第7話・・銀色その2
翌日、昨日の出来事が無かったかのような、快晴だった。
ここは、切那の部屋。もうすぐ起床の時間だ。
・・・・もう直、梅雨の季節に入ると言うのに・・・きまぐれだ、そう、まるで猫のように・・・そう言えば・・白銀がいない・・いつもの事だけれど、最近、見ていないような、気がする・・・、
切那はゆっくりとした動作で、さっきから鳴っている、目覚まし時計のスイッチを押した。時刻は七時十五分。
・・あと五分で支度して朝ごはんを食べないと、学校に間に合わない・・なんだか・・眠い・・。
下の階から天輝の声が聞こえてくる、
「お~い!・・セツナ~朝だぞ~起きろ~」
まだ、頭が半分起きてないが、
・・・うん・・・、・・あっ・・声に出してない・・、
「もう朝飯・・出来てるからな!」
「・・・うん」
切那はなんとか、重たい体を起こした。
・・・今日は、どんな授業だったっけ?・・・
着替えを済ませ、下の階に降りて行く、テーブルには、既に朝ごはんの支度が出来ていた、鮭の塩焼きと、卵焼き、それに味噌汁・・・梅干し・・?美味しそうだ、天輝が切那に気が付き、
「ああ、起きたか・・おはよう」
切那は眼を
「・・おはよう・・。」
天輝が、白ごはんをテーブルに並べながら呟く。
「さあて・・お母さんを起こすか・・」
切那は、完全に眼が覚めるのを感じた。
*
・・あれ?・・ここはどこだろう・・・真っ暗だ・・何も見えない、ただ、ずっと闇が広がっている。しばらく暗闇の中を歩いてみた、すると後ろに視線を感じる、祚流は後ろを振り返ってみる・・そこにはカラスがいた・・カー助?・・心の中で呼んでみる、するとそのカラスが、
「私は、すぐ近くにいる。」
カラスの姿はいつの間にか見え無くなっていた。
「待って!」
・・・・あれ?・・ここは教室だ・・、
夢を見ていたのだろうか・・、数学の授業中だった、クラス全員が祚流を見て、笑っている。席から立っていた。
先生が、
「またか・・緑川、顔を洗って来い」
クスクス笑いが聞こえてくる、
祚流は恥ずかしそうに、
「す・・すみません」
祚流が教室を出て行った。
・・・また寝ちゃった・・・どうも最近、眠くなっちゃうんだよね・・、
祚流はトイレに向かった、蛇口をひねり水を出す、顔を洗うと少しスッキリした、何気なく鏡を見る。
・・・顔色があまり良くない、かもしれない・・あれ?・・誰か後ろに居る・・誰だろう・・・その人は(?)下を向いている、祚流が後ろを振り向く・・そこには誰も居なかった・・。
・・・えっ、でも鏡には映ってるのに・・・、
祚流はだんだん寒気がしてきた・・そこから逃げればいいのだが・・怖くて足が動かない・・鏡から何故か、眼をそらすことも出来ないのだ。
「だ・・誰だ!」
祚流がやっとの思いで、声を出す。
その人(?)がゆっくりと顔を上げる・・・よく見るとその人(?)の服が泥と何か赤いものに染まっている・・・。
・・・僕だ・・・、
祚流だった、しかし、その眼は邪悪な輝きを放っていた・・・顔には血のようなものが、点々と飛び散っていて・・口元は笑っている・・・。
「き・・君は・・いったい・・?」
祚流(?)がゆっくりと手を伸ばす・・そのまま祚流の体に触れようとした時、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
*
教室の、クラスのみんなが驚いている、突然、祚流が大声を出し、席から立ち上がったからだ。数学教師の
「どうしたんだ?・・・ソル・・」
祚流が我に返り、
「あっ・・・すみません・・」
クラスのあちらこちらから・・、
「どうしたんだよ?」
「ビックリしたぁ」
「脅かすなよ」
「消しゴム、落とした・・・」
「驚き過ぎだろ・・お前・・」
祚流がみんなに向かって謝る、
「みんな・・ごめんなさい」
「いや・・いいんだけどさ」
「まあ」
「そうだけどな」
「授業の邪魔、しないでよね」
「これで、少し授業が潰れたぜ」
「そんなんだから、テストの点が悪いんでしょ」
「う、うるせえよ」
後藤先生が、
「よし、分かったソル、顔を洗って来い」
「・・はい・・すみませんでした」
切那は、少しだけ祚流の方を見たがすぐに、自分のノートに視線を戻す。
祚流が教室を出て行った。
・・・はぁ、怖かった・・・、ホントどうしちゃったんだろ・・
祚流は、重い足取りでトイレに向かう。つい後ろを振り返るが・・・もちろん誰も居ない。
・・・疲れているのかな・・
手洗い場の蛇口をひねる・・手で水をすくい、顔を洗う・・・。
「ふぅ」
・・さっぱりした・・・なんだか夢と一緒だ・・・後ろは誰も居ないよね・・祚流が後ろを振り返る・・もちろん誰も居ない、そして鏡に視線をやる・・そこには・・元気のない祚流の顔が映っていた。
「やっぱり、疲れてるのかなぁ」
独り言を呟く・・・、すると、
「元気が無いようだな?」
声が聞こえてきた、どこかで聞いたことがある声だ。
「えっと・・カー助?」
「そうだ」
窓から見える木の枝の所に、カラスが一羽止まっている。
「ど、どうしたの?」
「別に特には、用はないが・・・」
「そうなの?」
「そうだ」
「もしかして・・・暇だったりして」
カー助はしばらく考えているようだったが、翼を動かしながら、
「暇だ」
祚流は、少し元気になった気がした。
*
午前中の授業が終わり、今から昼休みだ。祚流は途中から授業に戻った・・・相変わらず、眠たそう、だったが・・・。
二つある教室のドアが、勢いよく開き、
「ソル、飯食おうぜ!」
「セツナ、食べよう♪!」
幸と凛だ、祚流が切那に、小さい声で、
「ホントに、同じタイミングってすごいよね・・・」
「・・・うん・・」
麗もいつの間にか話に加わり、
「確かに、同じ時間に、同じタイミングで・・しかも毎日って、どれだけ練習したんでしょうね?」
祚流が、突っ込みながら、
「いやいや、練習はしてないと思うよ・・」
麗が驚き、
「そ、そうなんですか!」
「たぶん・・・ねっ、セツナちゃん?」
「・・・練習しても、難しい・・・」
「そうだよね」
「そう」
「そうなんですか?」
「・・そう」
幸が近付いて来ながら、
「何、話してるんだ?」
祚流が慌てて、
「い、いや・・何でもないよ!」
「まあ、いいけどよぉ・・・・」
凛が刹那に、
「何話してたの?」
「別に・・」
麗が、
「お二人の、ドアを開けるタイミ・・・・」
祚流が麗の言葉を、遮り、
「え~っと、今日の弁当は、何かなぁ!」
幸が耳を塞ぎながら、
「だから、いきなり大きな声出すなって、心臓に悪いだろ」
「ははは、ゴメン、ゴメン、お腹減っちゃって」
祚流が弁当の蓋を開ける、
「今日は・・・ナンとカレーだ・・」
幸が祚流の弁当を覗きこみ、
「すげぇな、ところで、このパンみたいな、白っぽいものってなんだ?」
「ナン、だよ」
幸の顔が険しくなり
「ソル・・いつから俺に、ケンカ売るようになったんだ?」
祚流が、キョトン、とする、
「だから、ナン、だよ」
「よし、分かった、放課後、体育館の裏に集合な」
祚流が慌てて、
「いや、だから、ナン、だって!」
「なんだとぉ~」
凛が見かねて、
「だから、そのパンみたいなモノが、ナンって言うのよ」
幸には聞こえてないようだ、
「全く、いつからそんな風になったんだ・・俺は、ソルをそんな風に育てた覚えは無いぞ」
祚流は泣きそうな顔で、
「だから、ナン、なんだって」
・・というか、幸君に育てられた覚えはないけれども・・
「またかよ、もういいよ、分かったから・・・つまりあれだな・・反抗期ってやつだな・・・うん、きっとそうだ」
幸は一人で納得したようだったが、
「でも、正直なことを言うと・・・ちょっと・・悲しかったぜ・・」
祚流も流石に困った顔をしている・・・。
「・・この食べ物は・・ナンって言うんだよ」
「そうなのか?」
「さっきから、そう言ってるんだけど」
凛が呆れた顔で、
「まったく・・・どんだけアホなのよ・・・」
「誰が、アホだとぉ!」
「アンタよ!」
「言ったな・・もう今日は許せねぇ!」
「こっちのセリフよっ!」
二人が同時に立ち上がり、今にも飛び掛かりそうな勢いだ。慌てて祚流が立ちあがり二人の間に立つ。
「ちょっ、止めてよ・・二人とも・・」
手で止めようとするが、二人が同時に、
「お前は関係ねぇ!」
「あんたは関係ない!」
二人の剣幕に押され祚流の肩がすくむ・・、
「ご、ごめんなさい・・・」
麗が、不思議そうに、
「どうして、ソルさんが誤るんですか?」
「う、なんとなく・・」
「私も誤った方がいいですかね?」
「いやいや、レイちゃんは悪くないよ」
「でも・・・」
すると、
「その位にしときなよ・・みんな困ってるよ?」
華美だった、二人の動きが止まり、
「ハナビ・・」
「ハナビさん・・」
華美は笑いながら、
「分かればいいのよ。」
祚流と麗が関心して、
「す、凄い」
「一瞬で、止めましたね」
二人はやっと血の気が引いたようだ。
幸が、何事も無かったように、
「さぁて、飯食うか」
凛が弁当を広げながら、
「あ~あ、お腹減っちゃった」
祚流が弁当のナンを食べながら、
「立ち直るの、速いね・・」
凛が祚流の方を向き、
「何かいった?」
「いえ、何も・・」
切那は祚流の弁当を見ていた・・・。
「あっ・・・セツナちゃん食べる?」
切那が少しだけ(・・ホントに少しだけ・・)嬉しそうな顔をして、
「・・・うん・・」
*
今から午後の授業が始まる。凛達はそれぞれのクラスに帰って行った、
祚流が机の中から教科書を取り出しながら、
「次の授業は・・確か・・現代社会か・・」
祚流はあまり浮かない顔をしている、
それを見て麗が、
「どうしたんですか?」
祚流が、麗の方を向き、
「佐藤先生の授業は、眠くなるんだよね」
麗は、
・・・いつも寝ているような・・、
「・・そうですか・・・?」
「それに、何故か僕ばかり当てるし・・」
「言われてみれば・・・」
確かに毎回祚流が当てられる、麗は少し考えたが、あることに気が付き、
「・・寝てるからなんじゃ・・・?」
「・・そうかなぁ・・・」
授業のチャイムが鳴り先生がドアを開けて、入ってきた。
「よし、始めるぞ・・」
この現代社会の先生は、
佐籐先生が教壇に立ち、
「いいか・・この授業なんてつまらねぇ・・なんて思ってる奴は・・寝てもいいが、次の授業の時間、テストするからな・・・もし赤点だったら、課題を出す、何故ここまでするかと言うと、大事な授業だからだ」
そう言うと、佐籐先生は教室を見渡し、
「他の授業は、適当にやってもいいが、この授業だけは、しっかりやってくれ」
そして、祚流の方を向き、
「特に、緑川・・・、いいな?」
クスクス笑いが聞こえてくる、
「は、はい」
クラスの誰かが、
「先生、教科書何ページですか?」
佐籐先生が、
「あぁ、そうだった・・・、教科書は使わない、みんな俺の話を聞くだけでいい、この教科書には真実が書かれていないからな」
少し、クラスのみんなが動揺している、誰かが、
「でも、この教科書は、国が作ってるんですよね?」
佐籐先生は、鼻で笑って、
「ふん、こうは考えられないか、国が嘘を載せているとしたら?」
「それは・・流石に・・」
「考えられないか・・」
「み、みんなもそうだよな?」
あちらこちらから、
「あ、あぁ、確かに・・・いくらなんでも・・」
「まさかな・・」
「何で嘘を載せるんだ?」
「理由がわからないよ」
「そうよね」
意見が飛び交う。
「知られたくないから・・・」
一斉に、切那の方に視線が集まる・・・。
佐籐先生が、
「その通りだ・・、知られたくない、からだ」
祚流が、手を挙げて、
「何を知られたくないんですか?」
佐籐先生が、少し驚き、
「授業も、そのくらい熱心にやってくれたら・・いいのにな・・」
「あ、すみません・・」
「そうだな・・お前たち・・・戦争って、知ってるはずだな?」
「はい」
「では・・その戦争はいつ頃、起こったか分かるか?」
生徒の一人が、
「確か・・・八十年位前だったような・・」
「正解だ・・・それだけか?」
「教科書には、そう書いてありました」
「そうだな・・」
「それからは、起こってません」
佐籐先生がクラスを見渡して、
「他に意見がある人は?」
「二十年前にあった」
またもや、切那に視線が集まる。
「・・よく知ってるな・・・、誰から聞いたんだ?」
「・・・お父さん・・・」
「・・なるほど・・・ん?・・苗字は確か・・・千塚・・」
佐籐先生の、動きが止まった・・、小さい声で、
「まさか・・テンキ・・の娘って・・」
クラスの誰かが、
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない・・・話が反れたな・・実は二十年前に大きな戦争があったんだ・・どう言う戦争なのか、だが・・」
ここで一息つく、
「人類の存亡賭けた、戦争だ、宗教戦争や、核戦争よりも、性質が悪い」
クラスがまた、どよめく・・。
「人類の存亡?」
「何、言ってんだ・・?」
「そんな訳・・ないじゃん・・」
「アニメの見過ぎだろ・・・」
「やっぱり、オタクだったのか・・・」
佐籐先生は、当然の反応だと言わんばかりに、
「まあ、普通は信じないだろう・・」
佐籐先生は、眼鏡を右手の中指で押し上げながら、
「人対人ではなく、人対宇宙人、だ。」
そして、チョークを持ちながら、黒板に何かを書き始めた、
「いいか・・この世界は偽りの姿だ。正確に言うと・・まあ、詳しいことは分かってないが・・透明なフィルターみたいなのが、覆いかぶさっているんだと言うのが、今のところ一番有力な説だ」
そう言いながら、黒板に・・丸を大きく書き・・地球のつもりらしい、
「それで、どういう風になっているかって言うと・・バリアみたいなのに覆われていて・・その中で、我々・・人類は暮らしている・・」
クラスの生徒が、
「バリアって、そんなこと・・ありえないですよ・・」
佐籐先生は、溜息をつき、
「今は、騙されたと思って聞いてくれ」
「でも・・」
「確かになぁ・・」
「そうだよね・・」
「バカバカしいよな・・・」
「映画の見すぎだって・・・」
「じゃあ、なんで覆われているんですか?」
待ってました、と言わんばかりに、
「バリアの外側は、有毒なガスが充満しているからだな・・」
「そんなことって・・・」
クラスの生徒達は、
「有毒な・・ガス?」
「や、ヤバいだろそれ・・。」
「大気汚染のレベルを超えているよ・・」
佐籐先生が、
「宇宙人の使っていた兵器の一種だな・・戦争なんて、本当に愚かな行為だ・・」
クラスのみんなは、今だに信じ切れていないようだ・・。
「でも、それって、毒ガスから、私たちを守っているってこと?」
「侵略しにきた、宇宙人が?まさか・・」
「それは、無いんじゃねえの?」
「じゃあ、どうして大きな透明のドームが覆ってあるのよ?」
「し、知らねえよ」
「もしそれが、無かったら人類滅んでいるわよ!」
「お、落ちつけよ」
祚流が再び、
「同じ質問ですけど、どうして、知られたくないんですか?・・・もしかしたら、いい宇宙人なのかも知れないじゃないですか?」
佐籐先生は、
「いい質問だ・・がそれは、今置いておこう、あと、始めに侵略しにやって来たと言っただろ・・・いい訳がない。それから、この星の三分の一が砂漠に覆われている、もちろん人も動物も住めない・・・あの時の戦争で、被害がデカ過ぎたんだ・・」
クラスの誰かが
「ホントなんですか?」
「信じられねぇよ・・」
「だって、この生活が普通だもんな」
「それを、この世界は偽りだって言われても・・・」
「毒ガスって、そいつらのせいだろ?」
「なんで、わざわざ、人類を生かしてるいんだろうな・・」
「俺達、実験動物・・・とかな?」
祚流がつぶやく
「監視カメラが、空を飛んでいるとか・・」
「馬鹿だな~、ソル、それだったら、気がつくだろ?」
「違うよ、もしも、もしもだよ?・・鳥とかが、ロボットだったら?」
クラスの全員が納得した、
「あ・・確かに・・・」
少しの間・・沈黙。
「怖いこと言うなって」
「空だって、いつも見上げているけど・・変わったところも、特になかったし」
「宇宙人って、どんな人ですか?」
一斉に、佐籐先生に視線が集中する。
「人と、全く同じ姿をしている・・外見だけじゃ、まず判断できない」
祚流が手を挙げて、
「どうやって見分けるんですか?」
佐籐先生は、感心したように、
「ソル・・、やっぱり・・・・何でも無い」
「えっ、なんですかぁ?」
「まあ、いい、動物は怪我をしたら、血が出るだろ・・その血の色が緑だったら宇宙人だ」
祚流が、
「それじゃあ、ほとんど人じゃないですか・・・」
「確かにな、だが、明らかに違うところがある・・それは、中身が機械で出来ている、つまりロボットなんだ」
佐籐先生が、黒板に『アンドロイド』と書いた、
「俺たちは、こう呼んでいる、ホントの名前は分からないが・・」
クラスの生徒達は、沈黙している、
「人が戦っても、まず勝ち目は無い、力が違いすぎる、一瞬で、移動出来る奴とか、体の中に武器を仕込んでいる奴とか、空を飛べる奴とか、片手でビルを破壊出来る奴とか、いろいろ居る」
クラスの誰かが、
「でも、誰もほかの先生は、そんなこと言ってませんでしたよ?小学校のときから・・親とか親戚も・・・」
「言えないのさ・・・ソルがさっき言ってたみたいに、監視されているからな」
祚流が、
「監視って・・・その・・宇宙人がですか?」
「・・そうだ・・」
クラスの誰かが、
「監視して、俺たちが何かしたら・・どうなるんだ?」
「連れて行かれるとか・・」
「どこに?」
「知らないよ・・」
麗が珍しく、手を挙げて質問をした、
「あ、あの先生は、喋っても大丈夫なんですか・・?」
あちらこちらから、
「確かに・・大丈夫なのかな・・・?」
「ああ、だって監視されてるんだろ・・・?」
「やっぱり、嘘なのかな・・・?」
「でなけりゃ、言わないぜ・・・普通」
佐籐先生は、全く動じた様子がない。
「俺は、大丈夫だ・・あと・・この話は、本当に信頼できる奴から、こっそりと広めていって欲しい」
クラスを見渡しながら、
「頼んだぞ・・それから最後にひとつ・・その宇宙人達に立ち向かっていった奴らがいたんだ・・・そいつらには、特別な力があった・・」
祚流が、
「それって・・もしかして・・」
授業終了のチャイムが鳴った。
「今日の授業は、ここまでだ・・それから、この町にも宇宙人が住んでいる、もしかして友達が、宇宙人かもしれないな・・・」
そう言い残して、佐籐先生は、教室を出て行った。
しばらく教室の中は、さっきの授業が話題になる、話しをまだ、疑っているもの、信じているもの、分からないもの、みんな、それぞれだ。
祚流が切那に、
「前に、セツナちゃんが言ったことって、ホントだったんだ・・」
切那は少しだけ祚流の方を向き、
「・・信じるの?・・・」
「僕は、セツナちゃんを、信じるよ・・」
切那はしばらく黙っていたが、
「今日は、部活?」
「いや、今日はちょっと、用事があって、病院に行くんだ」
祚流の顔が少し曇る、
「・・・そう・・」
*
帰りのホームルームが終わり、今から、放課後だ。切那と麗は一緒に帰ったようだ・・、祚流は荷物をまとめ教室を出て、靴箱に向かう。校門を通り過ぎ、いつもの帰り道を、歩く。交差点に差し掛かり・・・いつもは、ここを左に曲がるが祚流は、右の方に歩いていった。
しばらく進むと白い建物が見えてきた、『瑠璃色市立総合病院』と書いてある、建物の中に入って行った。
祚流は、受付のところまで行き、
「すみません・・」
受付の人が、
「あぁ、ソル君ね」
顔なじみらしく、
「はい、見舞いです、・・具合の方は・・?」
受付の人は、
「ええ、昨日よりは、だいぶ良くなってきていると思うわよ」
「分かりました・・それでは・・」
そう言うと祚流は、階段を上って行った。廊下は、消毒液の独特の匂いがする。三階まで上り、一番奥の部屋まで行く。
病室の目の前で止まり、ノックを二回する。
しばらくして中から、
「・・・どうぞ・・」
ネームプレートのところには【
祚流が、ドアを開けて中に入る。
「・・入るよ・・調子どう?」
ベットには、中学生くらいの少女が窓の方を向いて座っていた。髪は凛よりも、少し長い、祚流と顔つきが似ている、(・・美少女だ・・・)だが顔には少し元気がない様に見える。
「あっ、お兄ちゃん!」
結心が、祚流の方を向く、
「・・えっとね、よかったね、今週は、家に帰れるから」
結心は、少し微笑みながら、
「うん!、早くお家に帰りたいな」
夕日が、病室に差し込む・・、病室の窓から、病院の中庭が見える、あまり人はいない。
結心は時々、変頭痛を起こして倒れてしまうことがある、原因は不明だ、普通に暮らしていれば、特に問題は無かったのだが、中学に入ったのと同時に、ある異変が起こった。
それが起こったのは、結心が、数学の授業を受けている時、先生にあてられて、立ち上がった時だった、ちなみに結心はクラスの中心的存在だ。
・・いつもより、心臓の鼓動が大きく聞こえたのだそうだ、それがあまりにも、大きく聞こえたので、変だな・・と思いながらも、答えを言おうとした時、急に辺りが暗くなり、結心の目の前に、見たことも無い景色が広がった、
自分の周りを光が通り過ぎていく、
まるで光のトンネルに入ったかのような感じ、
自分も光になったかのような感じ、
そのまま、消えてしまうような感じ、
そしてその光の先には、砂漠が広がっていた・・・・。
すべてが砂漠に飲み込まれた世界、生物は見当たらない・・。
所々に機械か何かの、破片が落ちている、
・・・ここはどこ・・?
見渡してみるが同じ景色が、地平線まで続いている。
そこで結心は見てしまったのだ。
・・・何か・・いる・・ヒト?・・空に浮かんでいる・・。
あれは、人だったのか・・分からない・・でも・・怖い・・、結心は直感的にそう感じた。
それが、こっちを向く・・、
・・・・似ている・・・・・お兄ちゃんに・・・。
その景色は、一秒にも満たない間に頭の中で再生され、そのまま結心は気絶してしまったのだ。
それから、結心は、普通の人の倍以上の時間、寝るようになってしまった。
起きているのは一日のうち、ほんの二、三時間程度だ。
・・・なんだか日に日に、痩せていってるみたいだ・・。
祚流は、なるべく結心の起きている時間に、お見舞いに来ている。
「お兄ちゃん・・ごめんね、心配ばかりかけて・・・」
祚流が少し慌てて、
「そ、そんなことないよ!」
祚流がベットの近くの椅子に座る、それから、結心の手を握り、
「早く良くなって、みんなで、海に行こうって、約束したじゃないか」
「・・うん・・・」
「大丈夫だよ・・優秀な先生がこの病院にはいるから、きっと良くなるよ」
結心は少し微笑み、
「・・・あのね・・最近また、あの夢を見るの・・」
「・・あの砂漠が・・ってやつ?」
「・・うん・・それで・・」
結心は、窓の方を向き、遠くの方を眺めている。
「一度、寝たらそのまま、もう・・目覚めないんじゃないかって・・」
*
切那と麗は、いつもの川原の堤防を歩いていた。夕焼けが綺麗だ。
「あの・・祚流さん・・どうして部活・・行かなかったんですか?」
切那は、本を読みながら歩いている、そして、
「病院に行った・・・」
「どこか、悪いんですか・・?」
「ソルは元気・・・のはず」
「じゃあ、誰が・・?」
「妹」
麗が少し驚いた顔になる、
「えっ、妹がいらしたんですか?・・てっきり、一人っ子かと」
「ユウラって名前」
「ユウラさんですか・・素敵な名前ですね・・」
切那は、本を閉じた。
「たまに、頭痛が、酷くなって倒れることがあるから、入院してる」
「そうだったんですか」
切那は、どこか遠くを見ていた。
「昔は、よく、一緒に遊んだ・・」
*
祚流は、結心に別れを言って、病院を後にした。
・・なんだか、結心・・元気無かったな・・。
中庭に出て、何気なく三階の結心の病室を見上げた、カーテンがいつの間にか、閉まっていた。
・・・どうにかしてあげたい・・けど、僕に何が出来るかな?・・、
「出来るぞ」
上の方から、声が聞こえてきた、
「えっと・・誰?」
「私だ」
祚流は、近くの街灯に目をやる・・そこには、一匹のカラスが居た・・と言うよりカー助だ。
「あっ、カー助・・どうしたの?」
「あれがお前の、妹か・・」
「そうだよ、ユウラって言うんだ。」
カー助は羽を動かしながら、
「何も出来ないことは無い、ちゃんと、お見舞いに行って励ましているではないか、だいぶ、それで、彼女は救われている、と思うぞ」
「そうかな・・・、それしか出来ないんだ・・僕には」
「何もしないよりは、いいと思うが・・」
祚流は、少しだけ、心が軽くなった気がした。
「ありがとう、カー助」
「礼には及ばん」
そう言うと、カー助は、暗闇に消えて行った。
・・・ユウラ、早く良くなってね・・。
祚流は、自分の家に戻って行った。
*
同じ時刻、ここはどこかの部屋の中、マントを被った人物が、何処かの皇帝が座りそうな豪華な椅子に座っている・・・、
「・・なるほどな・・奴に妹がいたのか・・」
暗闇から誰かが現れた、
「そのようでございます・・」
「あぁ、ミカヅキか・・」
椅子から少し離れたところで、ミカヅキと呼ばれる、人物がひざまずき、
「ゼロ様・・今度は私が出て参ります・・」
「お前が、出るまでも無いと思うが・・」
「いえ、少しでも我々に歯向うような火種は、消しておくのがよい、かと」
「・・火種、か・・・」
ゼロは何かを考えているようだった、
「どうされました?」
「いや、何でも無い・・誰がターゲットだ?」
「はっ、まずは、千塚切那です」
「フフ、そうか・・くれぐれも、油断するなよ?」
「承知!」
そう言うと、ミカヅキは、あっという間に消えた。
「さて、セツナにミカズキを倒すことが、出来るかな・・」
再び切那に危機が迫ろうとしていた・・。
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