第十一霊 廃部決定

 夏が去り、秋も去り。もうすぐ冬休み。衣替えはもちろん、声変わりも始まった。僕と優希玲子は相変わらず授業後に第一理科室でたわいないおしゃべりをしてる。


「その声もかわいいね」

「うるへー」


 何だか声がガサガサする。のどに出っ張りを感じる。引っ込めようとしても引っ込まない。こうして僕は大人になっていくのだろうか。他の変化についての記述は避けるが。


「そういえばこないだのテストの結果はどうだったの」

「まぁ、バッチリだよ」

「へぇ、すごい」

伊達だてに塾には通ってないし、部活もしてないから」


 僕は学年で賢い部類に入る。でも特別な勉強はしていない。ただ毎日その日の復習や宿題をこなしてるだけ。部活と呼べない部活をしながら。


「夢人くんは、先生になれちゃいそうだね」

「そこまで賢くないよ、それに先生なんて大変そうだし」

「そんなことないよ、夢人くんはやればできるよ」

「オカンみたいなこと言うなぁ」


 女幽霊の優希玲子に妙に持ち上げられながら、上機嫌になってしまうのが僕の部活。しかし、その日は少しいつもと違った。


「おい梨田、いるか」

「え、はい」


 建て付けが悪い扉を開けて入って来たのは、理科部顧問で、僕のクラス担任の男性。あだ名はバーコード。それについての説明はいらないだろう。確か入部初日くらいしかここに現れたことはないはずだが、いったい何の用事か。


「理科部は廃部になるぞ」

「え」


 寝耳に水。というほどでもないか。薄々感じていたことだ。一年生は僕しかいなくて、後は全部三年生。その先輩たちは熱心にやっているけど、何か学校にとって功績を残すようなことはできていない。とはいえ一応理由を聞く。


「あの、どうしてですか」

「まぁ、一番の理由は人数だな、来年はお前一人になるだろ」

「じゃあ、新入部員が……」

「いや、それを言ってたらキリがない、ただお前の卒業までは待ってもいい」

「はい」

「どうする、続けるか?」

「え、はい」

「よしわかった、あとは先生が話をつけとく」


 薄々感づいていたとはいえ、唖然あぜんとしてしまった。瞬間的に色々なことが頭をよぎった。まず、本当に僕一人の部活なら辞めてもいいだろう。部活動が強制されるのも一年の間だけで、あとは自由にしていい。ただでさえ自由にしていた僕だ。わざわざ無意味に理科室に来る活動を続ける必要なんかない。ただ。


「大丈夫なの?」


 ここには優希玲子がいる。ガールフレンドと呼ぶには違和感しかないが、もう春からずっと一緒にいる。いきなりこの関係を自ら壊す勇気はないし、それに。僕がここからいなくなったら彼女はどうなるんだろう。この第一理科室自体どうなるんだろう。それも聞いておけばよかったか。そんな余裕はなかった。


「まぁ、大丈夫だよ」


 まれに大丈夫という言葉をふわふわした気持ちで使うことがある。心の中では何が大丈夫かわからないし、聞く方もよくわかっていない。


「これからも何も変わらない」


 僕は優希玲子に背を向けたままそう言った。自分の願いも込めていたのだろうか。でも、実際変わらないだろう。長い休みに入っても、たまにここへ来る。そしたら必ず優希玲子はここにいる。


「うへへへへへへ」

 奇妙な笑い声で。

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