第4話・・紅その2
今日は、朝から雨だ。祚流は陰鬱な気持ちでリムジンに乗っていた。
今日、部活出来ないかも。(祚流たちにとって、リムジンは普通だ。)
空が、久しぶりに車を運転しよう、といって車に乗っている。
雨というのもあるが。
「ソル、もう着くよ」
「はあーい」
学校の校門より少し手前で降ろしてもらった。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
空が車を走らせた。傘立てに傘を置き、祚流は教室に入った。
・・ん?あれ、
「セツナちゃん、どうしたの、これ?」
切那の荷物がいつもと違う。
「家から持ってきた」
「うん・・そうなんだけど」
「防具」
「あっ、そうかっ、ついに部活に入るんだね?」
祚流が納得したように言った。
「違う。」
「えっ、でも剣道部に入るんじゃ・・」
「今日だけ」
「そうなんだ・・」
「そう」
切那は、何も無かったかのように席に着く。
チャイムが鳴った。午前中の授業が始まる。今日は特に何事もなく、普通に時間が過ぎて行った。
ただ窓から見える木に、カラスが止まっていて、そのカラスがずっと僕のことを見ていたような・・気のせいかな・・。
今からお昼休みだ。
もうお腹が減りすぎて、どうにかなってしまいそうだ。
「セツナちゃん、食べよう」
祚流が切那の机の前の席に座る。そしていつものように、
「セツナ!食べよ~♪」
凛が入ってくる。そして、
「飯だ~、ソル、食べようぜ!」
幸も教室に入ってきた。かなり、賑やかになる。
切那は、祚流の弁当しか見ていない。
祚流が弁当の蓋を開けながら、
「今日は何かな?・・・オムライスだ、美味しそう」
幸が祚流の弁当を覗きこみ、
「お前のさ、弁当って、どうしてそんなに豪華なんだ?家が金持ちとか?」
祚流が真顔で、
「そうだよ」
「いや冗談だよ、俺が悪かった」
「・・ホントにお金持ち」
切那がボソッと言う。
「えっ、そうなんですか?」
凛が、
「だから、あんたは、何で敬語なのよ」
「うるせえ、人の勝手だろ」
切那がずっと、祚流の弁当を見ている。
「う、セツナちゃん・・少し食べる?」
切那がうなずく。
「あたしも♪」
「俺も」
「・・じゃあみんなで・・・」
*
「よし、食った、食った。今度奢(おご)るぜ、ソル」
「あ、うん」
「じゃあ、また帰りね。セツナ?」
「・・うん」
「じゃあ、セツナさん、また明日」
幸と凛は教室を出て行った。
「そういえば、今日、剣道部に行くんだよね?」
「そう」
「体験か何かなの?」
「決闘」
・・・決闘かぁ・・・えっ?
「決闘!・・・いったい・・誰と?」
「阿修羅華美」
「阿修羅って、あの!」
祚流が驚いている。
「・・知ってるの?」
「知ってるも何も、この前の全国大会、二位だったんだよ」
「・・・そう」
「二位が団体戦で、個人戦は・・一位なんだ」
「・・・・・」
「どうして決闘なんか・・頼まれたとか?」
「自分が頼んだ」
「・・・・セツナちゃんが、いくら強くても、剣道はルールがあるから、どうだろう?」
「・・分かってる」
「でも、僕はセツナちゃんを応援してるから、もしかして、今から?」
「・・放課後」
「そっか。今日雨だから、陸上部は自主練習なんだ。だから応援しに行けると思うよ」
「・・来なくていい」
・・なんか、恥ずかしい・・。
「絶対行くよ」
しばらく刹那は黙っていたが、
「・・好きにすれば?」
「うん!」
*
午後の授業も終わり、今から放課後だ。切那は精神を集中させていた。簡単な相手ではない。でも、今の自分の力が分かる、いい機会だ。攻めてくる脅威と戦えるのか、まだ心のどこかで、無理かもしれない、と思っている自分がいる。このままじゃ駄目だと思う。自分の持てる力をすべて出し切ろう。何かが見えてくるはずだ。
剣道場には、たくさんの生徒たちが群がっていた。いろんな会話が聞こえてくる。
「おい、今からすげえこと、やるんだって」
「なになに?」
「何か、剣道部の全国大会一位のアシュラって人と、魔女が剣道で勝負するんだって」
「マジで?」
「ホントだって、だからみんな居るんだろ?」
「魔女って、銀色の髪の?」
「そうだよ」
「それって、面白そうじゃん?」
「だろ!」
「でも、ホントに?・・嘘だったりして」
「それは、ないない、絶対ない」
かなりの人数だ。百人くらいは居る、と思われる。
・・・どうしてこんなに人が居るんだろう。でも集中しないと、きっとセツナちゃんは強い。華美はすでに道場の中で正座をしている。切那はまだ道場に来ていない。約束の時間まであと十分。
*
祚流は走っていた。
あともう少しで、セツナちゃんの試合が始まっちゃうよ。急がないと・・・、少し雨止んできたかな。・・・道場に近付くにつれ、人の数が多くなってきた。
・・な、・・どうしてこんなに、人がいるんだろう?
これじゃあ道場の中に入れないよ。
・・どうしよう。
その時、
「お~い、ソル~、ここだ~」
どうやら幸のようだ。
「えっ、どこ~?」
「ここだよ、ここ!」
祚流が目を凝らすと、道場の入り口のところに、幸が手を振って立っていた。
「あっ、コウ君~、見つけた~」
「ソル、遅かったじゃん。何してたんだよ?」
「いや、その、ちょっと、英語のテストの居残りがあって・・。」
「まぁいいや、間に合ったし」
「どうして、セツナちゃんが試合するって、知ってたの?」
「みんなが噂してたんだよ。セツナさんが剣道するって」
「あれ?セツナちゃん、そんなに有名だっけ?」
「知らねえ奴はいないだろ?」
祚流は少し足元に目をやり、
「やっぱり、あの髪のせ・・・」
祚流が最後まで言い終わる前に、
「あんなに、輝いてる人なんだから。流石だぜ」
幸は遠くの方見ながら言っていた。
「そっち?」
「ん、どっちだ?・・・他に、どんな理由があるんだよ?」
「まあ、そうだけど・・・」
祚流は少し変な気もしたが、なんだか嬉しかった。
「くそ、ここからじゃ、セツナさんが見えねぇぞ。おい、ソル、もっと前の方に行くぞ」
「ど、どうやって?」
「少しだけ、強引に、な?」
そう言うと幸は、生徒と生徒の間を、少しだけ強引に押しのけて道場の中に入って行った。
・・・うわ、どこが少しだけなんだろう・・・。
・・でも、ぐずぐずしてられない、後を追わないと。
幸と祚流は、なんとか道場の中に、入ることが出来た。道場の中は物凄い熱気で、なんだか蒸し風呂の中にいるようだ。一か所だけ人が居ない所があって、そこが戦いの場所だ。(ちょっと大げさかな。)
祚流たちの反対方向に誰かが座っている。おそらく、あの人がセツナちゃんと戦う人だ。髪は後ろで束ねていて、きりりとした顔立ちだ、眼はつぶっている。集中してるのかな?でも、強そうなオーラが出ている・・・気がする。
幸が、華美を見つけて、
「あれが、セツナさんの相手か・・・、強そうだな・・・」
幸も、何か(オーラ?)を感じているようだっだ。
「うん・・でも大丈夫だよ、セツナちゃんなら」
「そうだ、セツナさんなら、きっと勝てる」
祚流は、あることに気がつく、
「でも、セツナちゃんは、どこだろう?」
「んっ、確かに、見当たらんな」
道場を見渡しても切那の姿がない。試合開始まであと五分。
生徒たちの会話が聞こえてくる。
「やっぱり嘘だったのかな」
「まさか、そんなことは、ないと思うよ」
「だって、魔女、来ないじゃん」
「いや、来るって」
「でも、もう時間だよ」
「確かになあ。無理か」
「おい、後ろの方が騒がしいぞ」
「何だ?」
後ろの方の生徒たちの集団が二つに裂けている。その裂けた道から誰かがこちらに向かってくる。銀色の髪をなびかせて・・・、切那だ。
「おい、やっと来た」
「確かに」
「本当に来た」
「なっ、言っただろ。来るって」
「アンタ、さっき無理かもって、言ってたじゃん」
「え?そんなの知らないよ?言ったっけ?」
切那が道場の入り口のところまで来た。一気に野次馬が両方向に分かれる。そして、華美が眼を開けた。いよいよ戦いが始まる。
「あっ、セツナちゃんだ」
祚流は切那の姿をやっと見つけた。
「なに・・どこだ、どこに・・いた!・・セツナさ~ん、頑張って!」
「セツナちゃん、大丈夫だよ、頑張って!」
・・なんだか端の方がうるさい・・、そう思ったのも一瞬で、切那はすぐに目の前のことに集中を始めた。
・・学校の屋上で、ずっと集中していたら、いつの間にか時間が経っていた。間に合うかどうか分からなかったが、ギリギリ間に合ってよかった。
でも、どうしてこんなに人が居るのだろう。あまり、いい気はしない。
すると、華美が立ち上がり、
「じゃあ、始めましょうか」
「・・うん」
両者とも面をつけ始めた。先ほどまで、うるさかった道場が急に静かになった。空気がピンっと張り詰めている。審判は剣道部のキャプテンと華美の先輩二人だ。本格的だ。両者とも一礼をして開始線のところまで行く。
審判の声がかかる。
二人は竹刀を構える。
「はじめ!」
華美が気合いの声を上げる。
「やあっ!」
「・・やあ・・」
切那も気合いを入れた・・と思われる・・・。
二人ともお互いの隙を狙っている。空気がぴりぴりしていて、そこの空間だけ時間が止まっているようだった。
祚流はとても緊張している、まるで自分がトラックを走る前の、ピストルの合図を待っているのと同じ気持ちだ。
・・・あれ、剣道ってもっと激しいのかと思っていたけど、そうじゃないのかな?・・・・でもこう言う空気は・・何と言うか・・殺気?
すると華美が動く、それは一瞬だった。
「小手ぇ!」
切那の小手に竹刀が当たり、スパンっと乾いた音が道場内に響く。審判の旗が三本上がり、キャプテンが、
「小手あり!」
野次馬たちがどよめく。
「おい、今の見えたか?」
「全然っ見えない。あんた見えた?」
「見えるかよ、あんなに速いんだぞ?」
「やっぱり、魔女でも勝てないか・・」
「バスケの時は凄かったのにね?」
「流石に、全国一位じゃな」
祚流は唖然としていた、
「は、速い・・・、あっ、セツナちゃん、まだ二本あるから大丈夫だよ!」
幸は物凄く、興奮をしている。
「ハアハア、まだ、大丈夫ですよ!頑張って!」
二本目が始まる。切那は呼吸を整えようとしていた。
・・くっ、油断してしまった・・・一瞬だけ気を抜いたときに、小手を打たれた、やはり・・強い。
審判が声を張り上げる、
「二本目、はじめ!」
華美が再び気合いを入れる。
「やあっ!」
「・・やあ・・」
切那も気合いを入れた・・と思われる・・。
華美はまた、気合を入れ直す・・切那の何処かに隙はないかと目を光らせながら。・・油断は出来ない。セツナちゃん・・ここまで出来るとは・・今まで竹刀の先からこんなに殺気が伝わってきたのは、お父さんと戦って以来だ。でもこの殺気は自分に向いているというより、他の何かに向いている気がする、何と戦っているの?セツナちゃん・・・。
華美は面を狙う。
「面っ!」
切那の面に当たって・・・ない。刹那がわずかに横に避けて、すれ違いざまに華美の胴を狙う。
『パアンっ』
竹刀と胴がぶつかる乾いた音が響く。
「胴」
審判の旗が二本上がる。
華美が驚く、
「・・なっ?」
「胴あり!」
キャプテンが声を張り上げる。野次馬たちが、
「なんだ、見えなかったぞ?」
「私も・・音は聞こえたけど・・」
「どうして外れたんだ?」
「バカ、避けたんだよ」
「あの速さで?」
「物凄い動体視力だな・・」
切那の息が少し上がっている
・・どうにか一本取れた。次だ、次で勝負が決まる・・
祚流はとても喜んでいて、
「セツナちゃん、あと一本だよ。頑張って!」
幸はさらに、物凄く興奮している・・・そのまま爆発しそうな勢いだ・・。
「その調子ですよ!ハアハァ、頑張って下さぁい!」
祚流たちの、応援している場所の左の方から、
「すっごい、セツナ!あと少しだよ!」
凛のようだ。バスケット部のユニホームを着ている。どうやら部活を抜け出してきているようだ。
「なんで、あいつが居るんだよ?」
幸が悪態を吐く、
「いいじゃないか、みんなで応援しようよ?」
幸が渋々といった感じで、
「む~ん、ちっ、しょうがねえな」
「よし、頑張って!セツナちゃん!」
「セツナさん、ガンバ!」
「セツナ!気合いよ、気合い!・・祚流もいるからね!」
「そう、僕もいるから、えっ?」
「おい、俺も居るんだぞ!」
「うっさい!あんたは黙って!」
「いや・・そこまで言わなくても・・」
三本目が始まる。いよいよ決着だ。
華美は竹刀を握り直し、
・・今のは、完璧にやられてしまった・・
でも、二人は同じことを思っていた。
・・(相手にとって不足なし!)・・
審判が勢いよく、
「三本目はじめ!」
「やあっ!」
「やあ」
祚流が二人の試合を眺めながら、
「なんだか・・・二人とも楽しそう・・。」
その時、切那は、
どこかに隙があるはず・・。焦ったらダメ。負けられない。
華美も同様に、
・・ここはやっぱり負けるわけにはいかない。全力でセツナちゃん、あなたを倒す。
試合時間がどんどん減っていく。もう時間がない。
早くきめないと、時間がなくなってしまう。一か八かだ。切那は華美の面を狙う。華美も同じことを考えていたのか、同じタイミングで踏み込んだ。
「面!」
「面」
同時に竹刀がそれぞれの面に当たる。パアンっ。それと同時に、試合終了のブザーが鳴った。静まりかえる道場。判定は・・・。
「引き分け!」
祚流の体から一気に気が抜ける。
「引き分けか・・・。セツナちゃん。すごかったよ!」
「ああ、凄かった、ハアハア・・流石・・セツナさん・・。」
幸がボーっと切那を見ている。キャプテンが二人に話しかける、
「どうします?延長戦、しますか?」
華美が切那の方に向き直り、、
「セツナちゃん、どうする?」
「・・そっちの方が・・・速かった。」
「えっ・・・どうかな?」
切那が面を外しながら、
「私は、今の自分の力が分かった。まだまだ、修行が足りない」
「私も、まだまだよ」
キャプテンがおもむろに、
「じゃあ・・・・引き分けということで・・・ところでセツナさん。部活に入っていないのならうちに、来てもらえませんか?」
切那が首をかしげる。
「・・どうして?」
「もう少し練習すれば十分な戦力なります。うちの華美をここまで追い詰めるとは・・・自分も負けるときがあるんですよ、彼女にね」
「・・分からない・・」
「そうですか・・・、いつでも歓迎しますよ、では、いい試合でした」
そう言うとキャプテンは出て行った。
すると人混みの中から勢いよく飛び出してきた人物が、
「ちょっとまったぁ!セツナは、バスケ部に入るんだからね!」
凛だ、いつの間にか近くにいた。
すかさず、切那が答える、
「それも、分からない」
「ちょっと!あたしは絶対、あきらめないからね!セツナ」
華美が凛に近づき、
「・・女子バスケット部のエース、よね?」
「まあそうだけど、何か?」
・・敵意剥き出しだ・・・。
「すごいよね、二年でエースは・・」
凛がしばらく固まっていたが、ふいに我を取り戻し、
「なっ、あんただって、全国一位じゃない」
「あれは、たまたま、向こうの選手の調子が悪かっただけよ」
「またまた、そんなこと言ってぇ」
いつの間にか仲良くなっている。険悪なムードが無くなっていた。
それを見て幸が、
「女ってぇのは、分からねえな」
祚流も納得して、
「そうだねぇ」
*
野次馬は徐々に居なくなっていった。もう七時になろうとしている。
凛が元気いっぱいに、
「ねえねえ、これからご飯、食べてく?」
祚流が答える。
「どうしようかな・・・もう遅いし・・」
「セツナは?」
「お腹・・すいた。」
「じゃあ決まり。ソル、奢りなさい」
「えぇ~、どうして?」
「今日は新しい、仲間の歓迎会よ」
「新しい仲間って?」
「なに言ってんの!ハナビよ」
そう言いながら、祚流の背中を叩く、
「痛っいよ・・まあ、そうだけど・・・」
・・・・はあ、どうして僕が・・・・。
「まあ、まてまて、ここは俺が、セツナさんとハナビさんの分を奢ろう」
「あたしは?」
「お前に奢る金なんてねえよ」
「なによ、セツナにいいとこ見せようとして」
「ふんっ、何言っても無駄だ。」
「・・どうしてよ?」
「今日の俺は、剣道やってるセツナさんが見れて・・マジで萌えたぜ!」
そう言いながらガッツポーズをする。
「・・・・」
「・・・?」
「・・・・」
「・・バカ」
祚流が気を取り直し、
「ま、まあとりあえず、どこに行くの?」
「ハナビ、どこ行きたい?」
「そうね、ラーメン屋さんとか?」
「いいね、セツナもそれでいい?」
「うん」
「よし、じゃあ決まり。ラーメン屋に、レッツゴー!」
凛のテンションが無駄に高い・・。
「全く、どうしてあいつ、あんなに元気なんだよ?」
「まあいいじゃん、あっ、ハナビちゃん、僕の名前はソ・・」
名前を言い終わる前に華美が、
「ソル君、でしょ?」
祚流は、驚き、
「ど、どうして僕の名前を?」
・・何処かで名前、言ったんだっけ?
「わりと有名だと思うけど・・」
「どういう・・・?」
「・・悪い意味で」
華美はそう言うと笑った。初めて、彼女が笑ったところを見た気がする。
「そんなぁ・・」
幸が何事も無かったかのように、
「俺はコウだ、よろしくな!」
「よろしく!」
そして一行はいつも行っている、なじみのラーメン屋『鉄ちゃんラーメン』に入った。扉を開けて中に入る。
凛が店の奥に向かって、
「おじさーん!いつものやつ、五つお願い!」
厨房の奥から、
「はいよ~、あれ?一つ多いね。リンちゃん、二つ食べるのかい?」
「違うわよ!今日は新しい仲間が出来たから、その歓迎会よ」
「そうかい。じゃあ、少し待っといて」
このラーメン屋の店長、相沢(あいざわ)鉄(てつ)は、とても温厚で人当たりが良く、生徒からの信頼も高い、生徒の顔と名前を覚えていてくれて、たまに相談などにも乗ってくれる。
凛が華美に話しかける、
「ねえ、ハナビ、ここ来たことある?」
「う~ん、小さい時に来た事あったかも。でも高校に入ってからは一回もないよ。いつも剣道の練習を遅くまでしてたから」
そう言うと華美は少しだけ寂しそうな表情した。凛がそれを察して、
「あっ、そうだよね・・・、でも今度からは、みんなで来れるよ、一人じゃ、なんか寂しいじゃん?」
「そうね」
店長が、ラーメンを運んで来てくれた。
凛がラーメンの具を見て、
「あれ?チャーシュー入りじゃなかったんだけど・・・」
「サービスだよ、サービス」
「さすが、店長、気がきくねー、ありがと~」
幸がみんなに箸を配りながら、
「こんなにチャーシューが入ってるラーメン、久し振りだぜ」
「うわ、美味しそう」
みんなはしゃいでいるが、切那だけ、浮かない顔をしている。
祚流がそれに気が付き、
「セツナちゃん、どうしたの?」
「どうしたの?セツナ。浮かない顔して」
華美も心配して、
「お腹、痛いとか?」
「・・お肉はちょっと・・・」
「嫌いなの?」
凛が真面目な顔で、
「ダイエット中とか?むしろ太った方がいいと思うよ。セツナ」
幸が凛に、
「お前は、肉ばっか、食ってるもんな。」
「うるさい!ちゃんと運動してるからいいの!」
「・・ソル・・食べていいよ」
「えっ、僕が?そんなに食べれないかも・・」
「あんた男の子でしょ。そのくらいも、食べられないの?」
「男の子が、みんな、いっぱい食べるとは限らないよ・・」
「セツナさん、自分がいただきます!」
結局チャーシューは、幸がたいらげた。
切那がなぜ、肉が苦手かと言うと、切那がまだ小学校低学年のとき、明が料理のレパートリーを増やそうと牛ステーキを買ってきたときがあった。もちろん天輝は止めたが・・。そんなに失敗しそうな料理ではないはずだが、食卓に並んだステーキ・・見た目は普通だった。刹那は初めて食べるので、ワクワクしていた。とてもいい匂いがする。
・・いただきます!・・・パクっ・・おいし・・くない・・。なんだか血の味がする・・それに噛み切れない・・、生焼けだった・・、期待を裏切られた失望感と、口に広がる生の肉の味、なんだかとても悲しい・・。うぅ・・。
天輝が見かねて、
「セツナ、大丈夫か?まあ泣くな・・、今度、俺が作ってやるから、お肉はうまいんだぞ。でも食べる前に、この食材になってくれた、牛さんたちに感謝して食べるんだぞ。」
「牛さん・・?」
「ああ、人間は生きるために、他の生き物の命をもらって生きているんだ。だから食べる前に、『いただきます』って言うだろ、あれは、『あなたの命をいただきます』って、意味なんだ」
「ふ~ん」
「まあ、もっと大きくなったら分かるさ」
明が頭を下げながら、
「ゴメン、生焼けだった・・・」
「まあ、いいよ。黒こげになるより。」
「どうしよう」
「明日の晩飯をカレーにすれば、この肉は無駄にならな。」
「それいいかも、セツナ、ごめんね。明日カレーにするから。元気出して」
切那は袖で涙を拭き取り、
「・・うん」
もう食べることは出来るが、やはり少し、抵抗がある。
・・・回想終了・・・
「ねえ、セツナ聞いてる?」
一行はラーメン屋を出て、川沿いを歩いていた。祚流が、代金を支払った・・辺りはとっくに真っ暗だ。
「・・ん、どうしたの?」
「やっぱり聞いてない。ほら、来週の中間テストの事」
切那はやっと思い出し、
「・・あ、そう言えば・・」
「えっ、忘れてたの?」
「・・うん」
「まあ、セツナなら大丈夫だと思うけど・・。」
華美が、
「私も忘れてた・・。練習しか頭になかったよ」
「大丈夫よ、ハナビなら・・。それよりソル、あんた大丈夫なの?」
祚流がビクッとなり、
「うっ、僕は・・たぶん大丈夫・・だと思う」
「いつもそう言ってるけど、いつもビリじゃない、そんなんじゃ、どこの大学にも行けないわよ?」
幸が会話に入る、
「おい、リン言いすぎだぞ、親父が、名前書いただけで通る大学がある、って言ってたぞ?」
凛が呆れて、
「そんなんだから、あんたは勉強しないんでしょ」
「でも、この前のテスト、オレの方が上だったぞ」
「一点だけね、一点!」
「一点でも、俺の方が上だ」
「えっ、コウ君・・・頭いいの?」
「んっ、さあな・・よく分からん」
「そうなんだ・・」
正直言って、幸も自分と同じくらいなのかな、と思った祚流は、心底ガッカリしたのだった。
「でも、セツナは凄いよね。学年一位だもん」
華美が驚き、
「えっ、そうなの・・凄い」
ちなみに切那達の学年は、三百人ちょっとの人数だ。
「あっ、私ここ曲がるから。また明日ね、私、三組だから」
そう言うと、華美は左に曲がっていった。
「また明日!」
「じゃあ・・俺たちもこっちだから、セツナさん、また明日。ソルまたな!」
凛は手を振りながら、
「じゃあね、また明日」
祚流も手を振り返しながら、
「バイバイ!」
幸と凛が道を分かれて行った。
「やっぱり仲良いのか、悪いのか、分からないや」
祚流が小さい声で言った。
切那も、
「・・確かに・・・」
「僕も道こっちだから、また明日ね」
「うん」
そう言うと祚流も帰って行った。急に静かになった。・・ちょっと寂しいかも。
切那はゆっくりと歩きながら月を眺めていた。
・・このままずっと、平和だったらいいのに。
すると、
「そうも、言ってられないわぁ」
いつの間にか白銀が側に居た、
「白銀?」
「囲まれてるわよ!」
確かに何かに囲まれている気がする、さっきは何も感じなかったのに。
「・・どうしよう」
「落ち着いて・・・タイミングを待つのよ」
さっきまで、吹いていた風が止んだ。静寂が訪れる・・・。聞こえるのは川が流れる音だけだ。
・・・一気に走って逃げようか・・でもそれじゃ間に合わない・・相手が何者かも分からない。すると、何かが姿を現した。
今、確認出来るだけで、だいたい五人くらいいる。全員が見たことのない仮面のようなものを被っている。ガスマスクのようにも見える。防弾チョッキのような物を身に着けていて、スワットのもっと重装備をしたような格好だ。妙にガッチリしている。
その内の一人が、
「ゼロ様のメイレイにより貴様を拘束、捕獲および、レンコウする」
電子音のような声だ。わざと声を変えているのかな?
「ゼロ様?」
「無駄口をタタクな。おとなしく捕まれば、手荒な事はシナイ。すでにお前の家にも我々の仲間が拘束、捕獲しに向かってイル」
「なっ・・お父さんとお母さんが!・・」
「セツナ!落ち着いて。テンキ達なら大丈夫よ。意外と強いから」
「でも・・」
・・とても心配だ、大丈夫なのだろうか・・?
「あなたは、こんなところで捕まってはいけないの。だから、私を使いなさい!」
そう言うと白銀は、まばゆい光を放ち・・刀になった。切那がそれを掴む。
「何?ドコカラ武器をダシタ?」
月明かりに照らされて、刃が煌めく。
「抵抗スルノカ。ならば力ずくでゼロ様の所へ連れてイク!」
「させない、そんなことは!」
いつの間にか、切那の両目が開いていた。金色の左眼が煌めく。武装集団を観察してみるが、重火器類は持っていないようだ。音が聞こえると、周りの住民に気がつかれるから、だろうか。しかし背中にサーベルのような物を担いでいる。ナイフを持っているようだ。剣道みたいには、いかないか。相手の次の動きを予測する・・今の私になら出来るはず・・白銀・・力を貸して・・。
「おのれ・・ヤレっ!」
五人のうち二人が後ろと前に別れて、サーベルで切りかかってくる。ほんの一瞬だった。切那はまず、前からの攻撃を刃の部分で左横に流し、相手の顔に回し上段蹴りを叩き込む。
今日は、ブーツを履いているから、足はそんなに痛くない・・・と思う・・。
思いっきり蹴ってやった。そのままの反動で後ろの一人に、左手から背中に腕を回し右手に持ち替え、七支刀を逆手に持ち、勢いで上から切りつける、
『ズバッ』、思っていたより手ごたえがあった。
切那は刃に目を向けてみる・・体を切ったはずなのに・・血が付いていない・・切った相手を見ると、切った後から、スパークのような・・放電のような・・バチバチと音が出ている。
「ロボット?」
頭の中に白銀の声が聞こえてくる。
〈そうみたいね・・でもこいつらは、一般兵よ。強い奴はもっと人っぽいから。それに人みたいに緑の液体が体中を流れているの。人間でいう血みたいな・・〉
「・・そう・・」
残りの二人(二体?)が左右から襲ってくる。上からサーベルを振り下ろしてきた、その攻撃を、切那は頭の上で二本とも受け止める。
『ガキンッ』、くっ・・凄い力・・、なんとか受け止め、刀を傾けて力を下に流す。一人のサーベルを渾身の一撃で地面に叩き付け、砕いた。
その拍子にもう一方の敵の手首を切り落とす。『ズバッ』、機械がショートしたような音がした。
隊長格が、
「ナンダ・・この戦闘力は・・データーにナイ、いったん退くぞ!」
「了解」
そう言うとロボットの軍団が闇に消えていった・・・。
辺りが急に静かになった。
「どうやら、いなくなったみたいねぇ・・」
「うん」
「さあて、家はどうなっているかな。急ぎましょ、セツナ」
「・・・急ごう!」
白銀は猫の姿に戻っている。切那達は家まで走った。お父さんとお母さんは、大丈夫だろうか。心配だ。家が見えてきた。明かりが消えている。玄関にたどり着くと・・・何かと争った跡がある。窓ガラスが割れている、扉を開け、
「お父さん!、お母さん!、何処!?・・・」
しばらくしても、返事が返ってこない・・。
ひとまず、中に入る。
「奴らは居ないみたいねぇ」
「・・人の気配もしない・・・」
家の中には誰も居ないようだ。切那は、ふと窓の外を見た。
・・んっ?・・
「あれは・・」
「どうしたの?」
「光が・・・」
向こうの道から二つの光が、こちらに向かってくる。どうやら車のライトようだった。
「敵?」
切那が身構えながら、
「分からない・・」
車は、どんどん近付いて来る。その車の助手席の窓から身を乗り出し、誰かが叫んでいる・・。
「セツナちゃ~ん!大丈夫~!」
「・・ソル?」
車が切那達の前で止まり、中から人が出てきた。
「よかった・・無事だったんだね、安心したよ」
「ソル・・どうしてここに?」
運転席のドアが開き、空が出てきた。
「お父さん達なら、僕の家にいるから安心して」
「そう・・ですか・・」
「よし、ここは危ないから、僕の家に行くよ、さあ乗って」
そう言うと、空が後部座席ドアを開けた。切那はそれに従い、空の車に乗った。
今、車は町を離れ、森の方に向っている。道は意外に舗装されていた。時刻は、十一時になろうとしていた。
祚流が不思議そうに、
「ねぇ、セツナちゃん・・」
切那は、少しだけ祚流の方を向く。
「・・なに?」
「その猫・・・どうしたの?」
「・・飼ってる」
白銀が、切那の腕の中で眠っている。寝ている顔は可愛い・・・。
「・・そっか・・・、名前は?」
「白銀」
「渋いね。でも、いい名前だと思うよ」
眠たそうな声で、
「ありがとぉ・・」
「どういたしまして・・・、あれっ?セツナちゃん、なんか言った?」
「なにも・・・」
「でも・・声が聞こえたような・・・?」
空が、
「もうすぐ着くよ」
目の前に大きな鉄の門が見えてきた。ここにくるのは、何年振りだろう・・・。しばらく来ていなかった。最後に来たのは確か・・・小学校六年の時だったような気がする。門が開く、車は玄関の前に止まった。玄関の扉が開き、天輝が待っていた。
「セツナ、無事だったか、よかった」
「お父さんたちは、大丈夫?」
「ああ、オレとメイは、大丈夫だ。何か変わった事とかあったか?」
「ロボットみたいなのに、襲われた」
「何!、それは本当か!」
天輝が、驚く。
「うん」
「本当に無事でよかった。倒したのか?」
「・・何とか・・」
「流石だな。すまねえ、危険な目に合わせてしまって」
「これからも、こういう事があると思う」
「そうだな、これから続くぞ」
「だから、大丈夫、心配しないで」
「そう言ってくれると、嬉しいんだがな。」
空が車に鍵をかけながら、
「まあ、とりあえず中に入ろうよ。」
一階の奥にある食堂に入る。かなり広い場所だ。部屋の中には、明と春が座っていて楽しそうにおしゃべりをしていた。テーブルの上には人数分の、コーヒーが置かれている。クッキーなども置いてある。ほんのり甘い香りがした。空たちが入ってくると、
「セツナっ!、無事でよかった」
明が立ち上がりながら言った。春が、
「セツナちゃん、こんばんは。久しぶり、ゆっくりしていってね」
「・・お邪魔します」
切那が、頭を下げる。
空が、
「とりあえず、皆座って。それから話をしよう」
天輝が、
「そうだな。せっかくだし、お茶をいただこうか」
しばらく、雑談が続いた。天輝達は、昔話に盛り上がっているようだった。
切那は、こんなにたくさんクッキーが並んでいるのを見たことがなかったので、胸が躍っていた。
・・よし、いっぱい食べよう・・・。
天輝が思い出したように、
「そういやぁ、ソラ」
「ん?何?」
「初めて奴らと戦ったとき、お前、素手で倒したよな?」
「そうだっけ?」
「ああ、まるで鬼神のごとくってやつ」
「あんまり覚えてないよ、いっぱい倒したから」
「まあな・・」
祚流がびっくりして、
「どうやって素手で?」
天輝がクッキーを食べながら、
「そりゃ・・普通に・・」
「普通に?」
・・普通に・・どうなんだろう?・・切那も少し気になった。
天輝が突然時計に目をやり、
「あっ、もうこんな時間だ、そろそろ本題に入るか。」
「つい、昔話しちゃったね。」
「奴らはついに動き出した。やっぱりなんだかんだ言って、俺達が邪魔なんだな、これが。」
空が
「でもこうなるって、分かってたじゃん。ソルも、さっき狙われたし」
「まあな。でもお前がいただろ。・・もう、平和な時期は終わったんだ・・」
切那が切り出す、
「・・戦争?」
・・この言葉は、いつもよりも重く感じる・・・。
「いや、すぐってわけじゃない・・。ピンポイントで狙ってきたってことは、他の人たちには、被害を出さないってことだ、たぶん・・」
明が呟く、
「今まで、ひっそりと暮らしてきたんだけど」
「しかたない、向こうがその気なら受けて立つ。これはあいつらにも、連絡しとかないとな」
「ハジメ達?」
「ああ、ガイとかも」
切那が確認する、
「・・お父さん達の仲間?」
「ああ、そうだ。もう今日は遅いということで、ここに泊めてもらうことになったから。いいんだろ、ソラ?」
「別にいいよ、ねえハル?」
「いいわよ、部屋はたくさんあるから、好きなのを使って。」
「すまねえな。と言う訳で、またこの件に関しては後日ってことで、みんなが集まってから今後のことを考える。だから、お前は何にも心配しなくていい。ソルもな。」
「・・はい・・」
空が立ち上がり、
「よし、寝よっか、テンキ達はいっしょの部屋でいいよね。」
「ああ、そうだな、寝るぞ」
明が、
「ハルともう少しだけ話してていい?」
「別にいいけど・・」
「じゃあ、セツナ、お休み」
「お休みなさい、お母さん」
二階に階段で上がっていくと、いくつもの部屋があった。祚流が、
「僕の部屋こっちだから、じゃあ、お休みなさい」
天輝が欠伸をしながら返事をした、
「ああ、お休み。部屋借りるぞ」
「はい、どうぞごゆっくり・・」
そう言って、少し祚流がそわそわしている。その場所から、なかなか動こうとしないのだ。天輝がそれに気が付き、
「どうしたんだ?」
「あの・・」
「なんでも、言ってみろ」
「それが・・最近・・・・変な夢を見るんです」
「夢?・・・どんな夢だ?」
「暗闇の中に一人立っていて・・・、そしたら・・炎のような・・鳥のようなものに囲まれて・・そのうちのカラスっぽいのが話しかけてくるんです」
天輝が不思議そうな顔で、
「なんて、話しかけてくるんだ?」
「え~っと・・[本来の自分に戻りたいだろう?]って」
天輝が首を傾げる、
「本来の自分?」
「はい・・・」
「ソラ・・お父さんには、話したのか?」
「話したら、おじさんに聞けって・・」
「なるほどな。そうだな・・セツナ、ソルを見てみろ」
・・どういう事・・?
「いつもみてるけど・・・」
「そうじゃなくて、左眼で見てみろ」
「どうして?」
あまり見たくない・・特に祚流の心は・・。
「あんまり深くは見なくていい。魂の状態を確認するだけだ。」
切那がしぶしぶといった顔で、前髪を横にかき分けた。左眼が一瞬だけ煌めく。切那は少しだけ困った顔になった。それを見て、
天輝が尋ねる、
「どうだ?何か分かったか?」
「何かが欠けている・・気がする・・」
祚流が心配そうに、
「何が欠けているの?」
「・・マイナスの心・・・」
「どういうこと?」
天輝は納得がいったようで、
「そういうことか、本来のところに帰りたいんだ」
祚流が全く理解できないと言う顔で、
「あの・・どういうことですか?」
「人には、感情ってのがあるだろ?」
「まあ・・はい」
「感情の中にもいろいろあって、喜びだとか、楽しみだとか、怒りだとか、悲しみだとか、他にもあるが・・」
「それが、どういうことに・・・」
「つまり、自分がこうでありたい、こうなりたいって思う気持ちが、あるとすると、その気持ちは欲望ってことだろ?何体に囲まれてたんだ?」
「・・二体だったような・・」
「つまり、お前の欲望が何かの拍子に飛び出たんだ」
切那が前髪を元に戻しながら、
「欲望は誰もが持っていると思う」
「そうだな、だが、ソルにはない」
「あの・・どうすれば・・?」
「まあ、そのうち向こうから帰ってくるだろう」
「そういうもの・・ですか?・・・」
「帰ってこないと、お前は人じゃないって事になるぞ」
「そんな・・」
「心配するな。俺たちが何とかしてやる」
「あ、ありがとう・・ございます」
「じゃあ、お休み」
「お休みなさい」
祚流は自分の部屋に戻って行った。天輝が、珍しく深刻な顔をしている。何かを考えているようだった。切那が、
「お父さん?」
「・・・・ああ、寝るか」
「ソルは、大丈夫?」
「大丈夫だ。一つ言っておくが・・ソルも選ばれし者の一人だ」
「・・・なんとなく、そんな感じがした」
「そうだな、もしかしたらソルと・・・・」
「ソルと?」
「いや、何でもない。明日は学校だろ。早く寝よう」
そう言うと天輝は、部屋に向かった。切那もそれに続く。部屋の中にはシングルベットが三つ置いてあった。三人寝るにしては結構な広さだった。それを見て天輝が呟く、
「まるでどこか、高級ホテルのスイートルームだな・・」
「・・うん」
真っ先に、白銀がベッドに飛び込んだ。
*
同じ時刻・・、何処かの部屋で・・。
「どうやら・・失敗したようです」
椅子に座っている、フードを被った人物が、
「そうか・・・そう簡単にはいかないか・・」
ひざまずいている、人物が、
「申し訳ありません・・ゼロ様・・」
「お前は謝らなくていい・・ミカズキ・・」
「はっ」
「あの総理大臣も、あてには、ならないしな・・」
「私が、出ましょうか?」
「まだいい・・、独立四部隊はまだだ」
「はっ、では、どうすれば?」
「そうだな・・・この私が行って来るか・・」
「ゼロ様が、ですか?それは危険です!」
「私が弱いとでも?」
慌てながら、
「ち、違います・・万が一のことを考えてです」
「ふっ、まあ様子を見るだけだ。人間と言うのに興味がある」
「し、しかし・・」
「大丈夫だ。心配ならお前も、ついて来るか?」
「私が、ですか?」
「そうだ。しかし、お前がここから居なくなると、兵達の指揮は誰がするのだ?」
「それは・・・・」
「フフ、心配するな。こちらにも、考えがある」
「・・了解しました・・・」
*
ここは空の部屋だ。まだ電気が付いている。時刻は午前二時になっている。天輝が部屋の中に居る。
「しかし、欲が飛び出るって、どういう事だ?」
空がコーヒーを飲みながら、
「分からない・・ガイの方が詳しいよ。」
「だな・・でも、未だに、ソルの属性が分からねぇんだ。空っぽ、なんだよ」
「やっぱり僕の子だから、闇、のはずだよね?」
「ああ、でもお前みたいに禍々しい感じがしないんだよな・・」
空が心外だと言わんばかりに、
「僕・・・禍々しくないよ・・」
「冗談だ」
「でも、夢の内容も気になるよね?」
「確かにな・・カラスのようなもの・・・か。今度、気をつけて周りを見てみないとな」
「見えるのかな?」
「分からん」
「考えてても、仕方ないよね」
「いずれ分かるときが来るさ・・たぶん」
「いずれね・・」
部屋に置いている時計が静かに時を刻んでいた。
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