128 この星の代表と墜落したUFO②

   ≪ ≪ ≪



 山頂では、先に到着していたクラスメイトたちと教師が、4人のことを心配していた。


 もし、宇宙人と出会わなければ――。

 4人の方が、クラスメイトたちよりも先に山頂にたどり着いていたかもしれない。

 けれどそんなことは4人の少年たちにとって、もうどうでもよいことだった。


 はぐれていた4人の少年たちは、教師やクラスメイトたちから次々と質問を浴びせられる。

 ヤマダとカトウとスズキは、山の中で宇宙人に会ったと説明し、タナカだけは、鳥の鳴き声を聴いていたと口にした。


 少年たちの話を、みんなはまるで信じなかった。

 動物にやさしいタナカなんかは、過去に色々あってクラスの女子たち全員から『嘘つき野郎』と思われていたため、女の子たちからの冷たい視線を一身に浴びていた。

 それは昔のタナカが本当に悪かったので仕方しかたない。


 そして、タナカのせいで他の3人の少年たちまで、女の子たちから嘘つきと思われはじめたとき――。


 担任の男性教師が、その場の空気を変えた。

 彼は他の人たちと違い、少年たちの話を頭から否定せず、UFOの墜落現場に自分を連れていってほしいと言ったのだ。


 そんなわけで、お弁当を食べていったん休憩した後、少年たちは担任の教師とともに5人でUFOの墜落現場へと戻ったのである。




 UFOの墜落現場に戻ると――。

 不思議なことにUFOも宇宙人も消え去っていた。

 まるで、元からそこには何もなかったかのようにだ。


 4人の中でいちばん身体の大きなヤマダがつぶやいた。


「あれ? 場所を間違えたかな?」


 しかし、地面には宇宙人が足で描いた似顔絵と、


『MY MOTHER』


 という文字が残っていた。

 けれど、地面に描かれた絵と文字だけでは、ここに宇宙人とUFOがいたという証拠しょうこにはならないだろう。


 教師は4人の少年たちに「君たちのことを疑っているわけではないのだけれど……」と前置きしてからこう言った。


「UFOもないし、宇宙人もいない。これでは誰も、君たちの話を信じてくれないと思うんだ」


 確かにそのとおりなので、少年たちは教師の言葉にうなずく。

 教師は話を続けた。


「そこでね、君たちにひとつ提案なんだけど。今日のところは『キツネにかされた』ってことにしておこうか。うんうん。そうしよう」


 こうして、4人の少年たちは教師に押し切られ、なぜか『山でキツネに化かされた』という結論を出されたのだった。




 そして、その夜。

 4人の中でいちばん動物にやさしいタナカは布団ふとんの中で夢を見た。

 遠足で訪れた山で、キツネたちに囲まれ抗議こうぎされる夢である。


「コンコン! ワタシたちは、あの山のキツネです」

「あの宇宙人は本物だったコン!」

「ワタシたちのせいにしないでくださいコン!」

「人間は昔から自分たちの都合で、キツネを悪者にしてきたコン!」


 しゃべるキツネたちが、自分たちのせいにされたことを怒り、タナカの夢の中で抗議してきたのだ。

 動物にやさしいタナカは、すっかり目が覚めてしまった。


 彼はむくりと上半身を起こす。

 そして、


『しゃべるキツネは動物なのか、妖怪なのか?』


 と考えはじめた。

 もし動物ではなく妖怪ならば、タナカとしては、妖怪にやさしくする必要はない。


 5分ほど考えた後、タナカは隣の布団で眠る小学2年生の弟を起こして尋ねた。


「ん……どうしたの、兄ちゃん?」

「なあ。しゃべるキツネがいたら、それは動物か、それとも妖怪か?」

「ん……? 人間の言葉をしゃべるの?」

「ああ」

「じゃあ、妖怪」


 タナカは再び眠りについた。

 夢の中にまたキツネたちが現れ抗議してきたのだが、動物にやさしいタナカは、妖怪たちの言葉に耳を貸すことはなかった。


〈おしまい〉



   ≫ ≫ ≫



「これで……おしまいなのか……」


 僕のそんなつぶやきが、一人きりの室内にむなしく響いた。

 これまでの経験から、みどり子のブログにきちんとした結末を期待していたわけではない。

 でも……。


 宇宙人との交渉の結果、その後の地球はどうなったのだろうか?

 マザーシップはやって来たのだろうか?


 と、続きが気になった。

 たぶん、この話には続きなんかなくて、これで終わりなのだろうけど……。


 足の裏たちも、ブログの終わり方に不完全燃焼なようだ。


「続キハ、ナイノカ?」と右足が言った。

「『キツネガ抗議シテクル夢』デ、終ワリナンダロウ……」と左足が続ける。


 その後、僕も足の裏たちの会話に加わった。


 どうして担任教師は、キツネのせいにしたのか?

 ヤギの乳で作ったチーズは、臭いのか?

 ヒツジの乳ならどうなのか?

 女子たちから『嘘つき野郎』と思われているタナカは、過去にいったい何をしたのか?


 などと、足たちと話し合っていると、キーナが部室にやって来た。

 黒髪のポニーテールを揺らしながら彼女は元気よく僕に挨拶すると、こう尋ねてくる。


「冬市郎くん、けわしい表情を浮かべていたようッスけど、どうしたんスか? お腹痛いんスか? トイレに行きたいんスか?」


 ブログの内容に関して、足の裏たちと話し込んでいた僕は、いつの間にか真剣な顔をしていたみたいだ。

 僕が真剣な顔をしていると、キーナはよく「冬市郎くん、トイレに行きたいんスか?」と訊いてくるのである。


「ブログを読んでいたんだよ……」


 と、僕はキーナに言った。


「うっ……。そうスか……」


 ポニーテールの少女は、僕からすぐに目をそらした。

 ブログの話題をそれ以上続けることを、あきらかにけたのだ。

 もちろん僕も、嫌がるキーナと無理してブログの話を続ける気はない。


 キーナが話題を変える。


「それにしても冬市郎くん。これから、女子高等部に行くわけッスけど」

「ああ。キーナ、もしものときは……」

「うッス! 『例の作戦』を決行するッスね?」


 僕は小さくうなずく。


「うん、そのつもりだけど……。上手くいくかな……?」

「きっと大丈夫ッスよ。冬市郎くんの作戦通りに動けば、あの金髪の世界のバグさんとも、ちゃんと会えるッス」


 僕たちはこれから女子高等部の進路指導室に行く。

 そこで『ヴァンピール・モンスターサーカス』のメンバーたちと会うわけだ。

 団長の『喜多山きたやま・ヴィヴィアンヌ・一穂かずほ』もいるだろう。


 そして団長のいるところには――。

 あの金髪の吸血鬼の幽霊もいるはずなのだ。


 キーナを元に戻すための方法を、あるいは手がかりを、あの吸血鬼の幽霊から聞き出さなくてはいけない。


 ただし、吸血鬼の幽霊がどこかに身を隠し、僕たちの前に姿を現さない可能性も充分に考えられる。


「アノ吸血鬼ノ幽霊ト、冬市郎ハ、敵同士ダロ?」と右足が言った。

「アア。ノコノコト相手ガ、コチラノ前ニ姿ヲ現シテクレル可能性ハ、低イダロウナ」と左足が続ける。


 足の裏たちは、吸血鬼の幽霊と会える可能性は低いと考えているようだった。


 そこで、もしも相手が姿を現してくれなかった場合――。

 僕はある作戦を用意していたのだ。

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