114 首筋を舐めさせてもらうッス
「クゥゥ……。ワガ輩様の身体を消滅させた『吸血鬼殺し』の生まれ変わりが、すぐ目の前にいルというのにっ! どうして、
金髪を激しく踊らせながら幽霊は
僕はそんな彼女に尋ねた。
「ゆ、幽霊さん、ちなみに記憶はどのくらい戻っているんですか?」
「ヌー!?」
「自分の名前くらいは思い出せたんですかね?」
「ノン。記憶は少しだけ戻ったのデスますが、自分の名前は思い出せないのデスますヨ!」
金髪の幽霊は怒っていても、こちらの質問にはきちんと答えてくれるようだった。
「じゃあ、前世で幽霊さんの利き手は、右だったんですか、左だったんですか?」
「左デスます!」
「前世で好きだった色は?」
「赤デスます!」
「前世で好きだった天気は?」
「雨デスます!」
「じゃあ、前世でのお名前は?」
「ノン! だから、それは思い出せないのデスますポス!」
それから幽霊は、
しかしその攻撃は、ノーガードで棒立ち状態の僕に一切ダメージを与えることはなかった。
あいかわらず彼女の手は僕の身体に
「ウー! どうしても
「みたいですね」
「こうなったら、その黒髪の女の身体に
「なっ! そんなことできるんですか!?」
「わからないのデスます!」
「はあ?」
「でも、幽霊だからできるかもしれないデスわヨ! この黒髪の女の身体を
そう言うと金髪の幽霊は、キーナの身体に正面から飛び込んだ。
そうして、その身体がキーナの身体と重なった
幽霊は、ふっとその姿を消す。
僕の目には、幽霊の全身が一瞬で
パワフルな
「うっ……うぅ。な、なんスか!?」
と、キーナが苦しそうな声を
どうやらポニーテールの少女は、すぐに自身の身体に異変を感じたようだ。
「キーナ、大丈夫かっ!?」
僕のそんな呼びかけに、キーナは反応できない様子だった。
彼女は両腕で自分の身体を抱きしめると、カタカタと小刻みに震えはじめたのだ。
幽霊の姿は、やはり周囲から完全に消えていた。
本当に金髪の幽霊は、キーナの身体の中に入り込んでしまったのか!?
このままではキーナは、あの幽霊に身体を支配されてしまう?
だが――。
「オー。駄目デスわネ! 憑依できないのデスますポス!」
そう声を上げながら幽霊が、キーナの身体から弾き出されるかのように飛び出してきた。
その発言と状況から、憑依には失敗したのだろう。
けれどそれでも僕は、金髪の幽霊に対して腹を立てた。
まさか、キーナを狙ってくるなんてっ!
そんなわけで、憑依されずに済んだキーナだったのだが――。
なんだかその全身から、すっかり力が抜けてしまった様子だった。
身体を小刻みに震わせていた黒髪の少女は、やがてガクリっと廊下の
「キーナっ!」
慌てて僕はキーナに手を差し出した。
キーナは僕の手を取ると、もう片方の手で自身の
「だ、大丈夫ッスよ、冬市郎くん……。少しクラッとしただけッスから」
足の裏たちがしゃべりはじめた。
「冬市郎ノセイデ、キーナガ
「キーナガ、巻キ
僕はすぐに、金髪の幽霊に苦情を言った。
「
「ヌー!」
「お前の前世の恨みなんて、キーナには関係ないだろ!」
僕がそう
彼女は、鼻を「フンっ」と鳴らすと、高圧的な態度で言い返してくる。
「ホー。貴様、なんデスますか? ずいぶんと
「ああ?」
「その女が、そんなにも大事だったデスますポス?」
「当たり前だろ! キーナに酷いことするなよな!」
「ふふふっ、トウイチロウ。貴様はワガ輩様のことを酷いと言うデスますが、そもそも酷いのは貴様の方なのデスわヨ! よくも前世で、ワガ輩様の身体を消滅させてくれたデスます!」
「前世のことなんて、僕が知るかよっ!」
「ヌーっ!」
幽霊とそんな言い争いをはじめたときだった。
キーナが突然、どすんっと僕の背後から抱きついてきたのだ。
ポニーテールの少女は、あっという間に僕の身体に両腕をまわした。
――かと思うと、その腕で力いっぱい僕を後ろに抱き寄せたのである。
それからキーナは、自身のやわらかな両胸を僕の背中に、ぐいぐいと押し付けてきた。
「えっ……。キーナっ!?」
黒髪の少女は両胸を僕の背中に押し付けたまま、ゆっくりと動きはじめる。
そして、僕の耳元に顔を近づけてきたのだ。
彼女はその可愛らしい口で、何かをささやこうとしているようだった。
キーナの吐く息が、僕の耳をクスクスと
僕はくすぐったくて、両腕がゾワゾワと鳥肌を立てる。
ほんのりと甘いキーナの香りも僕の鼻に届きはじめていたし、背中には密着したキーナのおっぱいの感触がずっとあるしで――。
僕はもうパニック寸前だった。
そんな中、キーナはどこか恥ずかしげに響く小声で、ぼそぼそと話しはじめる。
「と、冬市郎くん……く、
「んっ? 首筋?」
「く、首筋を
「はい!? 首筋を舐める!?」
キーナのくちびるが耳元から離れ、僕の首筋にゆっくりと近づいてきているのが、なんとなく気配でわかった。
再び少女が口を開くと、やわらかな息が僕の耳ではなく今度は首筋に当たる。
「い、今すぐ、冬市郎くんの『このおいしそうな首筋』を舐めさせてもらいたいッス……。じゃないと自分、死にそうッスよぉ……。も、もう、我慢できないッス!」
ポニーテールの少女はそう言うと、こちらの返事も待たずに行動に移した。
「ごめんなさいッス……」
僕は背後から首筋を、カプリッと
キーナはまず、歯を立てずにくちびるだけを動かした。
はむはむと何度か僕の首筋の感触を味わうと、やがて少女は舌先をほんの小さく動かしはじめる。
「ちょっ……。き、キーナ……!?」
はじめのうち、キーナの舌は恐るおそると遠慮がちに動いていた。
けれど、その舌先の速度が徐々に増していく。
ねっとりと舐められるのではなく、子犬や子猫なんかにチロチロと首筋を舐められているような感覚だった。
くすぐったくて、同時に気持ちが良い。
首筋にかかるキーナの息も、首筋をヌルヌルと
『このままずっと舐められていたい……』と僕は思ってしまった。
自分では確かめようがないが、おそらく今の僕は相当だらしない顔をしていることだろう。
それからキーナは、ときどき僕の首筋から舌先を離した。
そして、言い訳や謝罪の言葉を何度も口にしてから舌先を首筋に戻し、チロチロと舐め続けたのである。
「うっ……ううっ……。ごめんなさいッス(チロチロ)。ほ、本当は自分(チロチロ)、こんなことはしたくないッス……。で、でも、我慢できないッスよ……(チロチロ)」
次に彼女は、僕の首筋に付いた唾液をハンカチでこまめに
「んんっー(チロチロ)、冬市郎くん、ご、ごめんなさいッス(フキフキ)。で、でも、舐めるのをやめられないッスよ(チロチロ)、首筋を汚してしまい申し訳ないッス(フキフキ)。……な、何度も言うッスけど、ほ、本当に自分、こんなことはしたくないんスよぉお……(チロチロ)」
あきらかにどうかしちゃっているキーナの行動に、足の裏たちも動揺の声をあげた。
「コ、コレハ……一体?」と右足が
「キーナガ、オカシクナッタ……」と左足が続ける。
キーナは、やわらかな両胸を僕の背中に密着させたまま、首筋を舐め続けた。
僕は首筋と背中でキーナの体温をずっと感じ続けたわけである。
「んんっ、んんー……。冬市郎くんの首に巻かれたチョーカーが(チロチロ)、首筋を舐めるときに(フキフキ)、んん、ちょっと邪魔ッスね(チロチロ)、んんっ……」
そして、しばらくすると――。
キーナは僕の首筋を舐めることに満足したようだった。
「ふーっ……。とりあえず自分、なんか満足したみたいッスよ。冬市郎くん、首筋を汚してしまい本当に申し訳なかったッス」
ポニーテールの少女はそう言って僕の背後から離れると、自身の口元をハンカチで
僕は振り返って、そんなキーナの顔を眺めてみる。
満ち足りたような表情を浮かべているみたいにも見えたが、キーナの顔や耳はこれまで一度も見たことがないくらいに真っ赤だった。
自分の
けれど彼女は、この後どうして良いのかわからず、とりあえずハンカチで口を拭きながら戸惑っているみたいだった。
金髪の幽霊が、うれしそうな表情を浮かべて僕に言う。
「オー。どうやら黒髪の女は、ワガ輩様の憑依の影響をしっかりと受けているようデスわネ!」
「キーナのこの
僕の言葉に、幽霊は小さくうなずく。
「ワガ輩様が思うに、その黒髪の女は、『おいしそうな首筋』の魅力に
「くっ……」
「吸血鬼みたいに、首筋に牙を立てて血を吸う――とまではイかないようデスけどネ! それでもその女は、今後も吸血鬼のように『人間の首筋』を求めるようになったのデスますポース!」
金髪の幽霊は、そう口にしてニヤリと笑った。
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