第6話・・藍色その2
ここは・・・どこだろう・・・?・・熱い・・それに物凄く喉が乾いた・・祚流は・・ゆっくりと目を開けた・・ここは・・あの時の砂漠だ、見渡す限り砂漠しかない・・機械の残骸もあちらこちらに落ちている・・でもこの前と何か違う・・何だろう?・・・もう一度見渡してみる・・そう言えば・・あの大きな建物が無い。
空の遥か上の方まで伸びている、あのタワーだ。何処にもない・・どうして?でもこの景色どこかで見たことが・・祚流は少し歩いてみた・・・すると見覚えのあるものが、砂に埋まっている・・、
「これって・・・。」
どこから見てもそれは、自動販売機だった。
「どうしてこんなところに・・?」
自動販売機があるってことは・・・人が住んでいたのかな・・。
もう少し歩いてみた・・だんだん建物だったらしい、瓦礫の山が増えてきた、
・・町だったのかな・・でもどこかで・・・
ふとあるものに目が止まった。
『瑠璃色高等学校』とその看板に書いてあった・・
・・ここは僕たちの住んでいる瑠璃色市・・・どういう事?
・・何があったんだろう?・・。
すると向こうの方から誰かが歩いて来た・・
・・誰かがこちらに歩いて来ている・・いったい誰が?・・どこかで見たことがある気がする・・あれ?・・・僕・・・?
※
「しかし、よく眠ってるな」
「こら、あんまり大きな声出したら、駄目でしょ!」
「お前の方が声、デカイだろ」
「うるさいわね!」
「静かにしろって・・起きるだろソルが」
「そうね・・二人とも少し、ボリュームを下げた方がいいかも」
「ごめん、ハナビ」
祚流がベットの上で寝ている・・ここは麗の部屋だ・・祚流が倒れてから、一番近くに家がある麗の家に祚流を運んだのだ。幸が、
「しかし、レイさんの家って・・本屋さんだったんですね」
「はい・・親が趣味で・・」
その本屋の名前は、『紅葉屋』・・町から少し離れた所に木造の建物がある。趣のある木で作られた看板が掛っていた。店全体を見ると今にも潰れそうな気もしないでもない。その二階にある麗の部屋のベットを凛達が、取り囲むように座っている。
祚流は時々、うめき声をあげて、苦しそうだ。麗が祚流の額に乗っているタオルを冷たいのと取り換える、
「ソルさん、苦しそうですね・・」
一同は、なかなか言葉を発しようとはしなかった・・。凛が重たい口をひらく、
「何が・・・あったの・・」
幸が、ゆっくりと窓の方に首を動かしながら、
「・・・わからねえ・・」
「あんたに・・聞いてないわよ・・」
「分かってるよ・・」凛はどこか遠いところを見ている・・目の焦点があってない、窓から夕日が差し込んでいる、
「ソルって・・こういうキャラだっけ?」
幸が首を横に振りながら、
「いや・・どちらかと言うと・・助けられる方だよな・・・。」
華美がおもむろに、
「・・何かが、キレた・・・のかな」
凛が真面目に、
「血管かなにか?」
「いや、精神的な・・何かとか・・」
すると祚流が、苦しそうに、
「う~ん、き・・君は・・・だ・・誰?」
幸が祚流の顔を覗き込み、
「どうしたんだろ・・悪い夢でも見てるのかな・・?」
すると突然、
「うわぁぁぁぁ!」
祚流がベットから飛び起きた、幸と凛が祚流の体を咄嗟に押さえつけ、
「ど・・どうしたんだ?ソル!」
「ちょっと・・大丈夫?」
祚流は汗を沢山かいていた・・息が上っている・・、
「はぁ・・はぁ、はぁはぁ、僕は・・・」
「大丈夫か?」
幸が心配そうに尋ねる、
「ここは・・?」
凛が説明した。
「ここは、レイちゃんの家のレイちゃんの部屋」
「・・僕は・・・?」
華美がコップに入った水を祚流に渡しながら、
「倒れたのを・・みんなで運んで休ませてもらってるの」
「・・僕・・何も覚えてないんだ・・」
麗が、冷たいタオルを渡しながら、
「大丈夫ですか?・・悪い夢にうなされてましたよ?」
「ありがとう・・そうなんだ・・夢の中でこの町が砂漠になって、全部廃墟みたいになってて・・それをやったのが・・僕・・なんだ」
幸が笑いながら、
「大丈夫だよ・・夢だろ・・そんなの」
「そうよ・・ただの夢よ」
「でも・・やけにリアルで・・」
「馬鹿だなあ、ソルは、夢のことを気にしてどうするんだよ、俺なんか今日の夢は・・・」
そう言うと、幸の表情が固まる。
凛が不思議そうに、
「どうしたのよ?」
「いや・・何でもない」
幸が真面目な顔をしている、
「俺も・・・砂漠の夢を見た」
※
切那は、麗から連絡をもらい本屋に向かっていた。
・・祚流が血だらけ・・・。
祚流には怪我はないけれど、祚流に襲いかかったチンピラ達は全員、病院送りになったらしい。
・・今まで、こんなことは無かった・・。
でも、心のどこかでこんな日が来るのでは・・と思っていた自分がいる。
人混みの中を歩いていると、ちょうど反対側の道から、天輝がこっちに向かって来ていた。天輝が切那に気がつく、
「おお、セツナ」
天輝はどこか、悲しそうな顔をしていた。
「お父さん・・・ソルが・・」
「あぁ、知ってるよ、ソルは覚醒した・・」
・・覚醒・・・何かが、少しだけ引っかかった。
「覚醒?」
「そうだ、力が目覚めた・・」
「それは・・本当にソルの力?」
・・私は・・何を聞いてるんだろう・・?
「・・・たぶんな」
やっぱり、お父さんも納得してないみたいだ。何かトンデモナイもの、が祚流にとりついている気がする。
「ソルの所に行って来る」
「そうか、まぁ気をつけてな・・まあ後の処理は空おじさんがやってくれる」
「・・うん」
「俺は、会社に戻るから、ちゃんと晩飯には戻る」
「うん」
天輝と別れて、切那は麗の家に向かった。青空だったのが、いつの間にか夕焼けになり太陽はもうすぐ沈みそうだった。
*
「砂漠の夢って・・どういう事?」
祚流はかなり驚いている、
幸は、しばらく悩んでいたようだったが、
「俺も、ソルと同じような夢を見たんだ」
みんな幸の話に耳を傾けている、
「砂漠が一面に広がっていて、機械か何かの残骸が落ちていて・・・そうだ・・確か・・空が赤かった、それで遠くを見渡すと・・・遥か向こうに、でっかい塔が建ってるんだ」
「僕も前に見た・・」
思わず祚流が口をはさむ、
「あぁ、それでその塔のてっぺんが見えないんだ、高すぎて」
「そんな塔、あるわけないでしょ」
凛がもっともだ、と言う感じで否定する、
「だから、夢だよ」
祚流が先を促す、
「それで・・どうなるの?」
「それで、その塔に近づこうとするんだけど」
「なかなか、たどり着けない」
祚流が言葉を引き継ぐ。
「そうなんだ、それで、しばらく歩くと向こうの方から何かがやってくる」
「何かって?」
「黒い何かだ」
「黒い?」
「黒い影のような・・あれはマントを被っていたんだと思う」
「マント・・」
「それが、かなり遠くの方にいたのに・・一回瞬きをした瞬間に、目の前に移動してるんだ」
凛がたまらず、
「こわっ・・」
「だから・・夢だって」
「それで、どうなるの?」
「そいつが『まだココに来るな。』って言うんだよ」
「僕の夢には、その人は出てこない」
「そうなのか?」
「うん」
しばらく全員が黙り込む・・・。すると下の階から音がした、
「ごめんください」
麗が立ち上がりながら、
「セツナさんですね」
みんなが顔を上げる・・幸が、
「そういやぁ・・どこに行ってたんだろ?」
凛も立ち上がり、
「あたしも、降りる」
麗が立ち上がり、
「私が呼んだんです。どこにみんなが居るか・・分からないと思ったので・・」
「流石、レイちゃん・・・」
感心したように幸が、
「確かに・・ソルのことで頭がいっぱいだった・・」
・・それじゃあ・・そう言いながら、麗が階段を降りて行った。
*
・・こんなところに、本屋があったんだ、気が付かなかった。
古い本がたくさんある・・、でもどの本も大事にされてきたようだ。店の中は外見に比べ綺麗にしてある・・麗が掃除をしているのだろうか・・・天井は吹き抜けになっており、柱が見えているところもある、正面にはステンドガラスがあり、海の絵だろうか、ヨットが浮かんで、カモメのような鳥が飛んでいる。
・・こういう雰囲気は、嫌いじゃない・・むしろ好きだ・・このレトロな感じは・・・。
何気なく、近くの本棚にあった本を取ろうとした時、
「セツナさん」
麗が階段から降りてきた、
「みんなは・・ココ?」
「そうです・・ソルさんもいます、でも少し大変な状況になっていて・・」
「大変な状況?」
「はい」
麗は深刻な顔をしている。
「大体のことは、電話で話しましたが、まだ言ってないことがありまして・・」
「なに?」
「とりあえず・・私の部屋に上がって下さい」
そう言うと麗が、降りてきた階段を再び登りはじめた。切那がそれに続く。日はとっくに暮れていた。
*
幸が祚流に、
「なんて説明するんだよ・・セツナさんに?」
「僕も・・分からないよ・・ホントに何も覚えてないんだ」
ドアが開き切那と麗が入ってきた。切那が祚流に近づき、
「これ」
そう言いながら切那はポケットにあった物を差し出した。
「あっ、僕の携帯・・見つけてくれたの?」
「・・あの店にあった・・」
「ありがとう・・セツナちゃん・・」
切那が、祚流に携帯電話を渡す。
「何が・・あったの?」
「え・・えっとね・・」
祚流が口ごもる。
「よく覚えてないんだ・・」
何とか今までの経緯を、凛達も話に加わり、切那に説明した。
祚流が思い出したように、
「あっ、そう言えば!」
幸が驚きながら、
「だから、いきなり大きな声出すなって、どうしたんだ?」
「それがね、セツナちゃんのお父さんが、僕を助けてくれたみたいなんだ」
「お父さんが・・・?」
切那が聞き返す、
「そうなんだ、それでその後、しゃべるカラスと、友達になったんだ」
・・しゃべる・・カラス?・・・
凛が呆れたように、
「そんなの・・いるわけないじゃん」
「いたんだよ!ホントに・・」
「それも、夢でしょ」
「ホントだよ・・・」
祚流がうつむく・・・。
「それで、これからは『私を使え。』って言ったんだ」
華美が、
「使うって・・どういう事?」
「よく分からないんだけど、一体化するとか」
幸が首を傾げながら、
「一体化?」
凛が、
「そのカラスって、幽霊とかじゃなくて?」
「うん、ちゃんと実体があったよ」
幸が呟く、
「幽霊とか、悪霊だったら、お祓い出来るんだけどな」
祚流が驚き、
「えっ、そうなの?」
幸が当たり前だという風に、
「だって・・家が寺だから」
祚流は納得しかねたが、
「そ・・そうなんだ・・」
凛が、
「一応・・私たちは、陰陽師みたいなもの、なの」
切那が、
「・・・そう・・・」
・・・オンミョウジ・・?
「あれ?言ってなかったっけ?」
「うん」
「まあいいか、今、言ったから」
祚流は興味津津だ、
「じゃあ、幽霊とか見えるの?」
凛が恥ずかしそうに、
「いや・・私は気配しか分からなくて、その・・・まだ、修業中よ!」
そう言いながら、祚流の背中を叩く。
「うわっ、痛いよぉ」
幸が馬鹿にしたように、
「そうそう、こいつは何も役に立たないんだよ、だって幽霊が見えないんだからな」
「うっさいわね!・・あんただって、封印術が弱いじゃないの・・だから私が封印してるじゃない!」
「くっ、それは・・そうだけど・・よ」
祚流が恐る恐る、
「封印術?」
幸が答える、
「あ~、そうだな・・・陰陽師みたいに札とか武器を使って、いろいろするんだよ」
「へぇ~」
凛が付け足す、
「正確に言うと、霊の事とかで悩んでいる人たちを、助けるの」
「そういう仕事を、先祖代々、やってるんだよ」
祚流や、切那、麗、華美はイマイチ理解できていない顔をしていた。祚流がやっと声を出す、
「知らなかった・・・」
華美も、
「私も・・」
麗が感慨深そうに、
「幽霊って・・本当にいるんですね・・・」
切那は黙ったまま、何かを考えているようだった。
凛が何事もなかったように、
「まあ、そういう事よ」
※
あの後、祚流の容体も良くなり、一同は麗にお別れを言って、それぞれの家に帰って行った。
辺りは、すっかり暗くなっていた。
切那と祚流がいつもの川原の道を歩いている。
川は真っ黒で、月が川に映ってゆらゆら、揺れている。時折、車が通って行く。人影はあまりない、二人はしばらく無言だった。
不意に祚流が、
「セツナちゃん・・・」
切那は川の方を向きながら歩いている、
「・・・何?」
「あのさ・・・僕・・どうしちゃったのかな・・・」
祚流は切那の方を向いてみた、銀色の髪が月明かりに照らされて、神秘的な輝きを放っていた。
・・・綺麗だ・・・
思わず、声に出しそうになった・・。
・・・って、僕は何を考えているんだ!・・。
切那がゆっくりと祚流の方を向く・・、
「・・にも、・・・・ないで・・」
切那が何か言ったようだが、ちょうどその時、大型のトラックが、後ろから走り抜けていったので、祚流はうまく聴き取れなかった。
「えっ?・・なんて言ったの?」
切那はまた川の方を向いていた。前方に、別れ道が見えてきた。
「・・別に」
「え~、なんて言ったの?」
切那が急に立ち止まる、祚流が、
「どうしたの?」
「私、こっちだから・・」
そう言いながら、別れ道の左側を指差していた。
「そ、そうだよね・・僕はこっちだから・・送らなくても大丈夫?」
切那が少しだけ祚流の方を向き、
「大丈夫」
「そっか・・じゃあ、また明日ね」
「・・また・・・」
そう言うと切那は、左側の道を歩いて行く、
祚流は切那の後ろ姿を見ていた・・・あっという間に切那は、闇の中に溶け込んで行った。
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