第四霊 驚き
「ごめんなさい、こんなに驚くとは思わなくて」
優希玲子は扉の前で待ち伏せしていた。こちらからしたら、存在するかどうかも怪しいのに、当たり前のように存在していて、しかも驚かせようとしてきた。
「きょ、今日は聞きたいことがあって来ました」
先輩たちがまだ来ていない中、こないだよりも少し大きめの声で優希玲子に話しかける。
「あなたは本当に幽霊的なものなのか、僕だけが見る幻なのかどちらでしょう」
やっぱり、変なこと聞いてるなと思う。でも、実際にその変なことが起きている。鍵が掛かり誰もいないはずの場所に彼女がいる。長めのスカートを履き、セーラー服に白衣を羽織るけど、手脚が見えなくて、生きてるわけではないっていう。
こんな存在が本当にいるものか。もしこれが僕の深層心理から現る幻だとしたら、僕は学校より病院に通わなければならない。
「だから、幽霊的な何かってこないだ教えたじゃない」
確かにそうだ。こないだの議論(第二霊)で、一応そういう結論に落ち着いた。しかし……。いまいち信じられないというか、何というか。とりあえず落ち着くために、いつもの席を目指す。
窓際の理科用実験台。古くても黒光り。眩しすぎない日が差して、窓を開けたら心地良い風が吹いて。ここが僕の指定席だ。誰にも邪魔されない。
「ねぇねぇ、どうして私に気づいたの」
この人がいなければ。いや、人と呼んでいいかわからないけど。とりあえず、無視するわけにもいかないから質問に答える。
「どうしてと聞かれてもわからないです、あなたが突然目の前にいたので」
それが素直な回答だ。
「でも、私ずっとあなたの前にいたよ、あなたがここに来たときから」
「えっ」
「どうして突然気づいたのかな」
次から次に、わからないことが出てくる。まして僕は十三歳だ。それにしてはちょっと頭でっかちなところもあるかもしれないけど、声変わりだってまだ。そんな僕に、こんな色々起きたってわからないものはわからない。でも疑問はこちらも素直にぶつける。
「あなたがここにいるのはいつからですか」
すると優希玲子は眉間にしわを寄せて、
「そんなのわからないよ、でも、十回くらいは見送ってきた気がします」
「十回、見送る」
って何だと思って首を
「よくここに来てた人を見送った数のこと」
なるほど。ってどういうことだ。ここに来てたってのは理科部に来る生徒のことか? 生徒が十回? つまり、単純に考えて中学は三学年あるから、一人の人が卒業するまでに三年かかる。それに十を掛けたら三十年?
「もう三十年くらいここにいるってこと?」
「うーん、よくわからないけど」
これはまた驚きだ。でも冷静に考えたら幽霊ってそういうものだろうか。あまり真新しい幽霊って聞かないもんな。ただ三十歳というような見た目ではないかな。大人っぽさは感じるけど。
「だけど、三十年もここにいて、初めて存在に気づいたのが僕?」
「うん、そう」
そして気付いた日付は四月三十日の木曜日。これに何か意味があるのだろうか。
「とりあえず、今日も宿題するね」
「あ、どうぞ」
わからないことはやっぱりわからない。優希玲子もやっぱり引きが早い。日がだんだん傾いてきて、先輩たちが後ろにぞろぞろやって来る。今日もこんなふうにして終わる。
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