第5話・・緑色

朝になった。ふかふかのベットで寝たので、疲れがだいぶ取れた気がした。少し腕が重いと思ったら、白銀が腕の上で寝ていた。・・寝顔はかわいい・・。切那は白銀の頭を優しく撫でた。部屋を見渡す・・、お父さんが居ない・・。お母さんも・・・と思ったが、

「ふがぁぁぁぁぁぁ・・・」

ベッドから落ちているようだった。相変わらずだ・・・。不意にドアが開く音がした、天輝だ。

「お、セツナ起きてたか、おはよう」

「おはよう・・・どこ行ってたの?」

「ああ、ソラおじさんの所だ」

「一晩中?」

「・・いや、ついさっきな・・」

「何かあったの?」

「別にそんなんじゃない。心配するな、何でもねぇよ、ただの昔話だ」

・・たぶん、嘘・・・。

「・・ふーん・・」

「よし、朝飯が出来たようだから、お母さんを起こすか」

「うん・・」

            ・・・数分後・・・

天輝達が部屋から降りてきた。テーブルには豪勢な朝ごはんが、並んでいる。まるでどこかの、高級ホテルの朝ごはんだ。ハムやら、ウィンナーやらベーコンやら、目玉焼きやら、サラダやら、とにかくたくさんの料理が並んでいる。とてもこの人数では食べきれない量だ。

春が得意げに、

「今朝は、新鮮なサーモンが手に入ったから、カルパッチョにしてみたわ」

切那が小さい声で、

「お父さん・・って、何?」

天輝は静かに言った。

「食べ物だ・・」

・・・確かに・・・、

「そうだけど・・」

「俺も見たことない・・・」

空がみんなの顔を見回して、

「それではいいかな?いただきます」

全員で、

「いただきます!」

朝食はとても美味しかった。とても優雅なひと時だった。最後に飲んだカプチーノがまだ口の中に残っている感じがする。

食べている途中で空が、

「テンキ、どうしたの?顔が腫れているような気がするけど?」

「・・ん?ああ、なんでもねぇよ。なっ、セツナ」

「・・うん」

明も天輝の顔に気が付き、

「あれ?ホントだ。どうしたの?」

「別に、ベッドから落ちたんだ」

「そうなの?ドジだねぇ~」

そう言いながら、笑っている、

「ははは・・・確かにな・・・」

実際のところは、顔面に明の鉄拳を食らったのだが・・・。

天輝がナプキンで口を拭きながら、

「よし、ちょうどいい時間だな、今日、学校あるのか?」

切那が食器を片付けながら、

「・・ある」

「そうか・・」

空が椅子から立ち上がりながら、

「じゃあ、送っていくよ」

「すまんな、ホント。ついでに俺も会社に送って行ってくれ」

「別にいいよ、僕も会社に行くし」

「ありがとよ。じゃあ、三十分後に出発だな」

        ・・・三十分後・・・

「準備はいいか、出発だ」

一行は、リムジンに乗り、屋敷を後にした。森を抜けて国道に出る。坂を下ると『瑠璃色高校』が見えてきた。

天輝がしみじみと、

「・・なんだか、懐かしいな・・・」

空が懐かしそうに、

「・・そうだね・・・」

天輝がポツリと呟く、

「こんな生活、ずっとしてぇなぁ」

空が、

「ん?なんか言った?」

「・・いや・・何でもねぇよ」

車は、校門の少し手前で止まった。切那と祚流が降りる。

「ソラおじさん、ありがとう・・お父さん行ってきます」

「行ってきます!」

「ああ、気をつけてな」

「いってらっしゃい」

二人は、校門の方に向かった。リムジンは町の方に走って行った。

祚流が、下駄箱に靴を入れながら、

「またセツナちゃん、泊まりにきなよ?」

「・・考えとく・・」

・・もう一回、お菓子いっぱい食べたいな・・


教室に入ると、生徒達の話が聞こえてくる。

「おい、知ってるか?今日、転校生が来るんだって」

「マジで?女子かな?」

「男子かもね」

「どんな子が来るんだろ?」

「頭いいのかな?」

「外国から来るらしいぜ」

「ホントに?」

祚流が、

「転校生か、どんな子が来るのかな?」

切那は、興味なさそうに、

「・・・・さあ。」

しばらくすると教室のドアが開き、担任の高橋美香(みか)が入ってきた。美香先生は、英語の先生で、女子バスケット部の顧問だ。ショートカットの髪で割と美人だ。少し天然なところがある。明るい性格で生徒からも人気があり、切那も信用している先生だ。

「はぁい!みんな席について下さぁい。」

生徒たちが、自分の席に戻る。

「えぇっと、今日は重大な、お知らせがあります。なんと!転校生がうちのクラスに来てくれることになりましたぁ!」

あちこちから、

「知ってるよ~。」

「女子ですか~?」

「イケメンって本当ですか?」

「外国からなんですか?」

先生が手を叩きながら、

「はぁい~、静かにして下さい。それでは!」

すると先生が、ドアの所に戻り廊下に出て、

「いいわよ、さあ緊張しないで、リラックスよ、リラックス、中に入って」

先生が戻ってきた、後ろには転校生がいた。漆黒の髪が、背中辺りまで伸びている。教科書を前に抱きかかえていて、とても緊張しているように見える。顔には、今どき珍しい馬鹿でっかい丸渕のメガネをかけている。よくあるグルグル眼鏡と言っておこう。

先生が転校生に、

「さぁ、自己紹介をして下さい。」

グルグル眼鏡の子が、

「お、おはよう、ご、ございます。私は、梨乃(なしの)麗(れい)と申します。『ヘブンズタウン』から来ました。早くみんなと、な・・仲良くなりたいです。こ・・これからどうぞ・・よ・・よろしくお願いします」

拍手が沸き起こる。

先生が、教室を見渡し、

「そうねぇ、席は・・・セツナさんの横が空いてるわね、じゃあ、梨乃さん、セツナさんの横の席に座ってね。」

麗が恐る恐る、

「あ、あの・・セツナさんは・・どこに、いらっしゃるのでしょうか?」

「ああ、ごめんなさい、セツナさん、手を挙げて教えてあげて」

「・・・はい・・」

切那が、しぶしぶ小さく手を挙げる。クラスメートの声が聞こえる。

「うわ、いきなり魔女の隣だ・・」

「かわいそう」

「話しかけづらい・・・な」

「確かに・・」

今のが、聞こえているのか、聞こえてないのか、麗がこちらに歩いてきた。

ちなみに『ヘブンズタウン』、と言うのは、今でいう首都のようなところだ。総理大臣の居る、ヘブンズタワーが建っている場所で、切那達が住んでいる、『瑠璃色市』よりも、ずっと都会だ。

麗が深呼吸をして、

「どどどどうも・・」

「・・どうも」

「こ・・これからよろしくおおお願いししします!」

そう言いながら頭を下げた、その拍子に眼鏡がずり落ちる。

「・・よろしく・・」

            *

授業は、いつもと変わらなかった。そしていつものように昼休み。

「セツナちゃん、食べよう」

祚流が近くに来た。いつも使っている席は、麗の席になっている。

「・・別に・・・」

麗が慌てて、

「あっ、私・・席・・移動しますね」

祚流が慌てて、

「いや、そのままでいいです、ごめんなさい、僕・・ソルって言います。よろしく」

「あっ、こ、ここちらこそよろしく」

すると、教室のドアが二つ同時に開き、

「セツナっ、食べよ~♪」

「ソル、飯食うぞ!」

祚流が小さめの声で、

「いつも同じタイミングって、すごいよね・・・」

             ※

「ふーん、『ヘブンズタウン』から来たんだ、遠いね」

「・・はい・・」

幸がにこやかに、

「どうしてこっちに、引っ越して来たんですか?」

「・・え~っと、親の仕事の関係で、私・・小さい頃から、ずっと引っ越してばっかりだったから・・・」

「そうなんですか・・」

凛が水筒のお茶を飲みながら、

「大丈夫、ここはいい町だし、分からないことがあったら何でも、私たちに聞いてよ。力になるからね。」

「あ、ありがとうございます。」

頭を下げた拍子に眼鏡が、またずり落ちた。凛が、

「その眼鏡・・合ってないんじゃないの?大き過ぎるって、それ」

麗が眼鏡をかけ直し、

「やっぱり・・そうですよね・・・でもこれしか持ってなくて・・」

「ごめん、ちょっと言い過ぎた・・新しいの、買っちゃえば?」

「・・・はい・・」

凛が何か思いついて、

「そうだ!今度の土曜、みんなで、レイちゃんの眼鏡を一緒に買いに行こう」

幸が頷きながら、

「おお、いいかも、暇だしな・・どうせ、なっ、ソル?」

「う、うん。そうだね・・いいかも」

「セツナも、どう?」

切那は、本を読んでいた。

「・・・別にいいけど・・・」

「よし、決まりだね。そうだ、ハナビも呼ばないと」

            *

結局、今度の土曜日に、眼鏡探しが決まった。これから午後の授業が始まる。英語の時間だ。切那はちらっと祚流の方を向いた

・・・気持ち良さそうに寝ている。

麗が小声で、

「ソルさん・・・寝てますね・・」

切那はあきらめたように、

「・・いつも・・・あの調子・・」

「そうなんですか・・」

「・・そう」

午後の授業も終わり、今から放課後だ。

祚流が鞄を担ぎながら、

「じゃあ、これから部活があるから、レイちゃんは何か部活入る?」

「え~っと、まだ決めてないです・・・」

「そっかぁ・・、いろいろ見学するといいよ」

「そうします」

「それじゃあ」

そう言うと祚流は教室を出て行った。

麗が祚流の過ぎていく後ろ姿を見ながら、

「ソルさんって何部ですか?」

「・・・陸上部・・」

「そうなんですか・・・セツナさんは?」

「私は・・入ってない・・」

切那は荷物を持ち、教室を出て行こうとした。

「あっ、あの・・・」

「?・・どうしたの?」

「一緒に・・帰っていいですか?」

「・・いいけど・・」

教室を出て廊下を歩く、その間二人はずっと黙ったままだった。校門を出て、いつもの川沿いの道に出る。人が少なくなった。

すると麗が、言いにくそうに、

「セツナさん・・ひとつ、聞いてもいいですか?」

「・・何・・?」

「その・・どうして髪の色が・・普通の人と違うんですか?すいません、こんなこと聞いちゃって・・」

「・・生まれつき・・」

切那は川を見ている、

「えっ・・?」

「生まれつき・・この色だった・・・」

「そうなんですか・・・すいません。」

「別に・・もう慣れてるから・・」

「すいません」

しばらく沈黙・・・そして麗が、

「あの・・さっきから気になってたんですけど・・」

「何を・・?」

「その・・猫がずっと後をついて来てるんです」

「・・・そう?」

切那が、後ろを振り返る・・・・白銀だ・・。

「あの白い猫です」

「あれは、家で飼ってる猫・・たまについて来る・・」

「えっ、そうだったんですか」

「そう」

「猫・・好きですか?」

「きらいじゃない」

「私も好きですよ、猫。ふわふわしてて、柔らかくって、暖かいんです」

「でも、勉強の途中で、机に登って来る・・」

「ふふ、かまって欲しいんですよ、きっと」

「邪魔してるだけだと思う・・」

「そんなことないですよ、名前はなんて言うんですか?」

「白銀」

「し、渋いですね・・。でも、そんな感じがします。いい名前です」

「・・よかったね・・・白銀」

いつの間にか白銀が、切那の隣を歩いていた。

「なんだか・・・セツナさんって・・不思議ですよね」

切那が首を傾げる。

「・・・・?」

麗が慌てて付け加える、

「わ、私・・初めて会った人に、こんなに、しゃべったこと、無いんです」

「・・そう」

「なんだか・・うまく言えないけど・・ありのままの、自分でいられる気がするというか・・素直になれると言うか・・・変なこと、言ってすみません」

切那は、少し麗の方を向き、

「・・謝らなくていい」

「・・すみません・・・あっ!」

切那が珍しく笑った。少しだけ、口が緩んだだけ、だったが・・。

「じゃあ、私こっちなんで・・、また明日」

「また明日」

今日の夕日はいつもより綺麗に見えた。


                ※

 約束の土曜日、ここは、町よりずっと離れた山奥。人はあまり寄りつかない、少し山を登ったところに、人が住んでいるのかさえ怪しい、大きなお寺がある。幸たちの家である。

外見はボロいが、中は割と整備されている(ところもある)。

縁側に座って、あんパンを食べている人物が居る。柱にもたれ掛かっているのは、冥雲凱みょううんがい、幸と凛の父親だ。甚平を着ている。髭を生やしていて髪がボウボウだ、かなりだるそうにしている。

凱が欠伸をしながら、

「ふあぁぁ、眠いな」

幸が廊下を歩いてきた。

「オヤジぃ、朝飯だって、・・・ってまた、朝から、あんパン食ってるのかよ?」

凱がだるそうに、

「別にいいだろぅ、ふあぁぁぁ、好きなんだから」

「いや・・まあそうだけど・・・」

「お前も・・食うか?」

そう言うと、あんパンを差し出してきた。

「いや・・いいよ、・・・あっそうだ」

「なんだ?」

「今日は、ソル達と遊んでくるからな」

「おお、そうか・・・リンもか?」

「・・そうだっけ・・・?」

すると、奥の部屋から、

「ワタシもよ!・・っていうか何してるのよ、二人とも・・朝ごはんだよ、冷えちゃうよ、ご飯!」

幸が思い出したように、

「・・そうだった・・」

「よし・・飯・・食うか・・・」

凱たちが、奥の部屋に向かうと、凛がご飯を配りながら、

「遅いよ、はやく!」

凱がゆっくりと座りながら、

「まあ、そう急かすな・・おっ、今日は鮭か・・」

幸が凛に、

「おい、そんなにカッカしてると、シワが増えるぞ」

「うっさい!集合時間に、遅れちゃうわよ」

「なに、もうそんな時間か!」

「そうよ、早く食べましょう」

「あれ、オフクロは?」

「お母さんは、台所にいると思うけど・・」

襖が開き、お盆にお茶をのせた人物が入ってきた、冥雲月みょううんつき、凛と幸の母親だ。(正直言うと凱には、もったいないくらい美人だ。)肌がとても白い。髪は肩にかかるか、かからないかだ。小さい頃からピアノを弾いていて、プロのピアニストだった。凱と結婚してからは、演奏活動はしていない。かなり有名なピアニストだったらしい。

月がお茶を配りながら、

「さあ、食べましょうか」

「いただきまっす」

幸が早食いをしながら、

「やべ、急がないと、遅れるなこりゃ」

月が鮭をほぐしながら、

「今日、何かあるの?」

「そう、ソル達と遊んでくるんだ」

「リンも?」

「そうよ。」

凱が漬物を食べながら、

「・・何時くらいに、帰ってくるんだ?」

幸と鈴が同時に、

「そうだな~・・・そんなに遅くならないと思う」

「そうね~・・・そんなに遅くならないと思うよ」

月が笑いながら、

「そう・・いってらっしゃい」


           *

祚流は、いつもの行きつけのファーストフード店で、みんなが来るのを待っていた。

「みんな、まだかなぁ・・・」

集合時間になったが、誰も来ていない。・・・僕・・場所間違えたかな?でも、みんなココだって、言っていたし・・。

そんなことを考えていると、祚流の席のところまで、誰かが近付いてきた。

「ごめん、待った?」

華美だった。

ジーパンに紺のパーカを着ている。割とボーイッシュな格好だ。

「いや・・なかなか・・みんなが来ないから集合場所を、間違えたかと思ったよ。よかったぁ、僕は間違ってなかった」

「ごめんね、ココ、来たことがあまりなくって、探すのに時間がかかったんだ、セツナちゃん達も、来てないね」

「そうだったんだ、ごめん、ちゃんと教えればよかった」

「いいよ別に、たどり着けたんだから」

「ごめんね、あっ」

「どうしたの?」

「レイちゃん・・・この場所分かるのかな?」

場の空気が冷める・・・。

「・・誰か教えてるよ・・きっと」

「だといいけど・・・」

そうこうしている内に、店の自動ドアが開き、

「やあ~ごめん。まった?」

どうやら凛たちのようだ。

凛が華美たちの席の前に座りながら、

「いやね、どっかのアホが、準備するの遅くて」

幸が後から入ってきながら、

「お前だろ!」

「あんたでしょ!」

「なんだとぉ~、『着ていく服がないよぉ~』とか言っていた奴は、どこのどいつだってんだよ」

凛も負けずに、

「うっさい!あんたなんか、『靴下の片方がないぃ~、』とか言って結局、違う柄の靴下履いてるじゃない!」

幸が慌てて、

「ばっ・・そういう事は言わなくていいだろ・・靴履くんだから、関係ねぇだろ」

凛が勝ち誇ったように、

「あるわよ、それのせいで遅れたんだから」

祚流がなだめるように、

「まあまあ、どっちもどっちって事で・・・」

「よくない!」

「よくねぇ!」

華美が話を変える、

「セツナちゃん達は、知らない?」

凛が気が付き、

「あれ?まだ来てないの?」

「そういえば・・レイさんも・・・」

祚流が心配そうに、

「何か・・あったのかな?」

       *

 ここは、切那の部屋・・・布団から手が伸びて、近くに置いてある目覚まし時計を掴む。・・・・十時半・・私は、何をしてるんだっけ?・・・あっ、寝坊した・・今日は確かレイちゃん達と遊ぶ日だった・・・。どうしよう・・このまま寝てしまおうか・・私が居なくても・・・大丈夫だと思うし・・、でもやっぱり行こう。レイちゃん・・待ってるだろうし・・。

下の階から、天輝の声が聞こえてきた、

「お~い、セツナ~、お友達がまってるぞ~、あっ、すまん、名前なんだったっけ?・・・・・そうだ・・レイちゃんが待ってるぞ。降りて来い」

・・・レイちゃん?・・どうしたんだろう・遅いから迎えに来たのかな・・急いで支度をしないと・・そういえば、白銀はいない・・それより急がないと。・・切那はようやく布団から出た。少し寝癖が立っている。

・・あれ?・・家の場所・・教えたっけ・・?

「今、行く」

「ああ、少し急げよ~」

「うん」

         *

ここは、一階の客室・・のようなところ。天輝が、

「すまんな・・レイちゃん、どうやら寝坊のようだ」

「い・・いや、いいんです、私が勝手に押しかけちゃて・・。」

「いや・・これからいつでも来てくれ、歓迎する。セツナはさ、・・・あまり友達とかを連れてこないんだ、来るとしたら、ソルくらい、かな。それもたまに、だ。」

「そう・・なんですか?」

「そうだ。だからこれを言うのは変かもしれないが、友達になってくれてありがとう、これからもずっと、友達でいてくれ」

「は・・はいっ!」

天輝の顔が一瞬だけ、まじめになり、

「それはそうと・・・どこかで会ったことあるかな?」

麗が顔を少しだけ下に動かす、光が眼鏡に反射して表情がよくわからない。

「どうしてですか?」

「いやぁ、ごめん、変なこと聞いちゃって・・」

「ふふ、おもしろい方ですね」

「いやいや、たとえば・・・あの時の戦場で・・とか?・・・」

・・時間が止まったかのような静寂・・・・二人とも無言だ・・

階段を降りる音が聞こえてきた、天輝が、

「やっと降りて来たか、おい、待ってるぞ」

「うん・・ごめん」

「いや、いいんです、私が勝手に来ちゃったから、それより行きましょう、みなさんが待っていると思いますから」

「・・・うん」

麗が立ち上がりながら、

「それでは、お邪魔しました。・・・また来てもいいですか?」

「ああ、いつでもいいぞ」

「ありがとうございます、それでは・・また」

「セツナ、遅くなるのか?」

「そんなに、遅くならない・・・と思う」

「そうか、気をつけてな。」

「うん、行ってきます」

そう言うと、切那と麗は玄関を出て行った。家には天輝だけだ。

「・・まさか・・な」

           *

切那と麗は、少し早歩きをしていた。

「あ、あの・・・」

「・・・・?」

「さっきから、携帯が鳴っているような・・・」

切那が自分を指差し、

「私の?」

「そうだと、思います」

切那はしぶしぶといった表情で、携帯を手に取る・・確かに鳴ってる。どうやら祚流からのようだ。通話ボタンを押す。

〈あっ・・・繋がった・・セツナちゃん・・なにかあっ・・・〉

切那は通話を切っていた。

「えっと、切って・・よかったんですか?」

「大丈夫」

「あ・・すみません」

「急ごう」

「は・・はい」

          *

「で、なんて言っていたの?」

凛が祚流に尋ねる、

「それが・・途中で切られちゃって・・・」

凛が笑いながら、

「嫌われてるんじゃないの?」

「そんな~ひどいよ・・・セツナちゃん。」

幸が、

「と言うか・・何でセツナさんの番号知ってるんだよ!」

「何でって、言われても・・・。」

「俺にも教えろよ」

「別に・・いいけど」

華美が、

「電話に出たってことは、すぐそこまで、来てるのかもしれないよ?」

凛が納得したように、

「そうよね、すぐ着くから、特に話すことが無かったのかも」

祚流が納得し、

「じゃあ、そろそろ来るかな?」

店の自動ドアが開き、誰かが入ってきた。凛が立ち上がり、

「こっちよ~セツナ、レイちゃん!」

やっと到着したようだ。麗と刹那が、鈴達の席に座った。

祚流が心配そうに、

「セツナちゃん・・何かあったの?」

切那は、少しだけ面倒くさそうに、

「別に・・」

「べ・・別にって・・何か僕、変なこと言った?」

「別に・・」

「うう~」

凛がにやけながら、

「まっ、いいじゃない!やっと揃ったって事で」

麗が頭を下げながら、

「遅れてすみませんでした!みなさんに心配かけちゃって」

「いいって、いいって、気にしないで」

幸が気を取り直し、

「じゃあ、これからどこに行く?」

華美が麗に話しかける。

「レイちゃんは、どこに行きたい?やっぱり、先に眼鏡を買いに行ったほうがいいよね?」

凛が思い出したように、

「そうだよね、そうだった。この近くに眼鏡屋あったよね?」

祚流がそれに答えた。

「確か・・この店を出て・・右に行ったところに交差点があるから・・そこを右に行ったらあるよ」

幸が関心したように、

「へぇ、詳しいな」

「たまに、お使いに来るからね」

「何のお使いだ?」

「えっと・・霜降りのお肉を買いにとか、新鮮な魚を買いにとか・・ほとんどがご飯の買い出しとか・・だけど・・」

「そんなのは、使用人の人とかが、買いに行けばいいのに・・何でわざわざ自分が買いに来るんだ?」

「家の手伝いがしたいだけだよ、じっとしてられないんだ。僕だって何かの役に立ちたいんだ」

幸が感心しながら、

「やっぱり・・・すげぇよ、ソル」

「えっ、どうして?」

「普通の金持ちだったらそんなこと・・・絶対考えないだろ」

「そう・・かな・・?」

切那が誰にも聞こえないような声で、

「それが・・・・ソル・・」

麗がそれに気づき、

「あっあの・・」

切那が麗の方を向く。刹那が少し首を傾ける、

「・・・・?」

「何か・・言いましたか?」

「・・なにも・・」

「そう・・ですか・・」

凛が立ち上がり、

「よしっ、とりあえず、眼鏡屋さんに行こう!」

一行はとりあえず、祚流の言った眼鏡屋に行くことにした(当初の目的はこれだった気がするけど・・)。交差点を過ぎると、目的の眼鏡屋さんに着いた。新しいとも古いとも言えない、外観だった。

店の名前は、[メガネのキク]どこにでもあるような普通の店だ。

店の前まで来た。凛が先頭を歩いている、凛がふりかえり、

「さあて、どんな眼鏡があるのかな・・見るだけでも、楽しそうね」

そして、店に入ろうとしたときに祚流が、

「あっ!」

そう言い立ち止まった。

幸が、

「びっくりした・・いきなり大きな声だすなよ、心臓が持たないぜ・・で、どうしたんだ?」

祚流がにが笑いをしながら、

「どうもね・・さっきの店に、携帯を置いてきたみたいなんだ・・」

凛があきれて、

「ホントにドジね・・、しょうがない・・みんな戻りましょう」

「いや・・いいよ、一人で行けるから・・みんなはここに居るんでしょ?」

「そうだけど・・・」

「すぐそこだから、大丈夫だよ」

「あんたは、いつも何かに巻き込まれるから、それが心配なのよ・・・・ねっ、セツナ?」

「・・・わたし?」

「もう、心配なんでしょ?」

「・・別に・・」

「またまたあ~、そんなこと言っちゃって」

「じゃあ、すぐに戻ってくるから」

そう言うと祚流は、もと来た道を引き返して行った。

凛が祚流の戻っていった方に一瞬目をやり、

「まあいいか・・とりあえず、店に入ろう♪」

       *

祚流は少しだけ小走りでファーストフード店に向かっていた。

・・・携帯を置いてきちゃうなんて、もし、無くしたらお母さん怒るかなぁ・・誰かがお店の人に届けてくれればいいけど・・・・。

しばらく小走りで道を進んでいると、

前方に五人か六人くらいのグループが歩いていた。見るからに、怖そうな人たちだった。野球でもするのか、金属バットを持っている・・・スキンヘッドの人もいるし・・鼻にピアスをしている人もいる。

・・うわ・・関わりたくないな・・あの人たちには・・でもこのまま行くといつもの事だから、絡まれてしまうかも・・・イッキに走り抜けよう。

祚流はダッシュして、そのグループを通り過ぎて行こうとした・・・が空き缶につまずきその拍子に転んでしまった。

あろうことか・・そのグループの真ん中に突っ込んでしまった・・グループのうちの一人が、

「なんだあ・・こいつ」

「今・・ぶつかって来たぞ・・ケンカ売ってんの?」

「いい度胸じゃねえか・・買うぜ、その喧嘩」

祚流がやっと立ち上がる。服の埃を払いながら、

「すす、すみません。ちょっと、足もとがふら付いちゃって」

「ああ!なめてんのコイツ?」

その中の、リーダーらしいサングラスをかけた金髪のオールバックの人が、

「まあまあ、謝ってるし、いいじゃねえか」

「でも、こいつぶつかってきたんですよ。本多さん」

「う~ん、そうだな、今日のところは、交通費だけで許してやろう」

祚流は驚きながら、

「えっ、許してくれるんですか?」

・・なんだか・・意外だ・・いつもだったら、絶対にボコボコにされるのに・・この人、いい人なのかも・・

そう考えていると、

「じゃあ、ここもなんだし、キミ、ちょっと付き合ってくれない?」

本多と呼ばれている人が、にやけながら、言ってきた。このグループは、祚流を取り囲むように歩いている。

グループはだんだん人の少ない路地裏に向かって行った。

・・・あれ、これは良くないような気がしてきた・・・やっぱりこの人たちは悪い人だ・・今頃気がついても・・遅いよね・・どうしよう、みんな心配してるかな。

・・ごめん・・僕がもっとしっかりしていれば・・

そうこうしている内に、どこかの倉庫のような所に着いていた。

本多が振り返りながら、

「じゃあ、交通費出してくれ、俺達これから行く所があるんだよ・・なっ?」

スキンヘッドの人が、

「そ、そうだ!俺たちゃ、これから行くところがあるんだよ」

「どこに行くんですか?」

「どこでもいいだろ、さあ、金貸してくれねえかな?」

「でも、そんなにお金持ってません」

本多がニヤニヤしながら、

「じゃあ、持ってるだけでいいや、貸してくれ」

「で・・でも・・、すみませんでした」

そう言うと祚流は、頭を下げた。

「いやあ、謝られてもなあ」

「ホントに、すみませんでした・・あの・・待たせてる人たちが居るのでそろそろ許してもらえませんか?」

すると、鼻にピアスをしている人が、近くにあったごみ箱を蹴り飛ばし、

「なめんじゃねえ!ぶっ飛ばすぞ!」

物凄く喧嘩腰だ。祚流は足が震えていた・・・この人たちはホントに危ない・・どうしよう・・携帯ないし・・殺されちゃうかも・・

本多がピアスをしている人を手で制しながら、

「まあまあ、落ちつけ、本当に持ってないのか?」

「は・・はい」

「じゃあ・・・しょうがないな・・。」

そう言うと本多が、祚流に近づいて来た、目の前まで来て・・、

『ドスッ』拳が祚流の腹部に入った、

「うっ、ごほっ!けほっ!」

息が出来なかった・・・少しずつ意識が遠のいて行くのが分かった、

・・僕・・このまま死んじゃうのかな・・・ごめん・・みんな・・・・セツナちゃん・・僕は・・・・

すると、霞んでいく意識の中で・・、

・・どこからともなく声が聞こえてくる・・

・・頭の中に声が流れてくる・・・

・・・[力が・・欲しいか?]・・

・・ほ・・欲しい・・

・・[では、使うがいい・・。]・・

・・そして、祚流は意識を失った・・・。

            *

ここは眼鏡屋・・祚流が、携帯を取りに行って一時間が立っていた。

凛が腕時計を見ながら、

「いくらなんでも、遅くない?」

幸も腕時計に目をやりながら、

「確かになあ、一キロ位だろ?」

華美が心配そうに、

「ホントに遅いね・・何かあったのかな?」

凛がすかさず、

「どう思う?セツナ?」

麗が恐る恐る、

「あ・・あの・・」

幸が麗のほうを向き、

「どうしたんですか?」

「セツナさんが、さっきから居ません・・」

「えっ!」

華美が店内を見渡しながらが、

「本当だ・・・さっきまで居たのに・・・」

凛が驚き、

「じゃあ・・・ソルを探しに・・・?」

「とにかく・・追いかけてみよう!」

一行は、店を飛び出した。

          *

凛たちが眼鏡屋を飛び出す数十分くらい前。

切那は、さっきまで居たファーストフード店に向かっていた。

・・・何だか・・嫌な、胸騒ぎがする・・・。

店の自動ドアのところまで来て、ドアが開く、

切那は店の店員に、

「すみません・・ここに携帯電話を忘れたのですが・・・」

最後まで言い終わらずに、店員が、

「ああ!お客様のでございましたか・・・、よかった・・ありますよ、すぐにお持ちいたしますね」

「はい」

と言う事は・・・祚流はここに来ていない・・でも・・どこに?・・

考えていると店員が携帯を持ってきた。

「これでございますか?」

青い色の携帯だ・・間違いなく祚流のだ・・。

「ありがとうございました」

「いえいえ、これからは気をつけて下さい・・世の中、物騒ですから」

切那は店を出た。

・・ここに来る途中で何か・・あったのかな、でも何があったんだろう・・もしかしてアンドロイドが・・・?

切那は周りを見渡してみる・・

・・特に襲われたような・・ところは何もない・・・?・・空き缶が落ちてる・・無事だといいけど・・。

            *

ここは倉庫の前の空き地のような所・・。スキンヘッドの人が、後ろに下がりながら、

「ま・・待ってくれ!・・頼む!・・許してくれ!」

スキンヘッドの人の前には、祚流が立っていた。正確に言うと祚流の形をした何か・・だ。目つきがまるで別人のようだ、貫くような視線、その眼に宿るのは漆黒の闇。

顔の右半分だけ、仮面のようなものを被っている、祚流の体からは、黒い炎のような、煙のようなものが立ち昇っていて、それは、まるで翼のように見えるときがある。祚流(?)が口を開く、

「・・分かったか・・これがソルの力だ・・・その身に刻むがいい」

祚流の声だが・・まるで違う誰かがしゃべっているようだった。とその時、物陰に隠れていた一人が、後ろから近づき、祚流の頭めがけて、鉄パイプを振り下ろした!

・・・パイプは当たった・・がそのパイプは地面を叩いていた。

鉄パイプを持ったチンピラが、

「う・・・ウソだろ・・」

まるで手ごたえが無かった・・・叩いたつもりだったのに・・祚流(?)の体が煙のようになり、消えてしまった・・・と思ったのも束の間、煙が集まってチンピラをその煙が覆い尽くしてしまった・・

「なっ!何だ!・・何だよ!コレ!」

その煙から弾き出されるように、チンピラはコンクリートの壁に叩きつけられていた。スキンヘッドの人が、

「ゆ・・許してくれ!・・仕方なかっ・・」

煙が、祚流(?)の姿になり、

「黙れ」

そう言うと祚流(?)が右の掌をスキンヘッドに向ける・・掌に黒い煙のような炎のようなものが集まり、球体状になる。それをスキンヘッドに向けて、放った。黒い玉はスキンヘッドの方に飛んでいき、当たった。ゆっくりと膝をつき前のめりに倒れるスキンヘッドの人・・・。

             *

幸が走りながら、

「おい・・どこに行ったんだ!」

凛が先頭を走りながら、

「知らないわよ!」

「どこに行ったんだよ・・・ああ分からねえ!」

華美が、

「落ち着いて二人とも・・もうすぐ、さっきの店に着くから」

凛が、

「そうだけど・・やっぱり落ち着いていられないわ!」

麗も必死に走っている・・きつそうだ・・。

「皆さん・・ちょっと・・」

凛が振り向き、

「どうしたの?・・レイちゃん・・もうちょっとよ・・頑張って!」

「は・・はい、・・・じゃなくて・・」

「見つけたの?セツナ、それともソル?」

「いえ・・セツナさんのお父さんが・・」

幸も振り返る、

「セツナさんの、お父さん?」

「はい、さっきあっちの交差点を、深刻そうな顔をして急いで、路地裏に向かっていたんです、もしかしたら・・・」

華美が言葉を繋げる、

「そっちの方に、居るかもしれないってことね?」

「そ、そうです」

凛が方向転換をして、

「よしっそっちに行ってみよう!」

          *

 祚流(?)は、少しだけ驚いていた。

「・・何の真似だ?」

「いや、今のは、確実に殺す気、だっただろ?」

天輝だった、スーツを着ている・・仕事中なのだろう。・・スキンヘッドは気絶しているようだった。黒い玉がスキンヘッドの人に当たる直前に天輝が黒い玉を弾いたのだ。まるで見えない壁にぶつかったかのように。

「『無』の力・・・か」

「そうだな」

天輝は少し怒っているようだった。

「ところで・・お前は誰だ?」

「ふっ、何を今さら・・。」

「だから・・誰だ?」

「ソルだ」

「違うな・・見た目はソルだが・・中身が違う」

「中身もソルだ」

「よし・・じゃあ質問を変えよう・・お前はソルの何だ?」

「・・・欠けているココロ・・・だ」

「ココロ・・?」

「そうだ」

「その力は間違えなく『闇』の力だ・・でもソルの意思でその力は使えないってことか・・」

「そういう事だ・・」

「じゃあ・・お前は誰だ?」

「ソルだ」

「しぶとい奴だな」

「当たり前のことを言ったまでだ」

「なんだか、だんだん面倒くさくなってきた」

天輝が右手で頭を搔きながら呟く

「これで、この先、ソルは、イジメを受けることは無い」

「そうかよ・・・よかったな」

「心配は、無用だ」

「でも・・一つ言っておくぞ・・」

「何だ?」

「人を傷つけたら駄目だ・・襲って来てもな・・もし今日みたいなことがあったら・・お前は人では無くなるぞ」

「どうだろうな・・・」

「どういう事だ?」

「すでに・・人ではない物の気配がする・・人ではない何か・・だ」

そう言うと倒れている、本多を見る、本多の腕からは、一筋の緑色の液体が流れていた。

「・・気づいていたのか?」

「気配がする、と言った」

「お前の・・目的はなんだ・・?」

「やり直すのだ・・」

「何を?」

「この世界を・・・破壊する・・」

・・おいおい、なんか簡単に、世界を破壊する、とか言ってるぞ・・

「なるほどな・・・させないと言ったら?」

「無理だな・・ソルを止めることは・・お前には無理だ」

「俺じゃねえよ・・・止めるのは・・セツナだ」

「人に私を止めることは不可能だ」

「セツナを甘く見るなよ・・」

「ずいぶんと・・自信があるようだな?」

「セツナが・・この世界を救ってくれる・・」

・・だって、切那は・・・

「それはどうか・・・うっ!」

突然、祚流(?)が倒れた。祚流の体から黒い煙のような、炎のような物が飛び出した・・・それが集まりみるみる鳥の姿になった・・と言うかカラスになった。そして、空に飛んで行った。

「大丈夫か?」

天輝が、祚流に近づいて行った。

・・・気絶しているのか?今は・・普通の祚流だよな・・全く何だったんだ・・さっきのは?これっぽっちも祚流じゃねえよ、空が見たら間違いなく戦闘になってたな・・祚流を返せって言って・・あの黒い煙みたいなのって・・ホントに闇だったのか?・・違うな、もっと強い力を感じた・・・まるで、人では計り知れない大いなる何か・・具体的に言うと・・神、のような・・いや、考えすぎだな・・・・。

「う~ん」

祚流が目を覚ました、少しきつそうだ・・汗をかいている。煙みたいなのはもう見当たら無い、

「おっ、気がついたか」

「あっ、テンキおじさん・・助けてくれたんですか?」

「何も・・覚えていないのか?」

「え・・はい・・何も」

「そうか・・、じゃあ、俺は帰るが、後の事はまかせろ・・一人で帰れるよな?」

「は、はい・・助けてくれて、ありがとうございました」

「いや、いいんだよ・・気をつけてな」

「はい、それでは」

「ああ」

そう言うと天輝は人ごみの中に消えて行った。

・・僕・・何してたんだっけ?・・そうだ確か・・怖い人たちに襲われて・・それから声が聞こえてきて・・・声?声が聞こえる・・何の声だろう・・・すると頭の上から、

「気が付いたようだな」

「えっ?」

祚流が周りを見渡す・・・誰も居ない・・居るとしたら倉庫の屋根の上にカラスが一羽・・カラス?・・どこかで見たような・・

すると、

「やはり、お前だったか・・・」

カラスが喋ったように見えた。

「ど・・どこに居るんだ!」

「ここだ」

屋根の上に居るカラスが羽を広げた。

祚流は、一瞬何が起こったか分からなかった。

「カラスが・・・しゃべった・・」

「ふっ、たまたま、この世界に不自然ではない、生物の姿をしているだけだ」

・・充分不自然だと思うけど・・・身振り手振り羽振り(?)をしながら話している時点で・・。

「そうなんですか・・・?」

「そうだ」

「あの・・なにか用ですか?」

「ソル、お前がピンチになったとき、私を使うがいい」

「どうやって・・・?」

「私と一体化するのだ」

「一体化?」

「そうだ」

「あ・・あのよく分からないんだけど」

「いずれ分かる・・私はどこかに必ず居る、だから必要な時に私を呼べ」

「名前は何ですか?」

「は・・、いや、ソルだ・・・が呼びたいように呼んでくれ」

「じゃあ、よく分からないけど・・カー助で」

少しの沈黙・・・。ん?どうしたんだろう?

「・・・いいだろう・・・」

「でも、カー助、どうして人と話すことが出来るの?」

カー助は当たり前だと言わんばかりに、

「さっきも言ったがたまたま、この格好なだけであって・・いや、世界は広い・・人の言葉を話すカラスがいても、不思議ではない」

「そ・・そうなのかな?」

「そうだ」

「じゃあ、よろしくねっ、カー助!」

「一つ言っておくぞ・・私のほかに仲間がいるから、その内・・出会うだろう」

「カラスの仲間?」

「・・・似たようなものだ・・」

「へぇ~、なんだか楽しそうだね」

「では・・またどこかで」

そう言うとカー助は、飛び立っていった。もう夕方だ、

・・あっ、みんなのこと忘れてた・・みんな怒ってるかな・・でもすごく不思議な体験をしたんだ・・人の言葉を話せるカラスと友達になったんだよ・・とその時、

「あ~!いた!」

凛達だ、走ってきたのだろうか・・息苦しそうだ。幸が、

「はあ、はあ・・ここに居たのか・・・ふう、何してんたんだよ・・?」

「ゴメン・・変なのに絡まれちゃった」

「まあ、無事でよかったけどな」

凛が周りを見ながら、

「で・・いったい・・何があったわけ?」

「どういう事?」

麗が少し怯えている。・・・・祚流は自分を見てみた・・服が赤いものに染まっていた。

「これは・・血?」

華美が、

「まあ、とりあえずこの場所を移動しましょう・・話はそれから・・ね?」

少し凛が慌てながら、

「そ・・そうね、そうしましょう」

幸が上着を脱ぎながら、

「その格好じゃマズイだろ、これ着ろよ」

祚流に上着を渡した。

「ん?どうした・・ソル」

祚流が震えていた・・、

「僕は・・何を・・・・」

そして祚流は気を失ったのだった。

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