第十六霊 主題歌

 突然だけど、歌を作ることにした。とりあえず一番だけでも。楽器が弾けるわけじゃないし、歌詞しか書けない。それでも作る。


 なぜ書こうとするかといったら、小説のイメージをよりハッキリさせるため。あと、単純に書きたいから。


 僕は実は音楽が好きだ。わりとテーマソングみたいなのも好きだ。何かの主題歌を書き下ろすとか、憧れる。でも、あまりハマってないなと個人的に思う歌には内心「ふーん」という目で見てる。僕は性格が悪いのだ。


 ちなみに今は、自宅にいる。当然、優希玲子はいない。いくら優希玲子が幽霊と言っても、心の内や優希玲子との関係を歌にするのに、本人が目の前にいたら筆が進まない。覗き込まれたりしないとしても、恥ずかしい。そんなこんなで自宅で作業。


 しかし、机の上にノートを置いて、椅子に座ってみても、何だか落ち着かない。理科室よりも落ち着かない。座りながらぐるぐるしてみたり、背もたれに思いきり伸びてみたり。集中できない。結局布団を敷いて、携帯をポチポチ。メモにちょっとした構想を打ち込んでいく。


 しばらくして、歌の一番らしいものが出来たけど、何故だかしっくり来ない。すっきりしない。何を言いたいかわからなかったり、説明的に感じたり。


 こういうときは時間を空けるのがいいと、眠りにつこうとした。でも寝られなくて、もう一度書き始める。


 今度はもう少し具体的に、万人が理解できなくてもいいから、自分にとって意味のあるものを作ろうとした。そしたら出来た。しっくり来るものが。良いか悪いかはともかく、自分が描きたかったものを描けた気がする。得意な気持ちになって眠りについたけど、少し疲れた。そして朝。まぶたが重かった。



「どうしたの」

「授業がんばって寝ないようにしたら、今すごく眠たくて」

「うん」

「ちょっと、寝てもいいかな」

「いいよ、うへへへへ」

「何笑ってるの」

「いや、寝るならここに来なくてもいいのに」

「うるへー」


 僕は寝た。思う存分寝た。よく考えたら、学校で寝るなんて、何時まで寝ちゃうか分からないのに。幸いにも、十八時のチャイムで目が覚めた。優希玲子は、また夕日の前に座ってた。懐かしい景色。


「優希さん、起きたよ」

「うん、おはよう」


 優希玲子は振り向いて、笑みを浮かべる。そしてお別れ。二番の歌詞も思いつきそうな、そんな一日だった。

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