第五霊 君は幽霊を名乗らないだろう
土日休みを挟んで、学校へ行った。休み中は特に優希玲子のことについて深く考えることはなかった。
何というか、受け入れ始めていた。すでにいるものとして。友達と呼べるのか、知り合いとすら呼んでいいのかよくわからない
ということで、いつものように第一理科室へ向かう。
「こんにちは」
「こんにちは」
軽く
僕が座る向かい側。優希玲子がいるとわかったところで、わざわざ同じところへ行く必要はないが、今から席替えなどするのはむしろ気を遣う。こっちが嫌な気分にすらなるだろう。
彼女は僕のすることに口出ししてくるわけでもないし、向かいにいると少しは気になるけど集中してしまえば空気のようなもの。幽霊のようなものだ。
「今日も宿題ですか」
「まぁ、うん」
「ところでシュクダイって何ですか」
日本語は
「宿題っていうのは……うーん」
「何ですか」
「宿題は宿題だからなぁ」
「ふむぅ」
「やらなきゃいけないこと、かなぁ」
「ふむぅ……」
自分で説明しててもよくわからないし、優希玲子も目をうんと閉じて悩んでる。何か上手い
「幽霊が
「ふむむ」
「えと、」
説明を続けるために、優希玲子の名前を呼ぼうとしたら、何て言えばいいかわからなくなった。出会ったときには何者かわからないから、あなたって呼んでいたけど、今そう呼ぶのは違う気がする。単純に女子の名前を呼ぶとしたら優希さんだろうけど、それも何か。玲子さんなんてもってのほか。
そもそも呼ぶとしたら、さん付けが前提みたいに思ってるけど
「君は成仏するためのミッションとかないの」
と聞いていた。君って言葉は、こういうときに使うんだろうか?
「ミッション、ですか」
そうか、宿題も知らないのにミッションなんて言葉知らないか。
「私のミッションはですねぇ」
知ってるのか。もはや外国語だぞ。
「ミッションって、何ですか」
知らないのか。ていうか、何で一度知ったフリをしたのか。少なくともそういうノリはわかるのか。
「
「さ、さぁ、幽霊じゃないからわかりません」
なぜか目を
「まぁでも、宿題の意味はわかったでしょ、やらなきゃいけないことなの」
「ふむぅ」
顔をしかめてあまり納得してない様子だけど、リュックの中から漢字ドリルを取り出す。
そしたらそのタイミングで、先輩たちが理科室に入ってきた。先輩たちとの交流は、ほとんどないと言っていいが、僕がいつも部屋の鍵を開けているのは知っているし、存在も認知してくれているはず。ただ、優希玲子のことは見えてないんだろうなぁ。そんなことを考えていたら、あることを思い出した。
「おれ、理科部辞めるわ」
「おれも」
「一緒に別の部活に移ろうぜ」
「なるべく楽なやつね」
そんな会話を
「あそこいると気分悪くなる」
と言っていた。あれは単なる悪口じゃなかったのかもしれない。
もしかしたら彼らは優希玲子の存在にうっすら気づいていたんじゃないか。それで気分を。でも、僕は優希玲子が見えたところでそんな
しかし、こんなあまりにも自由な部活を続けられる人も少ないか。先輩たちみたいに熱心に何らかの実験してるような人たちもいるけど、僕みたいにわざわざここでやる必要もないことを続けられる人は少ないはず。
先輩たちは何かを強制してきたりもしないし、それがあった方がむしろ楽という人は多いだろう。きっと自由を求めても、手にしたら
少し話が逸れたけど、今更真実が何だとかどうでもいいかな。どうせ、優希玲子は「私は幽霊じゃない」の一点張りで、話にならないだろうし。
「ちょっと、今何か言いました?」
思わず笑ってしまっていたようだ。自分が怖い。
「いや、何も」
「そうですか」
優希玲子は相変わらず引くのが早い。それは幽霊だからなのか。ってあまり意味わからん。でももし、優希玲子に「幽霊だから引くのが早いんですか」なんて聞いても、「私は幽霊じゃありません」の一点張りだろう。
「ちょっと、何がおかしいんですか」
自分が怖い。
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