第9話 晴樹

自転車を漕ぎつつも 意識は鞄に放り込まれて

すっかり静かになった携帯に 囚われていた

すぐにかけ直して 用件を聞いて

早くスッキリしたい気持ち と

もう二度と一言もその声を聞きたく無い

という気持ちが湧き上がり

どうしても自転車を止める事が出来ない

どうせたいした用事じゃ無いだろう

そう自分に言い聞かせようとしても

自分の心が嫌だ嫌だと駄々をこねる

…子供かっ

自分で突っ込んでみても何の足しにもならね〜

大人になったらこんな気持ちは

うまく処理できるようになるんかな

なるんかな

なるんかな

なりたいな

肺の奥底から空気を全て吐き出すと

覚悟を決めて近所の公園の前で止まった



携帯のディスプレイには

頑なにアドレス登録を拒否している数字が

並んでいる

着信履歴にだけ残している番号

覚えるつもりも無いが

下四桁は伊織の誕生日だから

誰かは すぐわかる

見るだけでムッとする

兄弟なのにキモいと本人に言ったことがある

その人は呑気に

今さら番号を変えるのが面倒臭いから と言った

メアドを頑なに教えないのは

相手のメアドを知りたく無かったからだ

絶対キモいメアドに決まってる

キモいキモいキモい…

携帯を握りしめ心ゆくまで罵倒したら

覚悟を決めて発信した



「忙しいところごめんね晴樹くん

こっちからかけ直すから」

「いいっスよ別に

何の用事…ですか」

イライラを悟られないように

敬語敬語と心で繰り返す

「あ〜最近伊織どうしてる?」

「相変わらず寝不足…です」

「そっか 昨日家に電話したら 誰も出なくて」

「伊織はうちに泊まりました

おばさんは出張って聞きましたけど」

「そっか 伊織が泊まるなんて珍しいね」

「そっスね」

イライラをグッと押さえる

「…」

「亮さん…」

「はい?」

「伊織に電話しなくても

俺にかけてくる時点で

過保護っぷりMAXっスけど…」

「…あ〜 そうだね ごめんね 」

「俺に謝られても…用事それだけですか?」

「あ〜伊織に何かあったら電話してね

僕8月まで帰らないから」

帰れないでは無く 帰らないと言った

極力伊織と会うのを避けているのだろう

仕事だってギリギリ通勤出来ない距離でも無い

「もちろん 何かあったら電話しますから

もう亮さんは かけてこないで下さいね」

「晴樹くん本当に僕の事嫌いだよね

でも高校生とは思えない晴樹くんの判断力を

僕は信頼してるんだけどなぁ」

「普通の高校生ですから」

「そんなにハッキリ僕に助言してくれる

高校生なんていないよ」

「助言なんかしてませんし

こっちが助言欲しいくらい…です」

「どんな?」

「依存させない友人関係」

「…それは僕にも分からないなぁ」

6才も年上の社会人の癖に

少しは知恵のある大人のフリくらいしろっ

毒突く言葉はいくらでも溢れてくるのに

それでもいつも自然体の亮さんを

本気で嫌いになれない事は

ずいぶん前から分かっていた

ざわつくのは自分の迷い

「わからないならいいです さようなら」

「晴樹くん ありがとう」

…無言で切ってやった

…何だ こんな用件なら

あの時電話に出れば良かった

ベンチに座ると疲労感がドッときた



…依存させない友人関係

空を仰ぎながら 心の中で反芻する

そうか そんな事で悩んでたのか俺は

言葉にしたらくっきり浮き彫りになった

伊織を依存させてはならない

俺が亮さんの代わりにならないように

必死になっていた

どうしていいか分からない

何が正解か分からない

依存って何だ…

取り敢えずググるも

答えなんてどこにも無い

誰に聞いたらいい?

親?

先生?

本?

ネット?

なんでもいいから早くコレを手放したい






































  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

晴と晴れ ゆりん @yurin_rin_rin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ