校の授業はすべて終わり、今から下校の時間だ。

切那は、女の子のグループの所に行き、

「ねぇ、なに話してるの?」

さっきまで、楽しそうに話していた、女の子たちの動きが固まる。

「どうしたの?」

女の子の一人が、

「な、何でも無いよ・・」

【・・みんな、セツナちゃんのことが、怖いって言うけど、私・・よく分からないなぁ・・。】

違う女の子のが、

「そ、そうだよ・・」

【さっきまで、セツナちゃんのこと、話してたなんて、言えないよ・・。】

切那はにこやかな、笑顔で、

「私のこと、話していたの?」

とその時、突然一人の女の子が、泣きだした。

「・・うわぁーん!」

切那が困った顔になり、

「どうしたの?・・お腹が痛いとか?」

女の子たちが、身を寄せ合って・・・どうやら震えているようだ・・。

「セツナちゃんは、怖いのよ・・」

「怖い?・・」

切那は首を傾げる・・

「どうして、口に出してないのに、考えていることが、分かるの?」

切那は当然だと言わんばかりに、

「・・普通・・でしょ?」

「普通じゃないよ!・・。」

切那の顔から、笑顔が消える・・・。

「みんなは・・・心の声が聞こえないの?」

女の子たちが、後ずさる・・。

「やっぱり、魔女だったんだ・・」

【・・・魔女・・】

【・・こ、怖いよ・・】

【髪の色だって、違うし・・】

【魔女って・・子供を食べちゃうって聞いたことが・・・。】

切那は、泣きだしそうな顔になって、下を向いた・・そして小さい声で、

「・・・じゃ・・ない・・もん」

女の子の中の一人が、

「・・な、なに?」

切那がゆっくり、顔をあげる前髪は左眼を隠している・・・。

「魔女じゃ、ないもん!」

突然、風が吹き、前髪が、舞い上がる、そして隠れていた左眼が露わになり、切那の左眼が、金色に輝いていた・・。

切那は、その場所から、駈け出した。

                  ※

切那は、いつもの堤防の土手に腰を下ろしていた。もう、日が沈みそうで、太陽は、半分くらい、地平線に隠れている。オレンジ色の光が、辺りを照らしていた。まるで、世界がオレンジの色に染まったかのようだ・・。

太陽の光が川に反射して、キラキラ輝き、・・・光が揺れている。

それを見ながら切那は、体育座りをして、何かを考えているようだ・・。

・・・私・・・普通じゃないの?・・・

さっきの会話を思い出すと、なんだか目頭が、熱くなって・・・鼻の奥がツンとしてきた・・・。

・・・魔女・・・なのかな?・・でも魔女って・・・よく昔話に出てくる魔女は、悪いことばかり、している・・・

・みんなから・・嫌われている・・・、

・・嫌われている?・・

・・私は嫌われている?・・

・・そうなの?・・・誰か教えてよ・・・、

・・私は、悪いことをしたの?・・前に、お父さんから言われたように、ずっと笑顔で話していたのに、笑ったら、お友達が増えるって言ったのに・・

・・逆にどんどん減っていったような・・・。

後から後から、涙が流れてくる・・。

「・・イヤだよぉ・・一人は・・嫌だぁ・・・」

とその時、ふいに声をかけられた・・・。

「あっ、やっと見つけた!」

切那は、この声には聞き覚えが無かった(たぶん、忘れているだけだと思うが・・。)

「・・誰?・・」

この堤防は、見晴らしがいいので、向こうから、誰が来るかも大概分かる、二〇メートルくらい離れたところに、同い年くらいの男の子が、こちらに走ってきた、そしてあと、切那との距離が、五メートルくらいのところまで来て・・・男の子が石に躓(つまず)き、転んでしまった・・。

切那は、その光景を見て・・自分が悩んでいたことなんか、すっかり忘れてしまっていた・・・と言うより、呆気にとられた・・。

「・・・・・」

転んだ男の子が、ゆっくりと起き上がり・・、

「ぐっ・・・い、痛くない・・・い痛く、ない・・痛・・いよぉ」

・・・泣き出してしまった・・・。

しばらく、その光景を眺めていたが、切那は仕方なく、立ち上がり・・傍に近づいて、声をかける。

「・・大丈夫?・・」

「・・ひっく、う、ひっく、だ、大丈夫・・」

切那が、男の子の、目の前にしゃがみこみ、

「・・男の子だったら・・泣いちゃ、駄目って、誰かが言ってた」

男の子が鼻水と、涙でぐちゃぐちゃになった顔で、切那の方を向き、

「お、男の子だって、い、痛けりゃ、ひっく、な、泣いちゃうよぉ・・」

切那の体が小刻みに震えている、切那は堪えていた感情を、とうとう堪え切れずに、

「・・・ふふ、あはっ、あっはははははは!」

突然、お腹を押さえながら、笑いだした・・・。

・・たしかに・・そうだよねぇ?痛いと、涙が出てくるもん!・・

・・笑っちゃ駄目かもしれないけど、笑った方がいいよね!・・

・・ずっと泣いてちゃ、駄目だよ・・・きっと!・・

この男の子にとっては、迷惑なことで、痛くて泣いているのに、目の前の女の子は笑っている・・・・それも、自分が転んでしまったことに対して?・・・なのだろうか・・まぁ、どちらでもいいか・・。

「あ、ははっはははは!ひっく!」

つられて、男の子も笑ってしまった・・・痛いけど、笑ってしまった。

本当に痛いのだけれど・・。

ひとしきり、笑ったところで切那が、

「・・私・・セツナ・・」

男の子も、だいぶ落ち着いたようで、

「僕は、ソルって言うんだ・・」

「私に、何か、用があったの?」

「えっとね、あっ、忘れるところだった」

そう言うと、祚流が、ポケットから何かを取り出し、それを刹那に差し出す。

「これ、図書室に、忘れていたよ?」

切那がそれを受取る・・・そう言えば・・今、無いことに気がついた。そしてあることにふと、気が付く。

「どうして、私のだって、分かったの?」

祚流は当たり前だ、と言わんばかりに、

「だって、いつも、つけてるじゃん」

切那は、それを頭につけた・・。

「これ、お父さんとお母さんが、くれたの」

「そうなんだ、とても似合っているよ?」

切那は、少し驚き、

「そんなこと、言ってくれたの、お父さんと、お母さん以外で、初めて!」

祚流は、驚き、

「えっ?・・・そうなの?」

切那は、ハニカミながら、

「・・これ、私の宝物なんだ・・」

切那がそう言いながら、夕日に体を向ける、それと同時に、紫色の髪留めが、キラリと輝いた・・。

祚流は、一瞬だけ、

・・・天使?・・なわけ無いかぁ・・、でも、綺麗な子だよね、周りに居る子達とは、どこか違う気がする・・、何が違うのかって聞かれると・・答えられないけど・・。

切那が、祚流の方を向き、

「・・ありがとう!」

「ど、どういたしまして・・」

ふいに、切那の顔が暗くなり・・

「私のこと・・・怖くないの?」

「えっ?どうして?」

祚流はポカンとしている・・

・・・あれ?怖くないの?・・・・この子・・私のこと、魔女って思ってないんだ・・初めてかもしれない・・

・・それとも、単純に私の事を知らないだけ・・なのかな?

切那は、そうだ、と言って、

「今度、家に遊びに来てよ!・・・いいでしょ?」

「えっ、あ、うんっ!遊びに行くよ!」

「ところで、どこのクラスなの?」

「うんとね、えっと・・・お、同じクラスだよ・・」

切那は、クラスの子の顔を、思い出してみるが、どうしても思い出せない。クラスの子の顔は、流石に覚えているはずだが・・。

「そう・・なんだ、ゴメン、気が付かなかった・・」

素直に謝る切那・・・、

「あっ、いいんだよ、僕、転校してきた、ばっかりだから、それにしばらく、病院に泊まってたし」

「そうなの?・・・どこか、体の具合が悪かったんだ・・」

「うん、ちょっとね・・」

祚流が、少しだけ暗い顔になる。太陽も、沈みかけていた。

「私・・そろそろ帰らないと、もう暗くなってきたし・・」

「うん、そうだね、また明日学校で!」

「うん!、あっ、髪留め、ありがとう」

「いいんだよ、今度から、忘れちゃ駄目だよ!」

そう言いながら、祚流が、走って森の方に帰って行った。

切那はしばらくその場所から、夕日を眺めていた・・・

「うふふ、なんだか、いつもより夕日が綺麗!」

そしてあることにふと、気が付く・・。

・・・あれ?そう言えば・・心の声が聞こえなかったような・・・。

            ※

ここは、切那の家だ、玄関のドアを開ける、

「ただいまぁ~」

すると奥の方から声が帰って来た、

「あっ、お帰り~、おやつ、あるよ~」

母の明だ、今日はもう仕事が終わっていたらしい。

切那が、二階の自分の部屋に上がり、ランドセルを机の上に置く、そして洗面所に行き、手と顔を洗い、うがいもする。

「ふぅ、今日のおやつ、何かなぁ~」

ダイニングルームに行くと、明がテレビを見ていた、そしてテーブルのお皿の上には、ようかん、が置いてあった。

「おかえり・・セツナ、・・ん?、何かいいことでもあったの?」

切那が、驚き、

「えっ、ど、どうしてそう思うの?」

「だって、顔に書いてあるもの」

「え?そうなの?」

そう言いながら、刹那が顔に手をやり、(どうやら、本当に書いてあるのか、と思ったらしい・・。)顔を撫でている。

「冗談よ・・嬉しそうな顔をしていたから、何かいいこと、あったのかなって」

切那の顔が少し赤くなり、

「あ、あのね・・・」

今日の出来事を話した。

「それでね、そのソルって、男の子が、こけちゃって・・」

明が腹を抱えて笑っている・・・。(ホントに親子だよな・・、男の子、祚流がかわいそう、なんだが・・、気づいてあげてくれ。なんだか不憫だ・・。)

「あっはははは!・・まあ、そうよね・・痛けりゃ、泣いちゃうわぁ・・」

とその時、玄関から声が聞こえてきた、

「ただいまぁ~、帰ったぜぇ・・」

切那が、椅子から立ち上がり、

「あっ!、お父さんだ」

切那が、玄関に走って行く、天輝が仕事から帰って来たようだ。

「おぉ、セツナ、ただいま」

とびきりの笑顔で、

「おかえり!お父さんっ」

相変わらず、天輝は、デレデレしている。(ホントにかわいい、いや、ホントに。)

「んん?何かいい事でもあったのか?」

「・・うふふ、えっとね、友達が出来たの。」

「へぇ、名前は?」

「確か・・・ソル、だったような・・」

「はは、そうだな、まるで、男の子みたいな名前だな。」

そう言いながら、天輝が、切那の頭を撫でる。

「うん、男の子だよ?」

天輝の動きが止まり、手に持っていた鞄が、廊下に落ちる・・・。

「マジか・・、どんな子だ?・・俺が直接会いに行ってやる!」

なぜか、とても興奮している・・・まるで今にも、切那がお嫁さんになってしまうかのような、勢いだ。

すると、ダイニングルームから明が、

「お友達って、言ってるでしょ?、全く、早とちりねぇ、セツナを何歳だと思っているの?」

「・・駄目だ、セツナは絶対!嫁にはヤラナイぞ!」

「・・ふう、しょうがない、やるしかないわ・・・」

明がなにやら、空手の型をやりだした・・・。

「えっ?、ちょっ、ま、まて、何をする気だ?・・・お、おい冗談だよ、冗談・・ははは、まさか本気で言っていると思ったのか?・・ジョークだよ、たかが男の子の友達が、出来たくらいで・・・」

「へぇ~、そう、・・落ちついた?」

「・・・やっぱり気なる!セツナ、その子は、どこに住んでいるんだ?」

切那は首を傾げながら、

「・・えっとぉ・・・森の方に走って行ったよ?」

「森・・・あっちには確か、ソラの屋敷しか・・、いや間違えた、ハルちゃんの屋敷しか、なかった気がするけどな・・」

「やっぱり、・・・はぁ!」

明の正拳が、天輝の腹に、もろに入った・・・・。

「がはっ!・・・まて、俺が悪かった・・もう、二度と・・・・こんなことは考えたり・・し、しません」

「分かれば、よろしい、さあ、ご飯にしましょうか?」

切那が笑顔で、

「うん!お腹・・空いた。」

               *

「いや、しかし、初の男の子の友達だな・・、実にいいことだ・・セツナ、また一歩、成長したな・・」

三人でテーブルを、囲み夕食を食べている、今日のメニューは、カレーライスだ、(たぶん・・そんな感じだった・・、実際は、黒い何か、だ。あれは、食べ物だったのかすら、分からない・・思い出したくもない。)

「そうよねぇ、すごい進歩だと思うわ、でも、これ、普通じゃない?」

「いや、セツナにとっては、初めての異性の友達だ、むしろやっと友達が出来たと言ってもいいだろう」

「えへへ、そうかな?」

切那と天輝は何故か、あまりカレーライス(?)に手を出していない、

「それはそうと、セツナ、また、勝手に人の心の声を聞いたのか?」

切那の体が、ぴくっと動き、

「どうして、分かるの?・・・そうか、お父さんも分かるんだったね。」

天輝が首を横に振りながら、

「ふっ、俺は分からねぇよ・・・・ただ、そうなのかなって思っただけだ。」

「ふ~ん、そうなの?」

「あぁ、で、聞いたんだな?」

切那が口を尖らせる、

「だって・・聞こえてくるんだもん・・・」

天輝が溜息をつき、真面目な顔になる、そして切那の眼を真っ直ぐみながら、

「いいか、セツナ、どんな人にも、相手には、知られたくない事が、あるもんなんだ・・・絶対にな」

「知られたくないこと?」

「あぁ、そうだ、簡単に言うと、人それぞれに秘密があるってことだ」

「それ簡単?」

明が口をはさむ、

「わ、分かるよな、セツナ?」

「う、うん・・・?」

「ええっと、そうだな・・・まあ、全員がお前みたいに、相手の心を聞くことが出来れば、戦争なんて、起こらないだろうな・・」

「戦争?」

「いや、・・・何でも無い」

天輝は、どこか遠くを眺めているようだった、切那は俯いている。

「今日・・みんな、私のこと・・怖いって・・・・魔女みたいって」

そう言うと、切那が突然泣き出した・・・。

明が、切那の近くに行き、抱き寄せる。

「そう、だったの・・・辛かったわね・・・思いきり泣きなさい」

天輝は、立ち上がり玄関に向かっていた・・・。

明が呼びとめる、

「ちょっと、何処に行くつもり?」

「あぁ、ちょっと、ヤボ用だ・・・」

明が廊下を追いかけてきた、

「駄目よ!そんなことしたって、何もならない」

「・・いや、まだ、何も言ってないが・・」

「じゃあ、何しに行くの?」

「セツナを、泣かせた奴ら、全員この世から、消してやる!魂ごと」

「あのねぇ、・・やっぱりダメじゃん、頭を冷やしなさい、ソラさんを呼んじゃうわよ?」

天輝の勢いが無くなってきて、

「そ、それは、どうか勘弁してくれ、も、もうしないよ、こんなことは・・」

「分かればよろしい」

それぞれ、テーブルに帰って来た・・、

しばらく切那がすすり泣く声が聞こえる・・

おもむろに天輝が、

「しかし、魔女は酷いだろ・・、俺なんか、小さい頃は・・爺さん、とかだったはずだ・・。それだったら、男だから・・魔法使いか・・。別に悪い気はしないなぁ」

「はぁ、そうね、特に悪い気はしないかも・・」

「よし、セツナ、魔女って事は凄いってことなんだ・・きっと。だから気にすることはないぜ?」

切那は、だいぶ落ち着いたようで、

「・・・でも、魔女は悪者なんでしょ?」

「はは、違うぞ、それは間違っている」

「どうして?」

「魔女は、本来外国の民間伝説に現れる妖怪みたいな存在だ、確かに人に害を加える魔女もいるかもしれない・・だが、みんな悪と決めつけるのは間違っているだろ?イイ魔女も、いるかもしれないじゃないか。それに魔女にはもう一つ意味があって、不思議な力を持つ人のこと、というのもある、だから、セツナの人の心が読めるってことに、みんなが驚いているだけなんだ・・・」

「・・でも・・魔女じゃないもん・・」

「当たり前だろ?だから、人の心を読むのは控えるんだ、少しずつでいいから、自分でコントロールしていくんだぞ?」

「知られたくないことが、あるから?」

「・・そうだ、本当に素直だな、・・食べたくなっちゃうぜ・・」

「ん?何を?」

「いや、何でも無いよ?」

明が、

「つまりね、食べたくなっちゃうほど、セツナが大好きってことよ?」

切那の顔が、赤くなり、

「えへへ、わたしもお父さん、大好きだよ?」

「がはっ、これで飯をしばらく食わなくても、仕事バリバリできるな」

天輝は物凄く嬉しそうだ。(いろんな意味で飯は食いたくないな・・。)

「もちろん!お母さんもね?」

「あふぅ、私もまた明日から、いろいろ頑張れそうね」

三人で、顔を見合せて、笑った・・。

そして切那が思い出したように、

「あっ、今度、ソル君を家に呼んでもいい?」

天輝の動きが固まる・・・。

「そ、そこまで、進んでいたのか・・・、やはりここは、ガツンと言わないとな・・『セツナは、嫁にやらんぞ!』ってな」

明が、切那に気が付かれないように、天輝の足を踏みつける、

『ガンっ!』

「どぅわ!・・わ、悪かった・・よ、よし、呼んでいいぞ、楽しみだな?」

切那が、笑顔で、

「うん!」

           ※

・・時が、現在に戻る・・。

「でも、よく倒したわね?・・確か、ミカズキだったっけ?あれ、物凄く動きが速いから、なかなか倒せなかったのよね、まだ生きていたとは・・」

「・・戦ったの?」

「私じゃないけど、ソラさんとか、ガイさんとか、いろいろね」

「・・ふうん・・、でも倒したわけじゃない」

「まぁ、よく生きて帰って来てくれたわ」

そう言うと、明が、切那に抱きつく。

「・・なんだか、前にもこんな事があったような・・・」

「別にいいじゃない?減るもんじゃないし・・」

「・・別に、嫌じゃない・・」

「本当に、よくやったわ・・。でも無茶はだめよ?」

「・・うん」

・・・なんだか、少し恥ずかしいかも・・・。

すると、玄関から、声が聞こえてきた、

「ただいま~」

「お父さんだ・・」

天輝が帰ってきたようだ。手に何か持っている。

「今日は駅前に新しい店が、オープンしていたから、買って帰ったぞ」

明が意外だ、と言わんばかりに、

「へぇ~、もしかして、昨日テレビでやっていた?・・・あれ、食べてみたかったの」

「まあ、たくさんあるから、好きなのを食え」

そう言うと、天輝がテーブルに、紙の包みを置く。

明が、一つ包みから取り出す、

「おいしそう~♪・・セツナも、ほら」

・・ドーナッツだ、この頃、全く食べた記憶がない・・。

「・・うん」

切那も一つ、チョコレートが表面についてある、ドーナッツを手に取る。

切那は、両手で持ってしばらく眺めていたが、

・・・とても甘い匂いがする・・・どんな味だったっけ?

思い切って一口食べてみた・・・。

・・モグモグ・・・、少しだけ切那の目が見開き・・、

「・・おいしい・・」

天輝が、普通のドーナッツを食べながら、

「だろ?・・実のところ、人の行列があったから、試しに並んでみたんだよ、少し暇だったから・・そしたら、たまたま、昨日のテレビでやってた店だったんだな、これが」

明が、牛乳と人数分のコップを持ってきながら、

「でも、とても人気だから、そうそう買えるもんじゃないと思うよ」

「まあな、これでまずかったら、許さなかったけど・・美味いからよかった」

切那が、下を向いている・・。

「どうしたんだ?・・セツナ・・」

天輝が不思議そうに尋ねる。

「・・・てる・・」

「ん?」

「・・私、生きている・・」

切那が、涙を流していた・・。

「な、な、どどうしたんだ?」

天輝は、酷く慌てている・・やはり切那に泣かれると、どうにも出来ない。

明が切那を、抱き寄せる・・。

「大丈夫よ・・大丈夫・・実はね・・」

そう言うと明が、今日、切那に起こった出来事を話した・・。

「・・なるほどな・・・ついに動き出したか・・」

             ※

切那が一段落したところで、三人はテーブルに座り、コーヒーを飲んでいた。

「・・まあ、こうなってしまったのも・・俺達・・いや、俺が悪い・・すまなかった・・辛い目に合わせてしまって・・・怖かっただろ?」

切那はだいぶ、落ちついていた。

「・・でも、こうなるって・・なんとなく、そんな気がしてた・・」

「セツナが戦ったのは、『ゼロ』の部下の一人だ」

「・・ミカヅキ・・って・・」

「ああ、あいつは、俺も戦ったことがある・・、まあほとんど、ソラおじさん達に戦ってもらったがな・・」

「あれは、動きが速いのよねぇ」

明が、コーヒーを飲みながら、思い出したように呟く・・。

「まあな、こっちもカイトがいたから、何とかなったけどな・・、そういやぁ、あいつ、最近、連絡がないな・・」

「きっと、仕事が忙しいのよ・・」

切那が、天輝に問いかける。

「・・カイト?・・」

「ん?・・ああ、仲間の一人だ・・あいつは・・あいつの力は・・・」

そこまで言うと、天輝が言葉を濁らす・・。

「力は?」

「う~ん、俺も良く分からないが、電撃ビリビリみたいな?」

明が説明に加わる、

「確か、物凄い速さで移動出来て、斬撃を、素手で飛ばすんだったような?」

「まあ・・・そんな感じだ」

・・なんだか曖昧のような・・。

「ふ~ん、そう・・」

「なんか雷の属性だったような気がする」

・・・あれ?また新しい単語が出てきた・・。

「ゾクセイ?」

「そうだ、俺はそう呼んでるんだがな・・、天から授かった力には、それぞれに属性ってのがあって、まず、光があって、闇がある、闇ってのは、ソラおじさんのことで、光は、ソラおじさんの弟だ・・。まぁ、俺の弟でもあるが・・」

「弟・・」

「まあ、ウミって言うんだが、いつか、出会う」

・・いつか出会う・・か、本当に会いそうだ・・。

「他に大地、火、水・・いや氷だったっけ?、まあ、いいか。それに風、木、雷、えっと・・他に・・・まあ、ちなみに俺は『無』だ」

「・・属性が無いの?」

「いや、『無』って言う属性だ」

「・・『無』・・」

・・なんだか一番弱そうな・・、いや、逆に一番強いのかな?・・。

「お母さんは?」

明はコーヒーのお代わりを、カップに注いでいた。

「え、私・・私はね、争うのは柄じゃないから・・」

「おい、何をいまさら・・お母さんはな、戦いの神の力が宿っているんだ・・だから怒らせたりしたら、それこそ天変地異のような、災いがやってくるんだぞ・・気をつけろよ、セツナ」

「う、うん・・」

・・そんなに強いんだ・・・。

「ちょっと、それ、どういう意味!・・・何が天変地異よ!」

天輝が、本気でビビっている・・。

「やべっ、口が勝手なことを喋った・・いや、違うんだ、こ、これには、ふふ深い意味があって・・そそ、その・・・・なんだ・・ほら、メイ、お落ちつけ、なっ?」

その時、切那には、明の髪の毛が、逆立っているように見えた・・その後、天輝がどうなったかは、言うまでも無いだろう・・。(誰か・・助けてくれ・・)

  ・・・・・・数・・分後・・・・・・・

「まあ、とにかく、いろんな力を持った奴がいるってわけだ・・詳しいことは、ガイに聞くといい・・」

天輝の顔には、絆創膏ばんそうこうやら、シップやらが張り付けてある・・。

「ガイって・・リンとコウの・・お父さん?」

「んん?・・・あ~そうだったな、そういや、双子が居るって言ってたな」

明が口をはさむ。

「この前・・・だいぶ前だけど、ツキちゃんと一緒に、挨拶しに、来てくれたじゃん・・・もしかして忘れてたの?」

「い、いえ、忘れていません・・まるで昨日のことのように、覚えております・・」

・・あれ?・・なんで、お父さん、敬語なんだろ?・・まあいいや。

「そう、ならいいけど・・」

そして、切那はあの約束を思い出す・・。

「今週の土曜日に、リンの家に遊びに行くの・・」

「おお、そうか、ちょうど良かったな、いろいろ聞くといいぞ?」

明が笑顔で、

「そう、楽しんできてね・・それと、リンちゃんの、お母さんに会ったら、よろしく言っといて、実は大親友なのよ」

・・それは知らなかった・・・。

「うん」

明が唐突に、『パチンっ』と手を叩き、

「そうだ、私の作った、カレーを持って行きなよ!うん、それがいい!」

天輝と切那が同時に、顔を見合わせる・・・、どちらも、それはマズイ、と目で会話をする・・、心で、かな。

【お父さん、何とかして・・】

【いや、何とかしたいんだが・・】

【お父さん!・・お願い】

【わ、わかったよ・・くぅ、・・・・ふっ、・・・・やってやんよ!】

【・・やんよ?・・・】

天輝が、咳払いをして、

「コホンっ、あ、あのな、まぁ・・その・・あれだ」

明が天輝の方を向く。

「ん?・・何?」

「か、カレーは止めとけ・・」

「えぇ~、どうして?」

明が、とても残念そうな顔をする。

「だって、セツナが持っていくんだろ?それだったら、重たいだろ、それに友達の家に遊びに行くのに、カレーは持っていかねぇだろ、ふつう」

・・・お父さんは、頑張ったと思う・・それにもし、持って行ったとしたら、きっと凛と幸は、学校にしばらく来られないはずだ・・。

「そうかしらねぇ、いいアイディアだと、思ったんだけど・・」

「メイ、お前だったらどうだ?、友達が遊びに来たとする、その友達がカレーを持ってきたら・・・、なんか変な気がしないか?」

明が少しだけ、しょんぼりした顔になり、

「・・そうよね、なんだか、変よね・・」

「すべてが、変、てわけじゃないぞ。それもあるかも、って意味だ」

天輝が慌てて付け加える、そして明が、

「じゃあ、かりん糖とか?」

「いや、ケーキとかでいいんじゃないか?」

「そうね、そうしなさい、セツナ」

「・・そうする・・」

明が、掛け時計に目をやる、

「あら、もうこんな時間ね、もう寝ましょうか?」

「ああ、そうだな、それがいい」

切那が、椅子から立ち上がり、

「それじゃぁ、ドーナッツ、美味しかった・・」

「確かに、美味しかったわね」

「今度また、買って来てやるよ」

「・・うん」

「ぐっすり、眠れよ・・・あと、どんなにピンチな状況でも、諦めるなよ、気付いてると思うけどな・・・それにお前を助けてくれる、仲間がきっといるから・・俺のように・・、もう近くにいるかもな・・」

「・・うん・・」

天輝が、珍しく微笑み、(・・珍しいけどな・・っておいっ!)

「お前は、もう、一人じゃない」

「・・大丈夫・・・・おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

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