第3話・・紅その1

 切那は、家の近くにある公園のベンチに座り本を読んでいた。休みの日は大抵はこの公園にいる。お気に入りの場所の一つだ。もう日が暮れようとしていた。

本の題名は[美味しいごはんの作り方]。 

・・やっぱり、私がご飯を作ろうかな・・、お父さんはかなり無理をしてご飯を作っている、と思う。仕事がきっと大変なんだ。最近は朝ごはんまで作っている。

お父さんが言うには、

「別にいいんだよ、もう・・・ほら・・あれだ、朝飯は一日頑張るのにとても大事なエネルギーだからな、朝から腹を壊していたら、何もできないだろ、決してお母さんの作った飯が不味いわけではないからな」

「・・うん・・・後ろ・・」

「なんだ・・後ろ?」

天輝が後ろを振り向くと、そこに明が立っていた。寝起きなのか髪がぼうぼうと立っていて、髪が前に垂れている、ホラー映画に出てきそうな幽霊にも見える・・・。

「あ・・ああ起きたのかメイ、オハヨウ、飯、もうすぐ出来るからな。いやぁ、たまには俺が作ろうと思ってさ、ははは、ん?いやメイ、何構えてるんだ、空手の型か?いや・・・まて、これには・・物凄く深いわけがあるん・・・」

・・その後のことは言わない方がいいかも。

            ・・回想終了・・現在に戻る。

そんなことを考えていると、急に辺りが静かになった。

・・・(囲まれた?)切那はそう感じていた。何かが自分の周りにいる。それに凄い殺気だ。

これは・・・まずいかもしれない。

切那は頭でそのことを考えていて、気付かれないように本を読む振りをしていた。少しずつ、その何かとの間隔が狭くなっていっている。

すると、切那が急にベンチから飛びのいた!間一髪のところで何かを躱した。それはベンチに突き刺さりベンチが二つに裂けた。

どうやらそれは、剣のようだった。刃の部分がバラバラになっていてその間を鎖状の物で繋いである。その切っ先が蛇のように動き、今度は切那の首を狙ってきた。すかさず刹那が後ろに飛びのき避ける。

「避けた?」

声がした。するといつの間にか黒いコートのようなものを着てフードを被った、4人組が切那を取り囲んでいた。その内の一人が剣をおさめた。鎖が縮まり普通の真っ直ぐな剣の形になった。ものすごく尖っていて両刃だ。仕込み刀の一種のようだ。

「へえ、結構やるじゃん」

四人のうち一番背の高い人物?が言った。

「だれ?」

切那が問う。

・・どうしよう、武器なんて持ってないし、かと言って本じゃ何も来ない・・あの力も使いたくない・・。

その次に背の高い人物?が、

「我々にとって千塚切那、お前が邪魔なのだ。あの、お方の復活のためにも、だからここで消えてもらう」

平坦な口調だった。

切那が即座に、

「・・嫌だ・・・」

平坦な口調の人物が何故か黙る。

「・・・・・・」

「いや、そこは黙らなくていいだろ、アキラ」

一番背が低い人物?が、

「でも・・、とても奇麗な髪ですよね」

一番背の高い人物が、一番小さい奴の頭を叩く、

「ああっ?、お前は黙ってろ、ツカサ。そのまんま、言い伝え通りじゃねえか。『世界が滅びるとき再び・・・何かが降臨するだろう』ってしかも目印は銀色、

よくわからねえが、こいつのことだろ?」

「ラキ、喋りすぎだ、これを聞かれた以上、生かしておくわけにはいかない、観念しろ」

勝手にそっちが喋っただけなんじゃ・・・、

切那がまた即答する。

「・・嫌だ・・・・」

「・・・・・・・・」

「だからあ、もいい、俺がやる!」

そういうと、ラキと呼ばれていた人物が、切那に槍のようなもので切りかかってきた。横に飛びのく、ラキが横に槍を薙ぎ払う、切那が後ろに跳び避ける。それを見かねたのか、仕込み刀を持っていた人物も、切那に切りかかる。

「このっ、ちょこまかと!」

切那は防御ばかりだ。

とりあえず、真剣走った。戦略的撤退だ。

・・このままでは本当にやられてしまう、なるべく人の多い場所を通って逃げていたはずだったのに・・

いつのまにか路地裏の行き止まりまで追い詰められていた。

背中はもう後ろのコンクリートの壁についている。

・・万事休す、だ・・

「はあはあ、やっと追い詰めたぜ、もう観念しな!」

ラキと呼ばれた人物も息が上がっていて辛そうだった。

「・・・嫌だ」

「まだ諦めてないのかよ、しぶてぇ奴」

切那は下を向いている。アキラと呼ばれた人物が、

「どうしてそこまで生にこだわる。生きていても辛いことばかりだ、特にお前は・・・その髪のせいで」

切那がゆっくり顔を上げながら、

「確かに、生きることは辛いと思うこともあるかもしれない・・・でも、楽しいこともあるし嬉しいこともある、辛いことだけじゃない。太陽が雲に覆われても、必ず晴れる。そして、そういう事を繰り返しながら、時には間違うことも、あるかもしれないけど、それでも生きていたい。この寿命が尽きるまで、誰かにこの命は、奪われたくない・・」

切那の両目がしっかり開いていた、そして左眼の色が金色だ、その瞳には複雑な文様が浮かんでいた。

前髪を左側方に分けて髪が目にかからない様に、髪留めで止めている。

ラキが、

「なんだ・・・コイツ・・」

「この眼に映っているものはすべて真実。相手のすべてをることが出来る、つまり何を考えているのかも・・うまくいけば、相手と分かり合えることも出来る」

「分かり合える・・・だと?」

「そう」

「くだらん、人が分かり合えるなど、断じてない!」

アキラが、吐き捨てるように言った。

「あなた達は力を利用されているだけ、心の隙間に、入り込まれただけ」

「何を・・・そんなことはない。あの方は我々を混沌から救ってくださったのだ、あの方こそ、この世界の神だ!」

「・・違う・・・あれは・・・」

切那が急によろけた。この眼の力を使うと、かなりの体力を消耗してしまうようだ。このままじゃ駄目・・・、なんとかしないと、でも体力がない。さっき、思いっきり走ったからだ。

「これまでのようだな、安らかに旅立つがいい!」

アキラがいつのまにか両刃の剣を刹那に突き付けていた。

・・・そう簡単にはいかないか、どうしたら分かってくれるの?自分の運命は変えることが出来るのに、変えるのは世界ではなく、運命でもなく、自分自身・・・。でも、この人達のやろうとしている事は止めなければいけない、

・・私が。

・・これは、きっと私の役目なんだ・・。

「あなたの中にも光がある、私の中に闇があるように、光があるから闇があり、闇があるから・・光がある、だから・・・もっと・・自分を信じて・・・自分の道を・・進めばいい。運命なんか・・・関係な・・い」

「何を・・分かったような口をきくな!」

アキラが剣を振り上げたその時、

「ああ、そういうことだ」

誰かがアキラの手を掴んでいる。後ろから太陽の光(夕日)が射していてシルエットしか見えないが、二つの光り輝く金色の眼がこちらを見ていた。

髪の色が銀色だ。そう、切那の父親、千塚天輝てんきだ。やはり悟ったような目つきだ、というより、やる気がないようにも見える。

「一つ言っておくが、うちの娘に手ぇ出したらこの世から消してやるからな。魂ごと・・・」

「何!こいつは・・・まさか!・・」

天輝が、アキラがすべて言い終わる前に、

「それはどうかな、ただのサラリーマン、だけどな」

すると天輝がアキラの手を離した。

「焦ったら、周りが見えなくなるもんだ。それにお前ら何に怯えてるんだ?まさか、何か自分の大事なもんを取られているとか?」

「な・・・なぜそれを・・・」

「まあ、感、かな」

「おい、アキラ、どうする?このおっさん、やべえぞ!」

「とても・・目を合わせることが出来ません」

ツカサと呼ばれていた人物が苦しそうに言っている。すると、仕込み刀を持っていた人物が、天輝に切りかかった。天輝は微動だにしない。刀が首に当たった・・・が、刃が首まで届いてない。まるで見えない壁にぶつかったようだ。

「な・・?」

「止めとけ、俺に攻撃はきかねぇ。すべての物理的攻撃を無効にする。まあ理解できねぇと思うけど」

「そんなことが・・・ありえない」

「まあ、世の中には、いろんな人がいるってことだ。」

切那が天輝に気が付き、

「・・お父・・さん」

「ああ、セツナ、帰るぞ」

すると天輝が切那を抱きかかえて(いわゆる、お姫様抱っこだ。)ゆっくりとアキラ達の前を歩いて行った。

すると天輝が、

「あっ、それと、ソルは、渡さねぇぞ」

そう言うとその場を去って行った。四人はしばらく黙っていた。誰も口を開こうとしない。

アキラが口を開く、

「我々は、正しい・・・はずだ」

「あ・・ああそうだな」

ラキが答える。

「とりあえず、戻るぞ」

路地裏から四人の姿は消えていた。

          *

切那は自分の部屋のベッドに寝ていた。

私は・・・そうだ確か・・四人組に襲われて・・あの力を使ってしまった・・・あの眼の力は使ってはいけなかったのに。人の考えていることは人それぞれだから、自分の考えを押し付けてはいけなかったのに・・・。

『トントン』、

ドアをノックする音が聞こえる。

「セツナ、入るぞ」

天輝だった。紅茶を二つ持っている。切那が体を起こそうとした。

「まだ寝とけ、明日、学校行けるか?もしきつかったら、その時は休めばいい。一日休んでも、お前なら大丈夫だろ。オレと違って、頭いいからな」

「う・・ん。でも行けると思う」

「そうか・・無理するなよ。あ、これ、ココ置くぞ」

そう言うと紅茶のカップを机の上に置いた。天輝はベットの隅に腰を下ろした。

天輝が紅茶を一口飲み、

「もう話しても大丈夫だな。いいか、これから話すことは全部本当のことだ。だから、びっくりするなよ?」

切那は少し身構えた。

「うん」

「よし、そうだな、どこから話そうか・・・とりあえず宇宙人にこの国・・いや星が侵略されているんだ」

            *


 月曜日、いつもと変わらない朝を迎えるつもりだった。でも、昨日のお父さんの話を聞いてから、ほとんど眠れなかった。というか、今眠い。昨日、お父さんはこう言った。

             *

「政府とかは黙っているけどな。この国はこの国だけじゃないけど宇宙人に侵略されているんだ・・いや、本当のことだからね?・・」

初めは信じることが出来なかったが、昔、大きな戦争があったらしい。そんなことは、学校の教科書には書いてなかった。でも、そいつらは宇宙の果てからやってきたのだそうだ。圧倒的な科学力を持って・・。到底今の科学力では歯が立たず、瞬く間に侵略されたらしい。機械生命体、俗に言うロボットだ。(さすがにこれを聞いたときは疑った。)しかもテレビに出てくる巨大なロボットではなく、人とまったく一緒の姿をしているのだそうだ。ほとんど見分けがつかないらしい。確かめる方法は血の色が、緑色だったら、宇宙人なのだそうだ。確か何かの本に、こういう人に似たロボットのことを、「アンドロイド」といったような・・・。まあ宇宙も広いし、そういう生命体がいてもおかしくはない。しかも、人として暮らしていて、

「もしかして、お前の友達にも宇宙人がいるかもな?」

「それ・・・本当?」

「いい歳して、こんな冗談言うかよ、あ~、まだ疑ってるな」

「うん」

「俺たちは、空おじさんもな、あと他にもいるけど、その宇宙人と戦ったんだ。昔、向こうがこの星を宇宙から侵略しにやってきて、普通の人じゃあ勝てんだろ。でもな、俺達は、天から授かった特別な力があった・・・。その力を使い、なんとか今の状態までに止めた。まあここ何年かは、向こうもおとなしいがな。正確に言うと向こうの大将、つまりボスだな、そいつと一騎打ちまでいったんだが、決着が付かなかった・・」

「どうして?」

「それがな、めちゃくちゃ強くて、三日三晩戦い続けて、両方倒れたんだよ。ちなみに戦ったのは俺だ。人類代表として。・・だから・・そんな顔するな、本当なんだって、頼む、信じて」

天輝が必死に頭を下げる。

「う・・ん」

切那は、何とか納得した。(と思う・・・。)

「よし、で、交渉をしたんだ。このままじゃ、本当に侵略されちまうから、そいつらのせいでなんの罪もない人たちが、死んでいったからな・・・、これ以上、犠牲者を出さないためにも、何よりもお前たちの未来のために・・・向こうのボスも、そこは分かってくれたんだが、もうほとんど無条件降伏みたいなものだ。政府を牛耳るってのが条件でその代りにもうこれ以上は、攻撃は仕掛けてこない、これが今の本当の国の世界の姿だ」

「でも・・結局・・侵略されてるってこと・・だよね・・・」

「そうだ、だから今度こそ、奴らをこの星から追い出す。もとの自然豊かな星に戻してやる」

「戦争?」

「どうだろうな、話し合いで済めばいいけどな」

・・いきなりこんな事を言われてもどうしたらいいか分からない・・。

「私は?」

「できれば、お前たちをこの戦いに巻き込みたくは、なかったんだ。平和に暮らして欲しかった。でもセツナ、お前は俺の力を受け継いでいる。力を持つものが現れたってことは、近いうちに、また脅威が迫っているってことだ。でなければ力なんて、いらないだろ?」

・・納得したような、してないような・・少なくとも、なぜ小さい頃から戦闘の訓練をしていたのかが、分かった気がする・・・。

「でも・・力なんて分らない・・・眼のことくらいしか」

「ある日、突然分かるんだよ。覚醒ってやつが」

「覚醒?」

「ああ、いずれ分かる。その時がきたらその目の秘密も教えるからな」

天輝は、手に持った紅茶を一口飲んだ。そして、

「お前の近くに、力を受け継いでいる奴がいるはずだ、大体の目星はついてるけどな、それを探してくれ、こっそりな」

「その人たちも、戦いに参加するの?」

天輝は少し暗い顔になり、

「・・そうだ」

「分かった・・・探してみる」

そうするしかなさそうだ・・。

「すまねえな、もし何か分かったら教えてくれ、あと、宇宙人に気をつけろよ。奴らは、確か、『ワンダーファントム』って言ってたな。そうだ、今は、あの四人組のことは考えるな」

あの襲ってきた四人組も気になるけれど、それより今は・・。

・・ワンダーファントム・・・彷徨う幻影・・・・。

「うん」

「あと、これをセツナ、お前に託す」

そう言うと天輝は、布に包まれた細長い物を刹那に手渡した。少し重い。

・・いや、かなり重い・・何だろう?・・。

「これは、天界の力が宿っている刀『七支刀しちしとう』だ。自分の力に応じて形が変わる。今は普通の形だが、セツナが強くなるごとに、この刃の形も変わる」

「ずっと持っておくの?」

「そうだ。大丈夫だ。この刀は普通の人には見えないんだ。凄いだろ。だから・・ホントだ。信じろ。自分がどうしても、使わないといけないって時に、現われてくれる、別に家に置いててもいいぞ。勝手について行くから」

「どういうこと?」

「刀を抜いてみ」

切那は、刀を抜いてみた。

『キィン』

とても奇麗な刀だった。しばらくそれを眺めていると、刀が震えだした。

「な・・にこれ?」

「まあ、手を離してみて」

言われるままに手を放してみる。すると、刀が宙に浮いた。そしてまばゆい光を放つと・・・・消えた。

「・・消えた・・・」

「よく見てみ」

切那が天輝の方を見ると、頭の上に何かいる・・猫だ。

「おい、だからなんで、現われるたびに、頭の上なんだ?重いから降りろ」

天輝がそう言うとパッと猫が、切那の近くにある、窓の淵のところに飛び降りてこっちを向いた。

「・・うるさいわね、いいじゃない、減るもんじゃないしぃ」

猫が喋った。正確に言うと刀が。

「しゃべった・・・」

その猫の毛の色は白だが、光にあたると虹色に毛が光る、眼の色は金色だ、とても、この世にいるような猫ではなかった。そのくらい美しい。

その猫の、眼が怪しく光る・・・刀だけど・・

「どうも、あなたがセツナね。これからよろしくねぇ」

猫が、(正確に言うと、刀が・・)頭を下げる・・。

「よ・・よろしく・・」

・・意外と礼儀正しい・・のかな?

「そうね・・セツナ、もっと笑った方がいいわぁ、せっかく、かわいい顔してるのに、もったいないわぁ。こっちの悟ってる人と違って。」

「悪かったな、可愛くなくて、どうだ、セツナなら、お前を使えそうだろ。」

「まあ、あんたよりはましねぇ」

「どうせ、俺はそんなもんだよ」

「そうだわぁ、セツナ、私に名前を付けてよ。とびきりキュートな名前」

「ああ、そうだな、名前をつけてやれ」

「でも、名前あったような」

「嫌よぉ、『』なんて」

「お前は、それでいいんだけどな」

「うるさい!」

『バリっ』、

と猫が天輝の顔を引っ掻く、正確に言うと刀が・・。

「まて!、俺が悪かった!、許してくれ!」

仲が良いのか悪いのか・・・、そうだ、名前は・・・、

白銀しろがね

「えっ?・・・」

天輝と、白銀が、顔を見合わせる・・何故か驚いていた・・どうしてだろう・・?

そして、天輝が、

「お、おお、いい名だ。いいんじゃないか?」

白銀も気を取り直し、

「カ、カッコいいわねぇ」

「うん」

        *

「と言う訳で、これから、いつでもどこでも一緒ねぇ、私、猫になれるの」

「うん」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「お前ら、何か喋ろうぜ?」

「うぅ、何故か会話が弾まないわぁ」

「・・確かに」

「なにか、いい方法は無いかしらぁ?」

「まあ、その内慣れるだろ、じゃあもう夜遅いし、お休み」

「うん、お休みなさい」

天輝はそう言うと、部屋を出て行った。

部屋には一人と一匹(一本?)、しばらく黙っていた。なんだか気まずい・・。

すると刹那が、

「寝よう。こっち来る?」

切那が自分のベットを指す。

「そうねぇ・・・まあこっちの方が涼しいから」

そう言うと、座布団の上に寝転んだ。

「そう」

「セツナ、お休み」

「うん。お休み」

            *

 やっぱり眠い。白銀は座布団の上でまだ寝ている。どこも体調は悪くないし今日は、学校に行こう。白銀は付いてくるのかな?何も起こらないといいけど。それよりアンドロイドって・・・ホントかな。

切那は着替えて一階の台所に降りた。切那の部屋は二階にある。天輝が朝ごはんを作っていた。

「お父さん、おはよ」

天輝が振り返り、

「ああ、おはよう、ぐっすり眠れたか?」

切那は眼を擦りながら、

「・・あまり・・・」

「そうか、まあ無理もないけどな。もうすぐ飯、出来るから、お母さんを起こしに行ってくれ」

「うん」

「セツナ、寝ぐせ、立ってるぞ」

切那が頭に手をやる、

「ホントだ・・・」

「まあいいか、お母さんを頼む」

「・・うん」

お母さん達の部屋に入る。相変わらず、すごい寝ぞうの明がいた。パジャマがめくれて、お腹が見えている・・・。

枕は隅っこの方に転がっていて、布団から体が半分くらい出ている。

「お母さん、起きて、朝だよ。」

「ふがああぁぁぁぁぁぁ・・・」

「お母さん・・・・起きて」

「ふがあぁぁぁぁ、んっ、んん~ん、んっ?ああ、セツナ、おはよう」

「ご飯出来たって、お父さんが」

「ん、もう朝?あっご飯作ってない」

「いや、お父さんが作ってくれたよ」

「えっ、そうなの?ああ~またあたしの仕事が減ったわ」

「ご飯・・・出来たって」

「そう・・・・・、あっ、起こしてくれてありがとう。セツナ・・・・寝ぐせ立ってるよ」

「う・・・ん」

「じゃあ、行くって言っといて」

「うん」

切那が戻るとすでに、テーブルの上に朝ごはんが並んでいた。今日はベーコンエッグと食パン二枚に、コーンスープだ。

・・美味しそうだ・・・。

「お母さん、起きたか?」

「なんとか・・・」

「そうか・・・、今日はまだ、まし、だったな」

二週間くらい前、明を起こしに行った時だった・・・、明が寝ぼけて眠ったまま、空手の型をやりだしたのだ。流石に刹那では止めようがなく、鎮まるのをまっていたが、あろうことか、切那に襲いかかってきたのだ。眠っているとはいえ、力はそのままなので、正直ヤバかった。このときは、天輝が止めに入ってくれたのだが、天輝の顔に絆創膏ばんそうこう三枚で済んだ。

明が台所に来て、

「おはよー。あら美味しそう。たまには、いいかもね」

「ああ、毎朝俺が作ってもいいぞ、暇だし」

「えぇ、それは悪いわ、私が作るよ」

「メイ、お前も幼稚園大変だろ、だから、お互い助け合わないと」

「う・・ん、でも幼稚園は子供が好きだから、やってるわけだし・・」

「いいんだよ、無理するな、飯は俺が作る、それでいいか?」

「・・・分かった、じゃあ・・お願いするね」

気のせいかもしれないが、お父さんが物凄く安心しているように見えた。

「ごちそうさま」

切那が食べ終わった。とても美味しかった・・・。

「学校、行くのか。まあ、いろいろ気をつけてな」

「うん・・・行ってきます」

「いってらっひゃい」

明がパンをたべながら言った。

外に出ると、快晴だった、風が吹いていて心地いい・・。

切那はいつものように、川沿いの道を歩いていた。

もし、お父さんの言っていたことが本当なら、戦争になるかも・・・、

そんなことを考えていると突然、声をかけられた。

「セツナちゃん、おはよう!」

祚流だった。

「・・・・」

切那は、少しだけ顔を祚流の方に、向けただけだ。

「う・・セツナちゃん無視?」

「・・・・」

「なんか・・嫌なことあった?」

「宇宙人」

「えっ?どういうこと?」

「宇宙人がいる」

「またまたぁ。そんな冗談を、騙されないよ?」

「本当」

すると後ろから、

「お~い!お前・・・え~っと、あっ、ソル~!」

どうやら幸のようだ。幸が祚流の所へ、走ってきた。

「ソル、おはよう。・・・ええっと、こちらの、お方は?」

「ああ、セツナちゃんだよ?」

「あっ俺、コウっていいます」

切那が少しだけ幸の方を向き、

「どうも」

と軽く頭を下げる切那。

しばらく幸がボーっとしていた。

「おい、ソルちょっと・・来い!」

そう言うと、幸が祚流の制服を引っ張って後ろに下がらせた。

「うわっ、どうしたの?」

「お前、セツナさんと、どういう関係?」

「どういう関係って・・友達だけど・・・」

「彼女とかじゃないの?」

「・・違うけど・・」

「マジで!・・ストライクだ、俺のタイプ」

「えぇ、そうなの?」

幸はかなり興奮しているようで、息が上がっていた。

「ああ、これは運命だな」

「運命?」

「俺は絶対に告白する、止めるなよ、ソル」

「うん・・・・別に止めないけど・・」

「その前に、友達にならないとな」

「う、うん、そうだね」

「どうやって近づこうかな・・・、まずは自然に近づいて、会話からだな」

切那のところまで戻り、幸が話しかける、

「あああ・・あの・・そそそそその・・いい天気ででですすね」

切那は、不思議そうな顔をしている、(ほとんど、いつもと変わらないが・・。)

「・・・・・」

「あっスススミマセン、ソルちょっと」

「ん?どうしたの」

また、切那より、かなり後ろの方に下がり、

「駄目だ、全く、自分で何を言っているのか分からん。何で、お前、普通に会話できるんだ?」

「普通に出来ると思うけど・・・」

「その普通が出来ねんだよ!、お前、やっぱ凄い奴かもな」

「そうかな?、よく分かんないよ」

「いや、俺が言ってるんだから、間違いない」

そんなことを話していると学校の校門が見えてきた。

「よし、学校で勝負だ」

「誰と?」

「誰って、そりゃ、シャイな自分と」

        *

階段を上り教室に行く。幸は、違うクラスのようだ。

「また昼休みにね」

「おお、そうだな、さて・・保健室に行くか」

「駄目だよそれは、そんなんじゃ、自分と勝負できないよ」

「う、痛いとこ突くな・・・、わかったよ、授業出る」

「そのいきだよ」

予鈴が鳴った。祚流が教室に入る。切那はすでに席に座っていた。

・・さてと、今日も一日頑張るぞ。

何事もなくいつも通り、祚流が居眠りをして、先生に怒られみんなが笑う・・無事に午前中の授業が終わった。

今から昼休み。ちなみに祚流は、いつも刹那と一緒に弁当を食べる。

何もない時は・・・。

「セツナちゃん、一緒に食べよう」

「・・ん・別に・・いいけど・・・」

「今日の弁当は何かな?・・うな重だ・・、こんなにいっぱい食べられるかな」

切那が物凄く食べたそうな目で、うな重を見ている。他の人が見ても、あまりいつもと変わらないが・・。

「う、少し食べる?」

「・・・・うん」

教室の扉が開き、

「セツナ、食べよう♪」

凛が入って来た。そして、その後に、

「ソル~、弁当食おうぜ~」

幸も反対の扉から入って来た。そして二人が同時に顔を見合わせ、

「何であんたが居るのよ?」

「何でお前が居るんだ?」

と同時に言った。

「こんな奴ほっといて、さあ食べよう、セツナ」

「おい、まてよ、なんでそんなに、セツナさんに馴れ馴れしいんだ?」

「別に、友達、いや親友だからよ、というか、何?『セツナさん』て」

「『セツナさん』は『セツナさん』だろうが!その位も分からないのかよ。何が親友だ、お前が勝手に思ってるだけだ」

「何、言ったわね!」

凛が机を叩いて立ち上がる。

「おお、言ったぜ」

今にも殴り合いが起きそうな気配だ。

祚流が控え目に、

「あのぉ・・何でいきなり喧嘩してるの?・・・あれっ、そう言えば二人の苗字は一緒・・だったよね。親戚か何か?」

切那は、すでにうな重を食べていた。

すると二人が同時に、

「ソルは黙って!」

「ソルは黙ってろ!」

二人の剣幕に押され、

「う、ごめんなさい」

そして二人同時に・・・お腹がなった。

「ああ、誰かさんのせいで、よけいに腹が減ったぜ。ったく、どうしてくれるんだよ。」

「ふんっ、こっちのセリフよ」

そう言うと凛は椅子に座り、弁当を広げ出した。幸も祚流の前の席に座り、弁当を広げ始めた。もくもくと食べる三人、

祚流は自分の弁当が無いのに気がついた。

「あれ、僕の弁当が・・・」

「御馳走さま。」

切那がそう言うと、祚流に弁当を戻した。その中には一口分のウナギと大量のにんじんの煮付けが入っていた。

「そんなぁ・・・セツナちゃん、これはヒドイよ」

満足そうな顔で、(もちろん、いつもとそんなに変わらないが・・。)

「・・おいしかった・・・」

祚流が小さな声で二人に聞かれないように、

「ねぇ、あの二人、いとこ、かな」

「違う・・・、姉弟・・しかも・・」

「しかも?」

「双子」

「どうして分かるの?」

「弁当の中身が同じだった」

          *

 昼休みも、そろそろ終わりの時間だ。

「あ、もう終りかぁ、私、しゃべってた?」

凛が切那に問う。

「・・いつもよりは、しゃべってない」

「そっかぁ、やっぱり、あいつのせいね」

少し離れた席に座っている幸を箸で指しながら、

「何でかな、どうも喧嘩っぽくなるのよね」

切那が幸の方に少しだけ、頭を動かし、

「喧嘩するほど、仲がいい」

凛が、物凄い勢いで首を横に振り、

「そんなことないよぉ、家で毎日、顔合わせてるのも嫌なのに、学校まであいつと顔合わせてたら、こっちがもたないよ」

「・・そうなの?」

「そうよ。ちなみに家は、お寺だけどね」

「・・後継ぎ?」

「いや、分かんない、どっちがなるか」

チャイムが鳴った。午後の授業が始まる。

「うわ、チャイム鳴っちゃった。また帰りにね」

「・・うん」

そう言うと凛は教室を出て行った。幸はすでに戻ったようだ。祚流は弁当を全部食べたようだ。

・・・切那は未だに、どの部活に入るか悩んでいる。放課後は、屋上で本を読むか、部活動を見学したり、体験入部しに行っている。

今日は、どこの部活だっけ?・・・そうだ、剣道部だ。

            *

 午後の授業も終わり、放課後になった。他のクラスメートは鞄に荷物などを入れ、帰り支度をしていたり、部活動に行く準備をしている人もいる。おしゃべりをしている生徒もいる。

切那は剣道場に向かっていた。剣道場は校舎と少し離れたところにある。そう言えば、剣道部にとても強い、男子顔負けの女剣士が居たんだった。

・・どのくらい強いのかな・・・・。

そう考えているうちに剣道場が見えてきた。顧問の先生に見学の許可をもらい、道場の端に正座した。

・・さて、どの人が強い人かな。

部員の数は見たところ、男女合わせて三十人前後だ。

キャプテンの合図で練習が始まった。竹刀と竹刀がぶつかり合う音が道場内に響く。まだ誰が強いのかは分からない。面打ちの練習に入った。気合いの掛け声とともに、ものすごい速さで竹刀を振り相手の面を叩く。

切那は小学校高学年の時に三か月間だけ剣道をしたことがある。

今考えると、あれも戦いに備えてだったのかな。昔のことを思い出していると、自然に一人の生徒に目が止まった。何だろう・・・何かほかの人と違う・・・・、名前のところに、『阿修羅(あしゅら)』と書いてある。すごい苗字だ。名前もすごいが、動きもほかの生徒と違う。具体的に説明できないが、オーラ、気配?その人の周りだけ空気が違う。

この人が強いのかも・・・切那は直感的にそう感じた。

練習も後半に入り、どうやら今から練習試合をするようだ。審判が三人いて判定を下す。選手は赤か白のたすきのようなものを、背中につけ審判は赤と白の旗を持つ。審判の掛け声とともに、相手の隙を狙い小手、面、胴を狙う、試合時間は、三分だったと思う。(五分だっけ?)勝敗は三本勝負でどちらか一方が、二本とった方の勝ちだ。引き分けの時もある。審判が、竹刀が当たったと思ったほうに旗を揚げる。意見が分かれるが、三人しか居ないので、どちらかが一本貰えるのだ。

いつの間にかその『阿修羅』と書かれてある人の出番だ。やっぱり何かが違う。何か風のような膜のようなものがその人の周りに見える。見えているのは自分だけだと思うが・・。審判の掛け声とともに、試合が始まる。体型からしてどうやら『阿修羅』と書いてある人は女子のようだ、その人の相手がどう見てもがっちりしている男子なのだ。

女子ではもう相手が居ないってことかな?だとしたら相当強い。男子の方は副キャプテンだった気がする。まず、副キャプテンの方が小手を一本とった、女子の方がもう一度気合いを入れ直す、切那が瞬きをした時には、女子が副キャプテンから胴をとっていた・・。切那が思わず、

「・・・速い・・」

と口に出してしまっていた。

そのまま時間がきて引き分けに終わった。これで今日の練習は終りのようだ。部員が片付けを始めている。切那は動かずじっとしていた。そして部員が帰り始めたくらいに『阿修羅』と言う人の所に向かった。その人は防具を片づけている最中だった。

切那が話しかける。

「あの・・私と勝負して」

「ゑっ?」

突然のことに驚いている、(無理もない・・いきなり得体のしれない銀色の髪をもつ人物に、話しかけられたのだから。)

「明日、この時間に」

「待って・・どうして?」

「あと・・・私の名前はセツナ、よろしく」

「えっ・・あ、私の名前は華美(はなび)、こちらこそよろしく」

華美が礼をする。切那も礼をした。なんか・・・変な光景だ。

「じゃあ」

そう言うと切那は、華美の前を去ろうとした。

「待って、セツナちゃん、もしかして・・・普通の人と違う、何か特別な力を持ってたりする?ごめん、変なこと聞いて」

「・・近いうちに、戦争になるかも・・・」

「本当に?・・・・じゃぁ、お父さんの言ってことは、本当だったんだ」

「お父さん?」

「私のお父さん・・一(はじめ)って言うんだけど、昔、戦争に参加してたんだって。」

「・・そう・・・」

夕日が道場に差し込んでいた。

切那が、

「詳しいことは、また今度」

「そうね。また今度。そうだ、防具は持ってる?」

「一応」

「そっか、何のためかは分からないけど、手加減しないよ?」

「うん」

切那は、華美に別れを言うと道場を出た。道場には華美しかいない。

華美は道場の窓から見える空を見上げながら、

「運命・・・かな」

            *

 切那は家に帰っていた。すると少し上の方から、

「どうやら一人見つけたみたいねぇ」

白銀だ。塀の上から切那を見下ろしている。

「・・白銀・・・、ずっとそばに居たの?」

「ずっとじゃないけど、そばに居たわぁ」

「そう・・でもまだ断定できない」

「いや、セツナは間違ってないわぁ。たぶん選ばれし者の一人ねぇ」

「選ばれし者?」

「そうよ、あなたを除いてあと八人居るはずなんだけど。一人見つかったからあと七人ねぇ」

「そう・・」

切那は歩きだした。白銀もついてくる。

「もっと喜びなさいよぉ。見つかったんだから」

「・・うん」

切那は嬉しいような、悲しいような、どちらとも言えない感情だった。

家の玄関が見えてきた。

玄関の戸を開ける。

「ただいま」

「あ、おかえり~」

明が帰っていたようだ。

「お父さんは?」

「う~ん、まだ帰ってきてないよ。どうしたの?」

「別に・・」

「そう?」

切那は二階に上がろうとした足を止め、

「お母さん・・」

「ん、どうしたの?恋の悩み?」

ニヤリと笑う・・。

「違う・・・昔、大きな戦争があったって本当?」

明は真顔になり、しばらく黙っていた。そして、

「あったよ」

「どんな?」

「そうねぇ、簡単に言うと、人類の存亡をかけたって言ったら、分かる?」

「なんとなく・・」

「私もみたいな感じで、その戦争に参加してたの。で、あなたのお父さんが、まあ天輝だけど、人類代表で、宇宙から攻めてきた、アンドロイド?とにかくそのボスと交渉したの。で、結局戦って、引き分けで、今の状態になったわけ。今は平和でしょ。信じられないと思うけど・・」

「・・・信じる・・」

「ホント?」

「うん」

「いつかは、話そうって思ってたけど、お父さんから何も聞かなかった?」

「聞いた」

すると、玄関の方から、

「ただいま~」

天輝が帰ってきた。

「おかえり~、セツナが話あるって」

「ん、恋の悩みでもあるのか?」

・・両親揃ってどうしてこうかな?

「一人見つかったかもしれない」

「彼氏候補が、か?」

刹那が、ムスッとした表情になり、(少しだけ・・。)

「白銀」

「どうしたの?」

「剣になって」

「ああ、そういうこと」

白銀がニヤリと笑い、刀になった。

「いや、冗談だ、冗談。暴力はよくないぞ。いやまて、俺が悪かった。許せ!」

・・・・・数分後・・・・、

「なるほどな、それは当たりかもしれん」

「ハジメって人知ってる?」

「ああ、知ってるぞ。一緒に戦った、仲間の一人だ。あいつは、いい奴だった」

「そう。」

「なるほど、ハジメの子供だったらありうるな」

「明日、剣道で戦う」

天輝は、いまいち、理解出来てないような顔になり、

「何でだ?」

「どのくらい強いか、自分の身で確かめる」

「たぶん強いな、セツナ、油断するとやられるぞ」

「分かってる」

「ならいいけど、無茶するなよ」

「うん」

切那はお風呂に入り、自分の部屋に戻った。数時間ほど明日の授業の予習と復習をした。切那は窓を開けそこから屋根の上に登った。ここは、幼稚園の時から登っている秘密の場所だ。物置部屋の扉がある場所だ。小さなベランダのようになっている。何か嬉しいことや悲しいことがあった時に、来るところで、ちゃんと、マットと寒くない様に布団を置いてある、・・・ここに来ると気持ちが落ち着く、月がとても近くに見える。綺麗だ。

ずっと平凡な日常が続くと思っていたけれど・・・だれも傷つけたくないな。

・・一人じゃ無理かもしれないけれど、仲間がいれば不可能が可能になるのかもしれない。早く見つけ出さないと・・。  

「そうねぇ、綺麗な月」

白銀だった。いつの間にか刹那の隣に座っていた。

「やっぱり、少し不安・・」

「きっと大丈夫。あなたを必要としてくれる人たちが、沢山いるわ。

「うん」

少し冷たい風が吹いていた。

                   ※

 同じ時刻、切那達が住んでいる街から少し離れた所にある、街の中心に建っている大きな建物、全長約七百メートルはある。どういう建物かと言うと、電波塔兼今の総理大臣が居るところだ。党は一つしかない。その建物の名は、通称『ヘブンズタワー』。その最上階にある総理大臣専用室にこの国の総理大臣、九条(くじょう)悟(さとる)は、はるか下に広がる光の海を見ていた。

・・・まったく、この夜景はいつ見ても変わらない。ずっとこのままこの景色を見ていたいが・・・。誰かが後ろに立っている。

「ドウダ・・・総理大臣、決心はツイタノカ?」

男とも女とも言えない、電子音のような声が聞こえる。

「・・待ってくれ」

「フフ、いつまで待てばイイノダ。ソウヤッテモウ、一週間は過ぎたゾ。」

「大事な国民を、貴様らに渡すわけにはいかない」

「ダガ、渡さなければ、スグニデモこの国を占領してもイイノダ」

「くっ・・・それは・・」

「あの戦争、シッテイルダロウ?我々に反旗を翻した奴らを」

「・・・知らない。」

「そいつらと、ソイツラの家族を渡せば、オマエの地位も守れるし、そイツラ以外の国民も全員タスカル。保障しヨウ」

「・・・いつまでだ?」

「一ヶ月・・まあ、そんなに急がなくてもイイがとりあえず、以内だ。我々の兵をカソウ。フツウの警察や、自衛隊よりツカエルゾ」

「・・分かった・・・。」

「期待シテイルヨ、・・総理大臣」

後ろを振り返ると・・・だれも居なかった。

・・すまないな。国民のために犠牲になってくれ。

             ・・私の計画のためにも・・。

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