第八霊 死について

 僕と優希玲子はわりと真面目な話をすることが多い。ふざけ方がいまいちわからなかったりもする。


「夢人くんは死ぬのって怖いの」

「そりゃ怖いよ」

「えー、そうでもないよ、一回やってみる?」

 やっぱり、ふざけたりもする。


「やってみる?ㅤって、何かできるの、怖いんだけど」

「いや、何もできないよ」


 いつものように第一理科室で僕は女幽霊とおしゃべり。誰か来たときのためになるべく小声でしゃべろうとしてるけど、だんだん声が大きくなっていってる気がする。そのくらい僕にとっては自然なやり取りになってきた。


「何で死ぬのって怖いんだろうね」

 優希玲子が首を傾げて言う。

「優希さんは怖くなかったのかな」

 僕は素直に聞く。

「覚えてないからわからないよね、もう」

 白衣の、少し広がった両裾りょうすそを逆ハの字に上げ、肩をすくめる。続けて、

「死ぬとどうなるかわからないことが怖いのかな」

と、疑問を口にする。


「まぁ、みんな優希さんみたいになるとは思ってないよね、色んな考え方があるけど」

続けて、

「僕も死んだら優希さんみたいになるのかな」

と、呟いた。すると、

「何言ってるの、死んだらだめだよっ」

と、語気を荒くしたので

「いや死ぬ気はないよ」

と、冷静に返したら

「ああ、そうなの」

と、落ち着いた。


「んーでも、夢人くんがそうなるとは限らないかな」

「どうして」

「何かそのままスッといなくなりそうだもの」


 自分でもその方がいいような気もする。生き物の死に方なんて様々で、自分で選べるということはなかなかないはず。選ばされることはあったとしても。ただ変に生きることへ未練を残したくないというか、仮にそういったものがあったとしても、これまでにあった些細なことを全てだと受け止めたい。そんなことを考えてる。中学一年生にして。


「ちょっと、何ぼーっとしてるの」


 実質一人でいるんだから、ぼーっとしてるのが当たり前のようなんだけど、それを注意する存在が目の前にいる。


「優希さんはどうしてそうなったんだろう」

「だから、わからないって」

「何か、未練があったのかな」


 そう言うと黙りこくった優希玲子。言ったらいけないことだったかなと反省しようとしたら口を開いた。


「ミレンって何」


 忘れていた。優希玲子は死してなお、普通に日本語を扱うことができるが、ところどころ都合良く言葉の意味を忘れている。忘れていることを忘れていた。


「未練っていうのは……前に説明した宿題の反対かな」


 ほうほうと、座りながらもやや前のめりになって話を聞いてくれる。


「宿題はやらなきゃいけないことで、未練はやりたかったこと、やれなかったこと。優希さんは何かをやり残したからここにいるんじゃないかな」


 若干じゃっかん、したり顔で説明したかもしれない。こういうやり取りに慣れてきた感がある。客観的に見て上手く説明できてるかはわからないけど。


「うーん、そうなのかなぁ」

 口元に服の袖を当て、険しい顔をする優希玲子。


「でも、その宿題をこなせたら、優希さんはどうなっちゃうのかな」

「え」

「やっぱり成仏しちゃうのかな」

「え、あ、うん……」

 何だか歯切れの悪い優希玲子。今日はどこか調子が合わないかな。

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