127 この星の代表と墜落したUFO①

 ヤマダは宇宙人に向かって言った。


「宇宙人さん、あんた本当にラッキーですね。俺がこの星の代表ですよ」

「おお。地球人よ、本当ですか?」

「はい」

「しかし、この星の代表が、どうしてこんなところに?」

「ちょうど今日は、小学校の遠足で山登りをしていましてね」


 4人の少年たちは、


『今、この星の代表が偶然ぐうぜん、小学校の遠足で山登りをしていたのだ』


 と宇宙人に説明した。

 それから、


『大人はみんな嘘つきだから、小学生の中でも身体の大きいヤマダが、仕方なくこの星の代表をしている』


 と宇宙人に嘘をついた。

 4人の中でいちばん食いしん坊なカトウが言った。


「宇宙人さん、三日も飲まず食わずだったら、お腹が空いているだろ? 僕のお弁当を少しわけてあげるよ」


 カトウは、エビフライの尻尾しっぽと、梅干しの種と、ばしの袋を宇宙人に差し出した。

 他の3人の少年たちもそれぞれ、お弁当からおかずを少しずつ出し合って、宇宙人に食べさせようとする。


 4人の中でいちばん身体の大きなヤマダは、お弁当に入っている甘い豆が嫌いだったので、宇宙人に全部あげた。

 4人の中でいちばん胃にやさしいスズキは、ごはんを水筒すいとう白湯さゆでふやかしてから、宇宙人に差し出した。

 4人の中でいちばん動物にやさしいタナカは、両目を閉じ、遠くで鳴く鳥の声に耳をすました。


 やがて、宇宙人は食事を終える。

 そして、元気を少し取り戻した宇宙人は、この星の代表に向かってあらためて話しはじめた。


 難しい政治の話。

 お互いの星の未来の話。

 ヤギの乳で作ったチーズは臭いという話。

 地球人の現在の文明レベルでは技術的に利用できない天然資源を、地球から宇宙人側に渡してほしいという話。


 この星の代表であるヤマダは、宇宙人の話す内容をまったく理解できなかった。

 そのため、とりあえずすべて「イエス」と英語で答え続けたのである。


 ヤマダは身体も大きければ、心も大きい。

 だから、宇宙人の要求にはすべて「イエス」と答えてやったのだ。


 けれど、ヤマダも一方的に要求をみ続けただけではなかった。


「俺は小学生だから、難しい話はわからない。でもな、口が臭い宇宙人は、明日からこの星に出入り禁止な。この一点だけは絶対にゆずれないよ」


 宇宙人は深くうなずいた。

 ヤマダのその主張を受け入れたようだ。


 話し合いが終わると、ヤマダは透明とうめいな板に署名しょめいを求められた。

 それは、手ぶらだった宇宙人がどこからともなく取り出した不思議な板で、文字が光りながら空中に浮かび上がるものだった。


「ここに俺のサインを書けばいいのか?」


 戸惑とまどった表情で、ヤマダが尋ねた。

 宇宙人は「お願いします」と答える。


 ヤマダはその不思議な板に、大人になって芸能人になったときのためにと練習していた自分で考えたかっこいいサインを書き込んだ。

 それからヤマダは、宇宙人に言った。


「宇宙人よ。お前が将来ラーメン屋でもやることがあったら、俺のそのサインをお店に飾ってくれよな」


 宇宙人は、「ナイスジョーク」と言って微笑んだ。

 続いて宇宙人が、オーケストラの指揮者の真似事まねごとでもしているかのように手をくいっと動かす。

 その刹那せつな――。

 ヤマダがサインをした透明な板が、ふっと消えた。


「あれ? どこに消えたんだ?」


 そう言ってヤマダが、きょろきょろと周囲を見渡すと、宇宙人が説明する。


「契約が成立しましたので、ワタシの星に転送しました。すぐにマザーシップがたくさんの仲間を連れて、この星の天然資源の採掘さいくつにやってくることでしょう」

「そうなの?」


 宇宙人は、こくりと首を縦に振る。


「はい、ヤマダさん。あなたたち地球人がこの星の天然資源と引き換えに望んだ『胃にやさしい薬』も、4人家族一世帯が3年間困らないだけの量を積んでくるはずです。しかし、胃の薬以外に他に何も望まないなんて。地球人は本当に欲のない人々ですね。驚きました」


 ヤマダは、「ナイスジョーク」と言って微笑んだ。

 先ほど宇宙人が口にした言葉を、なんとなく自分もマネして繰り返したのである。


 そんなわけで、『この星の代表』と契約を済ませた宇宙人は、自身の使命を果たして安心したのか、その場で横たわり眠りについた。

 息を引き取ったわけではなく、深い眠りについただけのようだ。


 とにかく、なにやら一段落ついた雰囲気だった。

 4人の中でいちばん胃にやさしいスズキが「よし、ここらでいったん胃を温めよう」と言って、みんなに白湯をふるまう。

 食いしん坊のカトウも今度は、その白湯を素直に受け取る。


 少年たちは白湯をすすりながら4人で相談し合った。

 そして、宇宙人をひとまずここに残して、山頂を目指すことにしたのだ。



   ≫ ≫ ≫



 ブログの途中ではあったけれど、僕はノートパソコンから視線をはずした。

 それから両目を閉じる。

 まぶたの上から両目を指で軽く押えたりもした。


 放課後。ジャリ研の部室で一人きりだった。

 みどり子の『クソブログ』を読みながら、僕はキーナを待っている。

 キーナと合流したら二人で女子高等部に行き、『ヴァンピール・モンスターサーカス』に会うのだ。

 先日のインタビュー記事のチェックをしてもらうためである。


 それともちろん――。

 あの『金髪の吸血鬼の幽霊』に会って、キーナを元に戻す手がかりも見つけなくてはいけなかった。


 キーナはまだ部室に来ない。

 僕は、再びパソコンの画面に視線を向けると、ブログの続きを読んだ。

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