第二十一霊 夢のあと
「優希さん、こんにちは」
「こんにちは、夢人くん」
とりあえず学校に来た。第一理科室に来た。何を話すかも、どんな顔で会うのかもノープランでやってきた。
「今日は、何しようかな、宿題もないしなあ」
「私は、来てくれただけで嬉しいよ」
自分の頬が熱くなるのがわかる。優希玲子はやっぱり、いいやつだ。夢に出てきたあんなのは、優希玲子ではない。それに僕も、往生際悪かったというか、死んでもいいから助けるって宣言したのに「死にたくないよう」ってカッコ悪すぎだろ。可愛くもないし。優希玲子にも何だか失礼だ。
「もう、取り乱したりしないぞ」
「え、何が」
また言葉が漏れていた。もはや、
「ああ、今更だけど、本当に何もすることないなぁ」
特に土日に学校に来てまで何もしないのは平日に何もしないのと少しわけが違う。どう違うか説明するのは難しいけど、主観的な感想だ。
「じゃあ、夢人くんの話をしようよ」
「僕の?」
「前も一回あったけど、あのときみたいないい加減なやり取りじゃなく」
話って、何を話したらいいんだろ。
「夢人くんの夢は何」
「ゆ、ゆめっ?」
僕は夢とは無縁の存在だ。プロ野球選手だってほとんど諦めたようなもんだし、何もないからここにいる。何もしないから優希玲子と出会えた。そのことは優希さんもわかってるだろ。
「私ね、夢って叶うかどうかなんてどうでもいいと思うの」
少し長くなるが、続けて話を聞いてみよう。
「夢は叶うと信じて努力することは素敵だし、諦めて違う道を行くのも素敵。何もかも投げ捨てて休んだとしても、それはその人の自由だし、何か変われる出来事がその後あるかもしれない。ただ、夢って小さなことだろうと、大きなことだろうと、想うだけで、幸せな気持ちをもらえたらそれでいいと思うの」
「夢に苦しめられることはない、真面目に夢見るのはバカじゃない。ただ、楽しんだらいいの。誰が何を言おうと関係ない、叶うかどうかは関係ない。誰かの話を聞く姿勢も重要だし、ときにはしっかり向き合わなきゃいけないこともあるけど、まずはただ夢を見るの。それこそ眠るようにね」
「夢人くんには、そういう夢がある?」
ただ見るだけの夢。叶うかどうか、大小は関係ない夢。あるのかな。今あるとしたら、優希玲子と少しでも長く一緒にいれますように、ということかな。
「うん、あるかもしれない」
「そうか、そうか」
優希玲子には恥ずかしくてとても言えないけど、僕にも夢があった。有田夢人だった。って、急にくだらない。
それにしても優希玲子は色んな持論を持ってるな。このへんが賢かったと言われる生前像と重なるのかな。とりあえず、今日は優希さんに会いに来てよかった。今晩はいい夢が見れそうだ。
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