第十四霊 結末とは

「それにしてもまいったな」

「何が」


 小説のアイデアを見つけたのはいいが、現時点では全く結末がわからないことに気づいた。だから余計に二人の会話だけメモしてもつまらないものに感じてしまう。


「優希さんってこれからどうなるんだろう」

「え」


 理科部が廃部になると聞いたとき、唖然としたのは優希玲子と僕の関係があったから。でも、自分が卒業するまで続けていいという話を聞いて、いい加減な返事になったけどホッとする部分があった。けど僕はこの中学をいずれは卒業する。そして本当にこの理科部は廃部となる。そのとき優希玲子はどうなるのか? 第一理科室から出られない優希玲子は。僕はまた会うことができるのか? それとも永遠の別れなのか。


「うーん」

「ねぇ、何が」


 思ったより、寂しい話になってしまう気がする。この物語は、つづらない方がいいのかもしれない。それとも、寂しいからこそ綴るべきなのか。あるいは、僕に何か変える力があるか? そんな主人公みたいな力が僕にあるだろうか。


 優希玲子を見つけた梨田夢人。三十年ほどの時を経て出会った二人。何か意味があるに違いない。違いない。そう言いたいけど、やっぱりわからない。何の意味もなく出会ったのかもしれない。


「優希さんって本当に何も覚えてないんだよね」

「うん」


 もう僕が調べるしかないか。どうして優希玲子がここにいるのか。どうして僕が出会ったのか。そこに理由があるなら、何らかの解決策や、二人にとっての良い未来が見つけ出せるかもしれない。なんて言ってみるけど、そしたら小説の結末も面白いものになりそう。ってこの発想はさすがにダメだろ。


「今日はとりあえず帰ろう」

「え、うん」


 部に一人になってからは、部屋の鍵閉めも僕の役割だ。優希玲子に軽く手を振って、扉をしっかりと閉める。何だかこの行為自体気を遣うというか、閉じ込めてるみたいで嫌だけど、誰か悪い人が入って来ないように。また明くる日に会えるように。ちょっとした願いを込めて鍵をかける。


 いつから優希玲子は自分にとって大事な存在になった? それはわからないけど、今日は少し後悔してる。頭で考え事をし過ぎて、優希玲子とあまりコミュニケーションをとれなかった。


 笑ったり、え、うんを言わせたくらい。もうちょっと無理なく会話を楽しんだ方がいいかな。時間はまだある。宿題しながらでも話せる。調べごとだって出来る。文章を書くことも。


 ゆっくりと結末へ向かっていこう。

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