中学二年生編
第十二霊 二年生と三十一年生
サクラサク。僕は二年生になった。先輩たちとは涙なしのお別れをした。
「がんばれよ」
くらいは言ってもらった。正直、交流は全然しなかったけど、自分にとってとてもありがたい先輩たちだった。何をがんばればいいかはよくわからないけど、きっと先輩たちもわからずに言った優しい言葉だろう。
「やっと二人きりになれたね」
彼女はどこでそんな言葉を覚えたのか。改めて言うまでもないのだが、彼女は
「ずっと二人だったようなもんじゃん」
「そうだけど全然違うよ」
優希玲子を見ることができるのは優希玲子の幽霊人生三十年程度の中で僕しかいないらしい。ただ、優希玲子が僕のことしか見えないということはないので、やはりこの広がったままの空間にまだ少し違和感があるようだ。
「ねぇ、今日は何する」
「何する、ってそんなたいしたこと今までしてないじゃん」
「
お祝い。そう言われても。
「そうだ、私の声を言葉にしたいっ、ねぇ書いて」
優希玲子に言われるがまま、第一理科室の窓際にある理科用実験台にノートを広げた。
「あえて一文字ずつ言っていくね」
はいはい、と適当に
「まず最初は、お」
「お」
「次は、め」
「め」
「そして、で」
「で」
「さらに、と」
「と」
「お次は、う」
「う」
「おまけに、さ」
「さ」
「なぜだか、ん」
「ん」
「最後は一気に、げ、ん、き、に、し、て、る」
繋げて読むと、おめでとうさんげんきにしてる。ちなみに語尾は上がったのでおそらくクエスチョンマークが付く。って何だこりゃ。
「おい、何だこりゃ」
「私なりのギャグですよ」
両袖を組まれ、得意げな顔をされた……。あまり意味がわからないけど、これが三十年の歴史を感じさせるギャグか。寒い。
「そういえば、今年で三十一年か」
「え?」
「優希玲子が幽霊になってから」
「だからぁ、幽霊じゃないって」
「まだそれ続けるのかよ」
「ずっと続けますっ」
優希玲子が笑って反論する。もう、この部屋には本当に二人きりだから、これまで以上に声も弾む。正直、楽しいんだ。
「優希さん、僕も言葉を贈るよ」
一瞬、大きめに目を開いてから、目を細めてコクリと
「き、み、は、ゆ、う、れ、い、を、な、の、ら、な、い」
「ナニコレ」
「いつか書こうと思ってる小説のタイトルだよ」
「へえ、素敵」
このときはでまかせ言っただけだけど、僕はシュクダイ以外の趣味を見つけつつあるのかもしれない。
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