第九話『没法子(メイファーズ)―仕方がない!―』

 生徒指導室の室内に向かって、一人の男が深々と頭を下げていた。

 身長は一八五センチあまり。両手足が太くがっしりとした体格の、いかめしい顔つきをした中年の男だった。

 その傍らでは、髪を無造作に逆立てた少年が両手をスラックスのポケットに突っ込んで面倒臭そうに佇んでいる。

「本当に、申し訳ありませんでした。今度という今度こそはッ! こいつにきつーく言っておきますんで! ……コラ、亮介! お前も頭下げろ!」

「あ……すいませんっした」

 少年――亮介が思い出したかのように、自分も頭を下げる。

「……このバカ! ポケットに手ぇ突っ込んだまま頭下げる奴、あるか!」

「……あぁ、ごめんよ。父ちゃん」

 亮介は幾分神妙な面持ちで、傍らに立つ父――康介こうすけの顔を見上げた。

「俺に謝ってどうする! 先生方に謝れ、バカ!」

 康介は怒り半分、呆れ半分といった顔で息子を叱りつけた。


 ラジオの時報が午後四時を伝える。

 氷山ひやま市内を東西に走り、氷山駅から市役所までを結ぶ幹線道路――通称『さくら通り』はいつになく渋滞している。

 長谷川康介・亮介親子の乗る白い軽トラックもその中にあった。

 業務用として酷使され続けてきたトラックはあちこちの外板が歪み、各部に錆が浮いている。

 それでも、元の品質の良さに加えてエンジン・駆動系のメンテナンスを定期的に行っていることで、購入から十年を経て走行距離十五万キロを超えた現在でも、走りに全く問題はない。

「なぁ、亮介」

 ハンドルを握りながら、康介は助手席に座る息子に語りかけた。先ほどとはうって変わってなだめるような、穏やかな口調だった。

「ん……何」

 亮介は前方の信号機に目を向けたまま、返事をした。

「お前。ああして職員室に呼ばれたの、今年で何度目だ?」

「ん……四度目かな」

 亮介は何を考えているのか、信号機の赤色灯に目を向けたまま、投げやりな返事をした。

「何度も言ったけどよ、これで最後だかんな。お前のやったことは立派な犯罪だ。傷害罪……大人なら最高十五年の懲役刑だぞ。四かける十五、いくつだ」

「……六〇年」

 再び、投げやりな返事。

「分かったら、もう喧嘩はやめろ。頭に来たら人を殴ってもいいと考えてるような人間は、まっとうには生きてけねえんだからな」

 斬り捨てるように言ってから、康介は息子の横顔を見た。亮介はようやく父と目を合わせる。

「分かったよ、父ちゃん。でもさ――」

「こないだみたいに、誰かを助ける為には仕方ねえって言いてえんだろ? 他の奴なら『仕方ねえ』で済む。でもよ、お前の場合はそれで済むと思ってんのか?」

 亮介は押し黙ったまま、父の目を見た。

「ちったぁ考えろ。あんだけ勉強して、せっかく今も由機ちゃんと一緒の学校に通えんだからよ」

 亮介が身体を大きくびくつかせる。一瞬で顔が真っ赤になっていた。

「な……何、言ってんだよ父ちゃん! そんなんじゃねえって!」

「……信号、変わったな」

 康介は息子の抗議を何ら意に介さず、ギアを前進1速に入れ替えると右足でアクセルペダルを踏み込んだ。

 アイドリング状態だった二八馬力の直列二気筒ディーゼルエンジンが急速に回転数を上げ、振動と共に車体が前進する。

 亮介は小さく舌打ちすると、窓の外へ目を向けた。ラジオのDJの陽気な声が耳障りだったが、そのことは言い出さなかった。

 ややあって、康介が前方を向いたままで口を開いた。

「……お前は煙草も吸わねえし、酒を飲むわけでもねえ。勉強だってやればできるんだ。喧嘩さえしなけりゃ、ああして先生方に叱られることもねえんだぞ」

 それはあくまで穏やかな口調だった。

「うん……」

 康介は横目で亮介の表情を窺うと、小さくため息をついた。

「亮介。明日、墓参りに行って来い」

「え……墓参り?」

 言葉の意味が分からず、亮介は眉根を寄せて父の顔を見返した。

「機十郎さんのお墓だよ。お盆前に、綺麗に掃除しとけ」

 機十郎、という名を聞いた亮介の表情が一変する。

「俺が言っても聞かねえってんなら……仕方ねえ。一人で行って、機十郎さんに叱られて来い」

「やめろよ、父ちゃん! こんな時に、死んだ人を引き合いに出すなんてよ」

 康介は一瞬だけ視線を走らせ、鋭い目つきで亮介を制した。

「いいから行って来い。分かったか」

「……クッ……」

 亮介はぐっと奥歯を噛み締め、やがて大きくため息をつき――。

「分かったよ。行ってくる」

 観念したように言うと、肩を落とした。

「そういえばさ、父ちゃん」

「何だよ」

 康介はブレーキペダルを踏みながら素っ気なく返事をした。トラックは少しずつ減速し、やがてガクンと小さな衝撃を伴って停止する。

「宮坂のおじさん達……あの時のこと、由機にはずっと隠してるつもりなのかな」

 亮介は視線を信号の赤色灯に向けたまま、独り言のように問いかけた。

「……さあな。和機さん達にとっても思い出したくない話だろうが、由機ちゃんはお前と違って賢い子だからな。いつまでも隠し通せるもんでもないと思うが」

「ったく……一言多いんだよ、父ちゃん」

 息子の抗議に、康介は意地悪そうに口元を歪めた……が。

「……あの時はすまなかった。亮介」

 すぐに真顔になり、謝罪の言葉を述べた。

 我が耳を疑う亮介だったが、すぐに平静を装って父を労わった。

「……べ、別に。父ちゃんが謝ることじゃねえだろ。言い出したのは宮坂のおじさん達なんだし、あの時は俺も仕方ないって――」

「仕方なくなんかねえ!」

 康介は声を荒らげて亮介の言葉を遮ると、座席にもたれかかってそっと目を閉じた。

「……父ちゃん」

 十秒ほどの間を置いて、亮介が控えめな声を発した。

「何だ」

「信号、もうすぐ変わるよ」

 康介は目を開けると無言で頷き、再びトラックを発進させた。

「……亮介」

 無言で運転を続けていた康介が、思い出したように口を開いた。

「何?」

「いい機会だから言っとくぞ。お前の交友関係に口を出したかねえが……分かってるな」

 亮介はその言葉に一瞬身を固くした後で、ハンドルを握る父に怒りのこもった視線を送った。

「あいつらは……父ちゃんが思ってるほど悪い奴らじゃねえよ」

「……そうか」

 康介は助手席に座る息子に振り向くことなく返事をした。


 ちょうど同じ頃、由機は超現実的事象と向かい合っていた。

「ん……どうした、由機? 俺の顔に何かついてるか?」

 戦車と共に現れた軍服姿の青年の、屈託のない笑顔。

 由機はその笑顔を前にして、ただ戸惑うばかりだった。

「いえ、そういうわけじゃ……」

 由機は言葉を濁すと、改めて青年の外見を注意深く観察した。

 美形だが日本人らしからぬ彫りの深い顔立ちに、小柄な体格。そして、額の傷――。外見的な特徴は、確かに由機が知る祖父・機十郎のそれと一致している。

 それでも、死んだ人が生き返るなど、にわかには信じがたい。それも、若返った姿で生き返るなど……。

「ところで、由機。このはお前の友達か?」

 青年は由機の腕に抱かれる楓に視線を移して問いかけた。

「え……はい」

 由機は無意識に楓を抱く腕の力を強めていた。

「そうか。名前は?」

「え……」

 由機はしばし動きを止め、青年の赤い瞳を見つめた。その問いが彼にとって、特別な意味を持っているように思えた。

 楓を見る青年の瞳には、まるで恋人を見るような優しい光が灯っていた。

「……三宝荒神さん、ですが……」

 由機がためらいがちに答えると、青年が眉をひそめる。

「三宝荒神……それは苗字か。下の名前は何というんだ」

 青年が楓に向ける表情に由機は妙な胸騒ぎを覚えた。

「……楓さん、です……」

 ややあって、由機は呟くように言った。

「……なんだって」

 小さく視線を上げ、青年が静かに聞き返す。

「この人は……三宝荒神楓さんです」

 由機は戸惑いながらも、はっきりと聞こえる声でその名を告げた。青年は無言で由機と視線を交わしていたが、ふと口元を緩めて再び視線を落とし――。

「そうか。楓、か……」

 そう呟いて気を失った楓に優しく微笑みかけると、何かに納得したように大きく頷いた。

「……さて、と」

 突然、青年が楓の身体へと手を伸ばした。驚いた由機は抱きかかえた楓の身体を庇うように、慌てて身を引く。

「あ、あのっ……! 何をするんですか?」

 由機が発した警戒心に満ちた声に、青年が目を丸くする。

「何って……家の中へ運ぼうと思ったんだが」

 さも当然のように言う青年の表情に由機は小さな苛立ちを覚えたが、小さく息を吐くとためらいがちに言葉を発した。

「だったら……二人で運びましょう。私はこっちを持ちますから、足の方を持ってください」

「何故だ? 俺一人で運べるんだが……」

「…………っ!」

 その言葉を聞いた瞬間、青年に『お姫様抱っこ』される楓の姿が由機の脳裏に思い浮かんだ。

「そ……それは駄目です!」

 由機にきつい目を向けられた青年はぽかん、とした表情を見せたが、すぐに表情を切り替えて再びにっこりと微笑んだ。

「まぁ、お前がそこまで言うなら、そうするが。と……その前に」

 ふと青年が後ろを振り返る。それと同時に、由機は大変なことを思い出した。

 青年と共に現れた一輌の戦車。こんなものを庭に放置していては、どんな騒ぎになるか分かったものではない。

「あ、あのっ……! その戦車、早く隠さないと……!」

「ああ、分かってるとも。ちょっとの間、この娘を頼むぞ」

 由機の切羽詰まった言葉に、青年は笑顔で返した。

 青年は楓の左手に握られた軍刀の鞘にそっと手を伸ばし、優しくそれを引き離した。そして鞘を左手に持って立ち上がると、静かに戦車へと歩み寄っていった。

 由機はもう一度、戦車に目を向けた。

 車体から砲塔、主砲から履帯キャタピラに至るまで、乾いた血のような赤錆に覆われた古めかしい外見の戦車。

 四年前の湾岸戦争をはじめ現代のニュース映像に姿を見せるアメリカやロシアの戦車、怪獣映画などに登場する自衛隊の戦車に比べればその車体と砲塔は遥かに小さく、その主砲は比べものにならない程、細く小さい。

 そして凹凸の多い左右非対称の車体と砲塔に打たれた無数のリベットは、その装甲がさほど厚くないことを意味している。

 軍事や兵器に興味がない由機から見ても、お世辞にも強そうとは言えない戦車――。

 庭に佇む戦車とその前に立つ青年の後姿は、まるで現代のカラー写真の中に戦時中の白黒写真を無理やりはめ込んだような、違和感に満ちた光景だった。

 カツン、と硬質な音が家の壁に跳ね返って小さく反響する。青年が『気をつけ』の姿勢を取り、踵を合わせた音だった。

 由機は、いつしか目の前の光景に見入っていた。

 左手に鞘を握り、右手を腿の外側にぴったりとつけて直立する青年の姿には、神々しいまでの美しさが感じられた。

 青年が左手に握った鞘を、ゆっくりと流れるような動きで天へ掲げる。

 由機は幼い頃に観た映画のワンシーンを思い出していた。

 それは、エジプトを脱出する民を連れ、海の前で神に祈る預言者の勇姿。

 身に纏う服が軍服ではなく、その手に握る物が杖であったなら、戦車の前に立つ青年が神の預言者だと言われても、何の疑いもなく信じてしまいそうだった――。

 やがて、青年は掲げた軍刀の鞘をそっと下ろして振り返った。

「……すまん」

「え……?」

 言葉の真意が分からず、由機が小さな声を漏らす。

「すまん。どうやってこいつを仕舞えばいいのか、俺には分からん」

 その表情と声からは、全くと言っていいほど深刻さが感じられなかった。

「え……えっ?」

 ようやく青年の言葉を理解した由機の表情が、一瞬にして凍りつく。

「ふぅむ……大事なことだから二回言っておくか。俺にはどうやってこの戦車を仕舞えばいいのか分からん」

 そう言って青年は照れ笑いを浮かべた。

「あ、はい……」

 青年のきまり悪そうな笑顔に釣られて、由機も笑いかけたが――。

「って……えぇぇぇぇッ!」

 すぐ我に返り、庭中に響き渡る叫び声を上げた。

「大声出すなよ、びっくりするじゃないか」

「だ……だって! どうするんですか、これぇっ? それに! あれだけ勿体つけてポーズとっておきながら『分からん』って何ですか! そんなのありですか?」

 由機は身振り手振りを交えて一気に捲まくし立てた。

「ふぅむ……」

 由機の抗議を真剣な表情で受け止めた青年は一声唸ると、腕を組んで考える素振りを見せたが、やがて肩をすくめて右のてのひらを上に向けながら口を開いた。

「……メイファーズ!」

 それは聞いたことのない言葉だった。

「……め、めい……? 何ですか、それ?」

 この期に及んでおどけた様子の青年に内心苛立ちを覚えながらも、由機は可能な限り冷静さを意識して問いかけた。

没法子メイファーズ。俺達、陸軍の兵隊が使っていた中国語さ。言葉の意味は見ての通り。お手上げ。仕方ない。どうしようもない」

「そ、そんな無責任な……!」

 由機は無意識に楓の上半身を抱き寄せながら、その身を震わせた。

「どうしようもないって……通報でもされたらどうするんですか! 戦車なんだから大砲とか機関銃とかついてるんでしょ? 立派な銃刀法違反じゃないですか!」

「うん、まぁ……一式四十七ミリ戦車砲が一門、九七式車載重機関銃が二挺。まさしくもって立派な銃刀法違反だな」

 青年は戦車の主砲と砲塔・車体に搭載された機関銃をそれぞれ指差しながら、平然と言ってのけた。

「何、当り前みたいな顔で説明してるんですか……って!」

 由機の視線が、青年が腰に提げているホルスターに注がれる。

「腰に提げてるそれ! まさか、ピストルじゃないですよね?」

 由機がまるでこの世の終わりのような表情で、更に捲し立てる。

「ん、これか。ドイツ製のモーゼル拳銃だが」

 そう言いながら、青年がホルスターの留め具に手をかける。

「ひぃぃっ! 取り出さなくていいです!」

 由機は裏返った声で青年を制止した。青年のちょっぴり残念そうな顔が、腹立たしくて仕方なかった。

「……まぁ、こんなことをしていても仕方がない。まずは楓を家に運ぶぞ。由機、お前は両肩を持ってくれ」

「あ、はい……」

 青年がまだ口を利いてもいない少女の名を呼んだことが少し気になったが、由機は言われた通りに楓の両肩を持ち、青年と二人で彼女の身体を板張りの縁側に横たえた。

「居間に布団を敷いて、寝かせてやろう。問題はアイツだが――」

 縁側に軍刀の鞘を置くと、青年は庭の戦車を振り返った。

「何か、うまく隠す方法はないんですか?」

「偽装の方法としては二つある。一つ目は、布団かシーツを被せて表面を覆うというもの」

 腕を組み、片手を顎に当てながら青年が言う。知性が感じられる仕草だった。

「シーツで覆うって……何枚くらい必要なんですか?」

「やったことがないから、やってみないと何枚必要かは分からん。あるだけ持って来て、試すしかないな」

 由機の表情が曇るのと同時に、青年が続ける。

「二つ目は、枝や葉で隠す方法だ。この庭は木々も多いし、外から見れば緑に溶け込んで見える。当然、こっちの方が効果は高い」

 由機の表情がにわかに明るくなる。

「ただし、あの辺の木の枝を相当切らなきゃならん。しかも一つ目と比べれば遥かに時間がかかる。ここは隣に家もないが、作業中に誰か通りがかったら――」

「シーツをあるだけ持ってきます!」

 由機は素早く踵を返し、室内に上がっていった。

「やれやれ……」

 青年は由機の後姿が視界から消えると、縁側に横たわる楓の寝顔に視線を落とした。

 白い肌にはかすかに赤みが差し、やや乱れた長い金髪が雲の切れ目から降り注ぐ日光に反射してきらきらと輝く。豊かな胸は呼吸の度に小さく上下し、ともすれば劣情を催すような扇情的な姿だが……。

「……似ているな、本当に」

 楓を見つめる青年の表情は恋人を愛おしむ少年のようでもあり、娘を慈しむ父親のようでもあり――戦友を想う兵士のようでもあった――。


 空を覆っていた雲の群れは既に姿を消し、太陽が地表を照らしている。

 居間に敷かれた布団の上では、楓が静かに寝息を立てている。由機はその傍らに座して不安げな表情を浮かべていた。

「心配するな。眠ってるだけさ」

 軍服姿の青年が縁側に腰を下ろし、室内の由機に微笑みかける。

「あ、はい……」

 由機はおざなりに返事をすると、背を向けてブーツを脱ぐ青年の肩越しに庭を眺めた。

 ヤツデにイチジク、梅などの庭木の陰に隠れるようにして佇む、一輌の戦車。外見を誤魔化す為に白いシーツを何枚も被せたその姿は、読んで字の如く『白々しい』。

 錆だらけの戦車に被せた何枚ものシーツを洗う手間を考えると由機は頭が痛くなる思いだった。洗濯機に入れる前に一枚一枚石鹸で丁寧に手洗いしなければ、赤錆の汚れは決して落ちないだろう。

「偽装は終わったぞ。柵の外から見ても、あれが何かは分からんだろう。もし人に聞かれたら、古くなった家具をまとめて庭に出したとでも答えておくんだな」

「は、はい。ありがとうございます」

 由機は青年の笑顔に例えようのない気まずさを覚えながら、おずおずと返事をした。

「どうした? さっきからよそよそしいなぁ」

「えぇと、その……」

 視線を宙に泳がせながら、由機は言葉を濁した。

「ふぅむ」

 自らを祖父と名乗る青年は由機の横に腰を下ろして胡坐あぐらをかくと、腕組みをして考え込む素振りを見せた。

「あの……何か?」

 由機が不安に満ちた声を発すると、青年は一言唸ってから言葉を紡いだ。

「まぁ、無理もないか。俺は一度死んでるわけだし、それを生きてる頃と同じように接してくれって言われてもなぁ」

「はぁ……」

 由機は生返事をしながら、必死に頭を巡らせて状況の整理に努めた。

 ――どうして、こんなことになっちゃったんだろう?

 目の前で何が起きたのか、何が起きているのか。いくら考えても由機には理解できなかった。

 そして由機には、この青年が祖父・機十郎と同一人物だと考えることができなかった。

 少なくとも由機の知る機十郎は無口で無愛想で、その言動には年齢相応の落ち着きが伴っていた。

 一致しているのは外見の特徴だけ。この気さくで天真爛漫な青年は、祖父ではない別の誰かなのではないか。

 由機には、そう思えてならなかった。

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