第4話 おっさんとコハル

 三日目、コハルと隣になった。住人の入れ替わりの激しいこの住居だが、イツキの右隣りは常に空いていた。そこへ新たな住人、コハルがやってきたのだ。

 生まれたての子供の区別はどうにもつき辛い。髪の毛は生え揃っていないから髪型で見分けることはできないし、顔を構成するパーツもしっかり出来上がっていないため、皆似たような顔をしている。

 よくテレビなんかで生まれたばかりの子供をみて、目元がパパに似ているだとか、鼻がママに似ているだとか言うシーンがあるが、僕はあれを見て「ほんまかいな」と毎回思っていた。

 そんな僕でも相手をずっと見ていれば区別がつくようになるもので、コハルを数いる赤ん坊の一人ではなく、コハルをコハルとして認識することができるようになった。なぜ僕がコハルを見続けるようになったかといえば、それは当然イツキが見ていたからである。僕が個人的嗜好によりコハルを見ていたわけではないので勘違いしないでいただきたい。


 イツキの住居となっている透明なプラスチック製の容器は新生児室の一番端であり、左側には住人がいない。イツキが生まれて、三日間空だった右側の空き部屋に、新人が来たのだ。イツキが新生児室にいるのは基本的に夜だけであり、昼間は母親と一緒に過ごしている。夜になり、新生児室に戻ってくるとイツキは新しく隣に来たコハルのことを物珍しそうにずっと見ていた。もしかすると新入りに舐められないように、メンチを切っていたのかもしれない。

 イツキが外を眺めていると、イツキの母親と、もう一人の女性が話していることがあった。その女性はイツキではなく、コハルのことを見ていたのでコハルの母親なのだろう。美人というよりも、かわいい系の人でコハルは将来彼女のように成長するのだろうと思った。

 このまま病院で生活するならコハルとイツキは幼なじみになれるのかも知れない。しかし、イツキはすこぶる健康だし、コハルも同じく健康そうだ。このまま二人共すぐに退院してしまうだろう。まぁイツキの母親たちは仲良さそうに話していたし、病院が同じということは互いに近所に住んでいるのだろう。近所の公園で会う機会があるかもしれないし、幼稚園や小学校が一緒になるかもしれない。

 僕には異性の幼なじみはいなかったので、フィクションの世界で見る、幼なじみの彼女という存在に憧れる。

 お前には、かわいい幼なじみができるといいな、イツキ。

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おっさんと小学生 猫山知紀 @necoyama

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