第十九霊 茎が伸びている
「また何かわかることあったら教えたるわ」
先生がそう言ってくれて、嬉しい反面、複雑な気持ちもあった。優希玲子の過去を知ったところで今僕にできることはあまりない気がするから。それに、今の優希玲子は今の優希玲子だから。第一理科室で亡くなった女の子と、同一人物だとしても今は別の人物。昔の記憶もない。それでも、
「ありがとうございます」
と、協力してくれた、僕と幽霊の存在を簡単に認めてくれた、先生に感謝をした。そして部屋を出て第一理科室へ向かった。
「今日は少し遅かったね」
「ああ、ごめん」
優希玲子に何をしてたか話す勇気はなく、下手な言い訳も思い浮かばず。謝る必要性があるかもわからずにごめんと言っていた。
「ところで、例の小説はどうなったの」
優希玲子が目を光らせて聞いてくる。小説、か。まだ全然書いていないけど、どうしたらいいだろう。
優希玲子との
僕はハッピーエンドじゃない作品は苦手だ。仮にバットエンドでも何か主人公が救われるような形ならいいが、ただただ悲しいものは見てられない。
僕と優希玲子の関係も、今は仲良くしていても最後に別れが来るようじゃ。
いや、もちろん僕らはただの男子中学生と女幽霊の関係だ。いくらでも別れ様はあるというか、別れた方がハッピーエンドとなる可能性もある。しかし今はそれすら見えない。
そもそも優希玲子がこの第一理科室で亡くなったことはわかっても、どうして幽霊になったのか、何を果たせば成仏できるのかわからない。ただ僕が卒業を迎え、理科部が廃部になり、お別れでは何も面白くないだろう。
「うーん、全然進んでないかな」
「えー、そうなの、いつか読みたいなぁ」
そう言われると、余計辛く感じてしまう僕がいる。やっぱり、僕が何とかするしかないのか。でも何をすればいい。何をすればいいんだ。理科部を存続させればいいのか。でもどっちみち僕は優希玲子と離れることになるぞ。たまに会いに来れるとしても、他の部員たちからしたらいよいよ不審者だ。
せめて、この第一理科室だけ大事に扱ってもらおうとしても、これまで充分大事にされてきたと言える。「幽霊がいるから」なんて話も、もう通用しない。顧問の先生に理解してもらうだけじゃ足りない。
「ねぇ、どうしたの、元気ないね」
「あぁ、ごめん」
また謝ってしまった。結論が出ないような話を頭で組み立てて、優希玲子に心配させてしまった。これじゃいけない。僕は思ったはずだ。今の優希玲子を大事にしたいと。悩んでいても仕方ない。会話だって楽しまないと。
「ねぇ優希さん、今度、休みの日も来ようかな」
「うん、いいけど、これまでもそういうときはあったよね?」
「あぁ、でも土日はなかったかな」
「そうなんだ、じゃあよろしくね」
優希さんの笑顔が眩しい。
こんな僕で良かったのかな。
幽霊として初めて会話できる相手が僕で。幽霊として初めて認めてくれた相手が僕で。もっとカッコいい人が良かったとか、面白い人が良かったとか、ないのかな。
でも僕は、優希さんに救われている。
優希さんと話すときが楽しい。
たとえ同じ気持ちじゃないとしても、僕の気持ちは変わらない。
僕は、優希さんといたいんだ。
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