第12章 新しい人間関係
126 第12章 新しい人間関係
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《ボクが考えた宇宙人目撃ファイル》
▼ ファイルナンバー 3
『この星の代表』
彼らが通う小学校では昔から、『4年生の遠足は
学校指定の緑色のジャージに身を包んだ9歳から10歳の4人の男子小学生たち。
彼らはその日、教師の
リュックサックを背負い、少年たちは山道を歩く。
4人の中でいちばん身体の大きなヤマダが言った。
「なあ、みんな。歩いても歩いても、前の集団がまったく見えないぜ。俺たち、はぐれちゃったんじゃないか」
はぐれたといっても、遠足で決められた登山道とは別の登山道に
それほど
むしろ彼らの迷い込んだ登山ルートの方が、山頂への近道だったりもした。
ただ、教師が引率する本来のルートと比べると、道が
そういう理由で、今回の小学生の遠足コースからは、はずされていたのだ。
4人の中でいちばん食いしん坊なカトウが言った。
「よし。ここで一度立ち止まって、お弁当にしよう」
4人の中でいちばん動物にやさしいタナカが言った。
「ねえ、みんな。そんなことより、鳥の鳴き声が聴こえるよ」
4人の中でいちばん胃にやさしいスズキが言った。
「こういうときは、
食いしん坊のカトウはそれを断った。
彼は白湯ではなく、
他の3人の少年たちは、スズキの水筒から注がれた熱々の白湯をすすった。
少年たちは
4人は結局、引き返さなかった。
前へと進み、山頂を目指したのである。
そして――。
その途中で『
4人の中でいちばん身体の大きなヤマダが第一声を上げた。
「おいおい、こりゃあなんだ? 墜落したUFOじゃないか?」
機体の大部分が銀色の金属のようなもので出来ていた。
それほど大きなUFOではない。
少年たちが暮らしている町では、公道をダンプカーが
4人の中でいちばん食いしん坊なカトウが、舌なめずりをした。
「おいしいものを運んでいる途中で、墜落したんじゃないかな? UFOの中を
4人の中でいちばん動物にやさしいタナカは、両目を閉じて耳をすました。
「ねえ、みんな。そんな墜落したUFOなんか気にしていないで、耳をすましてごらん。さっきとは別の鳥の鳴き声が聴こえるよ」
4人の中でいちばん胃にやさしいスズキは、水筒の白湯を再びみんなにふるまった。
「みんな胃と心を落ち着かせるんだ。こういうときは、とりあえず白湯を少し飲んで、身体を温めるんだよ」
3人の少年たちが、温かい白湯をすする。
食いしん坊のカトウは、持参したコーンスープを再び飲んだ。
そんなときだった。
銀色のUFOの表面に変化が起きたのだ。
のっぺりとしていたUFOの外壁。そこに扉が突然出現し、中から宇宙人が一人、
4人の中でいちばん身体の大きなヤマダが言った。
「小学校一年生くらいの大きさの宇宙人だな。それに、ケガをしているのか?」
ヤマダの言う通り、宇宙人はとても小柄だった。
銀色の全身タイツのような服を着ていたが、それ以外に身につけているものは何もなく、武器のようなものも所持していない。
頭やお腹や
他の3人もそれぞれ声を出す。
「よく焼けば食べられる宇宙人だろうか?」
「みんな、宇宙人なんか気にしていないで耳をすましてごらん。さっきとはまた別の鳥の鳴き声が聴こえるよ」
「宇宙人にも胃はあるのかなぁ?」
血だらけの宇宙人を眺めながら、少年たちは思い思いのことを口にした。
一方で銀色の宇宙人は、UFOから降りるなり、ぜえぜえと苦しそうに呼吸をしながら足で地面に絵を描きはじめた。
やがて地面に描かれたのは、宇宙人の女性らしき似顔絵だった。
銀色の宇宙人は最後に、似顔絵の脇に左足で、
『MY MOTHER』
と地球の言語である英語を使用して書き込むと、その絵の上に「ぺっ」と緑色の
宇宙人はなんとかそこまでやり
そして、ようやく少年たちに話しかけたのである。
「ぜえぜえ……地球のみなさん、こんにちは。ワタシは、あなたがたにとって、どんな宇宙人ですか? ヤギの
宇宙人の言動や質問の内容はともかく、4人の少年たちは一斉に自分たちの鼻を押えた。
宇宙人の
ちょっとした
やがて少年たちは気分が悪くなり、次々と地面に倒れ込む。
続いて4人全員が、胃の中のものをすべて吐き出した。
「「「「おええーっ!」」」」
食いしん坊のカトウは、他の三人と違って水筒に入れていたコーンスープを飲んでいたので、コーンの
そのコーンに
山の蟻って、町の蟻よりもなんだか大きい気がする――と、カトウは思った。
地面に倒れ込んでいる宇宙人は、同じく地面に倒れ込んでいる少年たちに向かって話を続ける。
「ぜえぜえ……ワタシは、『この星の代表』と話をしたくて、宇宙のかなたからはるばるこの地球にやって来ました。みなさん、宇宙のかなたってどこですか? ストレスによる体臭は、どんな
4人の中でいちばん身体の大きなヤマダが、地面に横たわりながら言った。
「おい、宇宙人。お前のUFOは墜落したのか?」
「ぜえぜえ……いえいえ、地球人。ワタシのUFOは墜落したのではなく、山中に着陸したのです」
「墜落したから、お前の身体はそんなにボロボロなんじゃないのか?」
宇宙人は口から緑色の血を流しながら、首を横に振る。
「そんなことはないです。ごはんを食べてすぐ歯を
ときどき意味の分からないことを口にする宇宙人。
そんな相手にもヤマダは、一歩も引かなかった。
「なあ、お前のUFOは『着陸』したんじゃなくて『墜落』したんだろ?」
「いいえ。山の中に、アクロバティックに着陸したのです。小柄なワタシの母親が、山男のようなワタシの父親と恋に落ちたように――。ワタシの父親の体臭は、ストレスによるものですか?」
UFOはあきらかに墜落している様子なのだが、宇宙人はどうしてもそれを認めようとしない。
それでもヤマダは何度もしつこく問い詰めた。
二十回以上は尋ねただろうか。
その結果――。
とうとう宇宙人も、
「そうです。墜落したんですよ。あと、山の蟻って町の蟻よりも、なんだか大きい気がします」
と、認めたのだった。
続いて宇宙人はその臭い口を開き、正直に話しはじめた。
実は三日前の夜に、ここに墜落していたことを――。
それから三日間、宇宙人は飲まず食わずで過ごしていたということも。
「墜落の衝撃で、身体のあちらこちらに大きなダメージを受けています。おそらくワタシの命は、もう長くはないでしょう。『この星の代表』と話をするという任務も達成できそうにありません。ああ、どうせ死ぬのなら、洗顔料のお徳用詰め替えボトルを二本も買うんじゃなかった。絶対に使い切れない……」
そんな宇宙人の発言を聞いた4人の少年たち。
彼らは宇宙人の口臭に苦しみながらも相談しあった。
そして――。
5分ほど話し合った結果。
少年たちは、いちばん身体が大きいヤマダを『この星の代表』とすることに決めたのである。
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